《海外で射撃練習も》ケンカの緊急招集がかかったとき、ヤクザがシャブを使うのはなぜか【暴力団幹部告白】

文春オンライン / 2020年9月22日 17時0分

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6代目山口組の高山清司若頭 ©️共同通信社

「ケンカの現場で拳銃を相手に向けて発射した時の手ごたえ、強く重い反動はいまだに手に感触が残っている。強烈な発射音も耳から離れない。撃った時の光景はそれこそ一発ずつ、目に焼き付いている」

 そう語るのは、かつての対立抗争事件で拳銃を発砲したことがある指定暴力団幹部だ。

 山口組が分裂して5年が経過し、これまでの対立抗争事件で9人が死亡。特に、6代目山口組若頭の高山清司が昨年10月に刑務所を出所した前後から銃撃事件が続発している。

 同年11月には兵庫県尼崎市内で、神戸山口組系幹部に対して6代目山口組系元幹部がM16と呼ばれる自動小銃を数十発発射して殺害するという凶悪な事件も発生。このため今年1月には、6代目山口組、神戸山口組双方ともに「特定抗争指定暴力団」とされている。

 警察庁の統計では、山口組が分裂した2015年以降、暴力団などによる発砲事件で2018年以外は全ての年で死亡者が確認され、昨年も4人が死亡している。暴力団業界と、暴力団を捜査する警察、双方の「拳銃」事情を追った。(全2回の1回目/ 後編 に続く)

拳銃発射の手ごたえ

 そもそも、暴力団員はどうやって拳銃の使い方を覚えるのか。

「この稼業に入ったら、特定のケンカで拳銃を使うためという訳ではなくても、将来は必ず拳銃を使うようなケンカがある。そのために毎年のように東南アジアに行って、合法的に拳銃を撃てる場所で練習を重ねていた」(前出の暴力団幹部)

 この暴力団幹部によれば、拳銃は一般に持たれているイメージに比べて格段に取り扱いが難しく、「いきなり手渡されたところで、すぐに撃てるようなものではない」という。そして、初めて練習で撃った時の感触が忘れられないと語る。

「まず拳銃自体がかなりの重量がある。銃をしっかりと握り、腰を落とさなければ銃弾は前に飛ばない。射撃場ではインストラクターが銃の握り方から教えてくれたが、初めて撃った時は発射の反動、音の大きさに驚かされた。

 実際に発射すると、銃弾は前方にまっすぐに飛ばないものだ。撃った時の反動が強くて、しっかり握っていても銃身が上を向いてしまって、よく見たら弾痕が天井に残っていたこともある。至近距離の2~3メートルだったら的に命中するが、5メートルも離れたら確率はかなり下がる。10メートル離れたらまず命中しない」

 しっかりと練習を重ねなければ射撃場の的ですら、まず命中しないという。ドラマや映画では拳銃を片手で握って撃つシーンを見かけるが、実際にはかなり難しいと、この幹部は打ち明ける。

「小型の拳銃は片手でも撃てるが、38口径となると両手で握らないと反動で前に飛ばない。45口径のような大型拳銃になると、片手で安易に撃つと『肩の関節が外れるのではないか』というほど大きな衝撃がある」

 ヤクザ業界では、仕事(ケンカ)をするための「道具」と呼ばれている拳銃だが、その形式にも気を配っていたと説明する。

「拳銃の弾倉には、『回転式』と『自動装填式』がある。自分は回転式を使うと決めていた。撃鉄を起こすとレンコン型の弾倉が回転して確実に銃弾を送り込んでくれる。間違いがない。自動装填だと銃弾が詰まってしまうことがあると耳にしてから、いざという時に失敗して『弾が詰まってしまいました』では話にならないので避けている」

 現場に行く際には「『これから相手を拳銃で撃ち殺すかもしれない』という気持ちと、『もしかしたら自分が殺されるかもしれない』という気持ちがせめぎ合って、異常な興奮状態で神経が高ぶっていた」という。

「腹のベルトに差し込んだ拳銃が冷たくて重かったことを覚えている。前の晩に妻に話したら、『大丈夫。あなたは必ず生きて帰ってくる』と言われたことは、鮮明に記憶している」

 この幹部は銃撃事件を起こした後、逮捕され長期の服役に赴くことになった。

警察官の多くは「射撃訓練は苦手」

 では、暴力団を捜査する側の警察官は拳銃をどのように扱っているのか。

 もちろん警察官は、拳銃を日常的に携帯している。交番などに勤務する地域警察官が腰のベルトに拳銃を吊り下げてパトロールで巡回している姿は、誰もが街で見かけていることだろう。

 だが、当の警察官に話を聞くと、拳銃の取り扱いが得意な者はごく少数だという。実際に使用したことのある警察官はごく稀なうえ、取材した多くの警察官は射撃訓練を「苦手」と感じていた。

 殺人や強盗などの凶悪犯の捜査や、地下鉄サリン事件などを引き起こしたオウム真理教の逃走犯の追跡を担当した警視庁捜査1課の元捜査員は、次のように打ち明ける。

「捜査の現場で拳銃を携帯したことはあるが、実際に使ったことはない。警察では年に1回拳銃の射撃訓練があるだけで、射撃が得意だという警察官はいないのではないか」

 警察の射撃訓練では、腕前の上達よりも事故防止に気を使うことの方が優先されるという。

「事故防止のために、『指を入れるな、人に向けるな』と合言葉を交わしながら準備する。『指を入れるな』は、準備中に引き金に指を入れて何かしらの力が加わり、思わぬ方向に発射して事故が起きてしまうことを事前防止するという意味。『人に向けるな』は文字通り銃口を人に向けるなということ。訓練の前は、2人組で保管庫から取り出すなど、実際の射撃よりも神経を使う」

 神奈川県警で長年にわたり暴力団犯罪捜査を担当しているベテラン捜査員も「捜査の現場で拳銃を携帯することは多い。しかし、使用したことは一度もない」とのことだった。さらに、「とにかく拳銃は当たらない」という点も同じだ。

「射撃訓練の的は20メートル前後ぐらいの位置にあるが、自分はほとんど命中しなかった。引き金に指をかけると、どんなに注意しても微妙に力が加わってしまい狙い通りには行かない。2~3メートルの距離なら命中させる自信はあるが……」

 日頃から拳銃を携帯している警察官でも、一筋縄ではいかない“道具”なのだ。

抗争で怪我をしたらどこにいく?

 ふたたび銃撃事件を起こした暴力団幹部の話に戻ろう。

 銃撃事件など“ケンカ”で負傷した場合、暴力団員はどうやって対応するのか。実は、リスクを抱える暴力団員にとって、健康保険の加入は必須なのだという。

 冒頭で拳銃を発射した経験を明かした指定暴力団幹部は次のように話す。

「けがをした際などに健康保険は絶対に必要。無保険で治療費10割負担となれば、大変な金額になる。ただ所得がないことになっているから、保険料は最低レベル。ケンカだけでなく、普段から風邪をひいたとか、虫歯の治療だとかと何かと必要」

 なぜ健康保険が必要なのか。キャリアが長い別の指定暴力団のベテラン幹部が打ち明ける。

「世間の人は『ヤクザがケガをしたら、専門の闇医者の世話になる』というイメージがあるかもしれないが、自分の場合はそのようなことはない。ケンカはいつ、どこであるか分からない。もし自分が拳銃で撃たれたり、刃物で刺されたりするようなことがあれば、119番通報して最も近くの病院に運んでもらう。それが最善の策だ。知り合いの医者がいる病院に運んでほしいなどと言っていたら、やり取りしている間に手遅れということになりかねない。ヤクザも怪我をしていれば治療してもらえる。だから、健康保険は当然入っている。

 表向きは収入がないことになっているから保険料はわずかなものだ。少し前のことだが、生命保険にも入っていた時期もあった。女房も子供もいるし。自分は全く知らなかったが、(ケンカに備え)女房が手続きをしていたようだ」

“シャブ”の意外な使い道

 しかし、現在では生命保険などは契約時に反社会的勢力に属していないことを誓約する書類を交わすことになっており、この幹部も「今だったら、生命保険には加入できないだろう」とこぼす。

 ベテラン幹部は、かつて対立抗争で緊張が高まった際のことを振り返る。

「若いころのことだが、ケンカになるかもしれないということで非常招集となった。大慌てで事務所に駆け付けた。急いでいたのでサンダル履きで行ってしまった。すると『なんだ! そのサンダルは。たるんでいるぞ!』と怒鳴られた」

 ヤクザと言えば、毎日のように繁華街を飲み歩いているイメージがあるが、そんなとき“ケンカ”の一報が入ったらどうするのか。

「毎晩飲み歩いていたのはその通り。若いころは本当に毎晩飲んでいた。しかし、酒を飲んで酔っ払っていてもケンカの招集がかかったら行かねばならない。そこで酔いが一発で覚める万能薬がある」

 そう語って笑みを漏らした暴力団幹部は、声を潜めてこう明かした。

「それは、シャブだ」

 シャブとは当然のことながら、覚醒剤のことだ。

「酩酊するほど泥酔していたら効き目があるか分からないが、『いい気分だな』と酔っ払っている程度だったらシャブを打つとすぐに酔いが覚めて頭の中がスッキリする」

 覚醒剤は暴力団にとって商売のタネというだけでなく、ケンカへの備えでもあるようだ。(敬称略)

【現場に残されたM16自動小銃写真】山口組抗争で続出した「高齢ヒットマン」それぞれの事情 へ続く

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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