バイデン大統領就任で世界はどう変わる? 緊張する国際情勢下で日本が安定する理由

文春オンライン / 2021年1月1日 6時0分

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ジョー・バイデン (宮内庁提供)

 アメリカ大統領選挙はバイデン氏の勝利で終わりました。

 トランプ大統領は、票の集計に不正があったと法廷闘争に訴える構えですが、さすがにこれは通らないでしょう。いくら最高裁判所に保守派の判事が多いといっても、「数字」という事実がある以上、どうにもならない。このあとトランプ大統領にできることといえば、任期満了後も軍隊を動員するなどしてホワイトハウスに居座り、国を二つに割って徹底抗戦を続けることです。そうすればわずかながら生き残れるチャンスはある。

 しかし、彼の性格から言ってそれはしないでしょう。トランプ大統領は本当に怖いことはできない人物です。

 今後、起きる可能性があるのは、脱税容疑によるトランプ大統領の訴追です。トランプ大統領は、カーター大統領以来慣例となっている納税記録の公表を拒み続けてきましたが、無理な“国策捜査”などしなくても、法規を適正に執行すれば済む話ですから、トランプ大統領は財産を身ぐるみはがされ、名誉も失墜し、訴追されるという異例の大統領になるかもしれません。

 いずれにせよ、トランプ大統領はもはや過去の人であり、政治の表舞台から消えたと見て間違いないでしょう。

バイデン大統領就任で高まる米中、米朝の緊張

 しかし、トランプ大統領が消えたから世界に平和が訪れるかといえば、話は逆です。いずれ世界は、トランプ大統領の時のほうが米中関係は安定していたと思うでしょう。トランプ大統領は過激で攻撃的な発言を繰り返しますが、いざとなれば必ずディール(取り引き)を持ち出します。

 むしろバイデン氏が大統領になった時のほうが怖い。「ウォールストリートジャーナル」(2020年7月27日)も社説で書きましたが、中国が問題だというのは、トランプ大統領の選挙対策として見るべきことではなく、ブルーワーカーからインテリまで、すべてのアメリカ人の共通認識なのです。

 たとえバイデン氏が大統領になっても中国への厳しい姿勢は続くでしょうし、もともと価値観外交をする民主党政権のほうが、アメリカ型のルールを守れと強く出る可能性が高いのです。そうなると、中国との対立はのっぴきならないものになるかもしれません。

 対北朝鮮政策でもそうです。トランプ大統領は金正恩委員長と良好な関係を結んできましたが、バイデン氏はテレビ討論会で金委員長のことを「悪党」と呼びました。そして、トランプ大統領が金委員長と一種の手打ちをしたことが、北朝鮮の体制を延命させ、核兵器と弾道ミサイルの開発を加速させたと考えている。朝鮮労働党結党七十五周年のパレードに登場した新型ミサイルは多弾頭化を実現したものかもしれません。

 こうしたことに、バイデン氏はより毅然とした態度で臨むはずです。米中、米朝の緊張は急速に高まり、それにともなって最前線にある日本の緊張も高まるというシナリオが考えられるのです。

 結局、トランプ氏は融和的でイデオロギー色の薄い大統領でした。

 日本の北方領土問題でも、「シンゾー(安倍晋三前総理)がやりたいならそれでいいだろう」といった調子で、原理原則に振り回されないところがあった。ディールはレーガン、ブッシュと続いた共和党政権の伝統でもあります。対する民主党政権は理念重視でディールが苦手ですから、最初は国際協調路線でも、やがて対立構造が鮮明になり、それが時として大戦争を引き起こしてきました。第一次、第二次の両世界大戦も、民主党政権の時に起きています。これも今後、注目すべき点です。

