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中西輝政氏緊急提言《米中新冷戦》第1ラウンドは米国の“作戦勝ち” バイデン政権はなぜ対中強硬路線に舵を切ったか

文春オンライン / 2021年4月11日 6時0分

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バイデン大統領 ©️時事通信社

「新疆ウイグル自治区、香港、台湾、アメリカへのサイバー攻撃、同盟国への経済的威圧など、中国の行動に強い懸念を抱いている」

 3月18日に米アラスカ州アンカレジで開かれたバイデン政権下初の米中対話。冒頭発言でアメリカ側のブリンケン国務長官がこう中国の姿勢を非難した。

 今年1月のバイデン政権発足直後は「中国に対し、融和的な政策を取るのではないか」と指摘されてきたが、今回の外相会談に象徴されるように、米国の態度は変わったように見える。米中の新たな対立は「米中新冷戦」の始まりと指摘されるほどだ。今後の米中の覇権争いはどう展開していくのか。国際政治が専門で京都大学名誉教授の中西輝政氏に聞いた。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

中国を「唯一の競争相手」と名指しで批判

 バイデン新政権の対中政策は、予想以上に強硬な姿勢を示してスタートを切りました。「自身が副大統領を務めたオバマ時代のような関与政策に戻って、中国を甘やかすのではないか」という見方はこれまでのところ覆されています。

 理由の第1は、議会を中心とした米国国内の世論が中国に大変批判的になっている現状を意識していること。

 第2は、国内の政治基盤、主としてバイデン大統領から距離を置こうとする民主党内の左派勢力に、人権重視で中国に迫る姿勢を見せるためです。

 国外に向けては、人権問題に考慮を払わなかったトランプ政権との違いを示すと同時に、世界におけるアメリカのリーダーシップを確保しようとする狙いがあります。人権と民主主義の推進という価値観の問題で先頭に立つ姿を世界に示すことで、トランプ時代に評価を落としてしまった大国としての地位を回復させる目的です。

 バイデン大統領としては、対中融和に転じるのではないかという前評判を打ち消し、トランプ政権の対中強硬路線を受け継ぐ姿勢を内外にはっきり示す必要がありました。

 その点で、この3月、アメリカの対中外交はまず非常に活発にジャブを繰り出すと同時に、用意周到でした。同月3日に、国家安全保障戦略の暫定的なガイドラインを打ち出し、中国を「安定した開放的な既存の国際秩序に絶えず挑戦する、唯一の競争相手」と名指しで批判しました。

インドが対中抑止の陣営に入った歴史的意義

 3月12日、バイデン大統領の主導で、日本の菅義偉首相、オーストラリアのモリソン首相、インドのモディ首相との初めての「日米豪印首脳協議(クアッド)」をオンラインで開きました。ただし、これは軍事同盟ではなく、4国で中国を外交的に抑止するための協力体制なので、今回はワクチン外交で中国に対抗するべく、4カ国主導の枠組みなどを決めるにとどまりました。

 しかし、あまり中国に対してはコミットしたがらなかったインドが対中抑止の陣営に入り、開催の定例化に合意したことには歴史的意義があります。インド太平洋地域に影響力を広げようとする中国の「一帯一路」の動きに対して、タガをはめたことになるからです。安全保障や海洋問題に限らず、ワクチンなどソフトな領域でも「中国の好きにはさせない」という意思を示したわけです。

 さらに16日にはブリンケン国務長官とオースティン国防長官が日本を訪れ、新政権としては初の対面での「日米安全保障協議委員会(いわゆる2+2)」を開きました。その2日後にはソウルに移動して、今度は「米韓2+2」を開きました。

 つまり、そうやって同盟国との会合を体系的に積み重ねて中国をけん制した上で、19、20日にアラスカで米中の外交トップ同士の直接会談に臨みました。冒頭、ブリンケン国務長官は取材するメディアを前に、台湾問題や、チベット、ウイグル、香港の人権問題などで、対中批判の核心をぶつけました。これは、アメリカ国内にも国際社会にもバイデン政権の強硬な姿勢を見せておきたいという動機に基づく作戦です。

中国が逆ギレした勇み足のように見えた

 中国側はその戦術に乗せられ、過剰反応したのか、外交のプロである楊潔篪政治局員でさえ踏み込みすぎた対米批判の反論に出たのでした。中国国内や習近平指導部の厳しい目を意識してか、きわめて強い口調で20分も反撃したことが、かえって中国側の狼狽ぶりを示し、逆ギレした勇み足のように見えたのです。

 特に、全体主義の政治体制による中国の人権蹂躙問題と、アメリカ社会の人種差別問題を混同したような反論に及んだのは、そうした狼狽ぶりを表していました。中国は痛いところを突かれたんだなと国際社会の目に映ったはずです。

 アメリカ側は入念に準備を行ない、戦術的にうまく対応したといえます。そこに、アラスカ会談初日の見どころがありました。「バイデン政権は対中強硬だ」と、多少過度に演出したのかもしれません。

 というのも、非公開だった2日目の会談は一転して、気候変動問題などで協力する話し合いをしたようです。北朝鮮やイラン、アフガニスタンへの対応も話題に出たようです。

 実際、バイデン大統領自身も、25日に行なった就任後初の記者会見で、対中関係について「民主主義国家と専制主義国家の闘い」と厳しく語る一方、4月にオンラインで主催する気候変動に関する主要国首脳会議には、習近平主席とロシアのプーチン大統領も招待するとしています。

バイデン政権の本質は「切り分けのアプローチ」

 人権や安保などアメリカの国益に反する局面では中国・ロシアには強硬かつ敵対的に対処し、気候変動など共通の課題では協力するというわけです。ただし、これを「表では殴り合って裏でニコニコ握手する」二面性のある態度だと単純に受け取るのは間違いです。「切り分けのアプローチ」と私は呼んでいますが、協力できるところは協力するという体系的かつ現実的な2本立ての外交戦略が、バイデン政権の対中政策の本質なのです。

