「女をナンパして、惚れさせて、身包みを剥いで……」ヤクザが語った三重県に実在する“ヤバい島”で荒稼ぎする方法

文春オンライン / 2020年10月24日 20時0分

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小型船に乗って3分ほどで“売春島”に着く(筆者提供)

「“ヤバい島”から泳いで逃げた」200万で売られた17歳少女が暮らした「借金返済まで絶対に出られない雑魚寝部屋」 から続く

「ヤバい島」として長くタブー視されてきた三重県の離島・渡鹿野島。今も公然と売春が行われ“売春島”と呼ばれているこの島の実態に迫ったノンフィクションライター、高木瑞穂氏の著書『 売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ 』(彩図社)が、単行本、文庫版合わせて9万部を超えるベストセラーになっている。

 現地を徹底取材し、夜ごと体を売る女性たち、裏で糸を引く暴力団関係者、往時のにぎわいを知る島民ら、数多の当事者を訪ね歩き、謎に満ちた「現代の桃源郷」の姿を浮かび上がらせたノンフィクションから、一部を抜粋して転載する。

◆ ◆ ◆

稼業の人間の専売特許になっていた

「Xさん、だから今日はその逮捕された経緯なども詳しく聞かせてほしいのです。その前に、まず、Xさんが島に入れた30人以上の女は、すべて一人で入れたのですか」

「ぜんぶ、俺。もちろん若い衆にも手伝わせたけど、スカウトとか紹介とかは一切使ってない。手口? 簡単に言えば、“色管理”かな。ナンパして、惚れさせて『俺のために働いてくれ』と諭して。

 ほとんどは家出少女、というか家出をさせたコだね。まあハタチ超えてたら家を出させてもいいでしょう」

「あの島はヤクザが絡んでいるし、逃げたりしたら後処理ができないから基本、スカウトは関わらない、と聞いています」

「そうだと思うわ。だから俺らのような稼業(ヤクザ)の人間の専売特許になっていたと思うわ。当時は島が潤っていたから、バンス(前借り金)を200万出して、たとえ逃げても問題にならなかった。女のコも稼げるし、店もそれ以上に稼げたから。

 また島から出るにも、島で長く売春婦をしているチーママ的な女のコの付き添いが必要だった。俺が送り込んだクミ(仮名)という女がいて、そのクミが1年ほど働きチーママになった。クミの株が上がることで、俺にも信用ができて、置屋に直接オンナを入れられるようになった。当初は兄貴分を通してたんだけど、バンスを何割か抜かれたりしたので、お礼の意味で1割は渡したにせよ、そういう思考になったんだ。

 稼いだカネ? 億はいってないくらいだね。俺は当時、1人200万と計算していた。それが30人以上だから、7000万ほど。後は働いて貯めたお金を振り込ませたり、働くなかから再バンスでさらに200万、用意させて。クミとか長く(半年以上)働いていた2~3人は、まだ完済してなくても追加で前借り(バンス)できたんだ。多分、50万を切るとまた前借りさせてくれるシステムだったと思う」

「俺が入れた19才は見つかり未遂に終わった」

 僕は“泳いで逃げた女”、メグミの告白が掲載された雑誌のコピーを取り出し、Xの前のテーブルに開いて見せた。

「ここには1995年当時、17才だった少女による脱走劇が書かれています。Xさんは前回、泳いで逃げたが水際で捕まえて未遂に終わった女がいると言っていました」

 Xは黙ってそれを手に取ると、冷たい目を落とし読み始めた。メグミは、残り50万の借金を残して逃げた。その顛末が書かれた個所を指差し、男は言う。

「だからこの17才が50万を残して逃げたのは分からんでもないよ。入れた男からもう200万のバンスの話をされ、それで逃げたのなら。この17才も言っているけど、必死で働いて150万返して自由になろうとしているのに、また振り出しに戻されようとしたら、それは誰でも自暴自棄になるよね。完済すれば当然、自由の身。島を出てもいいし、そのまま残って自分のために稼ぐこともできる。そんな未来が見えなくなったわけだから。

 でも、あの距離を泳ぐとなったら大変だよ。仮に泳げたとしても、陸に上がるには絶壁を登らないかん。誰かに引っ張ってもらわないと大人の男でも無理だと思う。船着き場の一部が浅瀬になっていて、そこからなら可能性はある。逃げるとしたらそこからしかない。

