《慰安婦団体内紛でついに死者》明るみに出た尹美香の「セコい財テク術」と「安倍批判記事」

文春オンライン / 2020年6月14日 17時0分

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疑惑の渦中にある尹美香氏 ©AFLO

「私が死ぬところを撮影しようと待っているのか!」

 6月8日午後、韓国ソウル市の汝矣島にある国会議員会館530号室でこんな怒声が響いた。

 声の主は、今年4月の総選挙で初当選した韓国与党・共に民主党の尹美香(ユン・ミヒャン)議員(55)。慰安婦支援団体・正義記憶連帯(正義連)の前理事長だった彼女は、慰安婦問題とカネを巡る数々の疑惑で韓国メディアを騒がしている渦中の人物だ。

 その前々日、6月6日の夜10時50分頃には、ソウル市麻浦区にある慰安婦休養施設のソン・ヨンミ所長(60)が自宅で死んでいるのが発見された。死因は縊死と見られている。

 尹氏とソン氏は、長く行動をともにしてきた間柄だ。尹氏は、ソン氏の死の翌日、休養施設を訪れた後、検察の捜査とメディアの取材がソン氏を死に追いやったかのように非難する文を自身のフェイスブックに投稿。そして8日に登院すると、議員会館の事務室前に集まった取材記者たちに声を荒げたわけだ。

せせこましいスキャンダル

 一連のスキャンダルが噴出したのは、今年5月7日から。元慰安婦女性・李容洙(イ・ヨンス)氏(91)が記者会見やインタビューを通じ、元慰安婦女性の処遇や不透明なカネの流れなどについて尹氏を公然と批判したのが発端だ。これにともなって正義連と尹氏のカネにまつわる疑惑がいくつも浮上し、尹議員は初登院の前から検察の調査を受けることになった。

 正義連の前身・韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が発足したのは1990年。やがて閣僚経験者や国会議員が名を連ねる有力な圧力団体に成長し、一民間組織でありながら日韓の慰安婦問題で絶大な影響力を振るうようになった。

 2015年の慰安婦問題の日韓合意でも、韓国外交部(外務省に相当)が事前に協議内容を挺対協に漏らしていた疑惑がある。だがそうした大きな存在感の割に、疑惑の多くは尹氏の身内が絡んだせせこましい内容ばかりだった。

取り沙汰される「カネをめぐる5大疑惑」

 今回浮上した主な疑惑は5つ。1つめは、元慰安婦女性の憩いの場としてソウル郊外の安城市に用意された施設の転売問題だ。

 挺対協はこの建物を2013年に相場の倍近い7億5000万ウォン(約6700万円)で買い入れた後、今年4月に4億2000万ウォン(約3750万円)で売却したという。韓国では不動産の転売で差益を稼ぐのが財テクの常道であり、団体に大損をさせた不自然な取引の真意が詮索されているわけだ。またこの施設の管理費名目で尹氏の父親に7580万ウォン(約680万円)支給していたことも、人々を呆れさせた。

 2つめの疑惑は、正義連=挺対協に対する後援金などの振込先が尹氏個人の銀行口座だった問題だ。尹氏は「金額さえ合っていれば問題ないと思ったが、安易な行動だった」と謝罪。だが当然ながら私的流用の疑いは拭い切れていない。

正義連のニュースレターを夫の会社に発注

 残りの疑惑は、どれも尹氏の個人的な金銭問題だ。3つめは、尹氏夫妻が1995年から2013年まで、自宅や賃貸用と思われるセカンドハウスを現金で計7回も売買していた問題。尹氏は購入資金について辻褄の合わない説明をしてすぐ言葉を翻すなどしており、その出所に疑惑の目が向けられている。

 今月5日にはまた、尹氏の義妹名義になっていた住宅も実質的な所有者が尹氏夫妻ではないかとの疑惑が提起された。

 4つめは、尹氏の夫、キム・サムソク氏が絡んだ疑惑だ。キム氏は1994年に北のスパイ容疑=国家保安法違反で懲役4年の判決を受けた経歴の持ち主。後の再審請求を経て2018年に一部無罪が認められたが、「反国家団体と接触して工作資金を受け取った」点については有罪とされた。

