「ポスト安倍」人気1位 “石破茂総理”誕生への条件は? そして自民党最大の対抗馬は誰か?

文春オンライン / 2020年6月18日 6時0分

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「ポスト安倍」アンケートで1位(346票)になった石破茂氏 ©︎文藝春秋

安倍晋三内閣の支持率はまさかの「21.6%」――文春オンライン6月調査 から続く

 100年に1度の国難と言われるコロナ危機によって、「ポスト安倍」人気に異変が起きた。文春オンラインで行った読者アンケートの結果、吉村洋文府知事、小池百合子都知事をはじめ、首長たちが支持を広げる一方、現職国会議員の票が伸び悩んだ。

 遅くとも来年の秋には行われる自民党総裁選。これから「ポスト安倍」レースはどうなるのか。石破茂氏ら有力候補が首相の座につくための条件とは? 政治ジャーナリストの後藤謙次氏に聞いた。(全4回の3回目/ #1 、 #2 、 #4 も公開中)

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なぜ吉村・小池・鈴木に多くの票が集まったのか?

 まず指摘できるのは、安倍首相の「地盤沈下」です。

 安倍首相(4選)は昨年末からグッと支持を落として、3位。これは7年半という長期政権からくる“飽き”が最大の要因でしょう。

 加えてここまでのコロナ対策に関しては、安倍首相の“失政”と言ってもよい対応が目につき、リーダーシップに大きな疑問符がついてしまいました。

 そして「ポスト安倍」人気1位は変わらず石破茂氏です。ただし安倍首相の落ち込みを見ると、石破氏の伸びもそれほどではない。安倍首相は昨年から100票弱下がっています。そうであれば石破氏は400票を超える数字になっていないと差引勘定が合わない。

 これは“後継者難”という現実の反映でしょう。「いまの安倍政権には変わって欲しい」、けれども「具体的に自民党に後継者がいない」。だからこそ実際は「ポスト安倍」“有資格者”とはいえない吉村洋文(2位)、小池百合子(5位)、鈴木直道(8位)各知事、そして山本太郎氏(7位)に票が集まったのでしょう。

安倍首相の減点ポイントは「発信力」

 政権を担うリーダーはこういう危機の際はむしろ“強くなる”ものです。ドイツのメルケル首相は支持率が一時80%に達し、多数の感染者・死者を出したイタリア・コンテ首相ですら支持を伸ばしました。

 特に安倍首相にとって減点の対象となったのは、危機における「発信力」です。

 2月下旬に新型コロナが本格化してから、安倍首相の口から国民の心に届く言葉があったか、と問われても、ほとんど記憶にないのではないでしょうか。

 NHK、民放各局がテレビ中継する首相会見も何度も行われました。そもそも首相会見は視聴率もひとケタの下の方でテレビ局にとって“消化試合”のような位置づけです。しかしコロナ危機では国民の関心が集中。たとえば2月末の会見ではNHK総合で15%を超える視聴率を記録しました。

 ところが当の安倍首相はプロンプターを見て、官僚の書いた原稿を“朗読”する。プロンプターは左右に置かれているため、真正面を向く機会が極端に少ないのが印象的です。

 また首相会見といいながら、専門家会議の尾身茂氏が同席。自分一人が矢面に立って、なんでも受けてやるという姿勢が見えませんでした。

 NHKで中継を見た方も多いと思いますが、18時から始まって、18時40分すぎに中継が終わる。記者からの質問が盛り上がり「いよいよこれからだ」というところで、なぜかスタジオ解説に切り替わる。民放も途中にCMが入り、やはり19時前に終わってしまう。

 首相が覚悟を国民に伝えるとするならば、会見時間を早めて、質問時間をたっぷり取る方法もあったはず。最初の会見では「次がありますから」と質問が打ち切られて、翌日の首相動静を見たら30分後に帰宅していたということもありました。

