「“ヤバい島”から泳いで逃げた」200万で売られた17歳少女が暮らした「借金返済まで絶対に出られない雑魚寝部屋」

文春オンライン / 2020年10月24日 20時0分

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「売春島」と呼ばれた渡鹿野島(著者提供)

「夕方には女とポン引きだらけでまっすぐ歩けなかった」なぜ寂れた離島が“ヤバい島”になったのか? から続く

「ヤバい島」として長くタブー視されてきた三重県の離島・渡鹿野島。今も公然と売春が行われ“売春島”と呼ばれているこの島の実態に迫ったノンフィクションライター、高木瑞穂氏の著書『 売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ 』(彩図社)が、単行本、文庫版合わせて9万部を超えるベストセラーになっている。

 現地を徹底取材し、夜ごと体を売る女性たち、裏で糸を引く暴力団関係者、往時のにぎわいを知る島民ら、数多の当事者を訪ね歩き、謎に満ちた「現代の桃源郷」の姿を浮かび上がらせたノンフィクションから、一部を抜粋して転載する。

◆ ◆ ◆

“売春島”から泳いで逃げた少女

「『渡鹿野島から泳いで逃げて来ました』という女性から会社に電話があった。『これは凄いネタだ!』と思って、その日のうちに女性の元へと飛んだんだ」

 渡鹿野島とは、三重県志摩市にある小さな有人離島のこと。通称“売春島”から命からがら泳いで逃げて来たという少女にテレビ関係者の知人、青木雅彦(仮名)氏が東海地方の某所に会いに行ったのは、2000年2月のことだった。

 

「会うまでは半信半疑だったけど、聞けば実際に“売春島”で働いたことがないと分からないような話だった。第一印象? 容姿は良かったよ。このコが売春していたら『人気が出るだろう』ってレベルの。でもフツーというよりは、少しヤンキーというか風俗に染まってる感じのコ。彼女は一人でやって来た。最寄り駅で待ち合わせ、雪道を歩いて近場の居酒屋に入ったのを、今でも鮮明に覚えている」

 青木氏が取材した当時、週刊誌の記者やライターによる売春島の体験ルポは流布していたが、こと内部の人間による告白記事は皆無に等しかった。後に少女は雑誌やテレビなど複数の媒体で取材を受けている。単なる謝礼目的じゃない。その特異な体験談を「誰かに聞いてもらいたい」という欲求からだろうと青木氏は懐古する。

 かくいう僕も当時、ある雑誌に掲載されたその特異な体験談に衝撃を受けた一人だった。“泳いで逃げた”という告白は、後にも先にも彼女だけだろう。

 この手の告白は通常、「匿名で」と素性を隠したがるところ、メグミは珍しく「本名で載せてほしい」と懇願したという。果たして海を泳いで逃げるなんてことが可能なのか。そんな誰もが抱く疑念を払拭しようと、メグミが実名に拘ったのは、それほど真実だと訴えたかったということだろう。

大好きだった男にカネと引き換えに売られた

 当時17才だったメグミは、中学生時代から暴走族と付き合いがある、いわゆるヤンキーだった。父親が家を出て行き、母親が新しい男を連れ込み、そしてその男がメグミにまで手を出してきた。そんな壮絶な家庭環境のなか、テレクラ売春や窃盗でカネを作り、クスリの味を覚え、警察のお世話にもなっていたという。グレた青春時代を送っていたようだ。

 そんなおり、17才の春、メグミは武井と出会った。サザンの桑田に似たヤサ男。無職だがタイプな武井に、ひと目で母性本能をくすぐられた。

 一緒にいるだけで安らぎを覚えた武井との青春は、3ヶ月後、激しい憎悪へと変わった。大好きだった男に、カネと引き換えに売られたのだ。

 来る日も来る日も男に買われる日々。追いつめられたメグミは、前述のように、ついに島からの脱出を決行したのである。着の身着のまま旅館を抜け出し、客引きのオッサンの前を平然を装い素通りし、あらかじめ探していた人気のないポイントへ。決死の覚悟で海に飛び込んだのだ。

