「人殺し」“池袋暴走”法廷で投げかけられた“上級国民”への怒り《民事訴訟で1億7千万円を請求》
文春オンライン / 2021年2月12日 6時0分

東京地方裁判所 ©iStock.com
「私にとって、2人と過ごした思い出は夢のようで、あまりにも愛にあふれた幸せな日々でした。何に代えてでも守りたかった大切な命でした」
「私は加害者本人に直接聞きたいことがたくさんあります。そして私の前で、自身の口から真実を述べてもらい、真実を明らかにしてほしいと思っています」
昨年4月、東京・池袋で乗用車が暴走して母子2人が死亡、通行人ら9人が重軽傷を負った事故で、自動車運転処罰法違反罪(過失運転致死傷)に問われ刑事裁判が続いている旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(89)が遺族から損害賠償を求められた。
民事訴訟の第1回口頭弁論が2月9日、東京地裁(鈴木秀雄裁判長)で開かれ、遺族側は民事に踏み切った理由を「真実を聞きたい」と説明。形式的に謝罪をしてはいるものの事故の原因を車のせいにする飯塚被告の態度を、不誠実に感じていることが窺われる。
訴状によると、遺族側は慰謝料など1億7千万円を請求、飯塚被告側は早期和解を求めながらも、金額については刑事裁判同様に争う姿勢だ。
事故が起きた、2019年4月の昼下がり
悲惨な事故は2019年4月の昼下がり、東京・池袋の路上で突然発生した。
飯塚被告は4月19日、東京都豊島区の路上で運転する乗用車のブレーキとアクセルを踏み間違えて交差点に侵入、自転車に乗って横断歩道を渡っていた松永真菜さん=当時(31)=と長女の莉子ちゃん=当時(3)=を死亡させ、同乗者の妻を含む男女9人に重軽傷を負わせたとして起訴された。
飯塚被告は東大卒業後、当時の通産省工業技術院に就職。計量の分野などで国際的にも頭角を現し、同院で院長を務めた後も学術団体や天下り先の企業などで要職を歴任したエリート中のエリートだ。それゆえに、事故を起こし2人を死なせながらも警視庁が逮捕しなかったことから、優遇されているのではないかという疑惑が持ち上がり、「上級国民」としてインターネット上などで炎上した。
昨年10月に開かれた刑事裁判の初公判で、飯塚被告は、真菜さんの夫である拓也さん(34)に視線をあわせることなく、「心からお詫びします」などと静かに謝罪。事故自体は「アクセルを踏み続けたことはない」「車に異常があった」などとして、無罪を訴えた。
検察側は冒頭陳述で、前の車に近づきすぎたために車線変更を繰り返し、アクセルを踏み間違えて時速約96キロまで加速して、真菜さんらに衝突したと指摘している。また、1ヶ月前の点検でブレーキ、アクセルに異常が確認されていないことや、ブレーキが踏まれた記録も残っていないことから事故の原因は飯塚被告の過失にあったと主張しているのだ。
「人殺し」法廷で傍聴席から発せられた言葉
12月3日の公判では、事故を目撃した証人が「ブレーキランプはついていなかった」「減速せず、赤信号の交差点につっこんでいった」と証言した。
12月14日の公判で弁護側は「経年劣化し、トラブルが起きてブレーキが作動しなかった」と主張したが、2月1日の裁判で証言した警視庁の担当者は「車両に異常があると暴走できない」と切り捨てた。
「人殺し」
同日の公判が終わると傍聴人が発言して、法廷内はざわついた。大手紙司法担当記者は「飯塚被告側の主張は説得力がない。傍聴している人には、飯塚被告が真摯に事故に向き合っていないように映るんです」と話す。
心に誓った「この2人を守り、絶対に幸せにする」
2月9日の民事訴訟で拓也さんは悲痛な胸のうちを意見陳述で述べた。
「2014年にプロポーズをしました。『頼りない男だけど、あなたを幸せにしたい気持ちは誰にも負けません』。そう伝えると、真菜は泣いて喜んでくれました」
「2016年1月11日に娘の莉子が生まれました。『かわいい』と言いながら涙を流し喜ぶ真菜と、懸命に泣いている生まれたばかりの莉子。<略>『この2人を守り、絶対に幸せにする』と心に誓いました」
「3人で色々なところに行きました。春は花見、夏は海やお祭り、秋は紅葉を見て、冬は莉子が好きだった温泉に。暖かい日は、真菜の手作りパンを持って、3人でピクニックによく行きました」
「2019年4月19日。警察からの電話で病院に向かった私は、妻と娘の並んだ遺体と対面しました。真菜の顔を見ると、傷だらけになって冷たくなっていました。娘の顔は原型を留めておらず、小さな手を握っても二度と握り返してくれることはありませんでした」
2人の尊い命を奪ってしまった飯塚被告。
自動車運転処罰法違反罪に問われており、交通裁判は時間がかかることが多く、控訴審も、となれば先行きは不透明だ。また、示談がなければ実刑の可能性が高い。
ただ、90歳を間近に控え、高齢を理由に執行停止の可能性もある。もしそうなれば「上級国民」との批判がまた巻き起こりかねない。まずは会見を開くなど真摯な説明の場を設け、拓也さんが求めるように、自身の口から真実を述べ、真実を明らかにするべきではないだろうか。
(西川 義経/Webオリジナル(特集班))
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