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藤井聡太王位に6勝1敗 “令和の覇者”豊島将之竜王はどんな秘策をぶつけてくるか

文春オンライン / 2021年6月28日 11時0分

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豊島将之竜王 写真提供:日本将棋連盟

 藤井聡太二冠の成長をはかるのに豊島将之竜王の存在は欠かせない。

 文春将棋ムック『 読む将棋2021 』で筆者は、「棋士を『研究者』『芸術家』『勝負師』の3タイプに分類してみると」というコラムを書いたが、お読みいただいただろうか。

 そこで豊島竜王を「研究者」の代表にあげた。

「研究者」は相手の得手不得手にかかわらず自らの研究を信じて最善を追求するため、相手の実力を存分に引き出す傾向にある。

 これまでの対戦で豊島竜王は自身の研究を信じて最強の策をぶつけ、藤井二冠もそれに応え全力を尽くしてきた。

 だからその時々の互いの実力差がハッキリと現れる。

 そのため二人のこれまでの対戦を紐解いていくことで、藤井二冠の成長曲線を描き出すことができる。

「研究者」に完敗した2017年

 順を追ってみていこう。

 公の場での初対戦は今から約4年前、2017年5月に行われた将棋まつり(五万石藤まつり)での非公式戦だった。

 藤井四段(当時)が先手番で当時得意としていた角換わりをぶつけ、豊島八段(当時)は早繰り銀と呼ばれる急戦策で対抗した。この早繰り銀への対応策が整っていなかった藤井四段はすぐに形勢を損ねてあっさりと土俵を割った。

 この頃、藤井四段はデビューからの連勝記録を伸ばしている最中であり、公式戦と非公式戦の区別をせずに「連勝が止まった」というニュースが流れたのも記憶に新しい。

 それから約4ヶ月後、二人は公式戦で初めての対戦を迎える。

 藤井二冠がA級棋士と公式戦で初対戦ということで話題になったこの対局は、昼食休憩前に千日手で引き分けになり、将棋を扱い慣れないメディアを混乱に導いた。ただ、この結果は先手番の藤井四段にとって作戦失敗といえる。そして指し直し局では中盤から藤井四段の指し手が冴えず完敗した。

わずか2年で四段から七段に

 しかし、2019年5月に行われた対局では、藤井二冠がいよいよ豊島竜王の牙城に迫り始める。この対局では藤井七段(当時)が敗れたものの、豊島名人(当時)相手にリードを奪う瞬間もあり、これまでよりも明らかに内容が上がっていた。

 そして肩書きにも注目いただきたい。

 2017年はデビューして間もない「藤井四段」と、タイトルに届きそうで届かなかった「豊島八段」だった。それがわずか2年で「藤井七段」と「豊島名人」になっているのだ。積み重ねた実績がそこに現れている。

竜王に僅差もわずかに足りず

 それから2ヶ月後の対局は、第32期竜王戦決勝トーナメントでベスト4をかけた一戦。二人が初めて戦う大一番だった。

 この対局は火の出るような競り合いとなった。

 先手番の藤井七段が現代的な指しまわしでわずかにリードを奪い、豊島名人も玉を固めて決め手を与えない。形勢の針がどちらにも大きく振れない中、藤井七段の一瞬のスキをついて豊島名人が一気に藤井玉を仕留めた。

 この一番は大きな意味をもった。藤井七段に勝った豊島名人は、勢いそのまま竜王を獲得して、史上4人目の「竜王名人同時獲得」を達成したのだ。

 それから約3ヶ月後の対戦で、藤井七段は長く続いた競り合いから抜け出して公式戦初勝利寸前まで迫ったが、チャンスをつかみきれなかった。

 2017年は序中盤で差をつけて豊島竜王が勝っていたが、2019年に行われた3局では終盤まで互角が続いた。藤井二冠としては、最後の詰めの部分がわずかに足りなかった。