 キム氏はこの間の2005年にソウル近郊の水原市でローカル紙「水原市民新聞」を刊行、ウェブ版とともに運営を続けている。この「水原市民新聞」に対し、正義連はニュースレターの編集とデザインを発注し続けてきた。正義連は入札を経ていると主張するが、同団体への寄付金や政府の補助金が「水原市民新聞」を通して尹氏の身内に還流している構図は否めない。

 いっぽうでキム氏の新聞は、身内の宣伝にも余念がないようだ。疑惑発覚後の今年5月12日にはウェブ版に「安倍が最も憎む国会議員、尹美香」と題した外部からの寄稿を掲載し、尹氏を「日本の軍国主義復活のための平和憲法改正に最も邪魔になる人物」と紹介して、妻の立場を擁護。また2016年2月には、ピアノをたしなむ娘のリサイタルの告知に紙幅を割いている。

 2015年9月には挺対協の欧州キャンペーンを伝える記事で、読者に募金を呼びかけた。掲載された振込先は、上述の通り尹氏の個人口座だ。この問題については今年5月25日、韓国の市民団体が、尹氏の個人口座を振込先にして寄付金の私的流用に加担したのは問題だとして、ソウル西部地検に告発。同時にキム氏は実在しない「幽霊記者」の名義で作成した記事をポータルサイトに提供、その業務を妨害したなどの容疑でも告発を受けている。

変転する娘のUCLA留学費用の説明

 最後は、娘の留学に関する疑惑だ。ピアノを学んでいる娘は2016年から米イリノイ大、2018年から米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)音大の2年課程に在学している。

 韓国紙「毎日経済」によるとイリノイ大の学費は年間4万ドル(約430万円)、またUCLAでは2018年9月から今年3月までに8万5000ドル(約910万円)の学費を要したとされる。これに対して尹氏の夫キム氏の年収は、本人の申告を元に野党議員が算出したところによると約2500万ウォン(約223万円)だ。

 生活費なども加えた高額な留学費用について、尹氏は当初「全額を奨学金で賄える大学を探した」と説明していた。

 だがUCLAが留学生に全額奨学金を支給しないことが分かると、夫が再審で一部無罪を勝ち取った際の2億4000万ウォン(約2140万円)の賠償金を充てたと言葉を翻した。しかし前述の通りキム氏の再審の結果が出たのは2018年であり、2016年からそれまでの留学費用をどうしたかは説明されていない。

 当の娘は、疑惑が浮上した後にSNS上での活動を中断。だが母親の尹氏が正式に国会議員の身分となるのを待っていたかのように、6月上旬に卒業記念写真を投稿して韓国メディアの注目を集めていた。

ソン氏の死を巡っても渦巻く疑惑

 死亡したソン氏について尹氏自身が綴ったところによると、2人が知り合ったのは2004年。慰安婦休養施設の担当者を探していた尹氏は月給80万ウォン(約7万1000円)しか提示しなかったが、ソン氏は誘いに応じた。2004年当時、韓国の大卒初任給は178万7000ウォン(約15万9000円)だ。ソン氏はそれから3カ月の間に3回も辞表を書いたが、尹氏は泣きながら引き止めたそうだ。

 そのソン氏を巡っても今月12日、元慰安婦女性の口座を使ってマネーロンダリングしていたという疑いが報じられている。現地大手紙「朝鮮日報」によると疑惑を提起したのは、ソウル市麻浦区の慰安婦休養施設で暮らしていた元慰安婦女性の孫娘だ。孫娘がソン氏に電話して、祖母の口座から多額の現金を引き出したことを問いただしてほどなく、その死が知らされたという。同じく「国民日報」はまた、孫娘が問題の「背後にいるのは尹氏だろう」とコメントしたとも伝えている。

「朝鮮日報」は同じ日、ソン氏が最後に電話で話した相手が尹氏だと確認されたとも報じた。尹氏の秘書が「ソン氏がいる自宅に人の気配がない」と消防に通報したのは、最後の通話から約12時間後の夜10時33分のことだ。

 ソン氏の死についても野党は追及の勢いを強めているが、真相が明らかになる日は来るのだろうか。

(高月 靖/Webオリジナル(特集班))

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