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「小泉首相も知っているはず」拉致問題のかたわらで進行していた闇深い“北朝鮮開発プロジェクト”の実態

文春オンライン / 2021年4月12日 17時0分

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©iStock.com

水谷功が築いた「北朝鮮」とのゼネコン利権 仕掛け人の拉致被害者家族への“裏切り”とは から続く

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◇◇◇

ODA利権

 04年5月22日、二度目の小泉訪朝が実現した。そこで、小泉は拉致被害者家族の帰国を取り付けた。そうして日朝双方ともに、ますます国交回復ムードが高まっていく。ピクリとも動かない今の日朝関係からすると、信じられないような展開だ。

 戦後賠償を含めた発展途上国の開発援助事業は、その実、日本企業や国会議員利権の温床とされてきた。ODAなど日本政府から拠出された資金でおこなわれる開発事業は、日本側のゼネコンがその大半の工事を受注する。最終的に利益として日本企業の懐に転がり込む仕組みだ。おまけに、利益の一部が裏金化するケースも少なくない。中古重機取引を駆使した水谷建設の裏金づくりも、まさにODA絡みの資金工作である。

 いきおい、各界の思惑が交錯し、立場の異なる利害関係者が、その甘い蜜に群がった。開発事業を受注したい商社や開発業者は、援助国政府とのパイプづくりのため、そこに連なる有力政治家に接近する。結果、いたるところで接待攻勢や賄賂が横行してきた。

関係者のだれもが見逃せない大事業

 そんな海外の開発事業のなかで、北朝鮮のインフラ整備は、関係者にとって見逃せない大事業だ。日本と北朝鮮の国交が回復した場合、その開発事業は少なく見積もっても1兆円規模といわれる。最終的には3兆円を超える、との予測もある。いわば、日本の開発業者にとって最後に残された大規模開発援助事業といえた。

 なかでも国交回復後の北朝鮮のインフラ整備は、商社やゼネコンなど日本の企業が舌なめずりしてきた事業だ。1990年9月、自民党の金丸信が訪朝したあと、北朝鮮は電話通信網が一挙に整備された。そこにNTTの回線が使用され、整備計画全体には日本の商社が深く関与してきた。インフラ整備事業で企業が受注競争に勝ち残るため、事業の先鞭をつけるべく北朝鮮とのパイプ役を探す。そこにさまざまな利権が生まれた。

 日朝交渉が盛りあがっていたこの時期、北朝鮮とのパイプづくりに躍起になっていったのは小坂だけではない。大手、準大手ゼネコンの国際営業担当者が訪朝を計画し、話題になったケースもあった。

すっぱ抜かれたゼネコン10社の訪朝

 04年10月19日、スーパーゼネコンの一角「大成建設」が幹事となり、ゼネコン10社が訪朝を計画する。朝鮮総連を窓口にし、北京経由で北朝鮮入りしようとするのだが、瀋陽滞在中、訪朝情報が漏れ、新聞にすっぱ抜かれるや、大騒ぎになる。訪朝団の担当者は、本社から帰国命令が下され、急きょ北朝鮮視察を中止した。騒動は、北朝鮮視察の幹事社だった大成建設に右翼活動家が発砲する事件にまで発展した。

「実は、ゼネコン数社は問題になった訪朝の前にも、大成さんを中心とした事前視察として向こうに行っていました。報道された計画より1年近く前の03年11月3日です。しかし、そのときは何の問題にもならなかった。それで、翌年の計画を立てたわけです」

 訪朝団に参加した業者の1人が訪朝秘話を明かす。

「ただ、拉致被害というナーバスな問題もありましたからね。すでに被害者の方たちの帰国が予想されていたので、今度はその前に行こうとしていた。ところが、朝鮮総連を通じた北朝鮮政府の許可がなかなか下りなかったのです。それで訪朝が10月までずれ込んでしまった。タイミングとしては、最悪でした」

噴き出した国内世論の批判

 02年の第一次小泉純一郎訪朝により、13人の拉致被害を認めた北朝鮮からまず5人の被害者が帰国した。だが北朝鮮政府は、残る8人については生存していない、と強硬に突っぱねる。おまけに5人の拉致被害者たちに対し、一時帰国なので北朝鮮へ戻すよう、頑なに主張してきた。しかし、被害者たちはみずから日本に残る選択をする。非常にナーバスな時期である。

 あくまで日本政府は、拉致被害者の夫や子供たちの帰国を北朝鮮に要請し続けた。ようやくそれが実現したのが、04年5月22日だ。このあたりから、生存者の調査もろくにおこなわない北朝鮮に対し、くすぶり続けていた国内世論の批判が一挙に噴き出す。大成建設を団長としたゼネコンの訪朝はその真っただ中の出来事だった。それだけに、風当たりが強かったといえる。訪朝団の1人が悔やむ。

目くらましのための訪朝情報リーク

「ちょうど拉致被害者の方の帰国が実現したあと、向こうから入国のOKが出たのです。われわれの視察なんて、観光に毛の生えたようなものでした。前年にも視察しているわけだし、その前だったらさほど問題にならなかったかもしれません。それでいて、なぜわれわれだけが批判にさらされてしまったのか。考えてみると、もっと本格的な計画をしているところがあった。それらの目くらましのためにわざと訪朝情報をリークされたのではないか、とさえ疑ってしまいます」

