死者5名の米議事堂乱入事件 なぜトランプ支持者は警官に銃を向けられても侵入したのか

文春オンライン / 2021年1月11日 17時0分

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警官とトランプ支持者らの揉み合いの様子 ©AFLO  

 1月6日の午後、ニュースに映るアメリカ合衆国議会議事堂の映像に誰もが息を呑んだ。何百人もの暴徒が星条旗や「TRUMP」と染め抜かれた旗を振りながら議事堂に突進し、警官隊と激しく衝突していたのだ。 

 暴徒は警官とつかみ合い、殴り合った。催涙スプレーを吹きかけられる者もいた。しかし自宅や職場から映像を見る黒人市民の多くは、暴徒が警官に射殺されることはないと知っていた。暴徒の圧倒的多数が白人だったからだ。同時に、これがもし黒人なら瞬く間に一斉射撃になっているだろうとも考えた。 

 やがて暴徒は米国民主主義の象徴である議事堂の内部になだれ込んだ。 

 昨年、全米各地の路上で行われたBLMデモには大量の警官隊が出動したが、議事堂での暴動になぜこれほど少数の警官しか出動しなかったのか。BLMに対して多用されたゴム弾の使用もなかった上、フル装備の兵士が駆け付けたのは2時間以上経ってのことだった。 

 アメリカの人種ダブルスタンダードが、はっきりと映し出された瞬間だった。本稿では今回の暴動の人種にまつわる部分を考察するが、その前に事件の概要を記す。 

1月6日に支持者らを煽ったトランプの演説 

11月3日の大統領選から2ヶ月あまり。ドナルド・トランプは敗北を認めず、選挙が不正なものであったと証明するためにあらゆる手を尽くしていた。しかし、そのどれもが功をなさず、1月20日の第46代大統領ジョー・バイデンの就任式が刻々と迫っていた。

 この日、議事堂では上下両院合同会議による選挙人獲得数の集計が行われていた。これによってバイデンが大統領に認定される。 

 合同会議は午後1時から始まったが、暴徒はその直後に議事堂前に到着していた。この日の午前中、議事堂の近くで「アメリカを救う」と冠された集会が開かれており、数千人のトランプ支持者が集まっていたのだ。集会ではトランプの個人弁護士として、大統領選が不正であったとする訴訟を担当したルディ・ジュリアーニ弁護士(元ニューヨーク市長)やトランプの長男ドンJr.、トランプ自身が演説を行った。 

 1時間以上に及ぶ演説で、トランプは不正な投票があった、我々は勝った、負けを認めないを繰り返した。満場の支持者たちは「ウィ・ラヴ・トランプ!」「ファイト・フォー・トランプ!」と気炎を上げた。 

 トランプは演説を以下のように締め括っている。 

「我々は(議事堂へと続く)ペンシルヴァニア大通りを歩こう」「議事堂に行こう」「弱い共和党議員を助けよう」 

 支持者たちはトランプの言葉通り議事堂に向かったが、トランプは同行しなかった。会場付近に設置したテントの中で、ドンJr.や娘のイヴァンカと共に、飲み物を片手に暴動の中継を眺めていたのである。 

「マイク・ペンスを吊るせ!」絞首台も登場

 議事堂内も混乱を極めた。狭い通路で大量の暴徒と警官がもみ合い、圧死寸前の者が撮影されている。議場に入ろうとする暴徒に警官たちは銃を向けた。議員たちは椅子の下に備えられている、毒ガスなどを防ぐ非常事態用のマスクを被り、避難した。 

 フェイス・ペイントを施し、角の付いた毛皮を頭にまとった上半身裸の男が議場の演壇に立った。トランプが天敵とみなす下院議長ナンシー・ペロシのオフィスにも別の男が入り込み、デスクに脚を乗せた。いずれも議会と議長への侮辱が目的だ。 

 暴徒が「マイク・ペンス(副大統領)を吊るせ!」と唱えるシーンも録画されている。議事堂のそばでは角材を組み立て、ヌースと呼ばれる縛り首用の縄を吊るした絞首刑台が見つかっている。

 午前中の集会の演説で、トランプは合同会議によるバイデンの大統領認定を止められないペンスを非難しており、かつ暴動の最中に「ペンスは我々の国と憲法を守るためにするべきことを行う勇気を持たない」とツイートしている。後にツイッター社はトランプのアカウントを永久凍結した。 

銃を構えた警官を見ても、支持者らはなぜ怯まないのか 

 この暴動による死者は5人。うち1人は警官による射殺。カリフォルニア州から駆け付けていた元空軍の女性を含む暴徒の一団は、議員たちがいる議場へと続くガラスのドアを打ち破ろうとしていた。ドアの向こう側では警官が銃を構えていたが、女性はドアによじ登り、そこで射殺された。女性は「TRUMP」と書かれた旗をマントのように纏っていたが、武器は持っていなかった。

 他の3人は暴動の最中に心臓発作、脳卒中、他の暴徒に踏み潰されて死亡。暴徒に消火器で頭部を殴られた警官1名も死亡。いずれも白人だった。 

 射殺された女性は、白人で女性、さらに元軍人である自分が警官の標的になるとは想像さえしなかったはずだ。

 ドアのガラス越しに銃を構えた警官の姿は見えていた。映像を撮影していたジャーナリストは何度も「銃だ!」と叫んでいた。それでも女性はドアを突破しようとした。本人も気付かないままに白人特権意識を植え付けられていたからこそ、議員がいる議場に暴徒として乗り込む行為の代償の大きさに思い至らなかったのだ。 

事件の陰に人種問題の影響も 

 今回の暴動は「アメリカを救う」集会から自然発生したものではなく、あらかじめ計画されたクーデターの未遂事件だとする疑惑も出てきている。いずれにせよ目的は大統領選の結果を覆すことであり、人種問題ではなかった。しかし暴徒がいともたやすく議事堂に乱入してしまえたのは、暴徒が白人であったからだ。繰り返すが、もし暴徒が黒人であれば、警察による一斉射撃が行われていただろう。 

 折しも暴動の前日、ジョージア州では上院2議席の決選投票が行われた。上院の多数派が民主党、共和党のどちらになるかが決まる非常に重要な選挙だった。大接戦の末、2議席とも共和党の白人の現職が敗れ、民主党候補が勝利した。当選者の1人は黒人教会の牧師であった。 

 同時にバイデンは着々と組閣を進めており、現在、閣僚と高官に指名されている24名には女性10人、黒人5人、ラティーノ3人、インド系1人、中国系1人、ネイティヴ・アメリカン1人、ユダヤ系7人、移民2人が含まれている。トランプ内閣、およびトランプが指名した判事の圧倒的多数は白人男性であり、180度の転換となる。そもそも副大統領となるのが、黒人とインド系のミックスであるカマラ・ハリスだ。トランプ支持者の多くにとって、許容できることではない。 

デモで掲げられた旗と人種差別の関係

 アメリカは欧州からやってきた白人がネイティヴ・アメリカンを虐殺し、黒人を奴隷としたことにより繁栄した国だ。国の土台がマイノリティの蹂躙なのである。それでも時代と共に徐々に多様化が進み、2009年、米国史上初の黒人大統領を持つに至ったが、それは白人の優位性を信じて疑わない者たちには耐え難い屈辱となった。 

 昨年11月の選挙で当選した新進の下院議員コリ・ブッシュ(黒人女性)は、今回の暴動の際に暴徒が掲げていた「南軍旗」「Don’t Tread on Me旗」「Blue Lives Matter旗」「トランプ旗」のすべてがレイシズムと白人至上主義を表していると語っている。 

 南軍旗は奴隷制をしいていた米国南部の歴史をプライドとして今に引き継ぐ旗だ。かつては南部の多くの州が州旗としていたが、黒人差別の象徴でもあることから徐々にデザイン変更を余儀なくされ、昨年11月に最後のミシシッピ州旗のデザインが変えられたところだ。 

 Don’t Tread on Me旗(別名Gadsden旗)は黄色地にガラガラ蛇を描いている。18世紀のアメリカ革命に由来するが、現在では極右や白人至上主義グループなどに使われている。 

 Blue Lives MatterはBLMによって悪者にされたと感じた警官が「警官の命も大切だ」と作り上げたフレーズ。旗は警察を表す青、および黒で星条旗を塗り替えたデザイン。 

 トランプは大統領となる以前の不動産業者時代より黒人にアパートを貸さない、経営するカジノで黒人従業員を冷遇、14~16歳の黒人/ラティーノ少年に死刑を求めるなど人種差別主義者として知られる。 

 こうした歴史背景を持つアメリカゆえに、白人至上主義者たちは社会の多様化によって自身の優位性を無くす恐れに囚われ、大統領の存在意義すら分からなくなり、トランプを当選させてしまった。彼らはトランプ政権の4年間を楽しんだものの、同時にトランプの一国のリーダーとしての資質の無さによるコロナ禍の蔓延など、自身も被害を被ることとなった。だが、そこにはあえて目を瞑ってコロナ禍すら否定し、ついには今回の暴動を起こしてしまった。 

 バイデンの大統領就任式まであとわずかな日数だが、その間に何が起こるのか、もはや誰にも予測はできない。 

(堂本 かおる)

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