【山口組分裂抗争の銃撃史】「“大きな音”がしますよ」…そのとき拳銃は急騰し始めた

文春オンライン / 2020年8月29日 17時0分

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(写真はイメージです) ©️iStock.com

神戸山口組が本丸「篠原」を占拠しなかったのは何故か?《分裂直前の宴会では幹部の携帯が次々鳴って…》 から続く

「山口組分裂状態に 抗争の恐れ、警察当局警戒」
「山口組離脱団体で新組織」
「山口組が分裂へ 山健組など脱退 新組織結成か」

 いまからちょうど5年前、2015年8月28日付の新聞各紙には山口組を報じる見出しが躍った。前日の27日に山口組の分裂が判明すると、それまで暴力団については地味な扱いが通例だった新聞やテレビでも大々的な報道がなされた。

 過去の山口組の分裂抗争を踏まえ、危機的な状況を迎えつつあるといったトーンの報道が主流だった。さらに6代目となって山健組から弘道会へと支配権力が移った点など、これまで一般のニュースでは取り扱われなかった山口組内部の権力構造に触れた詳細な報道もあった。世の中の暴力団業界への関心が高まっていた。

 そんな状況の中で、山口組の分裂に最も強い視線を注いでいたのは、間違いなく警察当局だった。(全3回の2回目/ #1 、 #3 へ)

「山口組分裂」の一報で警察が考えたこと

 2015年8月、山健組、宅見組、正木組など13組織が山口組を離脱して、神戸山口組を結成すると、山口組側は緊急の執行部会を開き、13人の直参を絶縁などの処分とした。

 山口組分裂を目の前にして、当時、山口組系幹部だけでなく住吉会、稲川会など多くの暴力団幹部の脳裏をよぎったのは、史上最悪の暴力団抗争事件である「山一抗争」だった。

 カリスマとして神格化されていた3代目組長の田岡が死去した後、4代目組長には竹中正久が就任したが、竹中を認めないグループが離脱して一和会を結成。双方で300件以上の対立抗争事件を引き起こし25人が死亡、70人以上が重軽傷を負った。竹中は1985年1月、一和会系のヒットマンに射殺されている。

 そんな最悪な過去の事例が頭をよぎったのは、警察当局も同様だった。

 当時の警察庁長官、金高雅仁は2015年9月、山口組分裂後初となった定例記者会見で、次のように発言した。

「現時点で抗争に関する具体的な情報は把握していないが、過去、組織分裂に端を発した大規模な抗争が発生し一般人が巻き込まれるなど市民生活の脅威となった例もあることから、警察においては情報収集活動を強化するとともに、必要な警戒を実施している」

 その表情は厳しく、断固たる口調で強調した。「大規模な抗争」とは当然、山一抗争を念頭に置いていた。

 分裂時の山口組の構成員は約6000人、神戸山口組は約2800人。最大組織ゆえに分裂したとはいえ双方は依然として巨大組織同士。まともに衝突することになったら、市民生活の脅威になることは間違いない危険な状況だった。

 山一抗争でも一般市民が巻き添えで負傷したケースもあったほか、1997年8月には5代目山口組若頭の宅見勝が神戸市内の喫茶店で、若頭補佐の中野太郎が率いる中野会系組員に射殺された内部抗争事件では、歯科医の男性が流れ弾で死亡している。

 警察としてはこうした事態は悪夢としか表現のしようがない。一般市民が巻き添えとなる事態は絶対に避けなければならないことだった。

 金高の表情が厳しかったのには、もう一つの理由があった。

 山口組分裂の翌年となる2016年5月26~27日に、オバマ米大統領ら各国首脳が来日して三重県で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催されることが決まっており、全国の警察はテロ対策に取り掛かる手はずとなっていたのだ。

 テロは各国首脳を狙った事件ばかりではない。2005年に英国で開催されたグレンイーグルズサミットでは、ロンドンの地下鉄で爆弾が爆発したケースもあり、東京や大阪などの大都市では無差別に一般市民をターゲットにした事件も想定されていた。

 当時の警察当局は、伊勢志摩サミットへ向けた主要都市での警備計画の作成と同時に、山口組の対立抗争事件の抑え込みという難題への対応を迫られたのだ。

山口組系幹部が口にした「大きな音」とは?

 警察当局が抗争事件の発生を警戒する中、6代目山口組も、神戸山口組も、着実に抗争に向けた準備を進めていた。

 山口組が分裂した直後、山口組系幹部は今後の行く末について、こんな独特の表現で説明した。

「これから『大きな音』がしますよ。音がしないで済むわけがない」

 ここで言う「大きな音」とは、「拳銃の発射音」のことを意味していた。山口組と神戸山口組の間でかつての山一抗争のような殺し合いが続発することを予言していた。

 暴力団業界がそんな危惧の念を抱く中、実際に抗争の火蓋が切られる。

 分裂して間もない2015年10月、長野県飯田市で男性(43)が銃撃されて死亡した。殺害された男性は山口組から神戸山口組に移籍するとの情報があり、移籍をめぐるトラブルが背景にあるとみられた。

 同月中には名古屋市内の繁華街で、山口組系弘道会と神戸山口組系山健組の間で乱闘騒ぎが発生。翌11月には仙台市内の繁華街で双方の十数人の組員らがにらみ合い一触即発の状態のところに警察が駆け付ける事態となった。

 2016年1月には福岡市内の山口組系事務所に火炎瓶が投げ込まれるなど事件はエスカレート。首都圏へも波及し、東京の歌舞伎町でも乱闘騒ぎが発生したほか、神奈川、埼玉などでも対立する事務所への発砲、トラックでの突入などの事件が発生する。

 双方の直参の事務所などの拠点は、全国の44都道府県にある。そのため対立抗争は次第に全国に拡大していった。警察庁は、2016年3月時点ですでに49件の事件が発生していたことから、双方が対立抗争状態にあると認定。全国の警察本部に取り締まりの強化を指示した。

抗争が始まると「道具」が高騰

 抗争が広がる中、裏社会でも不穏な動きが起きていた。拳銃の価格が高騰していたのだ。

 当時の状況について、山口組系の古参幹部が、「“道具”の値段が驚くほど高くなった」と明かした。「道具」とはケンカに使う「拳銃」を意味した。

「(2015年の)分裂前には道具は一丁、20万円から30万円で取引されていた。しかし、分裂後となると70万円から80万円に高騰した。実弾は一部では通称、マメと呼ばれていて1発につき1万円が相場だった。実弾を多めに付ければ拳銃一丁を3桁(100万円)で買い取るという提示もあった」

 拳銃を使ったさらなる凶悪事件の発生が危惧されるなか、警察当局にとっての懸案事項があった。

 6代目山口組は暴力団対策法に基づく「指定暴力団」であるため、繁華街の飲食店などからの用心棒代の徴収や対立抗争時の事務所の使用などの活動に対して様々に規制することが出来た。しかし、離脱して生まれた新たな団体である神戸山口組は指定暴力団ではない。そのため暴対法の規制外だった。いわば町内会やPTA、スポーツサークルなどと同じ、単なる「任意団体」という位置づけで、暴対法上は野放しのままの状態になっていた。

 各地で発生する対立抗争事件への不安から世論の後押しもあり、警察当局は神戸山口組について急ピッチで指定作業を進め2016年4月、暴対法に基づき指定暴力団とした。

 すると早々に効果が見られ、同年4月以降、抗争が一時沈静化した。事件が続発すると、さらに規制が厳しい特定抗争指定暴力団とされるため、それを回避するためとみられた。

 この時期に抗争が沈静化したもう一つの事情として、同年5月の、先述の伊勢志摩サミット開催もあった。各国首脳が集まる会議やオリンピックなどの国際的なイベントが開催される際には、暴力団業界では派手な事件を控える慣習があることも事件の発生がなかった要因とも推測された。

 ある指定暴力団幹部が当時の状況を明かす。

「国際的な行事の際に事件を起こして警察に恥をかかせたら、さらに取り締まりが厳しくなる。警察は目の色を変えてガサ(家宅捜索)だ、何だとすっ飛んでくる。あの時期は、とにかく静かにしていろ、という指示だった。天皇陛下の行事の際も同じこと。皇室の迷惑になるようなことはしないという伝統的な考えがある。皇室行事の際には警察の警備は最高レベルになるので、わざわざそのタイミングで事件を起こすバカもいないが」

サミット後、鳴り響いた銃声

「暴力団業界の紳士協定」で平穏さが保たれた伊勢志摩サミットが終了するとすぐさま、銃声は鳴り響いた。

 2016年5月31日、岡山市内で神戸山口組系池田組の若頭、高木昇が射殺された。殺害したのは6代目山口組系弘道会の幹部だった。池田組をめぐっては今年5月にも若頭の前谷祐一郎が岡山市内で、6代目山口組系大同会幹部に銃撃されて重傷を負う事件も発生している。この事件は2016年に射殺された高木の法事が終わった直後に起こっている。

 2019年10月に6代目山口組ナンバー2、若頭の高山清司が府中刑務所を出所した前後からは、さらに凶悪な事件が多発する。

 2019年11月には尼崎市の繁華街で山口組系幹部が、拳銃ではなく自動小銃で十数発の銃弾を乱射して神戸山口組系幹部を殺害するという残忍な事件も起きている。

 そして、今年8月15日夜にも、山口県内で神戸山口組系幹部(52)が銃撃され重傷を負う事件も起きた。拳銃を持って自首したのは、6代目山口組系組員の男。現在、発砲の関与を認める供述を始めているという。

「大きな音」は全国で鳴り響き続けている。暴力団業界の拳銃の需要は多く、価格は高騰したままとなっていることが推測される。(敬称略)

《事件317件、25人死亡》暴力団史上最悪の「山一抗争」で生まれた「トップは殺らない」という教訓 へ続く

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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