水面下の電力使節団「錦織レポート」

 あまり知られてはいないが、このころ日朝のあいだには、水面下でさまざまな動きがあった。まさに同時期、電力使節団による事業計画まで進行していたのである。

〈2004年7月 朝鮮民主主義人民共和国への電力使節団派遣記録〉

 表紙にこう書かれた小冊子がある。04年6月29日から7月6日にかけて訪朝したときの紀行日誌だ。表題にあるとおり、日本の電力使節団が作成した詳細な記録である。使節団の団長は、「有限会社錦織技術事務所」代表取締役の錦織達郎という。

 訪朝使節団の団長、錦織達郎は1928年生まれ。52年に東大工学部を卒業後、関西電力に入社したエリートエンジニアだ。85年に子会社の建設コンサルタント会社「ニュージェック」に天下り、長年同社の社長、会長を務めてきた。インドネシアやフィリピン、ベトナムなど、もっぱら東南アジアにおける電力開発事業に携わってきた人物であり、電力業界では、知る人ぞ知るODA開発のスペシャリストである。レポートにあるように、錦織技術事務所代表という肩書きを持ち、発展途上国を飛び歩いてきた。

 ODA開発のスペシャリストによる訪朝の目的は、言うまでもない。関西電力が進める北朝鮮国内の発電所建設プロジェクトである。関係者たちは、小冊子にまとめられたくだんの訪朝日誌を「錦織レポート」と呼んだ。

 02年9月の小泉電撃訪朝から2年近くが経過しようとしていた。表向き、拉致問題を中心に動いていた日朝交渉は、一進一退どころか、完全にこう着状態に陥っているかのように見えたころだ。

密かに進行していたプロジェクト

 だがその実、日本企業による北朝鮮の開発プロジェクトだけが、密かに進行していたのである。しかもそれは、小坂のような得体の知れない人物の計画ではない。

 くだんの「錦織レポート」の冒頭ページには、次のように書かれていた。

〈ここに至るまでの経緯としては、2000年11月と2002年11月に私(錦織達郎)が訪朝し、金進哲先生(アジア、アフリカ団結協力委員会委員長)をはじめ、関係者と共和国のインフラ整備について話し合った。

 また、2001年3月に共和国の技術者4名を我が国に招聘し、大阪、神戸、東京を案内した。

 こうした状況の中で、共和国からの要請もあり日本国内の窓口会社として、株式会社レインボー(その後明星に商号変更)を設立し、その役割を果たして来たが、中心になって業務を遂行していた代表取締役が体調不良となり休眠状態に陥った。その善後策について共和国と相談の結果、2002年9月新たに錦織技術研究所を設立し、インフラ整備の業務を引き継ぐことになったものである〉(原文のまま引用・以下同)〉

知られざる金正日将軍の直轄部隊

 ちなみにここに登場する〈明星〉は、小坂やレインボーブリッヂとは関係ない。日本国内に設立されていた北朝鮮シンパのコンサルタント会社だ。また、在日団体の朝鮮総連傘下の企業でもない。朝鮮総連の幹部が内実を明かす。

「本国は、日本の窓口としてわれわれ在日朝鮮人組織である総連を使うように見られていますが、それとは別に動く金正日将軍の直轄部隊や企業があります。その一つがこの明星です。明星は金正日将軍様ご自身のことを指す言葉です。在日企業でありながら、将軍様を示す商号が使える。その意味については、想像がつくでしょう」

 錦織はこの〈明星〉の業務を引き継ぐほど、北朝鮮政府と深い関係を築いていた。関電が進めてきた北朝鮮プロジェクトは、それと同時に北朝鮮の専制君主による指令で進められていた計画だった。

「小泉首相も知っているはずです」

 プロジェクトに参加していたのは、関電の関係者ばかりではない。錦織技術事務所には、代表の錦織以下、8人の技術者や総務担当者が集結。国土交通省や日本道路公団のOBが役員を務める会社の代表者が研究員として参加し、総合商社の丸紅OBなども顧問に入っていた。かなり大がかりなプロジェクトだ。関電の取引業者が話す。

「今回のプロジェクトには大手商社や重機メーカーなども参加しています。もちろんこの動きは、小泉首相も知っているはずです」

 拉致問題に対する国民感情としては、許されないかもしれない。だが、これが国交正常化を見すえたこの間の政治や企業のありようだったのである。「錦織レポート」には、次のような記載もある。

〈当社(錦織技術事務所)の設立と時を同じくして、小泉首相が訪朝する等日朝間の国交正常化に向けた大きな動きがあったものの、その後進展が見られず一進一退の状況の中で、共和国の電力事情が更に悪化していることから、当社は国交正常化後の電力関係を主体としたインフラ整備について共和国の電力・石炭工業省と打ち合わせを行なうとともに、金進哲先生にも書状で数回に亘り当方の考え方及び、取り組み状況を報告する等国交正常化後の対応について話し合いを進めて来た〉

 まるで、ときの日本政府と連動しているかのような事業の進め方である。さらに、こうも記されている。

〈その後、小泉首相の第2回訪朝を機に国交正常化への機運が高まったことから、当社は共和国のインフラ整備を本格的に遂行するための基本的打ち合わせをマレーシアのクアラルンプールで実施した。

 その結果をもとに共和国として最も重要かつ早期整備を必要とする電力関係について、共和国技術者と技術交流するため電力関係技術者総員8名を第1回使節団として派遣したものである〉

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(森 功/文春文庫)

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