実父の死への関与を突き付けられ、黙秘で守り抜こうとした“なにか”が決壊した

文春オンライン / 2020年9月8日 18時0分

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 2003年1月11日、捜査本部は松永太と緒方純子を、緒方のおいである緒方佑介くん(仮名、当時5)の殺人容疑で逮捕した。彼らへの逮捕はこれで7度目のものとなる。捜査本部が発表した逮捕事実は〈被疑者松永太、緒方純子は、被害者を殺害することを共謀し、平成10(1998)年5月17日ごろ、北九州市小倉北区片野×丁目のマンションの一室で、ひも様のもので被害者の首を絞めるなどして窒息させ、殺害したものである〉というものだ。

殺害日は、清美さんと緒方の記憶がほぼ一致

 逮捕された時刻は松永が午後2時2分で、緒方が午後2時33分。弁解録取書に松永は「否認します」として署名・押印し、緒方は「間違いありません」と署名・押印した。

 逮捕事実にある殺害日については、監禁致傷の被害少女(広田清美さん=仮名)と、緒方の記憶がほぼ一致していたことから特定されており、殺害場所とされる『片野マンション』(仮名)への家宅捜索時に、凶器として使用された〈ひも様のもの〉とされる、布製のひもは発見・押収されていた。

 これで残った、未だに事件化されていない関係者は、少女の父である広田由紀夫さん(仮名)、佑介くんの母で緒方の妹である緒方智恵子さん(仮名)、その夫の緒方隆也さん(仮名)の3人ということになる。

 そんな折、これまで会見を開いてこなかった緒方の弁護団が、就任以来初めての記者会見を、1月17日に行った。

 前年10月に、それまで黙秘を貫いてきた緒方が自供を決意し、それ以降は対抗するように松永も“独自”の主張を繰り返すようになっていた。松永の言い分は彼の弁護団が定期的に開く会見で明かされ、集まったメディアに報じられている。当然ながら今後の裁判において、松永との利害の対立が予想される緒方側も、その主張を明確にしておく必要があった。

1月17日、緒方の弁護団初めての記者会見

 北九州弁護士会館に集まった記者を前に、弁護団の弁護士が説明する。

「昨日、緒方さんに面会しました。どの範囲で会見できるか承諾を求めましたが、被疑事実については話さないでと言われています。今日お話しするのは6件の起訴分についてだけです。緒方さんは、『自分は被疑事実についても正直に話している。そのことは伝えてくださって結構です』とのことです」

 そこでまず、初期に起訴された少女に対する監禁致傷罪と、原武裕子さん(仮名)への詐欺・強盗罪と監禁致傷罪の3件について、緒方の認否が明らかにされた。

「当初は否認でしたが、公訴事実についてはほぼ認めます。法的評価については、緒方さんがどうこうというのではなく、弁護団のほうで検討します。その部分が監禁か、あるいは強盗か恐喝か、などについてです。現在は検討中で、証拠についても、いままで不同意にしていたものを、ほとんど同意することになります。一部、内容については不同意もあるかもしれないという程度です」

 続いて、ペーパーを読み上げるかたちで、3件の殺人罪について、起訴順に緒方の供述が説明された。

●花奈ちゃん(仮名、当時10)事件

「被告人両名(松永と緒方、以下同)が、共謀して同日、同場所で緒方花奈ちゃんを殺害したことは認めるが、殺害方法について、起訴状では通電による電撃死となっているが、電気コードによる絞殺である。実行行為も自分(緒方)が関与したが、自分以外についてはいまは言えない。公判で述べます」

●孝さん(仮名、当時61)事件

「被告人両名が共謀のうえ、同日、同場所で緒方孝さんに対し、通電行為をなし、これがきっかけで孝さんが死亡したことは認めるが、殺意はなかった。起訴状では、金属クリップ(を装着した部位)は上下唇となっているが、両方の乳首に取り付けたものである」

●和美さん(仮名、当時58)事件

「被告人両名が、他と共謀のうえ、同日、同場所で緒方和美さんに対し、殺意を持って、その頸部を電気コードで絞めつけ、窒息死させたことを認める。起訴状では、〈コード若しくはひも様のもの〉とあるが、電気コードだった。ただし、絞殺の実行行為は、緒方さんは関与していない。共謀でやったことは認めている。実行行為者については、公表しないでと話している。ただ、調書では当然供述しており、公判でも話すという」

