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もはやアイドル文化だけの発信地にとどまらない…K-POPのダンスはなぜ“世界的ブーム”になるのか

文春オンライン / 2021年6月5日 6時0分

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©iStock.com

Snow Man、SixTONES、嵐…ジャニーズも真似した人気K-POPアイドルの巧みすぎる“ダンス×宣伝”術とは から続く

 クリエイターたちが語るリアルな声、そしてプロモーションの視点を交えながら、世界的な音楽ブームへと成長した「K-POP」を体系的にまとめた書籍が、音楽好きの間で話題となっている。

 書籍のタイトルは、その名もずばり『 K-POPはなぜ世界を熱くするのか 』(朝日出版社)だ。ここでは、同書の一部を抜粋し、著者の田中絵里奈氏が考察した“日本と韓国のアイドルグループの振付”に関する決定的な違いを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

フックソングとポイントダンスからの進化:振付

 K-POPのパフォーマンス、というと、一糸乱れぬ迫力あるフォーメーションダンスと、何度も反復されるキャッチーな振付が思い出されるはずだ。実際この2つはK-POPのダンスを構成する重要な要素であり、そのままK-POPの世界的なイメージを形作ってきたものである。

 前者はよく「カルグンム(刃群舞)」と呼ばれ、刃のようにキレの鋭い動きを群れ全体でシンクロさせて踊ることを指す。2011年に、INFINITEが「BTD(Before The Dawn)」という曲で披露した、うつ伏せ状態からサソリのように起き上がる「スコーピオンダンス」は腕の角度まで皆がピッタリと合っていて、それ以降、一体感のある高スキルなダンスに対して「素晴らしいカルグンムだ」などと言って、韓国のメディアでは今でも「カルグンム」は称賛の言葉として多用されている(INFINITEは元祖カルグンムグループとして名を馳せた)。

 後者のキャッチーな振付については、2010年から始まった第二次韓流ブームの頃、日本のメディアが少女時代の「GENIE」の振付を「美脚ダンス」、KARAの「ミスター」のそれを「ヒップダンス」とネーミングし、ワイドショーでもしきりに取り上げられていたのを思い出す。世界的に大ブームとなったPSY「江南スタイル」(2012年)の、ステップを踏みながら手綱を引くような「乗馬ダンス」はマドンナもコンサートで披露した。TWICE「TT」(2016年)のサビで繰り返される、泣いた顔文字を表現した「TTダンス」も大流行したが、最近ではNiziU「Make you happy」の「縄跳びダンス」、「Step and a step」の「うさぎダンス」も記憶に新しい。こうしたパッと見ただけで覚えてしまいそうなダンスは「ポイントアンム(ポイントダンス)」と呼ばれる。

 2000年代後半から2010年代初頭のK-POP界では、ダンスがグループの知名度や人気を大きく左右したこともあって各グループが競って「◯◯ダンス」を生み出し、「カルグンム」と「ポイントアンム」はマストキーワードであった。たとえば、毎回さまざまなアイドルグループがゲストで登場する韓国のテレビ番組「週刊アイドル」には、自分たちの楽曲を2倍速にしても正確に踊れるかチャレンジする名物コーナー「2倍速ダンス」がある。そこで「ROUGH」という曲を完璧に踊りきったGFRIENDは、ハイレベルなカルグンムグループとして大きく話題になった(2016年)。ポイントアンムが自分も体を動かしてみたくなる「踊る対象」なら、カルグンムはアイドルグループの高いダンススキルを表す「見る対象」である。

 観客を圧倒するパフォーマンスを見せるメンバーを「ダンスマシーン」「踊神踊王(チュムシンチュムワン)」などと称賛する表現が多いことからも、韓国におけるアイドルのダンスに対する注目度の高さがうかがえる。「HIT THE STAGE」「DANCING HIGH」など、アイドルが高いダンススキルでもってバトルする番組もあるほどだ。

