「PCR検査を増やせば医療崩壊」は本末転倒 こっそり方針転換した“コロナ戦略”の盲点

文春オンライン / 2020年7月29日 11時40分

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「なぜ第2波は死亡者が少ない?」「医療機関は大丈夫?」現役医師に疑問をぶつけてみた から続く

 6月末から7月末にかけての感染拡大では、重症者や死亡者は第1波に比べて増えなかった。しかし、秋冬に本格的な第2波が来れば、ふたたび亡くなる人が増える恐れがある。それを防ぐために、今、どう備えておくべきなのか。ハーバード大学公衆衛生大学院で臨床疫学を修めた総合診療の第一人者・徳田安春医師(沖縄群星臨床研修センター長)に話を聞いた。(全3回の2回目。 #3 に続く)

※インタビューは2020年7月20日、リモートにて実施

◆ ◆ ◆

「医療崩壊論」は間違いだった?

──感染者数が増えたのは、これまで4日以上発熱がある人や流行地に渡航歴がある人などに絞っていた検査対象を、濃厚接触者や軽症者にも広げたことが大きいというご指摘でした。政府や東京都、政府のコロナ分科会等も、検査数が増えたことには言及していますが、戦略を変えたのだということを、なぜかはっきりとは言いませんね。

徳田 それを認めると、これまでの対策が間違っていたことになるからかもしれません。検査を増やしたら陽性者があぶり出されて、入院患者が増えて、病院が逼迫するという「医療崩壊論」に立脚していたのです。

 でも、それは本末転倒ではないですか? どうして病院が逼迫するのかというと、法律で「指定感染症」としてしまったからです。途中から、宿泊施設や自宅待機も容認しましたが、法律に従うと、感染者は原則として全員入院させなくてはなりません。全員入院させたら、ベッドが不足するのは当然です。入院は重症者と高リスクの人に限り、軽症者や無症状者は、宿泊施設に入ってもらうようにすべきなのです。

 これまでのような戦略で、軽症者や無症状者が検査を受けられない状況では、ふたたび感染が拡大し重症者も増えますから、むしろそのほうが病院は逼迫します。

PCR検査の「偽陰性」をどう考えるか

──徳田先生は、以前から検査を積極的に増やすべきだと主張しています。しかし、検査の精度は100%ではなく、「陰性」と出ても実際には感染している「偽陰性」がPCR検査では約3割に出るとされています。検査をやみくもに行っても「陰性」と判定された人が安心してしまい、感染を広げてしまうという議論がありました。私も、そう考えていたのですが、違うのでしょうか。

徳田 コロナの検査では、「診断」のための検査と「防疫」のための検査を分けて考える必要があります。診断を行う場合には、感染している確率の高い人に検査を行わないと、感染している人を正しく「陽性」と判定する「陽性的中率」が下がってしまいます。ですから、医師が「コロナの疑いが強い」という人に絞って検査を行わないと、医療の無駄遣いということになります。

「感染性」をみるためなら問題はない

徳田 しかし、「防疫」のための検査は別です。感染を広げないためには、その人がコロナにかかっているかどうか診断をつけることよりも、他の人にうつす「感染性」があるかどうかをみることが大切です。その場合、症状がなかったとしても、唾液やのどの粘膜にウイルスが潜んでいるかどうかが重要となります。

 たとえば、もし肺の奥の細胞の中にウイルスが潜んでいて、実際にはコロナに感染しているのに「陰性」と出たとしても、咳などの症状がない無症状者では、防疫上はあまり問題とはなりません。なぜなら咳をしない限り、ウイルスが肺の奥から飛び出て人に感染させることはほとんどないからです。しかし、唾液やのどの粘膜にウイルスがいたら、その人がしゃべったり歌ったりしたときに、他の人にうつしてしまう恐れがあります。

 このように、防疫を目的とした場合には、唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要で、コロナに感染しているのにウイルスが見つからず、診断的に「偽陰性」になったとしても、問題ではないのです。PCR検査を行えば唾液やのどの粘液の「感染性」を直接みることができるので、防疫を前提とした場合には「偽陰性」という概念は消え去るのです。