香港の「一国二制度」は完全に踏みにじられた

 そこで今後、大きな焦点となってくるのは香港の問題でしょう。米国務省の報道官は30日、中国政府が香港の選挙制度変更を最終決定したのを受け、「香港市民による政治参加と議員選出の余地を一段と狭める動きだ」として強く非難し、香港の立法会(議会)選挙の再延期に深い懸念を表明しました。

 その選挙制度の変更とは、香港の立法会選挙に立候補しようとする人物が、北京政府によって国家に忠誠を尽くしていない、と判断されれば立候補が許されず、またそれに対する異議申し立ても一切認めないとする規定のことです。さらに立法会の定数も70から90に増やされ、同時に直接選挙枠が現行の35から20議席に減らされることになりました。これで、昨年施行された「香港国家安全維持法」と相まって、1997年の香港返還の際の国際公約でもあった、返還後も香港の民主主義を維持するといういわゆる「一国二制度」は完全に踏みにじられたことになりました。

 これに加えて、新疆ウイグル自治区での人権侵害も世界的な大問題となっています。

 こうした経緯を見ても、人権と民主主義を掲げるバイデン政権のアメリカが、中国に強硬な政策に打って出ているのはいわば当然のことでもありましょう。

10年前とはまるで変容した中国への「世界の見方」

 私はそもそも昨年の大統領選挙の前から、共和党のトランプ、民主党のバイデン、どちらの候補が当選しても、アメリカの対中政策はもうすでに歴史的に転換しているので、基本的に変わらないと指摘していました。なぜなら、現在の中国は、10年前の中国とはまるで変容してしまったからです。

 尖閣諸島に対する中国公船による侵犯行動を見ていても明らかなように、習近平指導部の非常に強硬な対外姿勢や、ウイグルや香港における人権弾圧、さらに昨年、新型コロナウイルス発生当初に情報を隠蔽してパンデミックを引き起こした責任。こうした点を見て、この1年余りの間で、中国の振る舞いに対する見方を変え、中国に対する国際世論は大きく変わりました。「中国は経済的に豊かになれば徐々に民主主義へ移行するだろう」という予測は、実現しないことを世界が悟ったのです。

 例えば、これまで親中的だったヨーロッパ諸国、とりわけ経済的に強く中国に肩入れしていたドイツでさえも、この1年の間に中国の脅威をグローバルなものと捉え、NATO同盟も今後、中国に対しては冷戦時代のソビエトのように対処しなければいけないという認識に変わりました。

 そういう国際世論の大きな流れも加味しながら、今後バイデン政権の対中政策がさらに緊密な同盟国との協力の上に組み上げられていくことは間違いありません。オバマ時代のような「世界の警察官にはならない」という姿勢に戻ってしまえば、中国のさらなる増長を招き、世界がアメリカについて来なくなることを、バイデン大統領は十分に自覚しています。

共産党指導部から「習近平では経済がダメになる」

 過去12年のアメリカ外交を振り返ると、オバマ大統領は弱々しいアメリカファースト主義だったといえます。他方、「対中強硬」を掲げつつも、極端なアメリカ第一主義で同盟国との協力に後ろ向きだったトランプ政権は、アメリカは世界から手を引いていくべき、と考える孤立主義という点でオバマ政権と共通していたのです。

 とはいえ、他の政策領域では「アラ」が目立ったトランプ政権でしたが、対中政策を、ニクソン以来の中国に甘い関与政策から一転させ、強硬に対処する必要をアメリカ世論に受け入れさせた功績は大きかったと思います。

 2018年10月、トランプ政権のペンス副大統領が、非常に強硬な反中国演説を行ないました。まず通商問題、軍事、外交などで中国に対抗する方針を明らかにした。そして経済や科学技術など、中国が国際社会の大半を引っ張っていくだけの力がまだ及ばない領域、言い換えれば依然としてアメリカが世界の主人公として力を維持している領域で効果的に中国を締め上げれば、習近平体制は揺らいでくると述べたのです。

 つまり、経済や貿易が停滞したり、半導体などの調達が難しくなったり、ファーウェイなどの先端企業が世界市場から切り離されていけば、中国共産党の指導部や有力な支持基盤から「アメリカとこんなに対立したら、やっていけないんじゃないか」とか「習近平では経済も駄目になる」という声が出て、体制が揺らぎ始めるのではないか。そんな見通しがペンス演説以降、アメリカの対中政策に一貫してあるように思います。

バイデン大統領が担った「破壊」のあとの「建設」

 こうして、対中政策という点では、バイデン政権はある意味、トランプ政権の遺産の上に立っているといえるでしょう。中国に対する強硬さを受け継いで国内の支持を確保していることは、トランプ政権が課した制裁関税を撤廃しないことでもわかります。共和党の自由貿易主義をトランプ前大統領が捻じ曲げ、国内の雇用を守るために保護貿易主義をとる民主党のバイデン政権が、それを受け継ぐ形でラストベルト地帯などでの政治的な支持基盤の強化に利用しているわけです。

 ニクソンからオバマまで伝統的に寛容だった対中政策を、トランプ大統領がいわば木っ端みじんに破壊しました。バイデン大統領はこのトランプ政権による「破壊」のあとの「建設」の役割を担い、新しい対中戦略を編み上げる作業を目下推進しているわけです。

( #2 へつづく)

中西輝政氏が徹底解説「米中新冷戦の地政学」中国指導部で習近平への懸念が噴出 台湾、ウイグル、香港問題… へ続く

(中西 輝政/Webオリジナル(特集班))

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