菅政権は憲法改正で“安倍越え”を 「キングメーカー」二階が秘密会合で語った2つのこと
文春オンライン / 2020年11月6日 11時0分

二階俊博幹事長 ©文藝春秋
まさにキングメーカーの面目躍如の一夜だった。
「その日はまさに、新体制における野望を示す会でした。会合の音頭を取ったのは二階俊博幹事長(81)。彼の鶴の一声で、自民党の重鎮クラスが続々と集まったのですからまさに壮観でした」
こう語るのはある自民党関係者だ。
10月29日、築地の料亭である極秘会合が開催された。
同日19時30分、路地裏に位置する料亭「治作」の前に続々と黒塗りの車が集結していた。降り立ったのは極秘会合を招集した二階氏を始め、岸田文雄前政調会長(63)、細田博之元官房長官(76)、竹下亘元総務会長(74)、森山裕国対委員長(75)、山本有二元農水相(68)、中谷元元防衛相(63)、森英介元法務相(72)、衛藤征士郎(79)等の大物政治家たちだった。
岸田派、細田派、竹下派は派閥の領袖が参加し、麻生派の森氏、石原派の森山氏、谷垣グループの中谷氏、そして石破茂会長が退任した石破派からは山本氏がと、それぞれの派閥の重鎮が名代として参加した。事実上、各派閥が総結集した一夜となったのである。
秘密会合で話し合われた2つのこと
二階氏が招集をかけた理由は何か。前出・自民党関係者が解説する。
「この会の発案者は自民党の憲法改正推進本部長を務める衛藤征士郎衆議院議員です。菅政権で“憲法改正”をどうするかをテーマに党内で話し合いたいと進言したといいます。『自民党として憲法改正原案を取りまとめるのが私たちの仕事である。菅総裁も「挙党態勢で取り組んでほしい」と言っている』と衛藤氏は熱く語り、二階氏も『よし、わかった』と快諾した。そして幹事長の鶴の一声で全派閥に招集をかけたのです。 会では竹下氏、岸田氏が乾杯の音頭をとり、熱い議論が交わされた。
会合は関係者だけの極秘裏に行われ、政治部記者も会合の存在を知らなかったそうです」
関係者への取材を総合すると、会合で話し合われたことは主に2つ。
1つは年内に「憲法改正案」を党でまとめること。もう1つは「国民投票法改正案」を年内国会に提出し成立を目指すこと。他にも北朝鮮問題などが討議されたという。
会合から見えた菅政権の野心
この会合で話された内容にこそ、菅政権の野心が透けて見えると語るのは、菅政権に詳しいある政治ジャーナリストだ。
「菅政権の最大の後ろ盾となっているのが二階氏であることは衆目の一致するところです。実は二人には政治家として大きな弱点があると、これまでは囁かれて来ました。
菅氏は実務肌とこそ評価されますがイデオロギー色が薄く、二階氏は媚中派と揶揄されるほど現実主義的です。つまり二人とも“政治信条”に欠けてると見られてきたのです。そこで憲法改正に着手することで、政治家として評価を高めたいという野心があるのではないかと、見ることが出来るのです」
国内外で安倍政権の後継と見られている菅政権だが、水面下では脱安倍の動きも見られているという。その象徴の1つが安倍政権に大きな影響力を行使してきた今井秘書官からその実権を取り上げ、官邸内の権力構造を変えたことだ。
「いま、官邸内で最も力があるとされているのが和泉洋人首相補佐官(76年、建設省、東大工)です。和泉氏は補佐官ながら、安倍政権でも地位を築いていた北村滋国家安全保障局長(80年、警察庁、東大法)より今や格上になった。
菅政権は和泉氏、そして菅首相の一本釣りによって共同通信から転じた柿崎明二首相補佐官が権力を握り始めている。今後、和泉・柿崎という補佐官コンビにより官邸は仕切られていくだろうという見方が強まっています」(政治部デスク)
“岩盤支持層”は現政権に対して冷ややか