 続いて、弁護団と記者との質疑応答が行われた。長時間に及ぶもののため、一部を抜粋し、記者をQ、弁護団をAとして紹介する。

緒方の弁護団と記者、質疑応答の内容

Q「孝さんへの通電の実行行為に緒方は加わっているんですか?」

A「緒方さん本人のみが通電をやりました。まわりに人はいたかもしれませんが、やったのは緒方さんだけ。松永さんはやっていない。法定評価は松永さんとの共謀です」

Q「孝さんの件で、殺意がなかったとは? 具体的に教えてください」

A「通電行為は日常茶飯事であったということです。それで死ぬ人はいなかったから、それで死ぬとは思わなかったということです」

Q「緒方自身も松永から通電を受けていたんですか?」

A「そうですね。最終的にはそうなります。通電を受けなかったのは、松永さんと2人の息子。それ以外はすべて通電行為を受けたり、それぞれ暴力を受けた人もいます」

Q「この3件(の殺人事件)は松永の指示だったんですか?」

A「そうですね。基本的には松永さんが言わない限り、こうはならなかったのではないでしょうか」

Q「起訴された3人の遺体処理について、海に捨てたのは認めていますか?」

A「その範囲では認めています」

Q「(遺体を)切断したという部分も?」

A「おおかたそうですね。ただ、役割分担については、『いまは言わないでほしい』ということでした」

Q「緒方が松永に従ったのは、恋愛感情からなのですか、それとも恐怖心からですか?」

A「推測にはなりますが、好きだったのは間違いないと思います。少なくとも憎んではいなかったということです」

緒方がかられた“自責の念”とは

Q「緒方が供述を始めたきっかけは?」

A「これは言いにくい。言わない方がいいでしょう。感情の問題が入ってくるでしょうから。彼女はおそらく、言わないでくれと言うと推測するので、言わないでおきます」

Q「松永が『緒方が殺した』と言っているからということは?」

A「関係ありません。いずれにしても、事実は違うんだということを、彼女自身が考えて言っています」

Q「自分の2人の子供に対する思いというのは、(供述を始めた)きっかけに絡みますか?」

A「その点はない。ただ、ひとつ言えるのは、彼女自身は、緒方一家について変な誤解があったら嫌だな、そのためには、真実を述べることが緒方家の名誉のためには一番いいと考えた、ということだと思います」

 弁護士はこのように説明するが、めいの花奈ちゃんに続いて、父の孝さんへの殺人容疑で逮捕された際、緒方がそれまでの逮捕時とは明らかに異なる様子で動揺を見せたとの、捜査関係者の証言がある。やはり実父の死への関与を突き付けられたことは、彼女が黙秘で守り抜こうとした“なにか”を決壊させるほどに、自責の念にかられる出来事だったのだろう。記者の質問は続く。

松永に対し淡々とした態度で「ああ、そうですか……」

Q「松永と緒方の主従関係は?」

A「緒方さんは“松永さんが悪くて、自分はまったく悪くない”という発想はまったくないんですよ。そういう意味で、主と従ということを言うと、たぶん緒方さんは抵抗があると思うんです。緒方さんもある程度のことはやっているわけです。やったことはやったと認めて謝っているわけで、主従関係という形で捉えられることに、彼女は非常に強い抵抗を抱いています」

Q「松永は『自分はまったく関与してない』と言っていますが、緒方はそれをどう思っているのでしょうか?」

A「『ああ、そうですか』とだけ……。松永さんに対して憎しみとかそんな反応はありません。淡々としています。緒方さんは松永さんに“本当のことを話してほしい”という気持ちは持っている。あるんだけども、たとえば、“自分に罪を押しつけてけしからん”という発想はない。“もう、ここまできたんだから、本当のことを話してほしい”と。彼がどんな話をしようとも、とにかく自分は本当のことを話すと決めているから、話しています」

Q「死刑も予想されますが、本人はどのように?」

A「言葉としてはっきりと私たちの口からは言わないが、本人は冷静に受け止める、と」

Q「いかなる刑も受けると?」

A「そうですね。罪を軽くするために真実を話すという発想はありません」

Q「反省を意味する言葉としては?」

A「『取り返しのつかないことをしてしまった』とは言っています」

Q「担当して3カ月になりますが、緒方供述にブレはありますか?」

A「ない。勘違いしたときはすぐに訂正するのが彼女の性格。しっかりしている人だなあ、とは思いました」

Q「和美さん殺害の調べで、涙を流したという話も出ていますが、接見での様子は?」

A「本当に普通の感じ。感情的になる面はありません。あくまで冷静であって、だからといって冷酷というのではない。反省はしているが、自分のやったことはやったとして話しています。本当に淡々と話している」

 約1時間15分に及んだこの会見は、自供を決意した緒方が、真摯に事件と向き合っているとの印象を抱かせるものだった。それだけに、手を替え品を替えて事件への関与を否認する松永の“悪あがき”が、より鮮明に浮かび上がってくる。

(小野 一光)

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