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「遅すぎる決断だ」買収認めた河井克行被告 妻・案里への「愛の言葉」は永田町にどう響いたか

文春オンライン / 2021年3月31日 6時0分

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3月23日、東京地裁に入る元法相の衆院議員河井克行被告。無罪主張から一転、買収を認め議員辞職を表明した ©共同通信

 河井案里元参院議員(47)=公選法違反罪で有罪確定し失職=が初当選した2019年7月の参院選。河井元議員の夫である元法相の河井克行被告(58)が、地元政治家や後援会など計100人に現金2900万円を配ったとして、妻と同罪に問われていた。河井被告は2020年8月に行われた初公判で無罪を主張していたため、このまま法廷闘争は泥沼化すると見られていたが――。

◆ ◆ ◆

報道陣に冗談を言いながら法廷へ

 3月23日午前9時半前、克行被告は報道各社の要請に応じ法廷に向かう姿を撮影されていた。大手紙社会部記者はその様子をこう話す。

「議員バッジを左胸に光らせ、元検事の有名弁護士を率いて、ゆうゆうと報道陣の前を歩いていきました。単に格好よく見せたいだけなのかもしれませんが、克行被告は『もう1回やろうか』と報道陣に冗談を言うほどの余裕を見せていました」

 10時に開廷し、すぐに弁護側の被告人質問が始まった。克行被告の主張は従来通りだった。

「妻と共謀した事実はない」

「陣営関係者(スタッフ)に差し上げたお金は買収ではない」

 しかし突如その主張を一転させ、大部分の買収を認めだしたのだ。弁護人が「講演会関係者や地元議員に対する現金供与も公訴事実に含まれている」と話すと、克行被告はこう答えた。

「後援会の役員や、地方議員、首長にお金を渡した」

「妻、河井案里の当選を得たいという気持ちがまったくなかったとはいえない」

「全体的に買収罪ということについては争うことはしない」

 昨年8月の初公判以来、約7カ月ぶりの発言。その内容が注目される中で起きた想定外の「告白」劇だった。

「事前に辞職意向の報道もあり、ある程度予測はされていましたが、ここまで明確に白旗を上げるとは想像以上でした。政治家は選挙で選んでもらった手前、罪を犯しても認めずに最後まで争うケースが多いので、意外に感じた人は多かったのではないでしょうか」(同前)

 8月の初公判以降、弁護人を解任して一時中断したこともあったが、100人の現金を受け取った地方議員や後援会関係者らの証人尋問や、供述調書の朗読にじっと耳を傾けてきた克行被告。時には証人として出廷していた女性秘書が検察官とアイコンタクトをしていたことに声を荒げて、裁判長から制止されることもあった。

 なぜ一転して罪を認めたのか。

『無罪を諦めて、刑期を少しでも減らそうとしているだけだ』

 克行被告は、当初「一部でも認めたら応援してくれた人たちに泥を塗ることになる」と考えていたというが、「高齢者である長年の後援会の人たちが証言している姿をみて、独房で自問自答を繰り返し反省した」と考えを改めていったという。「逃げるのではなく、認めることが政治家の責任と考えるに至った」とまで語っている。

「特に傍聴席の注目を集めたのが、克行被告が20年来、世話になっているという教会の神父からの助言です。克行被告は、神父から『自分の内面に誠実に向き合ってください』と励まされたことも、罪を認める決心をする後押しとなったと語っていました」(同前)

 そう懺悔告白をした克行被告。一見すると罪と向き合い、深く反省しているように見える。しかしこの赤裸々に聞こえる告白に、地元広島の議員らからは疑いの目が向けられているという。

「広島の議員らは、『無罪を諦めて、刑期を少しでも減らそうとしているだけだ』と批判しています。実は克行被告が今回語った内容には、すでに法廷で明らかになっている事実と齟齬があるんです」(同前)

 克行被告の主張はこうだ。

 案里元議員が立候補する2019年まで、自民党が1議席、野党1議席とわけあってきた参院選広島県選挙区は「ぬるま湯」で、自民党広島県連が真面目に活動をしてこなかったと批判。

 案里元議員が立候補し公認を得たことで、当時現職のベテラン、自民党の溝手顕正氏と党を二分する選挙となったことについて「切磋琢磨することで自民党の支持層も広がる」「溝手氏の支持層が案里元議員に流れることはありえない」などと票の奪いあいにはならなかったと主張している。また「県連は支援しなかったが、妻は溝手氏の名前を先に出して自民党のために頑張ると一貫していた」「私も企業をまわり2人当選しないといけない、と訴えた」と語った。

