熱いものが食べられない……「猫舌」を徹底的に研究してわかった“そうでない人”の決定的な違い

文春オンライン / 2020年7月4日 11時0分

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 鍋を囲む季節でもないし、コロナ禍のせいで大勢で中華料理を食べに行く機会も減っている。そんな時期にこんな話題で恐縮だが、今回のテーマは「猫舌」。

 熱いものを食べられない、というより、口に入れられないのが猫舌。何を食べるにも冷まさなければならないので、1人での食事なら構わなくても、何人かが集まっての会食などでは、全体の食事のペースを落としたり、本来のおいしさを味わえなかったり、色々と面倒が付きまとう。

 そんな猫舌を、アカデミックに検証した医師がいる。医学的な猫舌のメカニズムとは――。

困っている人がいるなら、何とかしてあげたい

「猫舌は病気ではありません。でも、猫舌の人が日々の生活で苦労を強いられているのも事実。困っている人がいるなら、何とかしてあげたいと思うのが人情じゃないですか」

 と笑って話すのは、東海大学工学部医用生体工学科教授で放射線科専門医の高原太郎医師。

 MRI(核磁気共鳴画像診断)のスペシャリストとして知られる高原医師が、猫舌に興味を持ったのは、自らの教え子の卒業研究のテーマ探しがきっかけだったという。

「猫舌に医学的な興味を持つ人は昔からいて、私も機会があれば……と思っていたんです。ちょうどうちの学生がテーマ探しで悩んでいたので、『面白そうだから猫舌でやってみたらどうだろう』とそそのかしたんです。実際にやってみたら想像以上に面白くて、私のほうがハマっちゃった(笑)」

 過去に報告された猫舌に関するレポートを見ても、あまり科学的な裏付けのあるものは見当たらなかったので、せっかくだから真剣に取り組んでみよう、ということになった。

熱いものを食べるとき、口の中はどうなっているのか

 高原医師の研究室は、臨床工学技士の国家資格を狙う学生の集団。当然MRIの扱いにも長けている。そこで、熱いものを食べる時の口の中の動きを「Cine MRI」という短時間の連続撮像ができるMRIを使って検証することになった。

 被験者は「猫舌群」5名と「非猫舌群」5名の計10名。MRIで撮影する時は横たわる必要があるので、機械の中で熱いお茶を飲むわけにはいかない。そこで、被験者は撮影の直前に各自3回以上、熱いお茶を飲み、その時の舌の動きを記憶したうえで撮影に臨んだ。MRIの中で、お茶を飲んだ時の舌の動きを再現してもらったのだ。

「猫舌群と非猫舌群とでは“舌の動き”がまったく異なり、しかもそれぞれが非常に特徴的な動きをしていることがわかったのです」(高原医師、以下同)

 下の画像の左側が“猫舌群”、右が“非猫舌群”だ。

 猫舌ではない人の場合、お茶が口に入ると舌が後方に移動して、下の歯と舌の間に“ポケット”を作り、そこにお茶を溜めている。そのあとで舌の周囲を伝ってのどへと流し込んでいくのだ。

 一方の猫舌の人は、まず最初に舌先をお茶に接することからスタートする。非猫舌群の人が終始舌先をお茶に接しないようにしているのとは正反対の動きだ。

猫舌とそうでない人の決定的な違い

「舌の中で最も熱さに弱いのが舌先。その敏感な舌先を最初に接触させれば、猫舌じゃなくても熱く感じます。私は猫舌ではないけれど、ためしに舌先から接してみたら熱くてびっくりしました」

 どうやら、“ポケット”は比較的熱さに強く、ここで温度を一定程度下げると同時に、口腔内の各組織を熱さに馴染ませることで、自然に飲み込めるようにする仕組みのようだ。

 高原医師によると、お茶が口に入る前の舌の位置を基準点とした時、お茶が口に入ってきた時の舌は、非猫舌群は後方へ、猫舌群の人は前方へと動いているという。これが猫舌とそうでない人の決定的な違いだったのだ。

 熱いものが口に入ってきた時に舌を後方に引いて、舌の下のポケットに入れるという一連の動きが、人間が本来持っている反応であるならば、「猫舌=機能不全」、つまり「疾患」ということになる。

トレーニングによって猫舌は克服できる

 しかし一般に、猫舌は病気ではないとされている。考えてみると、熱いものを食べたり飲んだりするようになったのは、人間が火を自由に使えるようになった最近のことだ。熱いものを何度も口にするようになる中で、あとから身についていったものなので、全員ができるわけではないのだ。

 よく言われることだが、親が猫舌でなければ、親の食べ方を見るうちに、子どもも自然に熱いものへの対処法を学んでいく。しかし、親が猫舌だと、子どもは熱いものを食べる機会がなく、結果的に猫舌から脱却できないのだ。

 しかし、今回の実験結果により猫舌のメカニズムが解明されたことで、克服への道筋も見えてきた。熱いものを食べる時には意識的に舌は奥へと引っ込め、舌の下のポケットに一旦収めるようにトレーニングすればいいのだ。

「私の友人にも1人、猫舌だった者がいます。以前はみんなで食事に行っても一人だけ遅れをとるのが常で、たまに急いで食べようとすると『あなたはもっと冷めてから!』と注意されいたのですが、いまではそうしたことも気にせず食べられるようになったそうです。熱いものが食べられるようになって初めて、小籠包がおいしい、ということを知って感動したとか。これまで“冷めた小籠包”しか食べられなかったんだから気の毒ですよね」

 日本では、熱いものは熱いうちに食べることが一種のマナーのように言われてきたおかげで、猫舌の人たちは肩身の狭い思いをしてきたことでしょう。

 心からご同情申し上げます。

 よかったらこの記事を参考にしてみてください。

 ただ、無理して熱いものばかりを食べていると、食道がんのリスクを高めます。

 何事も、ほどほど、がよろしいようで……。

(長田 昭二)

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