豊島竜王に藤井二冠が追い付いた瞬間

 先ほども書いたように豊島竜王はこの2年でタイトルを次々に獲得し、棋士として飛躍の時を迎えていた。実績もだが、実力も伸ばした時期であろう。

 その豊島竜王に肉薄する藤井二冠も大きく実力を向上させたことがうかがえる。

 そして約1年の間隔が空き、2020年の9月と10月、そして2021年1月と立て続けに対戦した。

 藤井二冠は2020年の夏に王位と棋聖を獲得しており、豊島竜王は9月と10月の対局の間に叡王を獲得している。今に続く、二人の充実期である。

 このあたりから二人の対戦が序盤戦術の最先端としても注目を集めるようになった。

 常に時代の最先端を走る「研究者」豊島竜王に藤井二冠も完全に追いついたのだ。

 藤井二冠は記憶に残る逆転劇を起こすような「勝負師」の顔も、プロも唸るような詰将棋を作る「芸術家」の顔も持つ。そして豊島竜王と対等の序盤戦術をみせる「研究者」の顔も併せ持つようになった。どれが本当の藤井聡太なのか、筆者にはわからない。

 2020年の2局はどちらも二転三転の末に豊島竜王が勝利したが、2021年1月の対戦では藤井二冠が待望の公式戦初勝利をあげた。

 1月の対局は、豊島竜王が角換わりに進め、後手の藤井二冠が早繰り銀で急戦を仕掛けた。

 豊島竜王はこの対策に準備不足だったようで、研究を深めていれば有望な変化だったにもかかわらずリードを築けず、逆に劣勢に立たされる。

 しかし一筋縄では終わらない。リードしていた藤井二冠にミスが出て、一瞬だけ豊島竜王にチャンスが訪れるが、それを逃して藤井二冠の勝利に終わった。

 最後の詰めの部分でも藤井二冠が豊島竜王に初めて勝ったことで、二人の実力差は完全になくなったといえる。藤井二冠が豊島竜王に追いついた瞬間だった。

七番勝負の注目は豊島竜王の“秘策”

 さて6月29日に開幕するお~いお茶杯王位戦七番勝負はどうなるか?

 まず気になるのは作戦面だ。思い起こせば2017年に非公式戦で初めて対戦した際、角換わり早繰り銀で藤井二冠は経験不足で完敗した。それが2021年にはまったく同じ作戦で豊島竜王と互角以上にわたりあった。

 策を練るなら豊島竜王だろう。昨年の第33期竜王戦七番勝負を思い起こすと、羽生九段の矢倉模様に対していきなり桂を跳ねる意表を突く急戦策を採用した。豊島竜王は大舞台で大胆な策をとることがある。

 第1局をみれば、今シリーズにおける豊島竜王の戦略がみえてくるに違いない。

 筆者は2年前の記事で、豊島竜王の言葉として「藤井七段の全盛期に戦うことを目標にしている」と書いた。全盛期に近づく藤井二冠と対戦するこの七番勝負は豊島竜王にとって待ち望んだシリーズといえるだけに、余念なき準備で綿密な戦略を立てて臨むことだろう。

 豊島竜王は藤井二冠について今年5月に、「年々、全体的な精度が上がり、どんどん強くなられている印象がある」と語っていた。

 成長曲線を肌身で感じてきた豊島竜王の言葉は重い。実際、藤井二冠の成長曲線がさらに上向きなのはヒューリック杯棋聖戦五番勝負での戦いぶりを見れば誰の目にも明らかだ。

 その成長曲線の現在地がこの七番勝負でくっきりと見えてくる。

 筆者はこの数戦のようにどちらが勝つかわからない終盤戦が繰り広げられ、シリーズ全体も競ったものになると予想する。しかし、もし藤井二冠がシリーズを圧倒するようであれば、トップ争いの勢力図が塗り替えられることになり、また違ったステージに突入する分岐点になるかもしれない。

 歴史に残るであろう七番勝負、じっくり楽しみたい。

◆ ◆ ◆

 遠山雄亮六段のコラムは、文春将棋ムック『 読む将棋2021 』にも掲載されています。

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(遠山 雄亮)

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