 それが指摘されると今度は会見の後ろに「対策本部」を入れるようになりました。これは本来順序が逆で、「対策本部」で決まったことを会見で語るというのが筋でしょう。

 危機においてリーダーは立ち向かわなければいけないのに、逃げる姿勢が見えた。安倍首相のリーダーシップが問われた象徴的なシーンでしょう。

「吉村洋文にあって、小泉進次郎にないもの」

 一方、票が集まった吉村洋文、小池百合子、鈴木直道各知事。彼らに共通していたのは「指導力」そして「発信力」。これは安倍首相との比較論でもあったと思います。

 とりわけ急激に票を集めた吉村府知事は45歳という若さで、言葉に力があり、決断が速い。「大阪モデル」という独自基準を5月上旬には導入し、軽症者・中症者・重症者による受け入れ先の振り分けも早かった。その結果、一時100人を超えた大阪府の新規感染者は5月下旬以降0人~数人という日が続きました。

 加えて、毎日府庁のボード前に出てきて府民に強く訴えかけていた姿が印象に残っているという人が多いのでしょう。

「若さ」でいえば、小泉進次郎環境相(10位)は39歳です。しかし彼は対照的に「発信力」を欠きました。環境相という立場ですから、感染症対策に関して発言のタイミングも何度もあったはずです。でも閣僚になってからこぢんまりして、「内閣の一員」に収まってしまった。父親の純一郎氏は閣僚時代も更迭を恐れない発言をする政治家でした。小泉環境相の魅力も“はみ出し野郎”というところでしょう。“はみ出さない小泉進次郎”は魅力を欠きます。

 メディアも“密”を避けるため、取材が難しくなっている時期に“撮れ高”の低いところには人を出しませんよね。今後復活する可能性はありますが、小泉氏は「ポスト安倍」としてはいったんお休みというところでしょうか。

 さて吉村知事はこれだけの人気ですから、望めば衆議院議員になることは容易い。ただし維新で生まれ育った政治家・吉村洋文にとって、その維新という枠が逆に大きな障害になるでしょう。

 総理になるためには、国会で過半数に「吉村洋文」という名前を書いてもらわなければなりません。そのためにまず国会議員になって、維新の代表になって、さらに維新が政権与党にならなければなりません。現実の行程を考えるととても険しい道のりが待っています。

鈴木直道のほうが国政に近い?

 その点で、39歳の鈴木直道知事のほうが道は近いかもしれません。北海道の地元メディアの知人に聞くと「彼は知事を2期やって国政だろう」と。47都道府県知事で現在最年少ですが、彼が自民党から国政に出馬し、若きエースとしてひと暴れする可能性はある。ただし鈴木知事も1期目の途中。任期は2023年まであります。

 小池知事については与野党に敵をつくり過ぎました。国会議員に戻れてもそこから先の展望が見えません。

 安倍総裁は来年9月末には任期満了を迎えます。東京都知事選に名乗りをあげた山本太郎氏(7位)も含めて、“非国会議員”は人気投票で上位にあがってきても、来年秋までの「ポスト安倍」レースのゴールラインまで走り切ることは難しいでしょう。

“人気1位”石破茂のライバルは?

 現実的に「ポスト安倍」を考えたとき、国民から人気のある石破氏か、安倍首相が後継の最有力と目論む岸田文雄党政調会長(6位)か、という声が永田町周辺でも聞こえてきます。

 昔からよく言われてきたことですが、総理大臣になるには色んな条件がある。なかでも、自民党で大事だとされてきたことに「床の間を背にして似合う人」というのがあります。つまり「すわりがよい」ということ。

 安倍首相はそういう意味で「すわりがよかった」。政治家一族のプリンスで見栄えもよいし、清和会という伝統ある派閥の背景もある。

 では石破氏は「床の間を背にして似合うか」。私は“若干”はあると思います。

 対して岸田氏はどうか。コロナ危機において、政調会長という立場は相当働けたはずです。しかしスピードも遅かったし、アイデアも分かりづらかった。たとえば10兆円の予備費の問題がありますが、ここでも岸田案を明確に示すことができたはず。岸田氏が中心になった「事業者への家賃補助」のスキームも非常に理解しづらいものでした。

