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目が泳ぎ、声も上ずっていた小沢一郎…「意外な結果で驚いている」“政治とカネ”強制起訴の背景

文春オンライン / 2021年6月7日 17時0分

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民主党参議院擁立会見時の小沢一郎氏 ©文藝春秋

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◇◇◇

「起訴相当」を下した検察審査会の衝撃

「意外な結果で驚いている」

 この日の小沢一郎は、いつになく目が泳ぎ、声も上ずっていた。2010年4月27日、検察審査会による「起訴相当」議決が発表された当日のことである。検察審査会の議決を受け、新聞やテレビの記者たちが民主党本部へ押しかけた。記者たちを前に午後7時過ぎ、小沢が発した第一声がこれである。

「不正なカネは受け取っていないし、私の政治団体で不正な犯罪行為があったわけではない」

 弁明する小沢に対し、記者の質問が投げられる。

「これで、ますます政治不信が高まるのでは」

 小沢の表情には、いらだちが露骨にあらわれた。

「今日の結果で、(政治不信が高まる)ということはない」

 記者を睨みつけるように、そう語気を強めた。

「国民の皆さんも納得してくれる」

 午後4時から予定されていた会合や5時からの橋下徹大阪府知事との面会を急きょキャンセルして応じた。およそ7分間のぶら下がりの記者会見だった。

「最終的には検察当局の適正な判断がなされると信じている。国民の皆さんも納得してくれると思っている」

 最後はそう締めくくった。だが、やはり動揺の色は隠せなかった。

 この年の2月、陸山会の不動産取引をめぐる政治資金規正法違反で、秘書の大久保や石川が起訴された。秘書たちは04年10月、小沢から提供された4億円で、世田谷区の宅地を3億5000万円で購入した。逮捕容疑は、その4億円や不動産の購入を政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反だ。政治資金の虚偽記載は明らかである。その捜査のなかで東京地検特捜部は、虚偽に記載した動機について、まさにこの時期に水谷建設からの裏献金があったからだと睨んだ。かたや小沢側は小沢の個人資産で土地を購入したのであり、水谷マネーなど存在しない、と否定してきた。

小沢不起訴へと傾いていく検察首脳

 そうして捜査の焦点は、特捜部が小沢一郎本人を摘発するか否か、という点に絞られていく。現場の捜査検事たちが中心となった積極捜査派、法務官僚を中心に政治の風向きを気にする消極派に割れ、双方がぶつかる。数少ない実力政治家の命運を握る捜査だけに、検察は揺れた。

 そして、検察首脳は小沢不起訴へ傾いていく。だが、世間はそれで納得しなかった。市民団体がすぐさま検察審査会に不起訴に対する不服申し立てをし、小沢の政治とカネ問題は第2ラウンドに突入するのである。

検察審査会の意義

 検察審査会の歴史は古い。戦後間もない1948(昭和23)年7月、検察審査会法の施行以来、全国の地方裁判所とその支部がある149カ所に、165の審査会が設置されている。元来、検察は刑事事件について、起訴して裁判に持ち込む公訴権を独占している。しかし、過去には数多くの政治介入を許してきた。そのため、事件が闇から闇に葬られてきた案件は数え切れない。検察審査会はそれを防ぐためのシステムだ。

 検察の捜査が適正になされているかどうか、そこについて市井の意見を交えて検討する。もっと有体にいえば、検察が「不起訴」として不問に付した事件で、本当に犯罪の疑いがないかどうか、を審査し、場合によっては法廷でそれを問う。市民感覚を導入することにより、司法の独断を防ごうとするシステムである。

 もっとも、終戦時の米国による占領体制においてつくられた古い法律に基づく仕組みであり、これまでは事実上、機能してこなかった。それが2000年以降の司法改革によって見直される。結果、検察審査会の権限が強化された。

 検察審査会の議決には、厳しい順に「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」の三種類がある。起訴相当は、すみやかに起訴すべきだという意味である。検察審査会が二度開かれ、結果が同じ起訴相当ならば、検察に代わり、被疑者は裁判所が任命した弁護士によって強制起訴される。

検察審査会の議決内容

 記者会見した10年4月時点で小沢に下された検察審査会の議決は、まだ一度目だったが、それでも当事者にとっては相当な衝撃だったに相違ない。念のため、新聞に掲載された小沢民主党幹事長の〈「起訴相当」検察審の議決要旨〉(4月28日付読売新聞朝刊)を記しておく。

