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談合決別宣言間際の小沢一郎と二階俊博の“不正献金”問題 「関西談合のドン」が語る“和歌山事件”の現場とは

文春オンライン / 2021年4月27日 11時0分

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©iStock.com

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◇◇◇

元に戻った建設談合の再摘発

「私は30年近く、業界の仕切り役を務めてきました。国会議員はもちろん、市議会議員などの先生方のところへも、幾度となく足を運んだ。たいてい手ぶらというわけにはいきません。4年前には、『天の声』(編集部注:公共工事における入札の際、国交省や地方自治体の関係者を一声で黙らせ、水面下で受注業者を決める絶対的指示を意味する業界の隠語)を下してもらうため、和歌山県知事の関係者へ現金を渡した。それが事件となり、検察の取調べを受けました。そんな経験から西松建設事件の公判を見直すと、隔靴掻痒というか、とても違和感を覚えてきました」

 東急建設顧問だった「関西建築談合のドン」の一人、石田充治は、みずからかかわった事件を振り返りながらこう語った。天の声を出してもらった4年前の出来事とは、2006年に摘発された和歌山県知事の汚職事件を指す。

 元自民党副総裁の金丸信逮捕から派生した93年のゼネコン汚職から、すでに13年が経過していた。宮城県知事、茨城県知事、仙台市長といった地方の首長から、建設大臣経験者にいたるまで逮捕されたゼネコン汚職により、談合自粛ムードが高まったはずの建設業界は、西松建設常務の平島栄による告発騒動を経て、いつしかもとに戻っていた。そうして再び捜査当局が、建設談合のいっせい摘発に乗り出す。全国の検察や警察の捜査を牽引した。それが、東京と大阪の両地方検察庁特別捜査部(特捜部)だった。

関係者を震え上がらせた東西地検特捜部による捜査

 この年の10月23日、まずは東京地検が福島県の前知事佐藤栄佐久を逮捕した。その東京と競うように翌11月15日、大阪地検特捜部が和歌山県知事の木村良樹を検挙する。容疑は競争入札妨害(談合罪)や収賄だ。ゼネコン汚職以来の談合摘発の嵐が、再び日本全国に吹き荒れたといえる。12月8日には、宮崎県知事だった安藤忠恕が県警に逮捕された。東西の両地検特捜部による談合捜査が、ゼネコン関係者や地方の首長、建設・運輸族議員たちを震えあがらせたのは、言うまでもない。

 そしてこれら一連の談合摘発は、さらに3年後、政治とカネの問題としてもう一度火を噴く。こうしてみると、93年のゼネコン汚職も、06年の談合摘発も、いわば09年に発覚した政治資金問題に連なっている伏線のように感じる。焦点の水谷建設から小沢一郎事務所へわたった裏献金疑惑もまた、福島県知事汚職の摘発がなければ浮上しなかったに違いない。

838万円分のパーティ券

 09年に浮上した政治資金問題で小沢とともに東京地検の捜査対象となってきた二階俊博には、西松建設のダミー政治団体に838万円分のパーティ券を購入してもらっていた事実が判明する。

 小沢にしろ、二階にしろ、09年の政治資金規正法違反事件は、かつて摘発された特捜事件の延長線上にある。いわば06年の2つの事件があったからこそ、民主党の小沢一郎や自民党の二階俊博の政治とカネの問題につながったという見方もできる。小沢にとってはそれが福島県知事事件であり、二階については和歌山県知事汚職が、政治資金規正法違反捜査の引き金になっている。二人の実力政治家に対する献金の多くは、05年末にゼネコンが談合決別宣言をする間際、駆け込み的に発生していた。

金丸、玉置の談合地盤を引き継いだ

「二階について、何か聞いていないですか。たとえば関空(関西国際空港)などで、面白い話とか、ないかなぁ」

 2006年9月、東急建設の常勤顧問だった石田充治は、大阪地検の特捜検事から執拗な尋問を受けていた。特捜部が手掛けた和歌山県知事談合事件の取調べの最中の出来事である。「二階」が元国土交通大臣、二階俊博なのは改めて注釈するまでもない。

