男は遊ぶ場所があるのに、女の息抜き場所はない……女性社長が語る「現代の女性にこそ“サウナ”」の理由

文春オンライン / 2020年9月12日 17時0分

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「サウナは“男のもの”でした」サウナ大好き日芸卒女学生が、女性のための湯屋『江戸遊』を創るまで から続く

 1960年代に日本大学芸術学部写真学科に入学。地元の両国から自由が丘の女性専用サウナにマイカーで通うアヴァンギャルドな女子学生は、結婚・出産を経て、48歳にして温浴施設を起業する。女性のための施設を志し、全くの素人からスタートした『両国湯屋 江戸遊』が人気施設になるまで、オーナー・平井要子のサウナ人生もまた、波乱万蒸だった――。

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開業早々のピンチに現れた救世主「お金はいらない。僕に営業をやらせてくれ!」

「期待していた大江戸線の開通も3年延びて、バブルが崩壊……。開業したばかりだから当然知名度はないし、繁華街でもないから人の出入りもない。もう本当に散々で、大変でしたよ。業者さんからは『江戸遊さんはいつ潰れるかね?』って言われてました。色々自分でもやりながらどうやったらお客さんが来るのか、毎日悩んでましたね」

 しかし48歳での起業は伊達じゃない。そこから平井は持ち前の行動力と独自のネットワークを駆使し、難局を少しずつ乗り越えていく。

「最初はお客さんが来ないから、本当に試行錯誤の連続で。宣伝も今みたいにネットも何もないから、チラシからスタートしました。それでも自分なりにアートワークや外観にこだわったことを打ち出していったら、だんだんと雑誌の取材が入るようになりはじめたんです。そこから少しずつお客様がいらっしゃるようになって」

 苦労しながらも温浴業界に新しい風を吹き込もうとしていた平井社長。彼女は当時体験したこんなエピソードを語ってくれた。

「ある日に、うちの求人を見たって人が『お金はいらないから僕に営業をやらせてくれ!』ってやって来られて。『こんないい店なのに、お客が全然いないのは勿体ない!』とまで言ってくれたんです(笑)。あまりに突然だったんで、ちょっと不安でしたが、お願いしてみることにしたんです。そしたらその方は営業のプロで、色んな所からお客さんを連れてきてくれたんです。本当に凄かった。そういえば、彼は『どんな壊れたものでも売ってみせる』って豪語してました(笑)」

 彼も女性経営者として懸命に仕事をする平井の姿に、心打たれた一人だったのかもしれない。

日本でも有数な職人たちが『江戸遊』に携わっている理由

 江戸遊という粋な屋号、可愛らしいロゴマーク、そしてリニューアルオープンで完成した個性的でデザイン性の高い外観。江戸遊には平井社長のこだわりと秘められた想いがこもっている。

「『江戸遊』のロゴの“江”って漢字をよく見ていただくと分かるんですが、右側の“エ”の縦棒が温泉マークの湯気みたいになってるんです。可愛いでしょ?(笑) これは日芸時代の同級生の紹介で、とても信頼できる人にデザインしていただいたんです。

 あとは今回のリニューアルでデザインにこだわった外観や内装も、日本で屈指の設計事務所さんにご相談したところ『ぜひ自分にやらせてほしい』とベテランの方が言ってくださったんです。その方もたまたま地元の墨田区の方で、創業から『江戸遊』の大ファンだったそうで。これもありがたいご縁です。才能に溢れる方々に助けられ、本当に感謝しています」

「温浴施設こそ現代の女性に必要なものだと思ったんです」

 女性とサウナの地位向上に尽力してきた平井だが、そこには並々ならぬ決意と熱い思いがある。

「男性が遊ぶ場所はいくらでもあるけれども、女性が息抜きする場所というのがないと思います。結婚して子育てする中で辛い日はあるし、独身だって仕事に疲れます。そういう女性たちを癒してくれる場所を作りたいなと。かつてはイメージにつられてなかなか女性に浸透しなかったけれど、温浴施設こそ現代の女性に必要なものだと思ったんです。

 自分の生まれた土地で開業したのは、どうにか間違ったイメージを払拭したかったから。この土地でやるということは、健康に貢献する健全な施設だという確固たる自負がなければできません。だから、この『江戸遊』をきっかけに、誰もがサウナや温浴施設に安心して入れて、健全に過ごすことが当たり前になるといいなと。それには街に融合した外観へのこだわりや、お客様に安全を提供する施設運営を目指さなくてはいけないと思っています。

 少しずつやってきてようやくここ10年ぐらいで、サウナとスパが世間にちゃんとした形で認知され始めました。今では、子育ての合間やお仕事帰りに立ち寄ってくださる女性のお客様もたくさんいます。この光景は昔では考えられなかった」

サウナブームが巻き起こるコロナ時代で“生き残るため”に

 昨年、全館をリニューアル。働く女性をターゲットにした新しい取り組みを始めている『江戸遊』だが、サウナブームで施設がどんどん増える中、施設の多様化が進んでいると平井は言う。

「働く女性は年々増え続けています。“女性に優しいサウナ施設とはどうあるべきか”を社員たちと研究して、『湯work』というコワーキングスペースも実現させました。サウナ・スパの新しい利用価値です。

 新しいお店が増えて、サウナ・温浴施設もどんどん多様化していますから、今はまだ考えもつかないような施設もでてくるかもしれませんね。すごく小さいサウナ室とか、仮想空間を使ったサウナ室とか(笑)。でも今は、どの店もコロナという未曾有の問題にどう立ち向かっていくかが課題です。『江戸遊』もこれまで25年間、実際に倒れそうなことや苦しいことは何度もありました。様々な試練を乗り越えてきたので不景気には強いつもりだったんですが、コロナ禍はひたすら辛抱するしかないありません。事業を続けていくことは大変なことだと痛感する日々ですが、それでも『やってよかったな』と思うことも、何度もあります。

 私は、『自分が遺したものがこの先、生き残るだけの存在価値があるものであってほしい』と思いながら、これからも仕事をしていこうと思います」

 常に時代を見抜く平井の慧眼。決して現状に満足しないその姿勢。そこには、幾多の苦難を乗り越えた者にだけしか紡げない、言葉の重みがあった。

 コロナ禍で一気に進んだ新しい生活様式では、在宅時間も増えストレスや疲労、病など今まで以上に身体のメンテナンスへの重要性が増してくるだろう。だからこそ、心身ともに疲れを癒してくれる『両国湯屋 江戸遊』の存在は、我々にとって必要不可欠な“現代の駆け込み寺”といっても過言ではない。

 そして平井社長は、優しく微笑みかけてくれる下町のジャンヌ・ダルクなのである。

INFORMATION

両国湯屋 江戸遊

住所 東京都墨田区亀沢1-5-8

※営業時間などの最新情報は公式HPをご確認ください。

https://www.edoyu.com/ryougoku/

(五箇 公貴)

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