菅首相が官房長官として仕えてきた安倍政権は戦後最長という長期政権だった。安倍氏の人気を下支えしてきたのが、“岩盤支持層”といわれる右派の人たちである。憲法改正を旗印に掲げるなどイデオロギー色を前面に押し出してきた安倍氏に比べ、菅首相は思想性が薄く実務派というイメージが強い。こうした印象からか安倍氏を支持してきた右派勢力は、実は現政権に対して冷ややかであるとされている。
10月26日に行われた所信表明演説でも、菅首相は憲法改正に関しては「各党が建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待する」と述べるにとどめた。これは安倍氏が今年1月の施政方針演説で「未来に向かってどのような国を目指すのか、案を示すのは国会議員の責任だ」と訴えたのと比べ淡泊だと、主要メディアで報道された。
だが、表面上の動きだけで菅首相を測ることは出来ない。自民党総裁選まで自らの権力欲を一切出さなかったように、菅氏は野心の為に本心を隠せる政治家なのである。
菅首相が前任者を超えるためには、安倍政権を超える“何か”が必要となる。その最大の一手となるのが、安倍首相が成し得なかった「憲法改正」なのである。
党内で燻っていた不満
じつは党内には憲法改正に対する不満が燻っていたと語るのは、別の自民党関係者である。
「安倍政権は常に憲法改正を旗印として掲げていましたが、在任のあいだについぞ発議すら出来なかった。“一強”として君臨した安倍首相が憲法改正に着手しなかったことについては、党内の改憲派からは失望の声があがっていた。安倍氏は憲法改正によって世論の批判を浴びる可能性を恐れ、支持率を下げたくないがために着手しなかったのではないか。つまり、憲法改正より政権延命を優先したのではないかという不満が燻っていたのです」
「現行憲法の自主的改正」は自民党結党以来の党是である。だからこそ、党内の改憲派内では、安倍氏が憲法改正への道筋も作れなかったことへの不満が蓄積していたのだ。
そうした状況下で二階幹事長は全派閥を招集し、憲法改正を議題とする極秘会合を催した。これは菅政権下で憲法改正を実現させたいという強い意思表示だと思われる。
「菅首相と二階幹事長は一蓮托生の間柄であり、菅氏を無視して全派閥に招集をかけるとは考えにくい。だから極秘会合も官邸との連携のもとに行われていると考えていい。
憲法改正を成し遂げれば彼らの評価は一変する。そして“憲法改正”という実利のために、手練手管を使えるのも彼らの共通点です」(前出・政治ジャーナリスト)
つまり菅・二階は結託して憲法改正を成し遂げようとしているというのだ。
野党が妥協の可能性も
前出・政治部デスクが解説する。
「安倍政権下での憲法改正については、野党側が常に強く反発しており『在任中は改憲論に応じない』という姿勢を貫いていました。だが安倍氏の退任によって潮目は変わりつつある。実は野党内にも改憲論者は多い。いまの雰囲気を見ていると、野党内にも菅政権が改憲に動きだすことを期待していると見ることも出来る流れがあります」
すなわち菅政権の出方次第によっては野党側に妥協の余地が生まれる可能性は高いということなのだ。
退任した安倍氏も先日、「憲法改正をはじめやり残した仕事がある。一議員として課題に取り組みたい」と語っており菅政権での改憲に反対する理由はない。前任者からのお墨付きも得ただけではなく、更に二階氏によって自民党内の意思確認も進められている。外堀を埋めながら本丸を攻めるのが菅流だとすれば、来るべき日への環境整備は着々と進められているといえるだろう。
極秘会合で露わになった菅・二階コンビによる“憲法改正”への動き。果たして菅政権の安倍政権越えを果たそうという野心は、実現するのだろうか。
(赤石 晋一郎)
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