野村弘樹さん、ベイスターズが優勝するために必要なことって、なんですか?

文春オンライン / 2020年10月18日 11時0分

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現役時代の野村弘樹氏 ©時事通信社

 ベイスターズが優勝から遠ざかって20年余り。解説者が「優勝候補」として名前を挙げることに少し怯えながら、でも内心「今年こそは」と思っていた。DeNAベイスターズ、10月18日現在、チームは4位。負けを重ねるにつれ、インターネットではラミレス監督の投手起用に厳しい意見が溢れていった。ファンが抱えるモヤモヤの答えを、今、この人に聞きたい。チームが日本一に輝いた1998年にローテの柱として活躍した野村弘樹。左腕エースは、今年のベイスターズを、ラミレス采配をどのように見ていたのか。ベイスターズが優勝するために必要なことって、なんですか。

それは果たして「奇襲」なのだろうか

――あの佐々木主浩さんまでもが優勝候補に挙げていた今季のベイスターズですが、現実として今優勝が難しいところにおります。

野村  そうですね、でもまずはラミレス監督が就任して、Aクラスにいるということが当たり前になった。そこは素晴らしいことですよね。そして今年の佐野を見抜いた眼力。佐野をキャプテンにする、四番にするなんて、誰も思いもよらなかったと思う。さらに佐野が期待以上の成績を残している。その二つはラミレス監督の紛れもない実績です。

――ラミレス監督の良さとはどんなところにあると思いますか?

野村  セオリーがないところ。そしてそれがバチッとハマる時がある。今までも「これなんやろな」って思う瞬間が何度もありました。どう考えても同点にしないといけないから送らないとという時に、打たせて逆転してそのまま勝つ試合もたくさんあった。乙坂を代打に出してホームラン打ったりね。打順の考え方もそう。

 ただやっぱり、一ベイスターズファンとして、あの先発パットンの試合は心を折られることになりました。あと山﨑康晃の起用法。

――未だに“先発パットン”をどう咀嚼していいか、分からないんです。

野村  ジャイアンツと競ってる場面でのあの負け方は、今シーズンの一つの、目を背けてはいけない結果になってしまったと思います。先発で好調だったピープルズを中に回してまでやったわけだから。2017年のCSで、今永を中に入れた時があったでしょう。あの成功が頭にあったんだと思う。でも僕は投手をやってきた人間として、1年間エースとしてローテーションを守ってきた人間をああいう使い方をしたら勝てないと思うんですよ。それは果たして「奇襲」なのだろうかと。僕たちはどうしても結果論で話すしかないじゃないですか。

――結果論、そうですね。

野村  でも外側の人間にはわからない、現場にしかわからないことっていっぱいあるんです。僕もコーチをやってた時に何度「そんなことはわかってんだよ」と思ったことか。外側から見て「おかしい」と思うことも、そうせざるを得ない何かがあるんですよ。ピッチングコーチの意見はどこまで採用してもらえているのか、分かりません。

――2018年のシーズン終了後に、ラミレス監督自身が「コーチとのコミュニケーション不足」というのを反省してらっしゃいましたが、実際には改善しきれていなかったのでしょうか。

野村  どうでしょうか。ただあくまでも僕がコーチなら「やってられない」と思う采配は多かったように感じます。自分がもし現役選手だったら「バカにしてるのか」と怒ってるかもしれない。僕や佐々木さんや盛田(幸妃)とか。今そうなってはいないのは、コーチが采配の意図を説明して、選手に納得させているからでしょう。

――野村さんが現役時代、おかしいと思った時は意見していましたか?

野村  そもそも「おかしい」って思うことがなかったんですよね。投げて、打たれて、僕自身が「すみません」って言うことの方が多かったから。今は球数が表示されますよね。でも僕らの頃は球数なんて考えたこともなかった。イニングなんですよ、先発ピッチャーって。7回までは何としてでも投げなきゃいけない。これは解説の時にもよく話しますけど「クオリティスタート(※先発投手が6回以上を投げて自責点3以下で抑えること)」って、中4日で投げるピッチャーにのみ当てはまる言葉だと思ってます。

いいピッチャーはいるんだけど、タフなピッチャーがいない

――現在ベイスターズで完投しているのは大貫、上茶谷、井納投手がそれぞれ1回ずつ。すごく希少なものになってしまった。

野村  野球全体がそういう流れではあるけど、でも先発は「投げなきゃ勝てない」んです。巨人の菅野投手、中日の大野投手、ケガしてしまったけどカープの大瀬良投手……この辺の投手は本当に日本野球の鑑だと思う。先発が5回で降りて勝とうなんて、そんなに甘くはない。あと4イニングをブルペンに負わせるってことだから。かといってね、「投げさせろ」とも思いません。「馬なり」って言葉があるじゃないですか。

――馬なり……馬が走るに任せる。

野村  そう。100球で、当然ダメな時は代えなきゃいけない、まだいけるんだったら投げさせなきゃいけない。その判断がどうも中途半端に感じるんです。まだいけるのに、おろしてしまう。忘れもしないのが、7月26日のカープ戦。平良が先発して、6−0でリードしていたところを、8回に1点取られて代えた。そのあとパットンと山﨑が打たれて、逆転負けしてしまった試合です。あの試合が典型で、ああいうことをすると先発ピッチャーもダメージを受け、ブルペン陣もダメージを受け、チームもダメージを受ける。みんなが被害者になってしまう。それが怖い。代え時は、球数なのか、インスピレーションなのか分かりませんが、その判断こそ今季苦しんだ原因の一つでもあるのかなと思いますね。