〈 小沢一郎・民主党幹事長に対する東京第5検察審査会の議決の要旨は次の通り(敬称略)。

  被疑者 小沢一郎

  不起訴処分をした検察官 東京地検検事 木村匡良

  議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 米沢敏雄

  2010年2月4日に検察官がした不起訴処分(嫌疑不十分)の当否に関し、当検察審査会は次の通り議決する。

  【議決の趣旨】

  不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする。

  【議決の理由】

  第1 被疑事実の要旨

  被疑者は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は陸山会において04年10月に代金合計3億4264万円を支払い、東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに、

  1 陸山会会計責任者A及びその職務を補佐するBと共謀の上、05年3月ころ、04年分の陸山会の収支報告書に、土地代金の支払いを支出として、土地を資産として、それぞれ記載しないまま総務大臣に提出した。

  2 A及びその職務を補佐するCと共謀の上、06年3月ころ、05年分の陸山会の収支報告書に、土地代金分が過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨、資産として土地を05年1月7日に取得した旨を、それぞれ虚偽の記入をした上で総務大臣に提出した。

  第2 検察審査会の判断

  1 直接的証拠

  (1)04年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に報告・相談等した旨のBの供述

  (2)05年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に説明し、了承を得ている旨のCの供述

  2 被疑者は、いずれの年の収支報告書についても、その提出前に確認することなく、担当者において収入も支出もすべて真実ありのまま記載していると信じて、了承していた旨の供述をしているが、きわめて不合理、不自然で信用できない。

  3 被疑者が否認していても、以下の状況証拠が認められる。

  (1)被疑者からの4億円を原資として土地を購入した事実を隠蔽するため、銀行への融資申込書や約束手形に被疑者自らが署名、押印をし、陸山会の定期預金を担保に金利(年額約450万円)を支払ってまで銀行融資を受けている等の執拗な偽装工作をしている。

  (2)土地代金を全額支払っているのに、土地の売り主との間で不動産引渡し完了確認書(04年10月29日完了)や05年度分の固定資産税を陸山会で負担するとの合意書を取り交わしてまで本登記を翌年にずらしている。

  (3)上記の諸工作は被疑者が多額の資金を有していると周囲に疑われ、マスコミ等に騒がれないための手段と推測される。

  (4)絶対権力者である被疑者に無断で、A、B、Cらが本件のような資金の流れの隠蔽工作等をする必要も理由もない。

  これらを総合すれば、被疑者とA、B、Cらとの共謀を認定することは可能である。〉

〈  4 更に、共謀に関する諸判例に照らしても、絶大な指揮命令権限を有する被疑者の地位とA、B、Cらの立場や上記の状況証拠を総合考慮すれば、被疑者に共謀共同正犯が成立するとの認定が可能である。

  5 政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。

  (1)「秘書に任せていた」と言えば、政治家本人の責任は問われなくて良いのか。

  (2)近時、「政治家とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い。

  6 上記1ないし3のような直接的証拠と状況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については、被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。よって、上記趣旨の通り議決する。〉

 繰り返すまでもなく、ここにあるA、B、Cが、逮捕・起訴された小沢一郎の元秘書たち、大久保隆規と石川知裕、池田光智だ。

民主党代表選出馬でも結果は同じ

 小沢一郎は、ただおとなしく市民感覚の審判を待つというタイプではない。二度目の検察審査会の議決前には、民主党の代表選に出馬する。「次期、首相候補を法廷に立たせるつもりか、という検察審査会に対するけん制ではないか」と評判が悪かったが、本人は意に介さない。

 しかし、代表選では菅直人に完敗し、逆にますます立場が危うくなる。そして、検察審査会は10年11月、小沢に対し二度目の議決を下す。結果は同じく「起訴相当」だ。これにより、小沢一郎は刑事被告人として、法廷で裁かれることが決まったのである。

 2011年が明け、1月31日、小沢一郎に対する強制起訴が実行された。小沢はそれまでの検察ではなく、市井の弁護士とあいまみえる結果になる。

【続きを読む】 「向こうから接触してきたに決まっとるやないか」小沢事務所が水谷功に証人出廷を依頼した“真意”とは

「向こうから接触してきたに決まっとるやないか」小沢事務所が水谷功に証人出廷を依頼した“真意”とは へ続く

(森 功/文春文庫)

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