《アメリカ新政権4つの疑問》バイデンは「中国が尖閣に侵入したら米軍を動かすのか?」

文春オンライン / 2020年11月10日 6時0分

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投票日翌日の11月4日、演説するためにマスクを外すバイデン前副大統領 ©️getty

《バイデンのアキレス腱》コカイン使用の「溺愛次男」に中国支援ファンド在籍の過去 から続く

 異例の展開を見せたアメリカ大統領選。トランプ大統領との激戦の末、民主党のバイデン前副大統領の当選が確実となった。

 では、バイデン政権が誕生すると、アメリカの外交や経済政策はどう変わるのか? 日本にはどのような影響を及ぼすのか? 分断するアメリカの現状を解き明かした著書『 隠れトランプのアメリカ 』(扶桑社)の著者、東洋大学教授の横江公美氏が読み解く。

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Q1 バイデン政権誕生で、アメリカの外交政策は180度変わるのか?

 バイデンの公約集には、外交の文字も安全保障の文字もない。徹底してアメリカ国内の課題解決に絞り込んでいる。その分、バイデン政権の外交方針は見えにくいかも知れない。

 公約集の中で唯一、外交政策に関するのは「アメリカが失ったモラルを取り戻して21世紀にあったリーダーシップをとる」と題したページだ。「条件が揃えばイランとの核合意に戻る」「北朝鮮とは中国と協力して非核化に努める」とある。

 バイデンの公約ページにはさまざまなリンクが貼られている。外交・安保に関するページを探してたどり着いた論文「なぜ再びアメリカのリーダーシップが必要なのか――トランプ後のアメリカの外交政策を救済する」(「Foreign Affairs」)を読むと、バイデンの外交政策は、「米ソ冷戦時代」と「トランプ時代」が、ない交ぜになっているように感じられる。

 最大の敵はロシアであり、トランプが不要論を唱えたNATOをアメリカの国家安全保障の中心に据えて、世界秩序の維持に努めると説く。このほか、国務省を通じた外交を取り戻し、「圧力」よりも「対話と協調」を持って北朝鮮や中国との関係改善を図るという。1990年代のクリントン政権の外交政策とよく似ている印象だ。

 しかし、トランプ外交に通じる面もある。「経済安全保障がアメリカの安全保障である」という姿勢だ。そして、ブロードバンドや高速道路、鉄道などのインフラを充実させ、クリーン・エネルギーや量子コンピューター、AI、5G通信技術などの先端技術分野で中国に先行すると強調している。

Q2 バイデン政権は中国寄りになるのか?

 先に紹介した論文には、中国に対しては知的財産を奪われ続ける現状について警鐘を鳴らし、中国の政治弾圧や人権侵害に対して、同盟国と共に解決にあたるという記述もある。

 しかし、トランプと比べると中国に対するトーンの弱さは明らかだ。

 2016年大統領選挙で表面化したロシアゲート事件を踏まえて、ロシアのほうを明確に敵として認定している。中国の共産党一党独裁体制には触れていないにもかかわらず、プーチン政権の権威主義体制には批判的なのだ。冷戦時代の外交政策を見ているかのようである。

 中国がアメリカを超えて覇権を握ろうとしていることを認識しており、バイデンもオバマ時代とは異なることを認めている。だが、バイデンの外交政策の中心はヨーロッパであり、中国に対しては関係を深め、アメリカ型民主主義を浸透させることで新たな関係構築が可能だというポスト冷戦時代の考えだ。中国がまだ経済成長を遂げる以前の楽観主義である。

Q3 日本についてはどう考えているのか?

 冒頭に挙げた公約集で、日本に関する記述は1か所だけ。

「日本、韓国、オーストラリア、その他のアジアの民主主義国との同盟関係を強化し、イスラエルの安全保障への鉄壁のコミットメントを維持する」

 同盟国の1つとして、日本の名前が列挙されたにすぎない。

 以前から、アメリカの政権が変わるたびに「中国が尖閣諸島に侵入したら日米安保は発動されますか?」と、日米関係者は確認していた。バイデンの外交政策を読み進めると、バイデン政権下では「我が国の施政の下にある領域への武力攻撃に対して日米が共同で対処する」と定めた日米安保条約5条が着実に発動されるのか不安が残る。

 ポスト冷戦時代の民主党政権は徹底して対中投資を増やした。中国の市場を重視すぎるあまり、「ジャパン・パッシング」が進んだ。バイデン政権は、その時代に戻る可能性がある。雇用重視の姿勢はトランプと同じであるが、対中関係の構築には楽観的であるため、日本の領土問題にコミットしない可能性を想定しておくべきだろう。

 共和党系と異なり、民主党系の北朝鮮に対する関心は薄いため、アメリカの協力を得ての拉致交渉も望めない。バイデン政権が誕生すれば、日本の外交政策は大転換を余儀なくされると考えられる。

 ただし、バイデン政権にはオバマ政権を支えた知日派の専門家も多く起用されると考えられるため、政府高官レベルでの連携は取りやすくなるという利点はある。

Q4 経済政策において、トランプ政権との違いは?

 バイデンは「Buy American」の主張に合わせて、アメリカ製品の購入を促進するために4000億ドルの予算を投入すると公約に掲げている。

 また、上院議員時代、「雇用の海外流出に繋がる」と批判を浴びたNAFTAを支持した反省もあってか、アメリカ製の素材やサービス、研究・技術開発にも3000億ドルの予算を投じる構えだ。

 その財源として、トランプ減税で引き下げられた法人税は21%から28%に引き上げ、個人の所得税の最高税率も引き上げ、アマゾンやアップルなどへの大企業への課税を強化するとしている。

 トランプは富裕層や企業に対する税制優遇で雇用の維持と賃金アップを促進するという姿勢だったのに対し、バイデンは富裕層や企業への増税により低所得者や中間層への再分配を目指しているのだ。

 さらにバイデンは、グリーン・エネルギーやヘルスケア、介護、教育分野への投資推進を目指している。トランプが離脱を決定したパリ協定への即時復帰を明言している。

 トランプが保護貿易主義だったのに対し、バイデンは関税引き上げの弊害を批判してきた。保護貿易ではなく、外国との貿易を促進することでアメリカ国内の雇用を増やすとしているのだ。とはいえ、中国主導でなく、アメリカがリーダーシップを発揮して国際ルールづくりを進めることで、それを実現するというスタンスとなるだろう。

 アメリカの労働者の仕事が確保できないままであれば、新しい貿易協定に合意しないと強調している。これは、オバマ政権時代に交渉を進めたTPPへの参加を指していると考えられる。

 総合して見ると、経済政策ではアプローチの仕方と資金の投入先はトランプ政権と異なるが、雇用創出、所得の引き上げ、国内生産の促進、中国依存の脱却などの共通点がある。

※本稿は横江公美氏の著書『 隠れトランプのアメリカ 』を再編集したものです。

(横江 公美/Webオリジナル(特集班))

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