 また、ポイントアンムの流行には音楽的な潮流も関係している。第二次K-POPブーム時には、Wonder Girls「Tell Me」(2007年)、SUPER JUNIOR「SORRY, SORRY」(2009年)、T-ARA「Bo Peep Bo Peep」(2009年)、少女時代「Gee」(2010年)、KARA「Jumping」(2010年)など、曲名にもなっているフレーズを反復的なリズムに乗せて歌う「フックソング」が流行していた。前述のように2010年以降は韓国内でのヒップホップの台頭や海外作曲家を中心とするソングキャンプ的制作によって振付にも新たに変化が生まれてきているが、少女時代やPSY、最近のNiziUを見るかぎり、K-POPが海外に浸透していくにあたって「ポイントアンム」の貢献度は大きいと思う。

全体のシンクロから個人が織りなすグルーヴへ

 TWICEの「TT」やソンミの「Gashina」などで世界的に知られている振付を生み出し、韓国でもっとも振付料が高いといわれている1MILLION Dance Studioのコレオグラファー、リア・キムさんにK-POPのダンスの変遷について聞いてみると、やはり今から5年くらい前まではどのグループからも一目でわかるポイントアンムを振付に入れてほしいと依頼されることが多かったという。ダンスの一部を強調しすぎると全体的なパフォーマンスの流れが作りにくく、振り付けるにも苦労が多かったそうだ。

 しかし今ではポイントアンムをめぐる競争も落ち着いて、フォーメーションの移り変わりなどに力を入れた振付が増えてきている。K-POPライターのパク・ヒアさんは、全体から個への推移に注目する。「ヒップホップの流行も影響して、2010年代に入るとBTSやBLACKPINK、WINNERなど、メンバー一人ひとりの個性を見せるダンススタイルが始まりました。ファンも今はアイドルの個々のメンバーに対してソロで楽曲を出せるほどの個性を求めるようになりましたから。ただ、自分独自のスタイルを自然に出しながらもグループとしてはひとつにまとまって見えなくてはならないので、その調整が難しいんです」

 それでは昨今のK-POPのダンスに新たなトレンドセッターはいるのか、リア・キムさんに聞いてみる。「現在のトレンドを誰か一人だけに紐付けすることはできませんが、最近はTWICE以来のJYPガールズグループであるITZYが、パワフルかつエキサイティングなパフォーマンスを披露して強く印象に残りました。彼女たち5人の登場によって、振付に新しい風が吹いたと思います。また、以前だと振付でセックスアピールをするような動きが重視されていましたが、今はK-POP全体でパフォーマンスの領域が広がっているのは良い変化だと思います」

短期間で高品質のコンテンツを制作できるシステム

 グループの人気を左右するまでになったダンスの振付は実際にどうやって考案されているのだろう? 「まずは曲をずっと聴き込んで、単独で制作するか、他の振付師と一緒に作業するかどうかを考えます。振付の方向性と全体的なコンセプトを決めてから作業するのですが、どのパートでどんな要素をポイントに持ってくるか、振付を分解することが重要です。Swag(イケてる感じのノリ)、動作、表情など、状況に応じて何をポイントにするかで構成はまったく変わってくるのです。全体の作業には1週間程度の時間を要しますね」(リア・キム)

 代役ダンサーによる振付映像を依頼主に提出した後も、アイドルと一緒にトレーニングをしたり、MVに自ら参加してディレクションしたりすることもあるという。K-POPのクリエイターたちはコンテンツがPCやスマホの四角い画面上で最大の効果を発揮するように考える。振付も例外ではなく、カメラワークをかなり意識し、メンバーが多いグループの場合は一人ひとりがクローズアップされる短い瞬間にも表情や魅力が伝わるよう、動きの速い振りを付けるそうだ。

