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内臓や筋肉を食い荒らすウジ虫が皮膚の下でボコボコと動き…鑑識官が目にする「孤立死」の悲惨な実態

文春オンライン / 2021年4月20日 17時0分

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©iStock.com

「寿命を3年は縮めてやったわね」「迷惑だから長生きしないで」高齢化大国日本で加速する“老人同士”の凶行DVのリアル から続く

 高齢化社会の加速につれ、近年問題視されているのが“孤立死”だ。「国の世話になるなら死んだほうがマシ」と、生活保護を受けずに困窮した生活を続け、病院にも行けずに栄養失調から死に至るケースや、未婚の年配女性が「人前で裸になったり、肌を晒したりするのは恥」と検査や手術を拒んで病気を進行させ、自室で死を迎えるといった例も現に起こっている。

 ここでは、そうした高齢化社会の加速する日本の諸問題に、ノンフィクション作家の新郷由起氏が迫った書籍『 老人たちの裏社会 』(宝島社)を引用。いつ我が身に降りかかってもおかしくない孤立死の現状について、具体例と共に紹介する(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆ ◆ ◆

「厄介ごとにはかかわらない」という空気

 生活に足る経済力があれば、無縁のまま生き続けられるのが現代社会だ。閉じこもりの生活を貫き、孤立死への道を増長する背景には「自活可能な経済力」を抜きに語れない。これに、過剰な「プライバシー保護」の空気が追い討ちをかける。

 三十余年にわたり葬祭業に従事してきた家族葬専門葬儀社「オフィスシオン」会長の寺尾俊一氏が言う。

「本人が望めば『(自宅から)一歩も出たくない』が許され、認められる世の中です。『厄介ごとにはかかわらない』時世において、孤立死の現場は最も敬遠されるもの。第一発見者は容疑をかけられることもあり、何かと手間や面倒がついて回るため、“死んでいるらしい”気配があっても『誰かが通報してくれれば』と先送りされ、発見が遅れる事例は多数にのぼります」

自活能力のあることが裏目に

 これには“お年寄り”と呼ぶにはまだ若く、自活能力のあることが裏目に出る。

 例えば、生活保護受給者や後期高齢者の場合では民生委員や家主などが注視し、場合によっては定期的な訪問も受ける。介護保険のサービス利用者宅には絶えず人の出入りがあり、高齢になるほど施設入居率も増える。が、経済力があって、見た目に健康そうな中高年男性は周囲からも注意を払われにくいのだ。

「新聞や牛乳の配達員も、配達物がかなり溜まっていても『旅行かもしれない』『詮索するのは失礼』と、見過ごすケースは多い。また、故人が離婚した男性の場合では、別れた妻へ連絡を取ってもほぼ九分九厘、赤の他人扱いで取り合ってはもらえません」(同前)

孤立死の現場は作り物のCG映画の比ではない

 近年、東京都監察医務院に搬送される高齢者の遺体の3割が孤立死とされるが、自宅で一人で事切れた際、最も問題なのは「いつ発見されるか」だ。死因や状況、季節にも左右されるが、1~2日以内であれば亡骸の傷みも比較的少なく、搬送や検証、のちの現場処理の負担も軽くて済む。無論、時間が経つにつれ遺体は腐敗が進み、壮絶な悪臭を放ちながら凄惨な姿に朽ち果てていく。畳や床には溶けた皮膚や肉が、壁や天井には強烈な臭いが、日を追って奥深く浸透し続ける。

 県警鑑識官の中沢氏が重い口ぶりで語る。

「どんな密室の遺体でも、大抵は必ず数日でウジが湧きます。口や肛門から入ったウジ虫は体中から内臓や筋肉を食い荒らし、遺体を膨らますように皮膚の下からボコボコと動く。次いでゴキブリやネズミが集まり、過去にはゴキブリの甲冑を着ているのかと見間違えたほどの亡骸もありました。さらには、カツオブシムシという虫(甲虫目カブトムシの一種)がたかって干乾びた肉を食べ尽くし、白骨化した遺体もある。現場は作り物のCG映画の比ではなく、直視に耐えない光景と凄まじい悪臭に失神した同僚もいます」

臭気の凄まじさは筆舌に尽くしがたい

 その上で、のちに「誰がどのように家を片づけるか」の問題が続く。主人を失い、引き取り手のない物品はすべて、主の死の瞬間を境に膨大な量の不要品と化す。時間と体力のある親しい血縁者が近くにいれば話は別だが、縁者が遠方にいたり、体力の乏しい高齢者ならば、とても身内だけで片づけられるものではない。それがゴミ部屋だったり、発見が遅れた悪臭と虫の巣窟であったら尚更だ。