 岸田氏は“優等生”タイプで、平時であれば間違いなくトップ候補です。宏池会という派閥の長であり、現首相の禅譲路線。安倍・麻生・岸田の3派連合が固まれば不動のものだった。しかしこういう事態のとき議員心理は「安倍さんが勝ち続けた選挙のときとは違う」と。そして「誰なら選挙に勝てるのか」という個々の議員の思惑が表面化してきます。派閥の論理が薄らぎ、岸田氏が“安倍首相の流れ”だということがマイナスになってしまう可能性があります。「路線を転換して欲しい」という世論に岸田氏はどこまで応えられるでしょうか。

「誰なら選挙を勝てるのか」 石破茂に足りないもの

 政権を作るとき、必ずそこには“大義名分”が必要になります。「何のために総理大臣になるのか」そして選ぶ側は「どういう理屈でこの人を選ぶのか」。

「総理大臣は時代が求める」とも言われますが、たとえば田中角栄(1972年~74年)のあとに、三木武夫(74年~76年)が首相になった。それは「クリーン三木」といって『金権で政権が倒れたから、ここはクリーンな三木がいい』ということで指名されたわけです。

 あるいは失敗した例ですが、竹下登(87年~89年)のあとの宇野宗佑(89年)。このときはリクルート事件で“ポスト竹下”が総崩れした。竹下は「政策の継続性」を打ち出し、翌月に控えたサミットを見越して、外交政策を引き継ぐ宇野外相を指名するのです(女性問題が出たため、69日で宇野政権は終わってしまいますが)。

 “大義名分”で考えると石破氏は「安倍路線の転換」を軸に政策を構想できるでしょう。反対に石破氏に足りないのは総裁選というインナー選挙での人気です。12年、18年の総裁選でも党員票ではよい勝負をするのに、国会議員票が集まらなかった。

「誰なら選挙を勝てるのか」という自民党議員の思惑に応えることができれば、角栄からの“転換”を図った三木のように総裁の座を射止める可能性があるのではないか。

 今月の『文藝春秋』で石破氏は二階俊博幹事長、菅義偉官房長官、竹下亘氏の名前を具体的に出しています。石破氏の頭の中で「二階氏を軸に総裁選へ向けて動くのであれば……」という枠組みを示したものでしょう。じっさいに石破派のパーティの講師を二階氏にお願いしに行き、二階氏が受諾したこともニュースになりました。

 石破氏の強みをひとつ挙げるとすると、石破派は議員19名と小さいながらも優秀な保守の政治家がいる。斎藤健元農水相、田村憲久元厚労相、鴨下一郎氏……。鴨下氏は医師免許を持っていますからコロナ問題でもしばしばテレビで発言していました。側近の優秀さでいえば石破派でしょう。

 現状の数の論理から考えると「ポスト安倍」は石破vs.岸田というのが最も順当なところです。しかし戦をするうえで、それぞれに大きな弱点を抱えていることは否めません。「選挙に勝てる顔」、これならイケるという人が出てくると、一気にそちらに流れる可能性もあります。

 “3密はダメ”という「リモート政局」で、間接的にどうやって多数派工作をするのか。コロナ対策で評価を上げた吉村知事のようにメディア戦略に成功する政治家が前に出てくることになるでしょう。

<【前回】 #1 「ポスト安倍」レースに異変 安倍首相は3位転落、1位は石破茂、では2位は? >
<【前回】 #2 安倍晋三内閣の支持率はまさかの「21.6%」――文春オンライン6月調査 >
<【続き】 #4 「ポスト安倍」人気4位 河野太郎にブロックされた私が痛感した「太郎が首相になるために足りないもの」 >

「ポスト安倍」人気4位 河野太郎にブロックされた私が痛感する「太郎が首相になるために足りないもの」 へ続く

(後藤 謙次)

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