“原型を留めない”ほどボッコボコの殴打で殺害…60代女性と同居の29歳男性、ゆがんだ関係の悲惨な顛末

文春オンライン / 2020年12月1日 17時0分

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被害者が殺害された札幌市のアパート ©遠野万芸

「顔の形が変わるほど殴られた」

 2020年10月28日の午後9時過ぎ、札幌市中央区のアパートで60代の女性が男に殴打され死亡した事件が起こった。

 報道によると、被害者の女性は顔の形が変わってしまうほど何度も殴られた形跡があったという。

 まさに常軌を逸した事件である。

 殺人未遂の容疑で逮捕された男の名は森晃生(もり こうせい)。年齢は29歳で、被害者とは血のつながりもなかったが、「同居人」としてこれまで一緒に暮らしていた。

 しかし森と被害者の女性の関係がみえてこない。

 そしてなぜ彼は、今回の凶行に及んでしまったのだろうか?

 森晃生の人となりや、彼を取り巻いていた環境に目を向けていくと、今回の事件を単純に“恐ろしい事件”として捨て置くことができないことがわかってきた。

事件直後に送られてきたメール

「森君からメールが来たのは、おそらく事件の直後でした」

 そう言ったのは、NPO法人オーエスフォワードの関係者だ。この団体は、ホームレス、心に病をかかえた人、刑務所から出たばかりで行くあてのない人、悪質な“貧困ビジネス”で苦しんでいる人たちを保護し、住宅を提供するなどして積極的に生活支援をしている。現在の受け入れは約170名にものぼるという。

 実は森晃生も、以前オーエスフォワードの支援を受け、暮らしていたことがあった。そして取材に応じてくれた職員のC氏は、森から厚い信頼を寄せられており、被害者の女性と同居を始めてからも頻繁に連絡を取り合っていたという。

 森が逮捕されたその日の夜もメールが届いた。いわく、同居人と喧嘩をしてしまった――と。

「森君から連絡が来たときは、すでに何もかも手遅れだったのかもしれません」

 C氏がメールを受けたとき、いつものように森晃生をなだめた。いささか興奮気味だったように思えたが、別段気になる様子はなかったという。しかしそれから間もなく、警察から一報を受け、森が取り返しのつかない過ちを起こしていたと知るのだった。

 ついにやってしまったか――森をよく知るC氏らが、“いつか起こり得るかもしれない”と思っていた最悪な事態が現実となってしまった。

「1ヵ月ごとに人格が豹変するんです」

 話によると森晃生は、普段はとても温厚で、人あたりもよく、親しみやすい人物だったようだ。風貌はいわゆるジャニーズ系なのだとか。しかし彼が“普通ではない”のは、1ヵ月ごとにまるで別人のように性格が一変してしまうことだった。

「なぜか森君は、偶数の月になると手がつけられないほど凶暴な性格に変わってしまうんです。それがどうしてなのかは、誰にもわかりません」

 森晃生とC氏が初めて出会ったのは、2018年7月。どこにも行くあてのなかった森を預かってはくれないかと頼まれたのがきっかけだった。当時の森は、付き合っていた女性を喧嘩の末に殴り、傷害事件として執行猶予がついていたのだ。

 調べてみると、経歴はすでに“傷だらけ”。数々の前科があり、少年院にいた過去もあった。世間一般的には「札付きのワル」ともいえるかもしれないが、やはりそこには、彼が持っている生来の精神的な異常性が深く関わっているのだろう。

 しかし自身の“普通ではない”部分についてはほとんど自覚がなかった。オーエスフォワードに保護されていた頃からずっと、彼は“普通の生活”に強い執着をみせていたという。

「森君が今回の事件の被害者と出会ったのは、今年の8月のことでした」

 悲劇は、森晃生がその女性と一緒に暮らしたいと言い出したときに始まった。

「2人暮らしは絶対にやめておけと再三にわたって忠告しました」

 森晃生に殺害された被害者。ひょんなことから知り合った2人は意気投合。やがて森は、Iさんの家に住むことで、オーエスフォワードから“自立”できると考えたようだ。

 しかし、彼のことをよく知るC氏らは、けっして首を縦に振らなかった。

「森君から自立したいという話を聞いたとき、“いつか絶対になにかをやらかす”と確信していました。偶数月は非常に精神が不安定になるので、どうしても彼をわたしたちの目にみえるところに置いておきたかった。だからなんとか説得して2人暮らしをやめるように言ったんです。森君をよく知るケースワーカーや保護観察所の方も、総出で説得を試みましたが…」

起こってしまった悲劇

 結局森と60代の女性は、周囲の助言や忠告を聞かず、なかば飛び出すように2人暮らしを始めた。

「彼らも一人の人間ですから、最終的にわたしたちは、2人の考えを尊重するしかなかったんです。オーエスフォワードのもとを離れる以上、森君たちとは“他人”になってしまう。でもわたしたちには、“最後まで面倒をみる”、“けっして見捨てない”という信念がありましたので、その後も彼とは頻繁に連絡を取り合うようにしていました」

 そして悲劇は起きてしまった。C氏の携帯電話に、森からのメールが届いた。

「Iさんとケンカしちゃった」

 凶行は懸念していたとおり、偶数月の10月28日。本人の証言によると、森はその夜、Iさんと金銭をめぐるトラブルで言い合いになったのだという。もしもあと2日、何事もなく過ぎていたら――そう思うと、残念でならない。

 C氏は重い口を開いた。

「森君のような心に病を持つ人たちは日本中にたくさんいる。でもそれが問題なんじゃない。まずいのは、彼らがどこにも行くあてがないということ。その事実があるかぎり、今回のような悲劇はいつどこでも起こり得るんです」

まるでババ抜きのジョーカーのように扱われる

 森晃生の経歴を知れば、彼が一般社会で人並みに暮らすことが難しいと誰しもが思うことだろう。

「森君は、はた目には“普通のやつ”に見えるんです。しゃべるし、笑うし、会話もできる。だからこそ、彼が問題行動を起こしたときには、いわゆる“不良”だとか“暴力男”みたいなレッテルで周囲の人間から距離を置かれてしまう」

 2019年に話題となった『ケーキの切れない非行少年たち』では、健常者として認められるIQをギリギリ上回る子どもたちが日本に数多く存在し、彼らが社会でさまざまな“生きにくさ”を感じて非行に走る現状を主張していた。

 C氏によると、まさに森晃生は、“IQをギリギリ上回る”――あるいは下回る――可能性のある人物だったという。

どこにも居場所がなかった

 では、そんな森は一体どこに身をおけばよかったのだろうか? やはり考えられるのは、精神科病棟や何らかの支援施設だ。しかし森には、もはやどこにも居場所がなかった。

「実際に病院の紹介状をみたことがあるんですが、そこには森君を“受け入れないほうがいい”ということがはっきりと書かれていました」

 実は森は、精神科病棟のほうでは“手がつけられない患者”として烙印が押されており、C氏が出会った当時から、すでに彼は受け入れてもらう病棟を見つけることができない状態だったという。

「心に病を抱えている人たちは、最後には病院や施設にも見放され、どこにも行くあてがなくなって、お金もなくなり、最後には犯罪を起こしてしまうんです」

 耳を疑いたくなる悲惨な事件は後を絶たない。そして、常軌を逸した残虐な事件の加害者を理解しようと歩み寄ろうとする者はけっして多くはない。加害者の気持ちはとうてい“理解できない”と考えてしまうからだろうか。しかし、一方で“理解できない異常者たち”を受け入れる場所がないという面も忘れてはならない。
 

(遠野 万芸)

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