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追悼・大島康徳さん あなたにカンカンに怒られた、忘れられない名護の朝

文春オンライン / 2021年7月14日 11時0分

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日本ハム監督時代の大島康徳さん

「大島康徳 1950 10.16~2021 6.30」 7月6日、西武10回戦は特別な試合になった。大島さん、旭川スタルヒン球場のビジョンにあなたのライフタイムが掲示されて、縦縞のFsユニホーム姿の写真が映ってる。両軍選手、監督、コーチはベンチ前に整列している。ファイターズは全員、喪章をつけている。あり得ないよ。僕はブログも「週ベ」連載(『負くっか魂‼』)も読み、ガン闘病のことは存じ上げてたけど、不思議に大島さんはいなくならないんじゃないかと錯覚していた。

 あのエネルギーの塊(かたまり)みたいな人がこの世にいないなんて……。

 場内アナウンスが観客に黙とうを呼び掛ける。GAORAのカメラが栗山英樹監督を映し、それから並んで立つ小笠原道大、金子誠両コーチを映した。もうここで僕は涙腺崩壊だ。大島さんが監督を務められた3シーズン(2000~2002)、戦績は3位、6位、5位と振るわなかったけど、小笠原と金子誠が本物になった。いや、あの時期は中村隼人や正田樹が出て来たり、新ネタも色々あったはずなんだけど、煎じ詰めたら小笠原と金子誠だ。その2人がマスク姿で寂しそうに立っている。その絵だけでプロ野球のドラマだ。

初対面でいきなり緊張と緩和を食らったあの日

 僕はファイターズに大島康徳という熱血漢がいたことを若いファンにも知ってもらいたい。僕も取材やラジオ番組を通じて、何度もご一緒させていただいたが、本当に気持ちのいい人だった。曲がったことが大嫌い。思い込んだら命がけ。元々は中日でホームラン王を獲ったスラッガーだ。ファイターズへは87年オフ、トレード(田中富生・大宮龍男⇔大島康徳・曽田康二)でやって来た。2000本安打をファイターズで達成した後は、次第に代打起用が増えていく。構えがでかくてカッコ良かった。代打満塁弾を1991年と94年、2度かっ飛ばしている。91年9月は東京ドームで西武・潮崎哲也から。94年5月は西武球場で新谷博から。代打満塁弾ってスーパーヒーローだよ。僕らは当時、どんな負け試合でも「大島出してくれよー。縁起もんだから最後に大島見せてくれよー」と客席から叫んだものだった。

 引退試合のスピーチで打撃投手や裏方さんに感謝をささげたのも忘れられない。引退後はコーチ就任要請を断って、スーツ姿でNHK解説者を務める。上田利治氏退任の後、監督として再びファイターズのユニホームを着た。

 僕には忘れられない出来事がある。監督に就任されて最初の年の名護キャンプだ。当時、僕は文化放送で自分の野球趣味を全開にした朝ワイド番組をやっていて、番組内でも様々なファイターズ連携企画にトライしたのだが、その年、ついに念願かなって名護キャンプから生放送が実現したのだ。正確に言えばファイターズの宿舎「ホテルゆがふいんおきなわ」のロビーからの生放送だ。朝8時半スタートだからニュースや(関東の)天気予報&交通情報やってる間に選手らに部屋から出てきてもらう。岩本勉や芝草宇宙、下柳剛、田口昌徳といった顔見知りの選手が出てくれた。そして、スタッフが交渉して大島さんにも出演していただいた。僕はその時点で大島さんと面識がない。大物だ。監督さんだ。緊張した。

 選手らとコーナーを進めながら、第一部の終わりのパートで「大島監督から今季の意気込みを聞く」という構成になっていた。朝ワイドというのは(特に番組前半は)細かい情報コーナーをバラ売りしていて、それがルーティンになっている。元々、スポーツ番組じゃなく生活情報ワイドだからしょうがないんだけど、ちょっと僕と局アナの水谷加奈さんのやりとりが多くなる。

 と、監督コーナーに出てきた大島さんが「選手にしゃべらせなさいよ。自分だけでしゃべりすぎだよ」と開口一番カンカンなのだ。びびった。これが瞬間湯沸かし器ってやつか。僕も水谷アナも一瞬、言葉を失ってしまった。即席ブースに並んだ選手らもポカンとしている。とにかく平謝りに謝って、進行台本通り今季の意気込みをうかがったのだ。そうするとさっきまで怒髪天を衝く勢いだった人が「オレ、恥ずかしい話だけど、名護に来て太っちゃった。食事メニューが単調だなと思ってたんだけど、体重計ったら太ってた。まいったよ」と言い出す。あ、ホントに「瞬間」湯沸かし器なんだなと思う。桂枝雀じゃないけど緊張と緩和だ。そのような単調な(他に楽しみのない?)環境で選手にはとことん野球に打ち込んでもらう、とのことだった。

ハンパない大島さんの「圧」のなかで自分を伸ばした小笠原と金子誠

 監督コーナーが終わって、大島さんを送り出してからは「加奈ちゃん、さっきさ、監督に怒られたー。オレ何か選手になったみたいで嬉しかった」など言って自由自在だ。選手らもリラックスしてトークが跳ねる。