女将さんから本当の親のような愛情に触れて……

 メグミの告白から想起されるのは、凶暴凶悪なこの島の内情だ。彼氏に騙され、ホストに売られ……魑魅魍魎たちが蠢く実態が浮かび上がる。

 女を口八丁手八丁で島へと誘い、カネと引き換えに売り飛ばす。待っているのは軟禁状態で宴会に駆り出され、オヤジたち相手にカラダを売る日々。借金が終わるまでは島の外には絶対に出られない。

 しかし、幼い頃から親との軋轢に悩まされていたメグミは、女将さんのことを「本当のお母さんのような存在になりつつあった」と言った。島に来て1ヶ月ほど経った8月7日、メグミは18才の誕生日を迎えた。女将さんはショートケーキとプレゼントの指輪で細やかにお祝いしてくれた。友達にも、親にも祝ってもらったことなど久しくなかったのに。単純に嬉しかったメグミは、このときばかりは「ここにいるのも悪くないな」と真剣に考えたという。

 しかも、女将さんから本当の親のような愛情に触れたメグミは、脱走劇を演じたにも拘らず数年後、自ら女将さんに電話をかけ、「メグミちゃん、元気? 最近不景気で困っているのよ。いつでも戻ってきていいから」と再び優しさに触れると、またあの海を「渡ってしまうかもしれない」と思ったと吐露している。

 この告白からは、死ぬ想いをしてまで泳いで逃げた一方、この島で過ごした日々への愛着も捨てきれずにいた複雑な想いが伝わってくる。確かに騙されてこの島に来たが、住めば都ということか。恨み辛みは武井に向けられているだけで、女将さんや“売春島”に対してのものではないのだ。

行商のオバちゃんから買った30万円の“シャネル”

 むろん、先人たちの潜入ルポでは浮かび上がらなかった島の暗部も見えてきた。アメをぶら下げられメグミが抱いた女将への愛情の反面、メグミたちにカラダを売らせるムチの手口だ。青木氏が言う。

「彼女が暮らした旅館の雑魚寝部屋には、彼女の後にも騙されて売られた『外出不許可』のコが何人かやってきた。島の中は自由に出歩けるが、渡し船に乗って対岸の陸地に行くことは許されない。もっとも、島の中では自由といっても、一人で出歩けばすぐに客引きのオジさんたちが声をかけてくる」

 なるほど、常に監視されているようなのである。ヘンな気は起こすなよ、と。

「また時々、行商のオバちゃんが、洋服やバッグを売りに来るらしい。借金が減ると、それを女将が執拗に薦めてくる。本物か、はたまたニセモノか、島では使い道がない30万円もするシャネルのバッグをツケで買うように仕向けられるそう」

 こうして新たな借金を背負わせられる。いつまでもいさせようというハラなのだろうか。

 果たして、1日に何人の客を取れば完済できるのか。終わりなき日常を打開しようと、メグミは、紙に書いて返済額を計算し、目標を持って働くことにしたという。

 しかし、何度計算しても、紙はいつの間にか無くなってしまう。誰かが見つけて捨ててしまうのだった。

しばらくするとサイコロ博打に誘われ、また借金が増える

「旅館の中には宴会部屋、雑魚寝部屋、食堂、客室以外に、入室禁止の部屋があった。女将さんがサイコロを持ってウロウロしているのを見たことがあるらしく、多分、その秘密の部屋で賭博をしていただろう、と。しばらくすればサイコロ博打に誘われ、また借金が増えるような仕組みになっていたらしい」

 そういう青木氏による取材を裏付けるように、この島の置屋は断続的に警察当局により摘発されていた。置屋とは、小さなスナックのような飲み屋を装った売春宿のこと。そして過去の報道記事から見えてきた、その置屋を舞台とした管理売春の実態――。

 その件数の多さからは、公然と春が売られていたことが窺い知れる。(略)

