「腹には包丁が刺さったまま」ヤマト運輸男女殺傷・筧容疑者(46)前日のケンカ解雇で「包丁と木製バット」を即購入

文春オンライン / 2020年10月9日 17時30分

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規制線が張られた「ヤマト運輸 神戸北鈴蘭台センター」

「ギャー」という悲鳴の後に聞こえたのは、「おまえも殺したる」という怒声だった。

 兵庫県神戸市の山あいにあるヤマト運輸の集配施設「神戸北鈴蘭台センター」。10月6日午前4時すぎに事件は起きた。まだ暗い中、突然押しかけた1人の男が出勤直後のパート社員の女性(47)と男性(60)に次々に襲いかかったのだ。全身十数カ所を包丁で滅多刺しにされた女性はその場で死亡。もみ合いながらも必死に逃げた男性の通報で警察が駆けつけ、男は逮捕された。

 筧真一容疑者(46)。事件前日の5日に2年半働いたこのセンターを解雇されたばかりの男だった。被害に遭った2人とは前日も一緒に働いていたという。

叫び声を上げ、右手に包丁を握りながら向かってきた

「男性は驚いたやろな。叫び声を上げて右手に包丁を握りながら自分に向かってくるのは昨日までの同僚やったんやから。その時は最初の悲鳴を上げた同僚の女性は既に息絶え絶えやったはず。出勤直後に車から降りたところを刺されていて、驚く間もなかったと思う」(捜査関係者)

 筧容疑者は逮捕後、兵庫県警の調べに対し、2人を狙って襲ったことを素直に認めた。

「解雇されて腹が立っていた。あの2人のせいでクビになったと思い、殺すつもりだった」

 そう供述したという。

 いったい事件前日に何があったのか、県警幹部が説明する。

「けんかだ。筧容疑者は以前から勤務態度が悪かったそうだが、5日朝にこの男性から荷物の仕分け作業が雑だと注意され、取っ組み合いになりかけた。殺された女性が仲裁に入ってけんかは止まったが、その際に筧容疑者が振り回した手が女性に当たった。ヤマト側はこれを暴力沙汰と判断し、決定的な理由として即日クビを告げたようだ」

 突然の解雇宣告を受けた筧容疑者は、はらわたが煮えくり返ったのだろう。その日のうちにホームセンターへ行き、包丁2本と木製バット1本を購入した。

女性の腹には包丁が刺さったままだった

「女性の腹には包丁が刺さったままやった。一部の傷は腹から背中に貫通するほど深く、ほぼ即死やったと思う。容疑者は包丁を2本持っとって、男性に向けたんはもう1本の方やな」(冒頭の捜査関係者)

 こうして2人に凶刃は向けられた。だが、そこにはなんともやりきれない「勘違い」があった。実は、殺害された女性は最後まで筧容疑者をかばっていたのだ。事件現場を所管する神戸北警察署の幹部は、

「暴力沙汰をクビの理由にしたいヤマト側は、この女性に警察へ行き被害届を出すよう促した。実際に女性はその日の昼に神戸北警察署へ来て相談もしている」

 と明かす。だが、女性は被害届を出さずに帰ったという。

「『手が当たったのも自分に向けられたわけではない。自分は筧さんとの関係も悪くないから』と。上司には届け出るよう指示されたが気乗りしない様子だった。明らかにかばっていた」

 筧容疑者にしてみれば、警察署に駆け込んだことで、女性も一緒になって自分をクビにしようとしたと思えたのだろうか。真っ先に滅多刺しにしたのが、その女性だったのだ。

 事件当日、女性の遺体が安置された警察署には遺族の姿もあった。

「なんでこんなことに……」

 嗚咽混じりにそうこぼす姿を見て、詰めかけていた記者たちは誰も声をかけられなかった。

 筧容疑者の周囲をたどると、以前から評判は芳しくなかったことが分かる。自宅は勤務先の集配センターから車で5分ほどの団地にある。近隣住民が声をひそめる。

「別の棟で母親と弟と一緒に住んでいたが、2年ほど前に筧容疑者だけ今の部屋に引っ越した。近隣との騒音トラブルと聞いています」

 かつての勤務先で同僚だった男性も「酒は飲まんが気が短かった。辞めたのも会社の敷地内で車の運転をミスって社長に怒鳴られ、キレ返したから」と振り返る。警察関係者によると、過去には警察官相手に手を上げ、公務執行妨害で逮捕されたこともあった。

ヤマト運輸が訳ありの人物を雇わなければならなかった事情

 ヤマト運輸も最終的に手を焼いて解雇を言い渡すことになったのだが、「こうした訳ありの人物を雇わなければならない事情がある」と、ある関西地方のヤマト集配施設関係者は言う。

「コロナ禍で苦境にあえぐ企業が多い中、通販利用増加で業務量は増えています。3年前に従業員への未払い残業代問題発覚後、働き方改革の一環で通販大手アマゾンの荷物取扱量を減らしましたが、人手は慢性的に足りず、特に荷物を仕分けたり配送したりする集配所は猫の手も借りたい状況。雇用するパート社員の経歴や職歴などはほぼノーチェックです」

 筧容疑者はヤマト運輸に勤める傍ら、派遣社員として別の仕事を掛け持ちしていた。朝方にうつむきがちに帰宅する姿を、近隣住民はしばしば目撃していた。

「荷物を普段から雑に扱っていたことを職歴が長い先輩に怒られ、積もる鬱積が弾けたのかもしれん」(別の捜査関係者)

 事件時、筧容疑者は、逃げる男性を車で追いかけながら周囲に積み上がる宅配物や事務所の壁に動かなくなるまで車をガンガンぶつけていたという。

「荷物や車、パソコンを潰すつもりだった」

 逮捕後の調べには、そう会社への恨みをこぼしている。

 10月9日、留置先の神戸北警察署から送検された際、筧容疑者はカメラを構える報道陣に向けて、満面に笑みを浮かべながら左手でピースサインを作ってみせた。反省や後悔を感じぬ狂気の表情だった。彼をかばいながら殺された被害者が、あまりに浮かばれない。

(稲本 千晴/Webオリジナル(特集班))

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