日本電産が“防衛大出身社長”で挑む「EV革命」

文春オンライン / 2021年3月5日 11時0分

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社長就任会見での関氏と永守会長

 2月5日、産業界の新陳代謝を象徴するようなM&Aが行われた。電気自動車(EV)や家電向けモーターで世界のトップを走る日本電産が三菱重工業の工作機械部門で子会社の「三菱重工工作機械」を買収したと発表したのだ。

 航空宇宙や造船などで日本の製造業をこれまでけん引してきた三菱重工業は、ジェット旅客機「スペースジェット」を手掛けてきた子会社の三菱航空機が業績不振により国内外の社員約2000人を半減させるリストラ計画を発表。2021年3月期決算は売上高が前期比8.4%減の3兆7000億円、純利益は77%減の200億円になる見通しだ。

 莫大な資金を投入してきた「スペースジェット」は6回もの納入延期で事業縮小を迫られた。資金繰りが決して楽ではない同社は、苦肉の策として虎の子の工作機械部門を手放すことになったのだ。

 そこに手を伸ばしたのが日本電産である。同社は、このM&Aが発表される2週間ほど前の1月25日、2021年3月期の通期業績見通しを上方修正。売上高は据え置いて1兆5500億円としたものの、純利益は昨年10月時点での見通しから150億円上乗せして1200億円と前期比では約2.1倍となる。

 日本電産が好業績なのは、コロナ禍においても車載や家電向けなどのモーター事業で成長しているからだ。2020年4~12月の第3四半期累計では売上高が過去最高を更新すると同時に、徹底した原価低減も進めてきた。

 2月26日現在の株式時価総額は、三菱重工の1兆350億円に対し、7倍以上の8兆617億円に達した。世界がこれからEVシフトしていくことへの期待値も含まれているのだろう。

中国発、激安EVの衝撃

「世界で3億台のEVのマーケットが生まれる」

 その決算発表の場で、日本電産の創業者である永守重信会長はこう見通しを示した。現在、世界の自動車市場は8000万台程度。その4倍に迫る市場に成長するという永守氏の見立てには根拠がある。

 いま世界ではEV市場が急成長している。昨年夏、中国の「上汽通用五菱」という小型車に強い自動車メーカーが発売したEV「宏光MINI」は、日本円で約45万円という価格が受けて月販3万台を超える爆発的なヒットとなった。

 このクルマは、1回の充電で120キロ程度(カタログ値)しか走行できないが、マイカーを求める若者に受けているそうだ。これまでEVのネックは主要部品の一つ、電池の価格の高さにあった。しかし、生産技術の革新や量の増大によってコストが劇的に下がり始めた。

 従来は1ワット時当たり20円程度だったのが、足元では14円程度までに下がっており、「宏光MINI」に搭載された電池は12円程度とみられている。電池の価格はさらに下落を続け、2024年頃までには10円にまで落ちる見込みで、そうなればEVの生産コストはガソリン車など内燃機関の車を下回るとされる。

 電池価格の下落に加え、フォルクスワーゲンなど主力メーカーがEVを本格的に市場投入したことによって、欧州ではEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が急増しており、2020年の販売台数はこの2車種で前年比2.4倍の133万台。シェアは9ポイント増の12%だった。なかでも、日本と同じ「内燃機関大国」のドイツでは補助金の影響もあって3.6倍の39万台も売れている。また、中国でもEVとPHVは「新エネルギー車」と位置付けられ、全体販売が落ち込む中で2020年は11%増の136万台が売れた。

「EVの心臓部」で稼ぐ

 こうした動きを永守氏は50年以上会社をけん引してきた経験から「革新が起こる前夜」と見る。30年近く前は富裕層だけが持つことのできた携帯電話が一気に普及して、今や一人で複数のスマートフォンを持つ時代になったのと同様に、米テスラなどのEVは現状では500万円近くと高額だが、これが一気にコモディティ化して大衆に普及していく流れが起こってくるだろう。

 日産自動車でナンバー3の副COOから日本電産に転職し、昨年4月に社長に就いた関潤氏もこう語る。

「これまでは国民一人当たりの所得が6000ドルを超えると急に車が売れ出すと言われてきました。その場合の平均単価は日本円で約160万円、一番安い車が80万円程度。中国製の45万円のEVだと、所得が4000ドルくらいで買えます。こうした所得層を世界の人口ピラミッドから見ていくと、おそらく5~6億人はいるでしょう。ですから新車販売が2~3億台に増えてもおかしくありません」

 いま、関氏が責任者として力を入れているのが車載向けモーター事業である。前述した三菱重工の工作機械部門買収も車載事業強化のためだ。なかでも、日本電産の成長の生命線を握るのが、EV向けの「トラクションモーターシステム」である。

 これは、電池と並ぶEVの心臓部で、モーターとそれを制御する半導体、動力を伝えるギア(歯車)で構成される、電子・電機・機械が融合した「機電一体」の製品である。この事業を拡大させ、2030年に売上高10兆円の目標を達成させる考えだ。

 今後、あらゆる部品を内製化して自社で品質力を高めると同時に一気にコストダウンを図るのが日本電産の戦略だが、課題として浮上したのがギア製造だった。三菱重工工作機械は、自動車用の変速機や減速機といった歯車の分野で高い製造ノウハウを持っている。それだけでなく米国や中国、インドにも事業拠点を保有しており、それらも同時に買収することで、グローバルにギア内製を強化していくことも可能となる。

セルビアに「日本電産村」を作る

 こうしたM&Aに加え、日本電産はコロナ禍の中にあっても将来に向けての設備投資を拡大させている。いま、バルカン半島にあるセルビアで「トラクションモーター」の新工場を建設する準備を進めているのだ。2022年から生産を開始して2025年までに100万基を生産する計画で、総投資額は約2000億円と見られる。

 セルビアではトラクションモーター以外にもパワーステアリングや家電向けモーターなども生産し、関連企業を新工場周辺に集めて欧州での「日本電産村」を構築する考えだ。欧州でEVシフトが加速すると見て、先回りして主要部品の生産を立ち上げておく狙いがある。すでに同社は仏プジョーともフランス国内で合弁生産を始めることを決めている。

 日本電産の成長戦略を担う関氏は、日産専務として中国合弁会社の東風汽車総裁を務めていたこともある。日本電産への転職が決まったのは、副COOに就任してからわずか1カ月後のこと。まさに電撃的転職だった。これは日産の社長候補とみられていた関氏を、豊臣秀吉のように「人たらし」で知られる永守氏が口説き落としたのだ。

 長崎県佐世保市に生まれ、子どもの頃、父が病弱で裕福な家庭ではなかった関氏は、授業料のかからない防衛大学校に進学した異色の経営者でもある。

 筆者は、「文藝春秋」3月号及び「文藝春秋digital」に掲載した「 日本電産社長 EVの覇権を狙う 」で、関氏へのロングインタビューを行った。日産から日本電産に転職する際の永守氏の「口説き文句」や、脱炭素社会におけるEVを中心とした車載事業の戦略に加え、強烈なリーダーシップで知られる永守会長との役割分担などについて詳しく書いた。

(井上 久男/文藝春秋 2021年3月号)

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