――そういう時、先発投手のメンタルとしてはどうなのでしょうか。

野村  ホッとしてしまってるところもあるんじゃないですか。今の時代7回投げれば御の字だから。でもね、ブルペン陣の調子なんて蓋を開けるまでわからないわけです。代えれば代えるほどリスクがあるのは否めない。

――先発投手の調子が良ければ良いほど、6回、7回になるとドキドキしてしまう。「打たれるかも」のドキドキというより「交代させられるんじゃ……」のドキドキです。

野村  先発ピッチャーが8回くらいに疲れてきて、それをファンが一生懸命応援するような、そういう試合は本当に少なくなったと思います。でもベイスターズにそういう投手がいないわけじゃない。投げさせていないだけで。いいピッチャーの名前は7、8人パパパッと出てくる、そんなチームは他にないですよ。いいピッチャーはいるんだけど、タフなピッチャーがいない。だから毎年ローテーションが揃わない。

――タフなピッチャー。

野村  ピッチャーって一試合に300球くらいは考えないといけません。試合前の準備、イニング間のキャッチボール、完投すれば100~130くらいはいくでしょう。だからキャンプ中にはそれくらい投げ込む日を入れる。(三浦)大輔なんかもっとですよ。そういうピッチャーがいない。

――何がピッチャーを「タフ」にさせるのでしょうか。

野村  肉体的にも精神的にも、なんだと思います。考え方もある。昔はピッチングコーチが練習メニューを組んでいたけど、今はそうじゃないですよね。無駄を省いて、効率性を求める練習をさせますが、もしかしたらそれは「自分が投げて、チームを勝たせる」という、タフな思考にはフィットしてないんじゃないのかな。だってピッチャーって無駄なことだらけなんですよ。

――無駄なことというのは?

野村  ランニング一つとってもそうです。ポールとポールの間を何十本と走らされたり。こんなことやって上手くなるのかなって思うし、それは直接技術の向上には繋がってないけど、強くなるんですよ。精神的にも肉体的にも。時代といえば時代ですが、やっぱり僕は規定投球回に達してない先発ピッチャーは、評価できないと思うんです。ましてや「エース」なんて呼べない。

巨人とベイスターズを離してしまったもの

――先ほど挙げられていた「山﨑投手の起用方法」についてはどうお考えですか?

野村  確かにここ数年はセーブを挙げても3者凡退に抑えることは少なかった。だけど、今年のような敗戦処理的な使い方をしても、良くならないと思います。エース、四番、抑え……選手に任された“役割”は、軽視してはいけないと僕は思う。山﨑にはもっと早くミニキャンプでも何でもさせて、いい状態のボールまで戻して、それでまた一軍で投げさせて欲しかった。そこで初めて抑えを三嶋にするのか山﨑にするのか、になる。

――大魔神佐々木投手に、そういう時期はありましたか?

野村  見たことない(笑)。あの人はどんなに調子悪くても抑えてたから。大魔神です、人間じゃない。でも佐々木さんだって実は繊細なんですよ、優しいですし。

――今年は巨人が独走態勢に入り、早々にマジックも点灯しました。巨人とベイスターズを離してしまったものはどんなところにあると思いますか?

野村  采配って表裏一体だと思うんです。今年の原監督は「表」しか出なかった。完全に実力至上主義で、ベテランも若手も関係ない。外国人だろうと平気で外すしなんなら落とす。勝つためならゲレーロにバントさせるのが原監督です。でもそれが強さなんだなと思いました。勝てば官軍ですからね、プロは。

 一方のベイスターズは中途半端なように見えました。先発ピッチャーも140球投げさせたかと思えば、すぐに代えたり。その根拠がわからない。そこでお客さんにまで「なぜなんだ?」という気持ちが芽生える。先ほど「セオリーがない」というお話をしましたが、勝つ確率が高いものがセオリーとして定着するわけで、セオリーじゃないものは奇襲になる。そして奇襲は外れたらとんでもないことになる、そこが表裏一体なんです。今年のラミレス監督は「裏」が目立ってしまった。

 勝負事だから、勝ったり負けたりします。ずっと勝ち続けられるわけはない。ただ今年のベイスターズに限って言えば、負け方が悪すぎる。そこに尽きます。「いや~今日はしょうがねえな」ってお客さんが帰れる試合が何試合あったか。2−0、3−0で勝っていて、8回もマウンドに上がったけどピンチを背負った先発に、ベンチはなにを言うか。「同点までいい、抑えてこい」と言えるのか。そういう野球は正直あまりできなかったように思います。そして今年こうして5割を切ってる現実がある。

――いい選手は揃っているのに、活かしきれてないように感じてしまう。それが負けをさらに「苦く」しているのかもしれません。

野村  負けには必ず理由がある。なぜ勝ち切れなかったのか、1試合1試合立ち止まって考えないといけない。ピッチャー交代も野手の起用も、一貫してるように見えなかったというのが、今年の最大のモヤモヤで、だって選手は力をつけているはずで、そこをしっかり見極めていたら、変わっていたのかもしれない。何よりタフな先発を育てることです。

――野村さん……優勝したいです。

野村  うん……真似をしろなんて決して思いませんが、98年、僕痛み止めを飲みながら投げてたんです。それでも投げたかった。優勝、日本一にはそれくらいの価値があると僕は思いましたし、その後僕はダメになってしまったけど、今もそれに後悔はないんです。時代が変わっても、優勝がもたらすものは変わらないと思います。

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(西澤 千央)

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