 実は、症状があったとしても、「発症して約1週間後にはほとんどが感染力はない」ことがわかってきました。病院に入院するような時期も含めてです。もちろん、重症患者に気管挿管するような場合は、肺の奥からウイルスがエアロゾルとして出てきますから別です。しかし、防疫を考えた場合には、発症して1週間経過したような人を見つけても遅いのです。CDC(米国疾病予防管理センター)も、発症して1週間経った人で直近数日間解熱していれば、隔離を解除していいと言っているくらいです。

増やすべきは「防疫」のための検査

──なるほど、つまり「診断」ではなく、「防疫」のために検査を増やすべきだと主張されているわけですね。

徳田 そうです。我々が主張しているのは、感染能力の高い「スーパースプレッダー」の予備軍を早く見つけて、「追跡・保護・待機」の措置をとってほしい、ということなんです。

 そもそも、症状の強い人がジムに行って筋トレしたり、カラオケにいったり、屋形船に乗ったり、夜の街の懇親会に参加できるわけがありません。スーパースプレッダーの多くは軽症者または発症前か、無症状者で、動けるからこそ感染が広がるのです。検査対象を絞ってしまい、軽症者や無症状者を放置してしまうと、クラスターが発生して広がるのは、むしろ当然のことなのです。

「感染リスクの低い無症状者」にも検査は必要?

──7月16日、政府のコロナ分科会は検査対象として、(1)有症者、(2)感染リスクの高い無症状者(無症状+事前確率高)、(3)感染リスクの低い無症状者(無症状+事前確率低)という3つの分類を提示しました。そして(1)と(2)、つまり症状のある人や濃厚接触者の検査を公費負担で優先して検査して、(3)については自己負担を原則とするとしました(筆者注:「事前確率」とは、検査や診断を受ける前に予想される感染確率のこと)。

徳田 (1)と(2)を検査対象にするのは当然です。しかし、(3)を積極的な検査対象から外すべきではないと私は思います。「無症状+事前確率が低い」は正確には、「無症状+事前確率不明」と「無症状+事前確率が低い」の2つに分類すべきです。接触歴が不明な人は、「事前確率不明」となるからです。

 たとえば、前日に歌舞伎町に行って、お店をはしごした人が翌日新幹線に乗って盛岡で降りたとしたら、その人はすでに「事前確率が低い」とは言えない。1人も陽性者が出てないからといって、岩手県民全員が「事前確率が低い」とはならないのです。事前確率は、どこに住んでいようと、個別に判断しなければいけない。感染しているかどうか不安という人や、感染しているかもしれないという心当たりのある人は、接触歴の疑いがあるか問診を行って、その疑いがあれば事前確率が高いので、検査したほうがいいでしょう。

ホットスポットをマイクロレベルで捉える

──ただ、検査積極論者の中には、日本全国民に検査を受けさせるべきだと主張する人もいました。しかし、いくら検査体制を拡充して1日の処理能力が100万件になったとしても、1億人に受けてもらうには最速でも100日以上かかる計算です。それは非現実的ではないですか。

徳田 我々は「闇雲に検査をせよ」と主張してはいません。たとえば、岩手県で大規模検査を行うべきと言っているわけではありません。感染者の少ないエリアでも、問診で接触歴ありの疑いの人は、無症状でも検査対象としてよいかと思います。また、そのような地域で感染者が出た場合は、接触追跡して、保護・待機をしてもらう。

 しかし、感染が拡大しているローカルエリアに住んでいる人や仕事で出入りしている人に対しては、クラスター対策だけでは不十分で、徹底検査をめざすべきなのです。しかも、東京都や新宿区や世田谷区という大エリアでなく、ホットスポットになっている「歌舞伎町△丁目」といったマイクロレベルで捉えて、行うべきです。そして、陽性者を保護・隔離していく。そうやって、コロナを封じ込めていくべきなのです。

“都道府県単位の自粛”は本当に必要? 総合診療医が考える「感染予防と経済のバランス」 へ続く

(鳥集 徹)

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