そもそも、テンピンの麻雀は賭博罪にあたらないのか? 黒川氏不起訴の「ボーダーライン」

文春オンライン / 2020年7月15日 6時0分

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黒川弘務前検事長 ©時事通信社

「賭けマージャンをしていたとして、賭博容疑などで刑事告発されていた東京高等検察庁の黒川弘務前検事長と記者ら3人を、不起訴(起訴猶予)とした東京地検の処分を不服として、告発を行っていた市民団体のメンバーらが7月13日、東京検察審査会に審査を申し立てました。市民目線で判断すれば、不起訴不当か、場合によっては起訴相当の結論が出る可能性もあります」

 ある検察担当記者は、こう語る。

検察審査会の議決によっては「強制起訴」

 黒川氏は、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言中の4~5月に計4回、知人の産経新聞記者宅で、同紙記者2人と朝日新聞元記者1人の計4人で賭けマージャンをしたとして、5月に辞職した。東京地検は7月10日、賭博罪の成立を認定した上で、射幸性が高くないことや社会的制裁を受けているとして、4人を不起訴とした。

「検察官が不起訴処分とした事件について、11人の一般市民からなる検察審査会が、2度にわたって『起訴すべき』という起訴相当を議決した場合、裁判所が指定した検察官役の弁護士によって、強制起訴されます。2009年に施行された改正検察審査会法で定められました。法律のプロの判断を覆すものなので、有罪率は低いですが、有罪となったケースもあります。刑法第185条では『賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する』と規定されているので、黒川氏が強制的に起訴され、罰金刑を受ける可能性はまだあるのです」(同前)

蛭子さんは「テンリャンピン」で10万円の罰金刑

 漫画家の蛭子能収さんが1998年、東京都新宿区のマージャン店で賭けマージャンを行い、警視庁碑文谷署に賭博容疑の現行犯で逮捕された際、蛭子さんは『テンリャンピン』と呼ばれる1000点200円の少し高めのレートでマージャンを行っていたという。蛭子さんら客14人は即日釈放され、その後、賭博容疑で書類送検されて、略式起訴を経て罰金10万円の刑を受けている。

「黒川氏らは『テンピン』と呼ばれる1000点100円のごく一般的なレートでマージャンをしていました。そういう意味で、不起訴という判断も無理筋ではありません。ただ、高検の検事長という検察の首脳で、しかも検察ナンバー2の立場にありながら、こうも易々と法律を破った事実は、看過すべきではありません。部内処分も訓告と軽い上に、退職金も自己都合退職に伴う減額だけに留まり、5900万円もの大金が支給されたといいます。十分な社会的制裁を受けたとは、言い切れないのではないでしょうか」(同前)

 

東尾氏は黒川氏と同様に不起訴(起訴猶予)

 プロ野球の西武ライオンズでエースとして活躍した東尾修氏が1987年に賭けマージャンをしていた事件では、警視庁大崎署などに書類送検された東尾氏は、黒川氏と同様に不起訴(起訴猶予)となっている。

 この際、東京地検は「初犯で、すでに球団から厳しい部内処分を受けるなど社会的制裁も受けている」と、その理由を挙げている。東尾氏は計22回にわたって賭けマージャンを行っていたが、西武球団から謹慎6カ月と2500万円もの高額減俸処分を受けていたことが、不起訴という判断に影響したというわけだ。

「そう考えると、黒川氏の処遇は随分と甘いものと映ります。『検察は身内に甘い』と思われても仕方がないように感じます。それに、黒川氏不起訴の決定が早かったのは、稲田伸夫検事総長が勇退し、黒川氏の後任として東京高検検事長に就任したばかりの林真琴氏が7月17日付で新検事総長に就任する前に、事件を処理しておきたかったからではないかとも言われています。起訴権を独占する検察の、あまりにも得手勝手な手法に、疑問を感じている国民は少なくないのではないでしょうか」(同前)

 捜査当局内部では、暴力団の関与があったり、レートが高く射幸性が極めて高かったりした場合などを除いて、単純な賭博容疑での検挙はしないという捜査の運用上の基準のようなものがあるとされる。

昭和の時代にはどこの記者クラブにも雀卓が

「しかし、1998年の大蔵省(現・財務省)の接待汚職事件では、東京地検特捜部がそれまで合法とされてきた官僚への接待を突然、ルール変更し、違法だとして立件に踏み切ったことで、反発を呼んだこともありました。検察はご都合主義的に摘発のルールを変更してきた歴史があるのです。大阪地検特捜部の証拠改竄事件後の検察改革では、こうした検察の『恣意性』が問題視された一方で、時代の流れに合わせた検察のこうした柔軟な姿勢が、大蔵汚職事件後に国家公務員倫理法が制定されたように、社会に有益な変化をもたらせてきた事実もあるのです。

 昭和の時代にはどこの記者クラブにも雀卓があり、記者たちはマージャンに興じていたと先輩から聞いたことがあります。お金を賭けていたこともあったでしょう。でも、私自身は記者クラブで雀卓を見たことはありません。賭けマージャンに対する社会の視線もどんどん厳しいものになっていることを考えれば、検察組織が自戒を込めて、ナンバー2にまで上り詰めた身内の黒川氏に、厳しい刑事処分を下すという判断があっても、良かったのではないでしょうか」(同前)

 結局、黒川氏は不起訴処分になってしまった。刑事訴追の可否は検察審査会に委ねられることとなったが、検察が自ら、身内の膿を出す機会は、もう失われてしまったのは、残念なことと言うしかあるまい。

(多々木 純一郎/Webオリジナル(特集班))

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