「フウしてあげる」と膝にキス、下着写真に卑猥なメッセージ……ソウル市長自殺、元秘書が訴えた悪質セクハラの実態

文春オンライン / 2020年7月14日 15時32分

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故朴元淳市長 ©getty

「人事異動で部署が変っても4年間持続的にセクシャルハラスメントを受けた」 

「ソウル市庁内部に被害を訴えたが、『朴市長はそんな人じゃない。君の役割は、(朴市長の)気持ちを補佐すべきものではないか』と黙殺された」 

「巨大な権力を前に声が出せなかった」 

「自殺により公訴権がなくなったとしても、真相は究明されなければいけない」 

 7月13日、故朴元淳市長の葬儀が終わった午後2時に開かれた記者会見。故朴ソウル市長によるセクシャルハラスメントをその生前、訴えていた元秘書の状況と立場を担当弁護士らがこう代弁した。

 セクハラ行為については、「楽しく仕事をするためにふたりで写メを撮ろうと被害者の身体を密着させたり」、「被害者の膝にあったあざを見て、“フウしてあげる”と膝に自分の唇をつけた」、「テレグラムの秘密チャットルームに招待し、持続的に卑猥なメッセージや下着だけをつけた写真を送ってきた」ことなどを明らかにした。 

 元秘書についてのフェイクニュースがネット上で飛び交い、故朴市長の熱烈な支持層からは「絶対に探し出してやる」「教育し直してやる」といった声が上がり、二次被害の懸念が深まっていたこと、そして、被疑者の死により公訴権が消滅し、告訴がうやむやになることを怖れての会見だったという。 

「持病か」「賄賂か」駆け巡った憶測

「朴市長失踪」の報が駆け巡ったのは9日夕方17時過ぎだった。この報に「最初はフェイクニュースかと思いました」と中道系紙記者は言う。 

「実際に行方が分からないことが確認されて、一体何が起きているのか見当もつかなかった。賄賂でも受けて朴市長に検察の特別捜査が入ったのか? いや、持病か? そんな憶測が飛び交う中で、前日(8日)に朴市長の元秘書がセクハラで朴市長をソウル地方警察庁に訴えていたというのが分かり、呆然としました。

『セクハラは犯罪』と韓国社会に知らしめた人物がセクハラなんて。信じられなかった。ともかく自分の口から説明してほしいと思っていたのですが……」 

 警察や消防など300人ほどが動員され、最後の姿が確認された市内の山中での捜索が続いたが、訃報が流れたのは日づけが変わってまもなく。故朴市長は9日は朝から体調が優れないと公務を休んでいて、その日の夕方、不穏な電話を受け取った朴市長の娘が警察に失踪願いを出していた。 

遺書には被害者への謝罪はなく……

 遺体が発見された10日にソウル特別市による「ソウル特別市葬」が始まった。ソウル市庁前とオンライン上には市民が参加できる焼香所が準備され、13日までに合わせて100万人以上が献花したと伝えられた。市庁前で献花を済ませた人の中には肩を震わせ嗚咽したり、泣き叫ぶ人の姿も報じられた。

 自筆の遺書は公館の卓上で発見され、公開された。そこには、家族や知人へ感謝の言葉が綴られていたが、元秘書からの告訴については触れられていなかった。この遺書を巡り、イ・ミギョン韓国性暴力相談所所長は、「すべての方々に申し訳ないと書いているが、被害者への謝罪の言葉はない」(中央日報7月13日)と指摘した。 

 一方、青瓦台(大統領府)の国民請願の掲示板にも10日、「朴元淳氏の五日葬、ソウル特別市葬にすることを反対します」というスレッドが立ち上がった。

「性疑惑で自殺した有力政治家の華やかな五日葬を国民が見守らなければいけないのか」、「国民にどんなメッセージを伝えたいのか」、「静かに家族葬で執り行うのが正しいと考える」とするそのスレッドにはその日のうちに20万人近い賛成が集まり、13日までにおよそ57万人が署名している。 

 また、SNSでは、「朴元淳市長を告発した被害者に連帯します」というハッシュタグが広がり、「韓国性暴力相談所」や「韓国女性のための電話」などの女性団体も、「被害者に連帯する」という声明をだしている。 

韓国社会で「セクハラは犯罪」と知らしめた裁判を担当

 故朴市長は、韓国では、進歩派を象徴するひとりといわれ、「脱権威、平等の象徴」(韓国日報7月11日)、「革新家、ソーシャルデザイナー」(ハンギョレ新聞、同)などと形容された。2011年に市長に初当選する前は人権弁護士や市民活動家として名を馳せた。 

 対日では、人権弁護士として慰安婦問題を争点とした「女性国際戦犯法廷」(2000年)には韓国側の検事役として参加し、ソウル市長になった後も日本への戦争責任について言及し続けた。 

 文在寅大統領とは司法試験合格同期で、文大統領は釜山で、故朴市長はソウルで人権弁護士として共に活動した間柄だ。 

 故朴市長の名を最初に知らしめたのは、93年、ソウル大学教授のセクハラ事件で原告側の弁護を無料で引き受けた裁判だった。これはソウル大学教授が助手の学生にセクハラ行為を行ったとされた事件で、教授には500万ウォン(約48万円)の罰金が科せられた。この時から韓国社会で「セクハラは犯罪」という認識が広まったといわれている。 

 94年には、権力を監視する目的で作られた市民団体「参与連帯」の設立に関わり、2000年には、不正などの疑いのある国会議員を落選させる運動を主導し、「有権者の新しい在り方を示した」(前出記者)と評価された。その後も「希望製作所」など市民活動の主流となる団体を立ち上げている。 

 2011年、ソウル市長補欠選挙に立候補し、政界に転身を図る。市長選では当初は5%の支持率しかなかったが、当時絶大な人気を誇り、出馬が噂された安哲秀・国民の党代表(当時ソウル大学融合科学技術大学院長)が自ら候補者の座を譲ると、野党候補者として保守派のナ・ギョンウォン議員を破り、初当選。

「ジェンダー特別補佐官」を設置した張本人なのに

 現在は史上初の3期目で、2022年3月の大統領選挙に向けて総力を注いでいたとも言われていた。別の中道系紙記者は言う。 

「2011年の市長選で、もし、安哲秀代表が市長選の出馬を譲歩しなければ韓国政界はどう変っていたのか、今でも時々話題になります。譲っていなかったら、安哲秀市長が誕生し、その勢いで大統領になっていたかもしれない、と。そんなことを言っても詮ないことですが、朴市長の運命も大きく変っていたでしょう……」 

 故朴市長は大統領候補の常連でもあり、2015年にMERS(中東呼吸器症候群)が広がった際は朴槿恵前政権とは対照的に透明性のある情報公開を実践したことが評価され、当時次期大統領候補1位にもなったこともあった。 

 故朴市長は、ソウル市庁で「セクハラ、性暴力のない、性平等都市推進計画」を2年前に立ち上げ、女性に関する政策を補佐する「ジェンダー特別補佐官」まで昨年新設し、ソウル市は“女性政策の百貨店”とも呼ばれていたのだが。 

誰が警察情報をリークしたのか

 冒頭の記者会見では、告訴状は7月8日16時30分頃、ソウル地方警察庁に提出したことが明らかにされた。その後、告訴人は1回目の陳述を9日午前2時30分頃まで行ったが、そのおよそ7時間半後、故朴市長は市長公邸を出たまま、行方不明となった。警察は当初、故朴市長に告訴の事実は伝えていないとしていたが、「大統領令」の規定に則り、青瓦台に伝えたことを13日、明らかにした。 

 では、誰が故朴市長へ元秘書の告訴を伝えたのか。 

 前出記者は言う。 

「警察庁から青瓦台へと話が伝わる過程で誰かが本人に伝えたわけです。青瓦台は否認していますが、これは明かな情報漏洩。告訴したことがすぐに伝われば証拠隠滅も可能ですから、あってはならない。市庁舎内で行われた元秘書へのセクハラ行為とそのもみ消し、そして、告訴事実がどう漏れたかなどすべてが明らかになれば文政権にとっては爆風となる」

与党の醜聞が続いている

 2018年には与党「共に民主党」に当時所属していた安熙正前忠清南道知事が性暴行で元秘書により告訴された。昨年3年6カ月の懲役となり収監中。さらに今年4月にはオ・ゴドン釜山前市長が女性補佐官へセクハラ行為をしたと謝罪し、市長職を辞任するという前代未聞の醜聞が続いていた。 

 与党は故朴市長の真相究明には消極的な姿勢を見せていて、進歩派の支持者の中には、「自ら刑を科したのだから、もう終わりにすべきだ」と話す人もいた。本気でこんなことを言っているのだろうか。これはスーパー与党の奢りからでた言葉なのか、韓国の市民運動を率いてきた“運動圏”の過ぎた浪漫から出たものなのか。

 知り合いの会社員(女性、40代)は怒りを露わにしてこんなことを言っていた。 

「自分たちの仲間だから不都合な真実には目をつむるとでもいうのでしょうか。告訴した相手が自死を選んでしまったという、さらなる傷と共に告訴人は生きていかなければなりません 。生涯、市民運動で行政を追及してきたはずの本人が自死という責任の取り方をしたことは卑怯です。

 業績は業績。性被害の真相は真相で、きちんと究明されるべきです」 

(菅野 朋子)

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