「合宿中にナイフで脅された」韓国バレー“アイドル”双子姉妹の凄惨イジメ疑惑、思わぬ「波及先」

文春オンライン / 2021年2月26日 11時0分

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イ・ジェヨンとイ・ダヨン選手 ©AFLO

 その実力とルックスでイ・ダヨン、ジェヨンの双子の女子バレーボール選手は韓国バレー界のスターだった。しかし、10年前の校内暴力が発覚。一夜にしてスターの座から転落した。だが、これは始まりに過ぎなかった。

 告発の波はスポーツ界、芸能界をあっという間に呑み込んで、元国家代表のプロサッカー選手には小学校時代の後輩の男性への性的暴行疑惑が浮上。元ハンドボール選手だった現職与党議員にも監督時代の暴力行為が取り沙汰されるなど、前代未聞の事態に発展している。

「(合宿所で消灯後何かをやれといわれて)疲れて何度もやんわりと断っているとナイフを取り出して脅迫された」、「汚い、ニオイがすると横に来るなと言われた」、「何かにつけて金銭をとられてお腹をつねられ口を叩かれ、集合させられてこぶしで頭を叩かれた」……。

「天狗になっていて、周りが見えなくなっていたのでしょう」

 発端は2月10日。ネットの掲示板に掲載された告発文だった。「現職バレー選手の学暴(校内暴力)被害者たちです」というタイトルの告発文には21個に及ぶ校内暴力やイジメの詳細が書かれており、身元が分かるのを怖れて4人の被害者で書いたと記されていた。

 現職バレー選手がイ・ダヨン、ジェヨン選手と分かると大きな衝撃が走った。ふたりは韓国チームの東京オリンピック出場にも大きく貢献したといわれ、韓国女子バレーボール人気を牽引し、芸能番組や雑誌のグラビアに引っ張りだこの超人気スターだったからだ。

 バレーボール選手で国家代表だった母親とやはりハンマー投げ選手で国家代表だった父親というスポーツエリート一家に生まれ、幼い頃からバレーボール界で名を馳せた。両親は現在もバレー、陸上で指導者として活動していて、中学時代の父母からは母親が試合に介入したという告発も飛び出した。

 イ姉妹は告発の内容を全面的に認めて、すぐに直筆で書いた謝罪文をSNSに投稿したが、これがまた世論の怒りを買った。被害者は「空しい。これで10年の歳月が忘れられると許されるものではない」と書き込んでいる。「SNSだけで謝罪したのは軽率だった」と全国紙体育部記者は指摘する。

「直筆ではありましたが、どこかで見たような決まり文句を羅列した内容で、誰が見ても反省している感じは受けないものでした。謝罪するならば直接連絡して会おうという努力をしなければ……SNSにただ掲載したのは軽率でした。

 これで幕引きを図れると思ったのかは分かりませんが、今の韓国では暴力やイジメに対する視線はとても厳しいものになっている。イ・ジェヨンとダヨンの場合は、母親がバレーボール界にいるというバックグラウンドだけでも世の中の視線はさらに厳しくなります。天狗になっていて、周りが見えなくなっていたのでしょう」

「今さら昔の話を持ち出すなんて」という声もあったが...

 書き込みから5日後、所属チームはイ姉妹の試合出場を「無期停止」とし、韓国バレーボール協会は国家代表権を無期に剥奪することを発表したが、これもさらに騒ぎに油を注ぐことに。この「無期」が問題だったと前出記者は言う。

「無期というのは文字どおり無期で、いつでも復帰できるという意味でもあります。前例があるだけにタイミングを見てそのうちにまたすぐに登場するだろうとみられて、またか、と世論が憤ったんです」

 前例というのは、11年前。男子バレーボールの国家代表チームの当時のコーチが選手を殴打した事件で、当事者の選手の記者会見により明るみに出た。コーチは無期の資格停止処分となったが、懲戒から2年後には現場に復帰。現在はプロバレーボールチームの監督を務めている。

 今回の事件から再び注目が集まると、今シーズンは出場しないことを表明したが、「手で殴れないので帽子で選手を殴打するなど素行は変わっていないとも囁かれている」(前出記者)という。

 イ姉妹への告発が書き込まれた当初は、ネットでは「10年前のまだ幼い頃の行動だから、これからがんばってもらえばいいのに今さら昔の話を持ち出すなんて」や「どうして今頃になって過去の虐めについて暴露するのか」という声も見られた。

プロ失格の行為があった

 被害者が過去のイ姉妹の校内暴力を明らかにしようと思ったのは、イ・ダヨン選手がSNSに書いた「苦しめる人は面白いかもしれないけど、苦しめられる人は死にたい……」(イ・ダヨン選手のツイッターより)という投稿だったという。

