マラソン代表・大迫傑が五輪延期で考えたこと 「アスリートは常にポジティブな姿勢を見せるのが大事です」

文春オンライン / 2021年1月1日 11時0分

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 東京オリンピックは(新型コロナウイルス感染拡大の影響で)2021年に延期となりましたが、気持ちの切り替えは早くできたと思っています。

 マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の開催によって従来と比べれば代表選考も改善されたとは思いますが、まだ不完全なシステムゆえに緊張感のある試合が増えました。(東京オリンピック出場の内定を勝ち取った)3月の東京マラソンの後、東京オリンピックのある8月まで気持ちが続くのかなという心配も僕のなかでありましたから、1回リラックスする時間をつくれるんだなと前向きに捉えることができました。「あと1年半ある」とホッとした部分もあります。

 時間ができたことで新たなチャレンジが出来るいい機会だなと思い「シュガーエリート」という新チームを始めました。

 まずは基準記録を満たしている学生の中長距離選手を集めて、8月17日から1週間の日程でショートキャンプを実施しました。僕のときもそうでしたが、たとえば早稲田は早稲田、東海は東海で練習します。それぞれの大学で練習を積むのは悪いことではありません。

世界を目指すなら強い選手を集めて強化するのが大事

 ただ、本当に世界を目指すなら強い選手、意識の高い選手を集めてしっかり強化するということをやっていかなくちゃいけない。そういう思いが僕のなかにあります。

(東京オリンピックを1年後に控えた)僕がどういう練習をしているかを知ってもらいたい、背中を見せていければいい、と。今の経験をシェアしていくことが若い選手たちのモチベーションになるとも考えました。

 アスリートを辞めてから指導者になる道がメインストリームだとは思います。しかしこのような試みは引退してからではできません。だからこそ僕にとっては貴重な経験になっています。

 まず僕がやっていることをあえて彼らに合わせず、生の感じで見せました。いいところもそうでないところも、とにかく見てもらうことが大事。それを彼らが自分のなかに落とし込み、これからの練習に活かしてもらえばいいわけです。

五輪だけが「すべて」ではない

 僕の大学時代も今の大学生も、変わりはありません。世界と戦いたいという選手は上を見てやっているんだなと感じました。そのコミュニティがないだけであって、1つチャンスを与えるだけで伸びていくなという実感をあらためて持つことができました。

 また、インターハイが中止になったことで陸上に取り組む高校生に対して何か後押しできないか、と「ウィズ・アスリーツ・プロジェクト」を立ち上げました。シュガーエリートに集まってくるのはトップの選手たちなので、彼らは何も言わなくても、気持ちの切り替えができます。

 しかし一般のアスリートは少し時間が掛かってしまってもおかしくはありません。だからこそ同じ陸上競技のアスリートである桐生(祥秀)くん、寺田(明日香)さんと何かできないかという話からプロジェクトを発足させる動きになりました。(オンラインサミットなどで)交流して、どうしたら彼らのモチベーションにつながるんだろうといろいろと考えさせられる機会になりました。

 コロナ禍の状況にあっては困難と戦っている人が多いと思います。

 アスリートが1つ貢献できるとしたら、困難に立ち向かう姿勢、常にポジティブな姿勢を見せること。たとえネガティブになったとしても、メディアを含めて外部に出さないのがアスリート。選手のSNSを見ても、割とすぐにポジティブに切り替えている人が多いなって感じましたから。

 裏で葛藤があったとしても表ではポジティブな姿勢を見せていくことが、応援してくれている方たちを元気づけることにつながるかもしれない。一歩踏み出す、一歩踏ん張っていく、その力に少しでもなれればいい。逆に僕らアスリートが力をもらうことだってあると思います。

 今回のコロナ禍は「競技以外で自分は何ができるのだろうか」などと考えるきっかけにもなりました。オリンピックだけが自分の価値を高めるものではありません。いかに陸上競技を通して自分の価値をきちんと高めていくことができるか。陸上界のためになりつつも、自分が身を置く世界の社会的価値を高めていけるか。

あえて視野を狭めることの大切さ

 コロナに際してもう1つ考えさせられたのは、視野を広げるよりも、あえて狭めることの大切さ。たとえばSNSで情報を収集して大きく考えようとすると、ああするべき、こうするべき、といろんな価値観に触れすぎて、混乱してしまうこともあるなと。むしろ視野を狭めて、今自分がやっていることに集中するのが大事になる期間だったように思います。

 僕としては東京オリンピックに向けて競技に集中しつつも、立ち上げたシュガーエリートをしっかりとやっていきたい。まずは今やっていることにベストを尽くしていきたいですね。

 こういう状況なので東京オリンピックまでの予定が立てづらいところはあります。マラソンなり、ハーフマラソンなり走れる大会があれば、やっていきたいなとは思っています。今、言えるのは本当にそれくらいです。拠点を置くアメリカと日本を行き来するなかで、(自主隔離など)緩和されていけば多少なりとも行動は楽になってくるかなと考えています。

 東京オリンピックが2021年、予定どおり行われるかどうかは正直、考えても仕方がないところがあります。しかし開催されてほしいかどうかと聞かれたら、もちろん開催してほしいとは思います。

 大会が成功すれば多くの人たちを元気にすることができるかもしれないし、コロナ禍の状況からみんなが立ち上がれたという証明にもなるのかもしれません。

 僕自身、やるならやるでベストを尽くすことに変わりはありません。しかし、やらないのであれば気持ちを切り替えて別の目標に向かうだけです。

(大迫 傑/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2021年の論点100)

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