 二階は1939(昭和14)年2月、和歌山県御坊市に生まれた。和歌山県議だった父親のあとを継ぎ、75年に県会議員選挙に当選する。県議出身だけに、地元和歌山の政治にはことのほか精通していた。二階は中選挙区制時代の83年、旧和歌山2区で自民党田中派から国政に打って出た。支援者が語る。

「二階先生が国政に出た和歌山の選挙区は、玉置(和郎)さんの地盤だったのです。玉置さんの存命中は、最も関西の談合が盛んなころで、玉置さんは談合にドップリつかって利権を押さえていました。金丸信といっしょに『宗教政治研究会』(宗政研)という団体をつくりましてね。金を集める隠れ蓑みたいなダミーの勉強会ですけど、そこを使って金丸さんとつるんでいたのです。そういう金丸さんとの縁があって、玉置さんの亡くなったあと、元田中派の二階さんが玉置さんの地盤を引き継ぎ、小沢さんの下に入ったのだと思います」

 二階は自民党時代の田中派や竹下派、党を割って出た新生党でも、小沢一郎と歩みをともにしてきた。二階が運輸族のボスといわれるまでに力をつけた裏には、小沢や金丸の後押しがあったからにほかならない。もとはといえば、小沢一郎の懐刀の一人である。

現ナマで受注工作

 関空や神戸新空港の建設など、航空行政に絶大な影響力を行使してきた半面、二階は田中角栄に連なる親中派代議士としても知られる。地元の建設業者をはじめとした支援者を引き連れ、年に数回は中国を訪問している。

「二階の面白い話、ないかな」

 と東急建設顧問の石田に対し、和歌山県の建設談合捜査にあたっていた大阪地検特捜部が、この自民党運輸族議員に注目するのは無理もなかった。東急建設の石田はまさしく和歌山談合事件の当事者であり、和歌山事情にも詳しい。

 石田が和歌山県発注の公共工事の受注工作に奔走したのは、04年11月からだ。狙いは田辺市のIT総合センター建設で、次が県内の国道トンネル工事だった。石田は工事を請け負うため、県側に実弾攻勢を仕掛ける。石田本人が、事件当時を思い返して言った。

「もとはといえば、このときの一連の和歌山県発注の工事は、スーパー(ゼネコン)大林組の仕切りによって、受注先が決まっていました。それも談合といえば談合ですが、うち(東急建設)も最初は大林から今回はあきらめてくれ、と言われていました。しかし、あきらめきれない。そこで、大林の調整をひっくり返そうとして、現ナマという強引な手を使ったのです」

 談合はその仕切り役によって秩序が守られているうちは、たいてい発覚しない。だが、個々の会社の経営状態や景気動向に応じ、是が非でも工事を受注しなければならないときもある。そのときは、談合の仕切り役を納得させるための手段が必要になる。そこで最も有効な手段となるのが、「天の声」である。簡単にいえば、発注する側に「天の声」を出してもらえば、調整役も納得せざるを得ないため、工事を受注できるわけだ。実弾攻勢は、そのためのわかりやすい手段なのである。

 東急建設の石田は、関西ゼネコン談合の世界におけるボスの一人ではあるが、本分は建築部門であり、土木分野は専門外だった。しかし、東急の土木部門の談合担当者だけでは心もとないため、白羽の矢が立ったという次第である。二階問題に入る前に、「関西談合のドン」の一人が、みずからが関与した和歌山事件の談合現場を振り返った。

6500万円の実弾

「和歌山のトンネル工事を取るため、最初は土木の担当者が大林組に足を運んでいました。それで、東急はダメだと言われ、何とかならないかと土木の担当者から私に相談がきたわけです。ただ、建築なら、私でもなんとか話をまとめられるのですが、土木となると、そうそう口出しできない。大林の顧問が仕切っていてどうしようもなかった」

 とは石田本人の回想だ。

「幸いにも、私には知事へのパイプもありました。そこでやむなく知事側に働きかけることにしたのです。知事に食い込んでいたゴルフ場の経営者、井山義一氏に頼めばなんとかなる、と踏んでいました。トンネル工事の前年(03年)にも、私は井山氏に県が発注したITセンターの新築工事を頼んだ。このときには、彼に3500万円を渡していました。それと同じことをすればいい。そうして、問題のトンネル工事で、さらに彼のところへ3000万円を持って行ったのです」

 ITセンターの工作費と併せて6500万円。これが県側への実弾だ。

政官界と業界をつなぐ黒幕

 ここに登場する井山とは、表向き大阪・堺市にある「天野山カントリークラブ」という名門ゴルフ場の経営者である。天野山カントリーは1962(昭和37)年、智辯学園など学校運営でも有名な辯天宗の堺教区長だった井山の父親が発起人となり、辯天宗徒だった松下幸之助らの肝いりで設立された。27ホールの広大な敷地のそばには、辯天宗の末寺が点在する。大阪の中心地から自動車で1時間足らずの好立地に位置し、高級ゴルフ場として人気を呼んできた。日本プロゴルフ選手権などもおこなわれてきた名門コースである。井山は、若い時分のパチンコ屋勤めなどを経て、父親の後を継ぎ、このゴルフ場経営に乗り出した。

 身長180センチほどの威丈夫で押し出しも強い。もっとも本人は単なるゴルフ場経営者ではない。建設業界では、知る人ぞ知るフィクサーとされてきた。建設談合の世界には、しばしば政官界と業界をつなぐ黒幕的な存在がいる。それが井山義一である。

知事を操り公共工事を差配する調整役

 大阪府の副知事から和歌山県知事に転身した木村は選挙基盤が弱い。井山は木村のために建設談合組織を巧みに使い、政治基盤を固めてきた。太田房江の大阪府知事選に見られたように、談合組織は選挙の集票マシーンとして絶大な力を発揮する。かたや建設会社としても、知事に対する選挙協力は、地元政界に対する大きな貸しになるわけだ。そんな業界と政界を結びつける役割が、井山のような陰の存在といえる。

 そうして知事の木村は、次第に井山を頼り切るようになる。ゴルフ場の経営者に対し、県の政治顧問という肩書を与えて遇した。それが井山の存在をますます大きく見せる。そんな構図だ。

 事件における井山の役割は、知事である木村の威光をバックに、県内の公共工事を差配する調整だった。土木工事における談合のボスは、スーパーゼネコン大林組顧問の日沖九功だが、井山は日沖にも顔が利く。そうして県発注のトンネル工事で影響力を行使してきたのである。知事を操る黒幕、井山は和歌山県発注のトンネル工事において、その役割を果たしたといえる。

知事室へ運んだ1億1000万円の賄賂

 事件の渦中、井山は年間に数100万円もの裏金を木村へ恒常的に渡してきた。ブランド高級腕時計3個と合わせ、木村の金品受領総額は2000万円を超える。そのうち、知事室へ運んだ1億1000万円の現金が賄賂と認定され、贈収賄事件として立件されたのである。先の東急建設の石田が事件当時の記憶を呼び起こす。

「ゼネコン各社はどこもトンネル工事を取りたかったので、受注競争は激烈でした。スーパー(編集部注=大手4社のゼネコン)以外は、黙って指をくわえて工事を取れるわけがない。だからこそ政治力が必要だったのです。そうして大林組、ハザマ、奥村組が中心のJV(共同企業体)で、うちも何とか工事を受注できました」

 東急のトンネル工事の落札額は、11億7800万円にのぼった。トンネル工事で井山に渡したのは3000万円だから、落札額の2.5パーセントにあたる。1パーセントから5パーセントとされる工作資金相場の範囲内だ。事件では、東急建設をはじめ、各社の人間が軒並み検挙された。その工事の受注工作で、地検に追及されたその実体験に根ざした当人の告白にはやはり迫力がある。

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“二階俊博の弟に頼んだら免許がひと月で…” ミナミの「談合サロン」と二階事務所の不思議な関係 へ続く

(森 功/文春文庫)

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