アメリカがしばらく“内向き”政策しか取れない理由

 ただ、最低でも2年間、アメリカは外交どころではなく、極端に内向きの政策しか取れないでしょう。

 理由のひとつはコロナ対策、もうひとつはトランプ後遺症への対応です。トランプ大統領がアメリカを二つに分断したのは確かです。しかし、トランプ大統領がいたから2つで済んでいたとも言えます。BLM(Black Lives Matter)運動も、「反トランプ統一戦線」ということで暫定的にまとまることができましたが、それがなくなると、人種よりもジェンダーを重視する人、または障害の有無を重視する人など、それぞれのアイデンティティの政治によって分裂していくと思われます。

 つまり、アメリカの分断は、親トランプvs.反トランプの構造に、反トランプ内部でのアイデンティティの政治が加わり、より細分化されていく。モザイク状のアメリカになるのです。

 メディアでは北部vs.南部といった図式でアメリカの分断をとらえていますが、それでは読み解けないのが現在のアメリカです。すでに同じ大都市の中でも、中心部は民主党支持だが周辺部は共和党支持といった状況が起きています。北部と南部といった大まかな対立であればほとんどの人は交わらないので衝突も起きにくいのですが、この分断はネットワーク型で、狭い地域にいくつもの対立構造が存在するため、始終、小衝突が起きる。その分、深刻なのです。

 日本の歴史を見ると、南北朝の動乱が似ています。源平合戦なら、東からの源氏と西からの平家がお互いの勢力の境界線でぶつかり合って勝負が決まるわかりやすい図式であったものが、南北朝になると同じ村の中でこの寺が北朝方なら隣の寺は南朝方と、勢力が細かく入り組んだため、いつまでたっても動乱は収束しませんでした。

 今回の大統領選で、共和、民主両党が獲得した州を色分けすると、見事に東海岸と西海岸が民主党、中央部が共和党になります。まるで丁半ばくちのように見えるのですが、実際にはもっと細かい色分けになっていて、州内部、都市内部がまさにモザイク画のようになっているはずです。

 これは、数こそが正義であり、1人でも多いほうに真理があると考える「丁半ばくち型民主主義」が構造的限界に来ていることを示しているのかもしれません。

菅政権は長期化する可能性?

 では、日本はどうか。2021年は菅義偉政権が短期で終わるか、それとも長期政権になるのかが決まる年になります。安倍政権は国民に、混乱か安定かの二者択一を迫ることで、長期政権を築きました。これは基本的に菅政権になっても変わりません。混乱だけは避けたいという国民の消極的選択によって、菅政権も長期化する可能性は十分にあります。

 加えて、菅総理は権力の使い方をよく知っています。ここで興味深いのが、先の総裁選における石破茂元幹事長への対応です。

 今年の8月までは、次の総選挙では石破政権が誕生すると思われていました。しかし、総裁選後、石破氏は突如、後継者も決めずに派閥の領袖を辞任しました。暴力団の世界にたとえると、県警に組の解散届を持って行ったようなものです。自分は引退するから構成員だけは守ってくれと泣きを入れた。そこまで追い詰める力が菅総理にはあるのです。

 菅総理はたたき上げであるがゆえに、権力を失った時の怖さをよく知っています。ですから今、自分を守るための権力基盤の強化に力を入れています。もともと強力な支持基盤がなく、あらゆる勢力のバランスの上に成立した政権ですから、不祥事に弱い。

 しかし、それをうまく乗り越えることによって耐性がつくということもあります。たとえば日本学術会議会員の任命拒否問題も、学術会議のあり方のほうが問題が大きいという論調が強くなりつつあって、今のところ権力側を強化する方向で動いています。

 穴があるとすれば、菅総理に改革志向があることです。今の国民は改革を望んでいません。改革イコール混乱と考えているからです。ただし、この安定は停滞でもあることには注意が必要です。

 菅政権は立憲民主党の戦術的ミスにも助けられています。今回の首班指名選挙で共産党が22年ぶりに自党以外の候補に投票して話題となりました。共産党は枝野幸男政権の樹立を望んだわけです。

