「これって投げ売り?」東海道新幹線の大幅割引「ぷらっとのぞみ」の衝撃と誤解

文春オンライン / 2020年9月27日 6時0分

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©️iStock.com

「JR東海はヤバいんじゃないか」

 2020年9月10日、東海道新幹線の新たな割引企画「ぷらっとのぞみ」(東京~新大阪間の片道普通車指定席1万2700円、グリーン車1万4700円)が発表された。2021年3月までの期間限定だ。その発表を受けてネット界隈がざわついた。

 旅行好きにとっては低価格商品が出ると嬉しいから歓迎の声が出る。ただし今回は「嬉しいけれど、いいの?」「JR東海もたいへんなのだな」という戸惑いも隠せない。そうした声を拾って「JR東海の危機」を煽るニュースメディアもあった。勘違いも甚だしい。

「ぷらっと」が付けば「投げ売り」を連想するが……

 東海道新幹線は、以前から回数券や会員制のネット予約サービス「エクスプレス予約」などがあるし、旅行会社も宿泊と組み合わせたダイナミックパッケージを販売している。冷静に追っていくと「ぷらっとのぞみ」は最安ではない。新たにおトクな商品が登場しただけだ。それがなぜ「経営不安」を煽るような声を生んだか――。

 その理由は、先輩商品の「ぷらっとこだま」が「空席埋め合わせの投げ売り企画」として認知されているからだろう。のぞみに「ぷらっと」が付けば「投げ売り」を連想する。昨今の新型コロナによる交通機関の業績報道も背景にある。

「ぷらっとこだま」は1990年に登場し、30年も続く人気商品だ。東海道新幹線の各駅停車タイプ「こだま」の一部の列車に設定され、通常の運賃+特急料金よりも値段が低い。たとえば東京~新大阪間は、きっぷを買うと通常期で1万4400円のところ、「ぷらっとこだま普通車指定席プラン」は1万700円となる。

「のぞみ」指定席よりも「こだま」グリーン車が安くなる

 さらに1500円の差額でグリーン席にグレードアップできる。東京~新大阪間のこだまグリーン車は、きっぷを買うと1万9270円。「ぷらっとこだまグリーン車指定席プラン」は1万2200円で、7070円も安い。「ぷらっとこだま」はグリーン車がおトクというわけだ。

 多くの人が選ぶ「のぞみ」の普通車指定席は、東京~新大阪間で1万4720円だから、「ぷらっとこだま」はグリーン車でもこれより安い。

 所要時間は「のぞみ」の約2時間30分に対して「こだま」は約4時間。それほど急がない旅人にとっては、1時間半も余計に居心地の良いグリーン車に乗れる。私も「ぷらっとこだまグリーン車指定席プラン」が好きだった。徹夜明けで乗ると4時間は居眠りにちょうどいい。「のぞみ」の2時間半は駅弁を食べると2時間程度しか残らず、むしろ時間を持て余す。

 ただし「ぷらっとこだま」には安さの代わりに制限がある。JR東海が売る「きっぷ」ではなく、子会社の旅行会社「JR東海ツアーズ」が販売する「旅行商品」だからだ。「ぷらっとこだま」は、片道のみ添乗員なしのツアー商品なので、利用できる列車は限られる。きっぷのように列車の変更はできないし、指定した列車に乗り遅れた場合は無効。「後続の列車の自由席に乗れます」という救済もない。

 そのかわり、旅行商品の体裁を整えるため「駅の売店で使える1ドリンク引換券」が付いてくる。これでビールや缶チューハイをもらえば居眠りもはかどる。

空席救済策「ぷらっとこだま」の事情

「こだま」の大安売りは国鉄時代から始まっていた。「こだまラウンドきっぷ」は2枚綴り回数券のような商品で、1人で往復、2人で片道という使い方。さらに「こだま2&2ペアきっぷ」は2名往復の割引きっぷだ。こうした「こだま割安」きっぷは「ひかり」に対して不人気だった「こだま」の空席を埋めたいという意図だった。それが「ぷらっとこだま」に継承されている。

 なぜ東海道新幹線の「こだま」に空席が多いのか。利用客が少ないにもかかわらず16両編成で運行するからだ。山陽新幹線の「こだま」は8両編成で、需要と供給のバランスを取っている。かつては6両編成や4両編成の「こだま」もあった。しかし東海道新幹線の「のぞみ」「ひかり」「こだま」はすべて16両編成だ。その理由は過密ダイヤにある。16両編成で統一すると、「片道をこだまで走らせて、折り返してのぞみとして運行する」という運行ができる。ダイヤが乱れたときも使用車両を入れ替えて対応できる。こだま用に短編成の列車を仕立てるより都合がいい。