 俺が入れた19才がそこで見つかり未遂に終わったように、島の住民らもそのことを分かっている。だからかその逃走ルートには必ず見張りの男がいる。その場所から陸に上がろうとしてる女がいる時点で島に連絡が入り、『じゃあ捕まえて』ということになるから。

見張り役は渡し船の船頭

 見張り役は渡し船の船頭さん。渡鹿野島に渡るには、この渡し船に乗るしかない。渡し船は3隻あり、約3分間隔で常に往来している。そのため、営業していない深夜や早朝なら別だが、朝から日付が変わる頃まで監視の目が届かなくなることは絶対にない。

 だから俺が入れた19才は未遂に終わった。女が島で働いて2ヶ月後のこと、『陸の手前で捕まえたよ』と、クミからの電話で発覚した。それで『どうする? ママは200万返してくれればその女のコ返すって言っているよ』と、クミから相談されたことがあったんだ。俺は『そのまま働かせて』と、話を終わらせた。冷たいようだけど、当時の俺はカネしか見てなかったから」

 クミの名前を出す際のXは、申し訳なかったという感情と、それでいて女をダシにした金満生活がいまでも忘れられないような思いが交錯した複雑な表情をしていた。

「地元の同級生だったクミは、昔から俺に惚れていた。俺には嫁がいたんだけど、それでも惚れていたクミを随分利用させてもらった。俺が『100万用意してくれ』と言えば、サラ金で借りてでも必ず用意する女だった。高級車も貢がせたし、現金も3000万ほど引っ張った。

 多重債務に陥ったクミには、もう借りるアテはなかった。それで冗談半分で『実家がある』と言ったら、親を説得し、家を担保に1500万作ってきた。それをも使い切った俺は、『悪いけど、頼む』と1995年頃に売春島に送り込んだ。最初は泣いていたが、そのまま実家に荷物を取りに行き、その足で渡鹿野島に向かった」

 

 オンナの身包みを剥いだ。Xは続けた。

「頭には、カネと愛する嫁のことしかなかった。自分と、自分の嫁に良い生活をさせるためには他の女を泣かせても……だから、お前ら身を削れ。それが無理なら、いらん。クミしかり、他の女とも一切、仕事と割り切り肉体関係は持たなかった。ほら、情が湧くのが嫌だったから。ちなみにそのクミも、数年前、病気で亡くなった」

 そうやるせなさを吐露したXは、「ハッキリ言うけど、男の口車に乗せられて売春島に流された女は俺の知る限りみんな、どこかヌケてるよ」と自嘲気味にこぼした。

欲を掻いて「19の女」を島からソープへ

「いまでも後悔している。祭りでナンパした別の19才の女だった。とりあえず1回、バンスの200万円をもらった。欲を掻き、さらにもう1回バンスをもらうため、クミに『悪いけど19才を連れて島を出てくれ。女を逃がすから』と電話した。しばらく身を隠させ、また違うコとして島に送り込みバンスをもらう算段だった。

 クミは当初、『私の責任になるから』と断っていた。女が逃げたら結果、チーママの管理不行き届きになるし、ひいてはその支払ったバンス分を背負わなきゃいけないしきたりだから。それでも『もう200万、必要だから』と諭し、上手いこと賢島の商店街まで連れ出し、そこで俺の若い衆に車に拾わせ逃げてきた」

「それで、女をソープで働かせていた潜伏期間中にその19才が警察に駆け込み、Xさんは逮捕されたんですね」

 Xは少し早口になった。過去の記憶が鮮明になったかのごとく。

「そう。『渡鹿野島の方が待遇が良かった』と、警察に駆け込まれた。女は警察に『渡鹿野島に返してくれ』と助けを求めたらしいんだ。

 女は、家庭が崩壊していて家出状態だった。それで俺の別宅に転がり込んで来て、そこには若い衆もいたから自然と男女の関係になるわけ。それが嫌だった女から『どこかに連れてって欲しい』と相談された俺は、一旦、実家に帰らせることにした。

 俺は、親に娘の現状を正直に話した。でも両親は『もう要らん』と見放したんだ。それで俺は『もう“売春島”しかないな』と言った。すると女は『そこでいい』と言ったんだ。

 親に見放され、帰る場所がなかった女にとって“売春島”は実家暮らしより居心地が良かったらしい。置屋のママが母親代わりに施してくれていたんじゃないかな。

 そこから俺の転落が始まるんだ。俺は一旦逃がして、中継ぎでソープで働かせ、バンスの二重取りを企てた。しかし、これは警察に聞いた話だけど、その晩、俺の若い衆が女を無理矢理やってしまい、それが嫌で警察に泣きついた。