溝手氏へのネガティブキャンペーンも

 しかし、遡ること5カ月。10月に東京地裁で行われた公判でネット業者の男性の供述調書が読まれた。そこでは克行被告の指示で自民党広島県連や溝手氏を貶めるような記事を書いていたことが暴露されているのだ。

 また、尋問で女性元スタッフは「溝手氏が案里元議員に邪険な態度をとるかもしれないから動画を撮るように」などと指示されたとも証言しており、克行被告が溝手氏を陥れてでも、案里元議員を当選させようと、ネガティブキャンペーンをしていたことが明らかになっている。

 当時、溝手氏で一本化した県連の支援を得られなかった案里元議員。そのような情勢で克行被告は「厳しい戦いになる」などと話し現金を配って回ったわけだが、23日の被告人質問では「『厳しい戦いになる』というのは政治家の常套句で、当選できると思っていた」と話し、その証拠として、弁護側が案里元議員の支持率が上昇していくデータを示してもいる。

克行被告は実刑を免れないという見方も

 ある広島県政関係者は「当選すると思っていたなら、なんで現金を配ってまわったのか」と憤る。

「事前の調査で案里元議員が、溝手氏、野党候補に次ぐ3位だった。逆転できた理由はカネだけではないとは思うが、当選すると思っていたならこのような罪は犯さなかったのではないか。今回の告白は、罪を少しでも軽くしたいだけに見える。議員辞職を表明したが、もらった側で辞めている人はすでにたくさんいる。遅すぎる決断だ」

 元法相による、かつてない規模の買収事件。克行被告は実刑を免れないという見方も強まっている。前出の大手紙社会部記者が「永田町では計算され尽くした辞職だと言われています」と解説する。

「克行被告は法廷で議員辞職も表明しましたが、これも情状面で少しでも優位に進めたかったからでしょう。公選法の規定で3月15日までに辞職してしまうと、4月に広島3区で補選が行われてしまいます。公明党が後任の候補者を擁立することを自民党側も了承していますが、自民党への風当たりが強い現状、広島3区も4月補選に組み込むことは避けたかったのではないでしょうか」

 すでに4月補選が決まっているのは東京地検特捜部に収賄罪で起訴された吉川貴盛元農相(辞職)の衆院北海道2区、新型コロナウイルスに感染し死亡した、立憲民主党・羽田雄一郎氏の参院長野選挙区、案里元議員の参院広島選挙区の3つ。北海道2区では、与党は候補者を出さない方針で不戦敗が確定し、残る2補選も与党にとって厳しい戦いとなるからだ。

 河井被告が法廷で語った“自民党愛”に、永田町関係者は冷ややかな目を向けているのだ。一方で「不可解だ」とささやかれているのが“案里愛”なのだという。

法廷では妻・案里元議員への溢れるばかりの愛情も垣間見せる

「克行被告は案里元議員について『時代を先取りした問題意識』を持っており、『人を思いやる』性格で、『相手が誰でもひるまない』と事あるごとに語っています。言葉の端々に案里元議員への愛をにじませているんです。夫婦間に愛情があったからと言って罪が軽くなるわけではありませんし、国民の心証がよくなるとも思えません。国会議員関係者の間では『クサいヒロイズムだ』と冷笑されています」(同前)

 克行被告が案里元議員に出会ったのは落選浪人中だ。科学技術振興事業団専務理事だった沖村憲樹元科学審議官の紹介で顔を合わせている。

「3月に行われた証人尋問に、沖村元科学審議官が出廷し、『紹介した日の夜に克行元大臣は、案里さんがカラオケで「天城越え」を歌うところを見て、結婚を決めた。紹介してよかった』と語っています。その後、2001年4月に広島市内のホテルで結婚式を挙げています」(同前)

 2019年、案里元議員は「夕刊フジ」のインタビューでこう語っている。

「実際に政治家になったきっかけは、主人(=河井克行・自民党総裁外交特別補佐)と結婚して選挙のサポートを始めたことです。一緒に選挙区を回っていたら、主人から『君は政治に向いているよ』と県議選への出馬を勧められたのです」

 計算づくめの「自民党愛」に、不可解な「案里愛」。判決期日の見通しはまだたっておらず、4月まで被告人質問が続くが、“克行劇場”はどのような終幕を迎えるのだろうか。

(西川 義経/Webオリジナル(特集班))

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