 業者に依頼すれば最低でも十数万円を越す費用がかかるが、故人の縁者が不明だったり拒否したりなどすれば、賃貸物件ではやむなく、家主がすべてを負担せざるを得ないケースも相次いでいる。

 前出の中沢氏が言う。

「遺体の腐敗が進んで長く放置されていた場合、遺品をはじめ、あらゆる物に臭いが染みつく。集合住宅では、下階の天井からも臭い続けるほどです。壁紙や畳、床を剥がして何度消毒しても早々には臭気が抜けず、場合によっては半年から1年くらい、室内をがらんどうにして外気を通す必要も生じます」

 事実、臭気の凄まじさは筆舌に尽くしがたい。警察官や清掃業者、葬儀関係者などが皆一様に「何と表現したらよいかわからない臭い」と口を揃えるのも頷ける。どの現場に立ち入っても、あの独特の臭いを言い表せる妥当な言葉は見つからない。とにかく「凄まじい臭い」としか言い様がないのだ。どれだけ言葉を尽くしても、現場の悪臭を他の何かの臭いで代弁して伝えるのは不可能だろう。それほどに日常生活のなかで誰もが知っている臭いとは“種類”が違うのだ。

防塵マスクをしていても、鼻をかむと真っ黒な鼻汁が

 数々の現場では必ず防塵マスクをして臨んだが、帰宅後に鼻をかむと決まって真っ黒な鼻汁が出てくる。これがまたとても臭い。加えて、何度風呂に入っても数日間は“あの臭い”が抜けない。食事をするときもすべてが“あの臭い”に侵されてしまう。

 後で知ったが、鼻腔の奥の窪くぼみに現場のホコリで生成された「臭い玉」のような物体が居残るのだ。これが鼻の中にずっと居座るため、数日後に鼻をかんだ際にようやく外に出てくるまでは、いつまでも臭いに悩まされることになるのだった。

 若手の鑑識官のなかには「現場がトラウマになって転属願を出したり、退職したりする者もいる」(前出・鑑識官)というのも、無理のないことだと思わざるを得ない。

幼少時に数回会っただけの叔父の遺体を引き取る

 ではここで、孤立死が発見されてからの一連の流れを簡単に辿ってみよう。

 まず、通報を受けた警察の現場検証が行われる。遺体の外傷を確認し、直腸温度を計って大まかな死亡時刻を暫定した後で、亡骸はいったん、警察署へ搬送される。親族や身元保証人には、この前後で連絡が取られ、医師による検案と必要に応じて解剖が行われた後は、明らかに事件性のある場合を除き、遺体は遺族の引き取りとなる。引き取り拒否や引受人不在の場合では福祉事務所等、市区町村での行政扱いとなるが、いずれの場合も処遇が決まるまでの間は、葬儀業者の保冷庫で保管されることが多い。

 故人が単身者の場合では、相続の対象となる甥や姪が一報を受けるケースも少なくない。

「最初は誰のことか全くわかりませんでした」と、5年前に叔父の訃報を受けた埼玉在住の48歳主婦が回顧する。

「突然、大阪府警から『○○さんが亡くなったので遺体を引き取ってほしい』と電話がかかってきたんです。まるで覚えがなく、十数分の押し問答の末、ようやく亡き父の音信不通になっていた弟だとわかりました」

「ピンクの綿アメ1個が随分と高くついた」

 血縁とはいえ、大阪に住んでいた幼少時に数回会った記憶しかない。

「写真もなく、顔も思い出せない。唯一の思い出は縁日で妹と一緒に綿アメを買ってもらったことだけ。母は特養施設に入居中で相談できる状態になく、夫と話し合って私が引き取りに行くことにしました」

 大阪へ出向いて亡き叔父と対面し、早々に火葬した後は、居住アパートの片付けと清掃を業者へ委託して諸手続を済ませた。その後、埼玉へ戻って亡父の墓に遺骨を埋葬した頃には「すでに100万円を超す出費になっていました。見過ごせなかったとはいえ、叔父に遺産はなく、実のところ『降って湧いた災難』の心境でした。幸い、死後2日で発見されたため室内の汚れが少なく、清掃費用が低く済んだのがせめてもの救い。ピンクの綿アメ1個が随分と高くついたものです」と苦笑した。

引き取る場合は火葬までに最低でも30万円

 福祉葬を多く手がけ、直葬の専門ブランド「ダビアス」を展開する葬儀社「神奈川こすもす」の清水宏明代表が打ち明ける。

「搬送費用や保管料等を含め、引き取る場合は火葬までに最低でも30万円は必要です。これに遺品処理や納骨での費用も加わるため、『気持ちはあっても経済的に引き取れない、引き取りたくない』という遺族も大変多い。近年、火葬だけで送る“直葬”が増えている要因の一つでもあり、たとえ血縁であっても、関係が密でなければ知人以下の扱いとされるのが偽りのない現実なのです」

 近年、親きょうだいとも縁が切れて“無縁”化する実態について、高齢者の身元保証と生活支援を行うNPO法人「きずなの会」の杉浦秀子・東京事務所所長(当時。現「一般社団法人フェリーチェ結う」代表)が指摘する。

「身内から見放されている人は、それなりの経緯があってかかわりを拒否されている場合が多いのです。たとえ今は好々爺でも、過去に金銭トラブルや暴力、浮気などいろいろな諍いさかいを起こしているケースも少なくありません。また、親の遺産相続でもめて、きょうだいが疎遠になる中高年は相当数にのぼります。さらに、賃貸住宅や施設入居の保証人を依頼して断られると、その瞬間に縁も絆も切れてしまう。一度亀裂が入ると、他人でないだけに妥協して譲り合えず、関係修復は不可能となって、血縁がいてもいないのと同じ状態に陥るのです」

「血の繋がり=頼みの綱」にはならない

 今や必ずしも“血の繋がり=頼みの綱”にはならない。核家族化が進み、親戚付き合いも「煩わしい」と疎遠になりがちなご時世で、住まいすら世界規模で点在化している。

 前出の清水氏が続ける。

「いくら関係が良好でも、血縁者が遠方にいたり、かかわりのある人が近くにいなければ、誰でも孤立する可能性があります。孤立死に関しては、周囲にどれだけ『人がいるか』ではなく『縁を築けているか』がポイントで、住まいの大小も、貧富も関係ありません」

“誰にも看取られずに一人で逝く”といっても、内実は様々

 薄い壁で仕切られた簡易宿泊所でも、腐乱死体となってから発見される孤立死もある。一方で、川辺のテントを住処とするホームレスの高齢者が、死の数時間後に仲間に見つけられ、適切に対処されて手厚く葬られたケースもあれば、親子で住む二世帯住宅で1週間以上放置された遺体が近隣者の通報で搬送された事例もある。

 実際、“誰にも看取られずに一人で逝く”といっても、内実は様々だ。

 農村地では田畑の中で一人倒れたまま、数日以上見つけられなかった死もあった。

 溶けた肉がドロドロになるまで、24時間風呂で延々煮込まれて白骨化した遺体や、和式トイレで力んだ拍子に脳出血となり、トイレットペーパーを握り締めて仰向けに倒れたまま、ミイラ化して発見された亡骸もある。

 また、主の死がわからず、腐り始めた遺体に幾度となく頬ずりをして、体の一部を血塗れにしながら寄り添う飼い猫と一緒に発見された高齢女性や、密室で亡き主人の腕を食べて命を繋いだ愛犬とともに見つけられた初老男性もいた。

 加えて、自身の価値観と生き様に準じた孤立死もある。

信念があっても、発見が極端に遅れることが問題

「国の世話になるなら死んだほうがマシ」と、生活保護を受けずに困窮した生活を続け、病院にも行けずに栄養失調から死に至るケースや、未婚の年配女性が「人前で裸になったり、肌を晒したりするのは恥」と検査や手術を拒んで病気を進行させ、自室で死を迎えた例もある。

「己の信念に基づいて、孤高に死ぬのは立派なこと。ただ、発見が極端に遅れることが問題なのです」と、法医学に携わる医師が断言する。

「突然に襲われる脳溢血や心不全での急死は、絶命までにわずか数秒から長くても1分以内の猶予しかありません。死においては、とかく助かるのを前提に議論されることが多いが、突然死の場合、たとえ名医が側にいても救命はかなわないのです。老人の定義は『死を待つ人』で、高齢者は脱水だけで簡単に死に至ります。その“瞬間”を一人で迎えるか、周囲に人がいるなかで終えるかは、多くの場合で天命に左右されるのだということを、誰もがまず前提として踏まえておかねばならないでしょう」

【前編を読む】 「寿命を3年は縮めてやったわね」「迷惑だから長生きしないで」高齢化大国日本で加速する“老人同士”の凶行DVのリアル

(新郷 由起)

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