 投稿の発端は同じチームの先輩選手との不仲だ。イ姉妹が所属していた「仁川興国生命ピンクスパイダーズ」には昨年、世界でも屈指のトップスターといわれるキム・ヨンギョン選手がトルコから帰国し合流していた。コロナの影響と東京オリンピック出場のための帰国といわれており、キム選手とイ姉妹のいる同チームは当初「興国アベンジャーズ」と持て囃された。

 しかし、両雄並び立たず。昨年末、イ・ダヨン選手がSNSにキム選手と思われる先輩選手への不満を書き連ね、チーム内の不和説が浮上。ファンの間では騒ぎになっていた。前出記者の話。

「メンバーどうしの不和はどこにでもあります。SNS上にそんな個人的な感情を書いたことも問題でしたが、そこで留まっていれば問題はなかった。それが、今年に入って、試合でセッターのイ・ダヨン選手がアタッカーのキム選手に意図的にボールを回していないことが取り沙汰されました。

 これはプロ失格の行為。不和説をキム選手はクールに認めて、自分たちはプロなので話し合う、試合へ影響はないとしたのと対照的だといわれて、非難の矛先はイ・ダヨン選手に向けられました」

告発する流れは芸能界にも

 そんな非難が飛ぶ中書き込まれたのが前述の投稿だった。

 投稿を見た被害者らは「10年前の過ぎたことだと忘れて生きようとも思っていたけれど、加害者が自分が犯したことを考えもせずSNSにあげた投稿を見て、あの時の記憶がよぎり、自分たちを振り返ってもらいたいという気持ちから勇気を出してこうして書いています」と告発に至った気持ちを綴っていた。

 先の11年前にコーチに殴られた男子バレーボール選手は、そのコーチと今でもすれ違うだけでも怒りがこみ上げてきて気持ちがざわつくとメディアに告白している。

 校内暴力を告発された男子バレーボール選手の中には一部事実を認めて引退を表明する者も出てきた。しかし、選手が引退間近い30代半ばという年齢だったため、「卑怯だ」という声も上がる。

 そして、ついには元国家代表のプロサッカー選手には小学生時代の性的暴行疑惑が飛び出した。被害者はサッカーチームの後輩の男性だという。選手側は事実無根とし、法的対応をするとしているが、被害者側もすでに弁護士を立てている。

 前出の記者は校内暴力の範囲が難しいとこう話す。

「過去の話は証拠がないぶん、記憶に頼ることになりますから、複数人で声をあげているケースが多いです。単独での告発、しかも分別もつかない小学校時代となると、判断はかなり難しいのではないでしょうか」

 告発の波はさらに芸能界にも及んでおり、若手アイドルやスターに連日、過去の校内暴力やイジメ疑惑が続々と浮上している。当事者のほとんどが否定しているが、収拾する気配はみられない。

ようやく被害者がネットに声を上げられる雰囲気に

 韓国での一連の流れを見ていると、若い頃間違いを犯してしまった選手などが非を認めて謝罪した場合には、もう一度チャンスをあげてもいいのではないかと思ったりもするのだが、スポーツ業界に詳しい別の記者はこんなことを言っていた。

「人は変われますから、非を認めてきちんと謝罪をした後ならば機会は残すべきだとも思います。ただ、スポーツ界ではもうずいぶん昔から上の者からの体罰や選手間のイジメが深刻です。問題が明るみに出ても、スポーツ界内部で解決しようとすると、関係者同士がつながっているので容易ではない。

 今の20~30代は公平性や透明性に敏感で、社会の雰囲気も変わってきて、最近になってようやく被害者がネットに声を上げられる雰囲気になって表にでてきた。こうやってひとつひとつ解決していけば環境は変わるのではないでしょうか。烈しい暴力が問題視されていた軍隊でも今はそういった事件は相当減ったと言われていますから、スポーツ界も変われないことはない」

 この大騒動に、政府は「学校運動部暴力根絶およびスポーツ人権保護体系改善法案」を審議し即議決。これにより、プロ・実業団は選手を選抜する際には高校の生活記録が必要となり、プロの場合には校内暴力はなかったという誓約書を書かせるという。

 韓国では、数年前にスポーツに携わる者の人権を保護する目的で大韓体育会傘下に現在の「スポーツ人権センター」ができ、昨夏にはそれらを包括できる「スポーツ倫理センター」が発足した。今回の告発を受け、一般の学校でも人権監視官を設置。4月までを集中申告期間とし、相談を受け付けるという。

(菅野 朋子)

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