NHK杯で再燃したフィギュア界の根深い確執「羽生結弦ファンvs.高橋大輔ファン」抗争

文春オンライン / 2020年12月5日 17時0分

写真

NHK杯に出場した高橋大輔・村元哉中カップル©GettyImages

 11月27・28日に大阪で行われたフィギュアスケートのNHK杯。リンクの外では思いがけない熱戦が繰り広げられていた。

 国際大会の1つだが、今シーズンはコロナ禍の影響で開催国の選手あるいはその国を拠点とする選手しか出場できなくなったことで、海外からの参加はシングルでは女子のユ・ヨンのみとなった。

 国内の選手が多い大会で例年以上に友好的なムードになるかと思いきや、険悪ムードを隠さない2つのファングループがあった。

 羽生結弦(25)ファンと、高橋大輔(34)ファンである。

 高橋は村元哉中をパートナーとして今シーズンからアイスダンスに転向しており、NHK杯はその初戦。結果は出場した3組中最下位に終わった。

 それでも、高橋はバンクーバー五輪で日本男子初の銅メダルを獲得するなど華々しい実績を残したスター選手である。アイスダンスへの挑戦は「異例の挑戦」と大きく取り上げられ、新聞やwebメディアもこぞって彼を特集した。NHK杯の放送でも、優勝したティムコレト・小松原美里カップルよりも明らかに優先的に画面に映されていた。

「気持ち悪い」「格が違う」と攻撃

 変わらぬ注目度と人気をあらためて示した形だが、それが災いになったとフィギュアスケートを長く取材するスポーツ紙記者は言う。

「羽生選手のファンがSNSなどで批判を浴びせたのです」

 とは言っても、羽生はNHK杯には出場していない。一体どういうことなのか。記者が背景を説明する。

「かつて高橋選手がシングルで日本のエースだった頃、羽生選手はそれを脅かす選手として登場しました。そのため高橋選手のファンは、自分たちの“推し”の地位を奪おうとする羽生選手に対して敵視と言ってもいい厳しい目を向けました。『気持ち悪い』『格が違う』と、誹謗中傷に近いレベルの発言も日常茶飯事。他の選手に対してはそこまで攻撃しなかったので、実際には羽生の実力を脅威に感じていたのでしょう」

 羽生が高橋に追いつき、そして成績の上では優位がはっきりしていくなかで羽生への「攻撃」は過熱していった。

 有名なのは2012年の全日本選手権の“ブーイング事件”。ショートプログラムで羽生がトップに立ち、高橋がフリーで追い上げたが届かず優勝は羽生の手に。その大会で、羽生に対して一部ファンからブーイングが出たのだ。

「基本的にフィギュアスケートのファンは、自分の応援している選手以外にも拍手を贈る人が多く、ブーイングが起こることはほとんどない。それだけに、羽生へのブーイングが響いた瞬間、会場は騒然となりました」

 そして2人のファンの権力関係が完全にひっくり返ったのが、2014年のソチ五輪。羽生が金メダルを獲得し、名実ともに日本のエースに定着したのだ。

「金メダルによってフィギュアスケートファン以外にも広く知られるようになり、国民的スターの地位を築いた。するとファンも立場が逆転したのです。今度は羽生ファンが公然と高橋ファンを攻撃しはじめました」

「3位。アイスダンスで最下位ですよ」

 立場が入れ替わっても、高橋がシングルを引退しても、対立感情は消えていない。高橋のシングル引退以降、高橋ファンの中には「羽生を倒してくれるかもしれない存在」として宇野昌磨(22)や鍵山優真(17)の応援に回った人も少なくない。今回のNHK杯は、あらためてその確執の根深さを示した。

 NHK杯の放送中から、ネット上では「T」「H」などの隠語を使って相手の名前を言うことすら避けながら、当てこすりの応酬が繰り広げられた。

「まあこうなるとは予想していましたが(苦笑)、羽生さんのファンとしてはやっぱりちょっと引けない部分がある」というのは、とある羽生ファンのメディア関係者。

「大会前も大会中も大会後も、高橋・村元ペアの特集をいっぱいやってましたよね? アイスダンスではまだなんの実績もないのにおかしくないですか? それでも成績がよかったら分かりますけど、実際は3位。アイスダンスで最下位ですよ。なのに優勝したカップルより大きく扱われているなんておかしいでしょう?」

 とはいえ、シングルでの実績や、フィギュアでは異例の30歳を超えての異なる種目挑戦に価値があることは当然だ。海外の選手ならばもう少し素直に受け入れることもできるだろう。それでも、高橋については感情がついてこない。

「スポーツはもっとフェアな世界でしょ。成績で決まるのがスポーツの魅力なんですから。なんでろくに成績も出していないのにあんなに取り上げるんですか? 羽生君は、しっかり結果を出して注目されてきたんですよ」

 羽生ファンの意見だけでは不公平だ。高橋ファンも、関係者の中にはいまだに多い。

「先駆者へのリスペクトがないですよね、“あの選手”のファンには。いろいろな選手が頑張って道を作ってきたんです。そして大ちゃんが成績を出して注目されることでフィギュアスケートの地位を高めた。“あの選手”のファンは、そういう歴史への理解が欠けているんですよ」

 羽生の名前が、まるで口にしてはいけない呪文であるかのように語る。

「どちらかを褒めようものなら、逆のファンから叩かれる」

 ファン同士の敵意がエスカレートしていくことは、フィギュアスケート界にとって明らかにマイナスで、実際に影響さえ出ている。とある元日本代表選手も、匿名を条件に語る。

「どちらかを褒めようものなら、逆のファンから叩かれる。そういう構図、うんざりです。当の選手同士はお互いをリスペクトする姿勢を持っています。心の内側で何を考えているかはともかく、表面上は2人とも互いを尊重する姿勢を徹底しています。それをファンの方たちも知ってほしいですね」

 しかし年末12月25日から始まる全日本選手権には羽生、高橋ともにエントリーしており、2人の戦いはまだ続きそうだ。レジェンド2人の存在は大会を盛り上げるはずだが、先のスポーツ紙記者は渋い顔を見せる。

「あのバトルがまた繰り広げられるかと思うとね……。どんな風に報道してもバッシングされるので、フィギュアの記事を担当するのは精神的にキツイという声はよく聞きます。よく言えば熱心なファンなんでしょうけど、カルトっぽく感じることも正直ありますよ」

 リンク外での乱闘再び、となるのかどうか。思いがけないところで、注目を集める大会になりそうだ。

(小野 歩/Webオリジナル(特集班))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング