《「全く何だったのか。恥ずかしい限りだ」韓国紙も酷評》元慰安婦訴訟賠償命令に“突然の弱腰”文大統領の思惑

文春オンライン / 2021年1月23日 20時0分

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年頭会見での韓国・文在寅大統領。慰安婦訴訟の判決について「困惑している」と述べた(1月18日) ©getty


〈過去4年間、韓国政府が繰り広げてきたことは全く何だったのか。結局、何の方策もなしに国内政治用として利用したにすぎなかった。(略)底意の見える振る舞いを、日本は全て見ている。恥ずかしい限りだ〉

 1月18日に行われた韓国・文在寅大統領の年頭会見での発言が波紋を呼んでいる。

 引用した一文は、韓国3大紙の1つ、保守系の「朝鮮日報」(1月20日付)社説の一部だ。タイトルは「『日本企業資産の現金化は駄目』と急変…4年間の反日追い込みはなぜやったのか」と、文大統領に批判的だ。

 文大統領は18日の会見で、日本政府に賠償を命じた元慰安婦訴訟の韓国・ソウル中央地裁の判決に対して、「正直、困惑している」として、「原告が同意できる解決策を探すため、韓日間の協議を重ねる」と表明した。判決はその後、23日午前零時に日本政府が控訴しなかったことで確定している。

 さらに、日本企業の資産の現金化が焦点となっている元徴用工訴訟についても、「(日本企業の)資産売却は望ましくない。外交的な解決策を探すことが優先だ」と語った。これまでの「司法の判決に政府は関与できない」という突き放した姿勢から態度を一転させたのだ。

 在ソウルの日本人ジャーナリストが語る。

「文大統領がこれまでの日本に対する強硬姿勢を予想以上に軟化させたので、正直驚きました。『困惑している』『現金化は望ましくない』といった発言を聞いて、これまで何度も韓国には裏切られているとはいえ、ようやく『文大統領も現実を受け入れ始めたのか』と感じました」

 文在寅大統領の突然にも思える“心変わり”は、なぜ起きたのだろうか。

東京五輪を“第2の平昌に”

 文政権の対日姿勢の変化は昨年末から始まっていたと分析するのは、40年にわたって在韓記者として取材を続ける、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏だ。

「文大統領の変化は、昨年9月に安倍首相が退陣して、新たに菅政権が発足したことが影響しています。韓国では『日韓関係の悪化は、極右反韓の安倍のせいだ』というロジックが使われてきたので、関係を改善するには良いタイミングだった。その上で、文大統領の最大の目標である南北関係の改善のため、『日本を利用できる』と考えた。米朝首脳会談を実現したトランプ大統領が退き、北との関係は膠着状態。そこで文大統領が目論むのが、米朝を近づけた2018年の平昌冬季五輪の成功体験を下敷きに、東京五輪を舞台にした“金正恩引き出し”という、新たな対北外交策なのです」

 文政権下で、南北関係を劇的に変化させ、融和ムードを演出できたのが、2018年の韓国・平昌五輪だった。

 それまで、大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)の発射、核実験などで緊張状態だった南北関係だが、北朝鮮の金委員長の実妹・金与正(キム・ヨジョン)氏が、韓国を訪れて平昌五輪の開会式に出席。南北の選手団がそろって行進し、女子アイスホッケーでは南北合同チームで出場したことなどで友好ムードを演出した。

 その後、南北対話が始まり、史上初となるトランプ前米大統領と金委員長の米朝会談が実現した。五輪外交という成功体験があるため、東京五輪を“第2の平昌に”という思惑があるというわけだ。

「金与正来日」というカード

 東京五輪をめぐっては昨年11月、韓国の国会議員でつくる韓日議員連盟の金振杓(キム・ジンピョ)会長が韓国「中央日報」のインタビューで、「金正恩氏が東京五輪に出席するなら招待も可能と日本政府側が表明した」と述べ、日本政府が否定する騒動もあった。ソウル在住のジャーナリスト、朴承珉氏が解説する。

「主催国の菅首相と、文大統領、金委員長、バイデン大統領の4人が並んで五輪開会式に出席すれば、南北平和ムードの世界的なアピールの場になる。しかし、金委員長はこれまで大勢の国家首脳との会談はしたことがないし、“偉大な指導者”がほかの首脳と同列で並ぶ会談は北側が拒否する可能性が高い。

 もし、北朝鮮に東京五輪を利用するメリットがあるとすれば、アメリカの経済制裁を撤回させることくらい。その場合でも、文大統領の強いオファーやバイデン新大統領側からのアプローチを受ける形で、たとえば平昌のように金与正氏を特使として派遣するといった形になるでしょう」

 東京五輪をめぐっては、新型コロナの感染拡大で、欧米メディアを中心に中止をめぐる報道が相次いでいるが、東京五輪の開催は、文大統領にとっても悲願のようだ。

バイデン大統領が文大統領を不愉快に思う理由

 さらにもう一つ、文大統領の発言が軟化した背景にあるのが、1月20日に就任したアメリカのバイデン大統領へのアピールという側面だ。前出の黒田氏が解説する。

「2015年の日韓慰安婦合意で、日韓政府間の話し合いで解決するように舞台裏で一肌脱いで、合意にこぎ着けさせたのはアメリカ。そして、当時のオバマ政権で副大統領を務めていたバイデン新大統領です。その合意を事実上無効化した文大統領に対して、バイデン新大統領は不愉快に感じている。南北問題もアメリカを引き込まないことには進みませんから、バイデン新政権が誕生することが分かった段階から、日韓が仲良くせざるを得なかったのです。同盟重視のバイデンですから、対日関係を悪化させたままでは韓国の言うこと聞いてくれませんからね」

 文大統領は、人事でも“アメリカ向け”の行動を起こしている。年頭会見の2日後の1月20日、康京和(カン・ギョンファ)外相の後任に、大統領府国家安保室長を務めた鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏を指名した。

「18年3月に訪朝して金委員長と会談し、トランプ前大統領と金委員長の史上初の米朝会談の橋渡し役だった鄭氏を起用することで、対米外交を改善させ、停滞する南北問題の打開を図ろうとする思惑が色濃くでた人事でした」(前出・在ソウルの日本人ジャーナリスト)

「大統領は日本に先に手を差し出した」?

 八方塞がりの外交の末とも思える文大統領の“心変わり”発言。韓国側では、冒頭で紹介したような文大統領に批判的な報道がある一方で、前向きに報じるメディアもあるという。

「文大統領の年頭会見を伝えた韓国MBCテレビのニュース番組では、アンカーが『文在寅大統領が慰安婦問題を含めて、こじれた韓日関係を外交的に解決する提案をした。日本に向けて先に手を差し出したのです』と紹介した。あくまでポジティブに報じるメディアもあります」(ソウル駐在のジャーナリスト)

 文在寅大統領の任期は、残すところ1年4カ月。東京五輪の開催も不透明感が増す中で、日韓関係はまだ一筋縄ではいかなそうだ。

《元慰安婦訴訟・判決確定で赤っ恥》暴走する韓国司法“人権派集団”を文政権は止められるか? へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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