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新しい落語の形とは?――この1年の「オンライン落語」を振り返る

文春オンライン / 2021年4月27日 11時0分

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落語のらりくらり

 新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年の落語界は未曽有の危機的状況に陥った。

 安倍首相(当時)からイベント自粛を求める声明があった2月26日以降演劇など多くの興行が中止/延期となったが、落語に関しては“消毒/マスク着用/換気”を徹底して開催した会も多く、3月末までは僕も従来どおり毎日のように落語会へ足を運んでいた。

 潮目が大きく変わったのは東京オリンピック/パラリンピックの開催を1年延期すると首相が発表した翌日、小池東京都知事が会見で“3つの密”を避けるよう強く訴えたことだ。これ以降、公演自粛の動きが急速に進み、4月7日の緊急事態宣言発出により寄席も休業、首都圏すべての落語会が中止/延期となった。

落語と“生配信”の相性の良さ

 もうナマの落語は当分聴けない。そう思って絶望していた僕を救ってくれたのが、オンライン配信落語だった。

 真っ先に動いたのは橘家文蔵後援会「文蔵組」主催の「文蔵組落語会」。4月9日の第1回は文蔵と三遊亭兼好の二人会。以降春風亭一之輔、立川談春、柳家喬太郎など豪華ゲストを迎えて4月中に4回実施。5月以降も精力的に開催された。

 4月14日には産経新聞社が「超落語Produced by S亭@ニコニコネット超会議2020 小痴楽・宮治二人会」を有料生配信。この日に文京シビックホールで行なわれるはずだった二人会に替わるものとして企画されたものだった。この“ネット超会議での無観客配信”は5月21日にも宮治独演会として実施されている。

 上野鈴本演芸場で4月下席夜の部トリが予定されていた春風亭一之輔は4月21日から10日間、高座に上がるはずだった時間に無観客で落語を演じてYouTube「春風亭一之輔チャンネル」で無料生配信を決行。連日1万人を超えるユーザーが視聴したこの企画が落語配信ブームの火付け役となったのは間違いない。一之輔は浅草演芸ホールの夜のトリを取るはずだった5月下旬にもこの「10日間連続無料生配信」の第2幕を実施、これまた大好評を博した。高座の上での一人芸である落語と“生配信”との相性の良さを、一之輔は証明してみせたのである。

 そして5月になると「文春落語オンライン」が始まる。

「有観客での落語会は不可能」という事実

 文藝春秋では2020年1月から社内スペースを使って月1回の「文春落語」をスタート。1月の春風亭一之輔独演会、2月の柳家三三独演会は予定どおり実施されたものの、3月の三遊亭兼好独演会、4月の桃月庵白酒独演会はコロナ禍で中止。4月末には緊急事態宣言の延長も決まり、5月の開催も危ぶまれていた。そんな中で出てきたアイディアが、週刊文春で連載を持つ柳家喬太郎による「文春落語オンライン」。無観客による有料配信の落語会で、第1回は5月2日に行なわれた柳家喬太郎独演会。僕も視聴券を購入して『井戸の茶碗』『夜の慣用句』の2席を観た。ここで「文春落語」はリアルな落語会から無観客配信に舵を切ることになる。

「文春落語オンライン」が始まった5月の連休を境に、様々な配信落語会が催されるようになった。緊急事態宣言が5月末まで延長されたことで、主催者も落語家も「有観客での落語会は不可能」という事実に正面から向き合う必要が生じたからだろう。コロナ以前は毎日興行を行なってきた新宿の「道楽亭」が5月9日から有料配信の「道楽亭ネット寄席」を開始。4月は全公演が中止になった「渋谷らくご」(シブラク)も5月は有料配信で実施された。

 こうした主催者側の取り組みだけでなく、自主的な配信に挑戦する落語家も増えたため、僕も俄然「毎日配信落語を観るので忙しい」という状態になった。僕が5月に観た配信落語会はなんと39公演。落語は117席観ている。コロナ禍前の日常と比べても、まったく遜色がない。