 過去の報道では職業安定法違反、売春防止法違反、入管難民法違反のいずれかで摘発されている。ここから浮かび上がるのは、女を売り飛ばすブローカー、実際に売春させる性風俗店を提供する経営者などが暗躍する、“売春島”の実態だ。

 ブローカーは、家出少女や不法滞在の外国人女性をあの手、この手で見繕い、置屋経営者に引き渡しカネを得る。そして置屋はカネを回収するため女たちにカラダを売らせる。少なからずヤクザが介在していたことからも、この島は暴力団にとって美味しい“シノギ(仕事)”に違いない。前出のメグミも、そんな毒牙にかかった一人なのだろう。

“売春島”をめぐる様々な噂

〈1971年に三重県警警部補が内偵特捜の捜査官として島に潜入し、売春婦の女性と内縁となり諭旨免職される。その後は島でスナック経営者兼売春斡旋者となっていたが、1977年10月に実施された手入れで内妻とともに逮捕されて、売春婦が保護されている。このとき保護された売春婦の大半は家出少女などで、借金付きで送られ売春をさせられていたという。なお、この元警部補は出所後、島でホテル経営などに携わり、島の観光産業の発展に尽力していく〉

 これは、インターネットの世界でまことしやかに囁かれている話だ。検索エンジンに“売春島”と入れて検索すれば、他にも様々な噂が踊っている。

〈島内には名所旧跡などの被写体がないため島内を撮影した写真がほとんどないことや、渡し船の係員が興味本位で島を訪れる男性を防ぐため、宿泊を予約しているかなど確認する〉

〈島のいたるところに売春斡旋所がある。このため警察・報道関係者に対する警戒心はきわめて強く、島全体に入島者に対する情報網が張られているのはもちろん、うかつに写真を撮ることも許されない〉

 これらのオカルトめいた話は、脚色された部分はあるにせよ、決して捏造の類いではなく、過去の事件報道や個人の体験談などに基づき囁かれている。前述の“泳いで逃げた女”の告白も、その元ネタとして伝説化している。

 その最たるものが『伊勢市女性記者行方不明事件』だろう。1998年11月24日、三重県伊勢市の観光情報誌『伊勢志摩』の美人ライター・辻出紀子さん(24、当時)が、勤務先を退社後に行方不明となった。決死の捜索を試みたが、事件は迷宮入り。いまだ彼女は見つかっていない。

そして島民たちは警戒心を強めた

 その地理的理由から“売春島”と失踪事件を関連させ、バックパッカーだった彼女が、失踪前日まで旅行をしていたタイで、この“売春島”への人身売買ルートを知ってしまったとか、彼女がこの島の売春組織をかねてから調べていたために誘拐されたという説を並べる雑誌もあった。

 この時期の“売春島”は、摘発事例からも分かるように、日本人はもちろん、多くのアジア系女性が売春婦として働いていた。そのため辻出さんとの関連を面白おかしく並べたてたのだろう。ちなみに当時は、彼女が最後に会った男性による犯行説と、北朝鮮による“拉致説”が有力視されていた。

 こうした噂話の数々に、前述した数多の事件報道が事実となって重なり、この島は“売春島”と呼ばれ、“タブーな桃源郷”になった。僕のような取材者はもちろん、興味本位で訪れる好事家たちが体験談を持ち帰り、それを雑誌やブログで流布することで都市伝説化した。

“ヤバい島”だと書き立てられることが多く、島民たちはそれを不服として警戒心を強めた。その警戒心は、さらに訪れる者たちの脳裏に禁断というイメージを植え付けた。

( #5 へ続く)


 10月24日(土)21時から放送の「 文春オンラインTV 」では、『売春島』著者の高木瑞穂氏が本書について詳しく解説する。

「女をナンパして、惚れさせて、身包みを剥いで……」ヤクザが語った三重県に実在する“ヤバい島”で荒稼ぎする方法 へ続く

(高木 瑞穂/Webオリジナル(特集班))

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