 だけど、大島さんハンパないなぁという印象が残った。まっすぐなのだ。ラジオに出て開口一番カンカンになるという、パーソナリティーの強さ。妥協のなさ。誰にどう思われるかよりも正しいことは正しい、間違ってることを間違ってると言うほうを優先する速度感。これは何となく大沢親分っぽい。試合が面白くなりそうだぞと思った。

 ※大島監督で語り草なのは就任1年目、投手交代でマウンドへ行ったものの話が盛り上がりすぎて、交代忘れてベンチへ帰ってきちゃった話(高橋憲幸は続投→ヤケクソで抑える)。それから左翼ポール際大飛球のホームラン判定に猛抗議して21分間の中断、ついには退場を食らって、監督室で嘔吐、急性胃炎で救急車で運ばれた話(その晩のスポーツニュースでファウルが確認される)。本当にハンパないのだ。

 小笠原と金子誠はそのハンパない監督さんの「圧」のなかで自分を伸ばした。小笠原は上田監督の最終年、「バントをしない2番打者」として大いに売り出し、大島監督の代になってからリーグを代表する打者に成長した。起用法で面白かったのは2年目(2001年)、1番打者にしたことだ。この時期は大方のファンにとって「ガッツの孤軍奮闘」の印象だろう。あのとき「焼け石に水」「ひとり気を吐く」小笠原は2番を打ち、1番を打ち、片岡篤史が去ってからは3番を打った。小笠原もまた自分を曲げない男だった。「1番だから(2番だから)こういうバッティングをして打線をリードしてくれ」的な要望があったのかどうか。ぜんぜん関係なくフルスイングで応え続けた。そこに僕は緊張関係を見る。「圧」とそれをはね返す力。大打者・小笠原道大のブレークにそれが関与したと見る。

 金子誠の場合はもっとはっきりしている。大島さんは「サイズが大型なのにバッティングが小さい」金子誠に不満だった。長打が打てるように打撃改造しようとする。ところが金子誠はチームダントツに自分を曲げない男だった。何を言われようとスタイルを変えない。2軍に落とされ干されようと顔色ひとつ変えない。これはね、この時期いちばんの見ものだった。で、どうなったかというと金子誠が勝つんだよ。そのまま、自分のスタイルのまま使わざるを得ないとこまで持ってく。

 3年目(2002年)、「2番金子、3番小笠原」が多かったんだけど、球場で見るのが楽しかった。2人で野球やってるんだ。2人でもつながりってつくれるんだ、2人でも打線成立するんだなと感心した。そして「圧」って人をジャンプアップさせるなぁと感じ入った。誰が何と言おうと、2人を「プロ中のプロ」に磨き上げたのは大島さんのひたむきさだと思う。熱量は人を育てる。野球は深い。

 ※後に大リーグ解説者になられてからの話。イチローが調子を崩したとき、たまたま現地にいてアドバイスしようとされたらしい。と、イチローが「大島さん、僕を誰だと思ってるんですか。イチローですよ」と制したという。大島さんはどこまでも大島さんだ。まっすぐ。「ホントにそうでしょ。誰だと思ってるんですか、イチローですよ。その通りなんだよなぁ。まいったよ」。そんなこと取材者に言います?

高濱は打った。「代打・大島康徳」が1球に賭けたように

 話を旭川の西武10回戦に戻そう。この試合、ファイターズには珍しく清水優心1号、王柏融6号(2ラン)とホームラン攻勢で試合を優位に進める。が、逃げ切れなかった。リリーフがつかまって3対3の同点だ。9回裏、連続無失点試合のプロ野球記録更新中の平良海馬が出てきた。フツーに考えればお手上げだ。雨に打たれながらファイターズはまた勝ちを逃すのか。いつまでこんな試合続けるんだ。

 先頭の郡拓也が死球で出塁。が、清水、淺間大基は仕留められて2死1塁。雨で制球は乱してるが、さすが平良だった。球威が違う。続く高濱祐仁も1ボール2ストライクとたちまち追い込まれる。

 大島さん、あなたのことを考えたんだ。弱気になったり諦めるのが許せない人だった。

「(前略)がんで亡くなられた方に必ずと言っていいほど使われる表現があります。『〇〇年から闘病を続けてきましたが、力尽きました』
僕はこの表現はおかしいと思います。『力尽きた』のではないのです。
『闘病』という言葉が『力尽きる』につながるならば、それは違います。
病気に負けた人生ではないのです。
頑張ったのです。
頑張って生きたのです。『〇〇年の人生を頑張って生き抜いた』。新聞にはそう書いてほしいと思います」(東京新聞「この道」より)

 高濱は打った。「代打・大島康徳」が1球に賭けたように。ただ1球、ただひとつの命。打球はセンターの頭上を越してフェンスを直撃だ。1塁走者淺間は長駆ホームイン。平良の日本記録を39で止めた。サヨナラだ。サヨナラ勝ち。大島さんサヨナラ。

 大島さんサヨナラ。あなたと会えたことは一生の宝物だ。後輩を見守ってください。どうかこのなかから「プロ中のプロ」が飛び出しますように。

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(えのきど いちろう)

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