 僕自身も配信落語会を始めた。代官山のライヴハウス「晴れたら空に豆まいて」で僕がプロデュースする「代官山落語夜咄」は、5月27日に無観客有料配信の「代官山落語オンライン夜咄」として実施され、三遊亭白鳥が『メルヘンもう半分』を熱演。これ以降、代官山での僕の会はすべて「オンライン夜咄」となった。

“定数半減&有料配信”のハイブリッド公演という形も

 5月25日に緊急事態宣言が解除されると、リアルな落語会は“マスク着用/換気/消毒/体温測定”を徹底し“ソーシャルディスタンス対応(演者と客席の距離の確保/定員半数以下)”の条件のもとに開催が可能になったが、まだ有観客を控える主催者もあり、上野鈴本演芸場は6月末まで休演する代わりに中止となった15公演を昼夜に分けて無観客で行ない、YouTube内の「鈴本演芸場チャンネル」で土日に無料生配信。イイノホールで柳家三三が行なう「月例三三独演」は4月・5月は中止したが、6月から有料で視聴券を販売して配信する「月例三三独演配信公演」に移行した。読売新聞社が本社内のよみうり大手町ホールで年数回開催してきた「よみらくご」も、6月4日には無観客配信で実施されている。

 興行において“定員半数以下”とは、チケット代が同じなら収益が半分以下になることを意味している。会場を借りての興行は、ギャラをまともに払いながらチケット代を上げなければ赤字になる。そこで6月から盛んになったのが“定数半減&有料配信”のハイブリッド公演だ。それを積極的に推し進めたのが産経新聞社で、6月15日の柳亭こみち独演会を皮切りに、7月7日には三遊亭兼好独演会、7月9日には桂宮治独演会と国立演芸場でのハイブリッド公演を3回続けた後、7月19日の「大手町落語会」、7月29日の「三三・一之輔二人会」と日経ホール公演へと続いた。以降産経新聞社はこの方式で落語会を開催し続けている。

 9月には施設利用に関するガイドラインが緩和されて“定員半数以下”の縛りはなくなったが、現実にはコロナ禍は終息するどころか感染拡大傾向にあり、観客の不安を取り除くために定員の半数もしくはそれに準ずる形で開催される落語会がほとんどで、毎年12月に僕が恵比寿ガーデンホールで行なう「恵比寿ルルティモ寄席」も、昨年は会場での観客数を減らしつつ有料配信を行なう、という措置を取った。自分の会をハイブリッド方式で行なう落語家もいれば無観客配信を続ける落語家もいて、リアルな会の主催者は“定員半減”を前提に「配信するか、それ以外の何らかの措置で補填するか」の判断を迫られる、というのが昨年9月から年末までの状況だった。

 年が明けると感染拡大で緊急事態宣言が発出され、今度は“午後8時までの終演”を求められたことで、再び“中止/延期”が増えた。緊急事態宣言解除後の蔓延防止等重点措置でも興行に対する“要請”は変わっていない。そして遂に3度目の緊急事態宣言が発出された。そんな流れの中、僕自身の「毎日落語を観る」日常の中で“配信”は欠かせないものとなっている。

コロナ禍が終息しても、続けてほしい配信落語

 配信落語はほとんどの場合“アーカイブ視聴”が可能である。これは大きい。リアルな落語会だと時間に縛られるが、アーカイブなら自分の都合に合わせられる。前後左右の客に煩わされることもないし、交通費も要らない。コロナ禍の中でも毎日落語を観たい僕にとって救世主となった配信落語は、コロナ禍が終息しても、この便利さに慣れた落語ファンのために続けられることだろう。

 昨年5月にスタートした「文春落語オンライン」は6月以降12月まで柳家喬太郎の会を毎月2公演、今年に入ってからは毎月1公演のペースでコンスタントに続けられている。人気者の喬太郎の落語を快適な環境で気軽に楽しめる「文春落語オンライン」。コロナ禍は一日も早く終息してほしいが、この配信は続けてほしい。

(広瀬 和生)

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