 新人アーティストやソロデビューの際には特に力が入る。Wonder Girls解散後、移籍した事務所から出したソロデビュー曲「Gashina」でアーティストカラーを確立した元メンバーのソンミは、グループ卒業後のソロ活動が成功しにくいK-POP界で「ソロクイーン」とまで呼ばれるようになった。前述のようにこの曲を振り付けたのもリア・キムさんで、「本人のキャラクターを考慮せずに振り付けた動作がひとつもないほど」と、かなり戦略的に行なわれたようだ。「ソンミさんと何度も話し合いながら曲のコンセプトを共有していき、最終的に『愛に狂って抜け出せない、毒っ気がありつつも気品高い少女』というキャラクターを設定しました。映画『レオン』の主人公マチルダを連想して、この少女が踊ってみたらどうなるだろうと想像しながら動作の一つひとつを構成し、ソンミさんがそれを見事に体現してくれました」(リア・キム)

 日本ではアイドルグループは専属する一人の振付師と長年タッグを組んでキャラクターを醸成していくイメージが強いが、韓国では楽曲のカラーごとに振付師や振付のスタイルを都度変化させているようだ。その違いについてリア・キムさんは、「韓国では新しい文化や流行の受容と拡散が速く、それを受けて短期間で高品質のコンテンツを制作できるシステムを備えているからだと思います。それは長所でも短所でもあって、上手な人が登場すると作曲と振付がその同じ人に集中するようになり流行が画一化される傾向を生んでしまいます」とも話していた。

「ダンスを学ぶために韓国に行く」文化の発信地になりつつある韓国

 とはいえ、K-POPのダンスに多様性を取り入れる動きももちろんある。SMエンターテインメントのアーティストの多くの作品に、日本人のs**tkingzや仲宗根梨乃が振付師として携わっていることはK-POPファンのあいだでは有名だが、マイケル・ジャクソンの「This Is It」公演を演出したトニー・テスタが、2012年にSHINeeの楽曲「Sherlock」を振り付けした際も大きな話題となった。彼は以降、EXO 、東方神起など同事務所のアーティストを次々に手がけたが、後に「Sherlock」の振付費用のみで1億ウォン(約947万円)かかったとMnetの番組で紹介されていて、MV制作費だけでも何億ウォンと聞くのに、いったい1曲のカムバックにかかる制作費はどれほどかと呆然とした。

 こうしたK-POPに特徴的な振付はダンス人口の増加も後押しし、韓国ではダンススタジオがトレンドを生み出す場にもなっている。リア・キムさんの所属する 1MILLION Dance Studioは、韓国のYouTubeチャンネル全体で登録者数5位(2300万人)、累積再生回数は60億回(2021年1月時点)を超えてその名を世界に轟かせ、私の友人が何人もそのワークショップに行くほど、国外からダンスを学びにやってくる人が絶えない。いまやダンススタジオもアイドル事務所同様に定期的にVlog映像をYouTubeで配信していて、エッセイや写真集も出版するリア・キムさんのように、所属するダンサーは現代のファッションアイコンとして若者の憧れの的となっている。

 余談だが、私も最近、ヴォーギングとワッキング(どちらも身体や顔のまわりに手を巻きつけるダンススタイル)を取り入れたチョンハの「Stay Tonight」のダンス映像をネットで見だしたら、振付師チェ・リアンさんの振付作業中の動画にバックダンサーの控え室の様子や練習映像と、クリックが止まらなくなり、ダンスをする若者たちが本場の韓国にひとっ飛びしてしまう気持ちがわかった。動画を駆使した発信によって振付そのものを一大コンテンツ化し、「ダンスを学ぶために韓国に行く」という人の移動まで生み出しているダンススタジオは、もはやアイドル文化だけの発信地にとどまらない。

【前編を読む】Snow Man、SixTONES、嵐…ジャニーズも真似した人気K-POPアイドルの巧みすぎる“ダンス×宣伝”術とは

(田中 絵里菜)

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