 これに一番喜んだのは公安調査庁でしょう。共産党はいまだに破壊活動防止法(破防法)の調査対象団体です。これで野党全体を関係先として監視することが可能になります。立憲民主党の支持母体のひとつである連合は、共産党との連携を苦々しく思っているでしょう。連合傘下の組合にとって、共産党と組むことによいことなどひとつもないからです。

 マルクス経済学の言葉で言うと独占資本主義の総本山である日本経済団体連合会(経団連)も当然、受け入れられない。共産党による首班指名は、いわば「悪魔のキス」です。キスされたら政権から遠ざかる。

 にもかかわらず、安倍政権時代から、野党のアジェンダは常に共産党によって作られ、政局のフレームとなってきました。桜を見る会の問題しかり、学術会議会員の任命拒否問題しかり、「しんぶん赤旗」が火をつけた問題に立憲民主党が乗っかっていく構図が続いているのです。

公明党vs.共産党が政局の鍵に

 野党が共産党なら、与党は公明党が鍵を握っています。

 安倍政権を通じて公明党は与党内で人数を超えた影響力を持つようになりました。たとえばコロナ特別給付金でも、自民党案は所得制限付きの30万円だったものが、公明党の強い要請で、一律10万円になったことは記憶に新しいところです。

 安倍政権の“成果”を振り返っても、たとえば戦後70年の節目に出されたいわゆる安倍談話では、戦後50年に社会党の村山富市総理が出した村山談話でさえ侵略戦争を「遠くない過去の一時期」とぼかしていたものを、「満州事変」以降とはっきり言及したのは、公明党がそれを強く主張したからでした。

 安倍前総理がレガシーとして強調したいはずの集団的自衛権の容認も、山口代表は最近の著書で、3要件が入ったことで、あれは個別的自衛権に過ぎなくなった、その3要件は公明党の強い要望で入ったと明かしています。消費税率引き上げ時に軽減税率が導入されたのもそうです。このように財政、税制、安全保障の大きな政策で、自民党が無理をして実現したものの本質は、実は公明党によって変えられてしまっていたのです。

 これは本来、野党が担う役割ですが、それを与党内で公明党がやってしまうので、現実に野党がやるのはスキャンダルの追及だけになる。だから国民が離れていくのでしょう。

 自公の関係は今や、学会票をあてにした選挙対策として連立を組んでいるというレベルではなく、政策そのものを公明党が作り、自民党はそれに乗っていくという構図になっています。菅政権ではこの傾向にさらに拍車がかかるでしょう。

与党内では公明党が勢力を強める?

 コロナ対策で大きな政府になり、懸案の格差拡大を止めるためには再分配の機能を強化しなくてはならない。すると今後、より多くの福祉をやらなくてはならず、公明党の勢いが増すからです。

 公明党と創価学会との間で政教接近が起きていることも注意しておく必要があります。2020年は創価学会の創立90周年でした。これまでの90年を総括し、100周年に向けての歩みを決める重要な年であったわけです。

 その影響で公明党にも創価学会色がより強く打ち出されている。価値観政党としての存在が重視されているのです。これは大阪都構想の住民投票に如実に現れました。公明党の山口那津男代表が大阪入りして、大阪維新の会への協力を呼び掛けたにもかかわらず、創価学会員たちは動きませんでした。これは前回の住民投票の時、当時の橋下徹代表が、「宗教の前に人の道がある」と言ったことがいまだに学会員は許せないからです。

 都構想の否決によって維新の会勢力は大きなダメージを受けました。自民党は維新の会と組んだ憲法改正どころではなくなり、ますます公明党から離れられなくなりました。

 こうしてみると2021年の政局は、共産党と公明党の対決として読み解いていくと一番わかりやすいことになります。しかし、それはコップの中の嵐のようなもので、国民は安定という名の停滞にどっぷりと浸かって、政治への関心をますます失っていくように思います。

 国際情勢がより緊張した状況になる中、日本だけが奇妙な安定を続ける。それが2021年の姿ではないかと考えています。

(佐藤 優/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2021年の論点100)

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