日帰り往復1万5700円という破格の「ひさびさ旅割引」

「ぷらっとこだま」の経緯を知れば「ぷらっとのぞみ」の登場も「空席が余っているから」と考えがちだ。感染症予防の外出自粛の影響で、交通機関のほとんどが困窮している。JR東海おまえもか、と思う。しかし、上記の事情をよく見てほしい。「こだま」の空席は「のぞみ」と同じ編成で走らせているからだ。「のぞみ」の空席は、運行本数を減らせば調整できる。JR東海としては「のぞみ」をダンピングする必要はない。

 旅行需要回復のための営業施策は必要だけど、JR東海ツアーズだけに空席を優遇する必要もない。じっさいにその通りで、じつは「ぷらっとのぞみ」より格段に安い旅行商品もある。

 たとえば、JR東海と複数の旅行会社がタイアップしている「ひさびさ旅割引」がある。往復割引商品と宿泊を伴う商品があり、ここでは往復割引商品で比較しよう。JR東海ツアーズが提供する「ひさびさ旅割引★★日帰り1day 大阪スタンダードプラン」は、東京~新大阪間の日帰り往復で1万5700円。旅行商品の体裁を整えるために500円分のキヨスク利用券が2枚つく。利用期間は2020年10月1日から2020年12月25日まで。近畿日本ツーリストが提供する「【WEB】ひさびさ旅割引★★ 日帰りの旅 大阪」は、ハルカス300(展望台)入場券付き1万6500円。どちらも片道あたりの「のぞみ」の料金が半額程度になる。

 ひさびさ旅割引はタイアップする旅行会社も多く選択肢が広い。宿泊タイプも集客に積極的なホテル側が大胆な値引きをしている。これから旅に出る方は、こちらも比較してほしい。

「ぷらっとのぞみ」よりも安い「EX早特21」

 日帰り往復に縛られたくないという人には、冒頭で触れた「エクスプレス予約」をオススメしたい。JR東海が直営する会員制ネット予約サービスで、有料会員の「エクスプレス予約」と年会費不要の「スマートEX」がある。ビジネスで新幹線の利用頻度が高い人は年会費を払っても「エクスプレス予約」が適している。利用頻度が低い人は、値引きが小さめの「スマートEX」でじゅうぶんだ。

 スマートEXの東京~新大阪間の料金は通常期で1万4520円。これだと通常期の定価より200円安いだけだ。しかし、早期予約割引のEX早特21なら1万1200円になり、「ぷらっとのぞみ」より1500円も安くなる。グリーン車プランも差額が小さいとは言え、「ぷらっとのぞみ」より「EXグリーン早特」のほうが安い。ただし「EXグリーン早特」では、利用できる列車が早朝6時台の「のぞみ」と終日の「ひかり」に限られる。「ぷらっとのぞみ」は「ぷらっとこだま」と同様に、おおむね毎時1本が設定されているから選択肢が広い。

 利用できる期間、対応する列車が異なるから、単純にどれが良いとはいえない。単純に料金で比較して、往復利用なら「ひさびさ旅割引」、片道利用なら「エクスプレス予約」「スマートEX」のほうがいい。ただし、対応列車の範囲、時間帯をみれば「ぷらっとのぞみ」「ぷらっとこだま」は便利だ。

「ぷらっとこだま離れ」が進んでいたのではないか

 では、使いやすいけれども価格的に絶対優位ではない「ぷらっとのぞみ」はなぜ誕生したか。筆者は「JR東海の危機」ではなく「JR東海からJR東海ツアーズへの救済策」だと思う。なぜなら「エクスプレス予約」の登場によって「ぷらっとこだま」の利点が小さくなってしまったからだ。とくにもっともおトク感が大きかった「ぷらっとこだまグリーン車指定席プラン」に対して、後発の「EXこだまグリーン早特」のほうが安くなった。

 筆者は特に急がない限り「ぷらっとこだま」の愛用者だった。しかし、スマートEX会員になってからは「ぷらっとこだま」を使っていない。スマートEXのほうが安いし、列車の変更も簡単だからだ。おそらく私のような利用者が増えて「ぷらっとこだま離れ」が進んでいたのではないか。そこにコロナ禍が直撃した。

 いずれにしても、新幹線の利用者にとってはおトクな選択肢が増えたことは喜ばしい。“投げ売り”のイメージから「ぷらっとのぞみ」の一択とせず、用途に応じてじっくり比較してほしい。

(杉山 淳一)

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