 カネに目が眩み、当時は感覚が麻痺していた。だからそんな悪事を働いてしまったんだ」

 逮捕の引き金を引いたのは自分自身だった。俺に相談してくれれば捕まることはなかった、ケータイでも持たせておけばと後悔しているという。

 逮捕後はどうなったのか。

「同時にホテルの女将と置屋のママも捕まった。

 捜査の焦点は金銭の授受だった。仮に置屋のママが『渡した』と自白したとしても、俺はお金を『もらってない』とシラを切り続けた。2人だけしか容疑者がおらず、そこで意見の相違があればパイになったかもしれない。でも、そこにホテルの女将が加われば、1対2の構図になる。

 結果、置屋のママとホテルの女将は起訴されず、俺だけ実刑になった。つまり俺に、責任をなすりつけたんだと思う。俺は弁護士との話で、有害業務の斡旋については、10年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金と知り、100万円以下の罰金で済むと思っていた。俺は現役ヤクザで、警察にとっては大きな手柄。だからハメられたんだと思っている」

金が無くなれば「おい、ちょっと200万ほど振り込んで」

 Xが売春島に関わっていたのは、こうして逮捕されるまでの2年弱。塀のなかでの生活と引き換えに、億に迫るカネを手にした。

「繰り返すけど、稼ぎの半分は女のコの取り分になる決まり。でも当時、女のコが店からもらえたのは2~3000円だったと思うよ。で、俺は、そんなわずかなカネも貯めさせ、ある程度貯まったところで送金させていた。俺は酷い男で、女のコらには可哀想なことしたと謝罪の気持ちもあるんだけど、そうして根こそぎ奪っていた」

 カネは、クミがチーママになった以降、彼女がみんなの分を預かり、Xの本妻の通帳に振り込ませていたという。最盛期には、ホテルのスイートルームに泊まりっぱなし。金が無くなれば「おい、ちょっと200万ほど振り込んでくれ」と、電話一本。派手な生活だったと、Xは当時のバブルを懐かしむ。

「そこには多くの犠牲者がいた……」

 男は、こちらが話し終らないうちに、それを遮るように言葉を被せた。犠牲者という表現だけは違うとばかりに。

「あのね、置屋は管理売春で捕まっているけど、別に俺は『管理してね』とか『無理矢理売春させてくれ』とか言って島に女を送っていたわけじゃないんだ。単にカネが欲しかっただけで。だから『逃げたら責任取ります』なんて話はまったくしない。そこまで責任負えないから。あくまで俺は、『女を紹介するから200万円のバンスをさせてくれ』と交渉しているだけだから。

 つまり女を送った後はもう、全ては置屋の責任だと思っている。女が200万円の前借りをして、俺はその女から200万円をもらっていた。店から直接、カネはもらってない。

 だから俺は裁判で争った。それなら有害業務の斡旋には当たらないでしょう、と。

 当初は警察も納得してくれていた。でも後に置屋のババアが『直接渡したことがある』と、余計なことを言ったから起訴されたんだ」

「そこには裏取引があったと思っているのですね」

「そう。管理売春での起訴を逃れるために俺を売ったと思っている。結果、ババアと女将は不起訴になっているからね」

ハッキリした1990年代後半の姿

 その裏取引の真相は別にして、ここまでの取材でハッキリしたことがある。

 それは、売春島には、ヤクザが何らかのカタチで関与していたことだ。女を調達するXのようなブローカー、それを取りまとめる中継役のA組姐さん、実務担当の置屋やホテル。これが一つの線で繋がり、売春で荒稼ぎしていた――。

 少なくともXや、元闇金たちが関わっていた1990年代後半は。

 だが、まだまだ島の全貌にはほど遠い。いつから売春が始まったのか。どうして暴力団組織が関わるようになったのか。はたまた置屋やホテル経営者の素性とは……さらに、当局との裏取引があるような関係だったのか。だからこの島は“治外法権”だと言われているのか。

 それを紐解くためには、まだまだ関係者にあたる必要がある。もちろんA組の姐さんにも接触してみたい。

( #6 へ続く)


​ 10月24日(土)21時から放送の「 文春オンラインTV 」では、『売春島』著者の高木瑞穂氏が本書について詳しく解説する。

「ふたたび女将が僕の部屋をノックした」女性たちが性を売る三重県にある“ヤバい島”に突撃取材 へ続く

(高木 瑞穂/Webオリジナル(特集班))

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