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自死した友人の残したメモに目を通して驚いた…声優・あさのますみが語る、「遺品整理」を手伝う意味

文春オンライン / 2021年6月30日 17時0分

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あさのますみさん

「なぜ気づけなかったのか」という思いが頭を離れず…声優・あさのますみが語る、「20年来の友人の自死」のつらさ から続く

 声優のあさのますみさんは、青春を共に過ごした大切な友人の死という「喪失」の経験を、著書 『逝ってしまった君へ』 (小学館)として上梓した。後悔や自責の念などといった感情に苛まれながらも、この経験を通じて「ひとつ、とても大きなものを得た」と同書であさのさんは記している。

 つらい出来事をどのようにして受け止められるようになったのか、あさのさんに聞いた。(前後編の後編/ 前編 を読む)

◆◆◆

「遺品整理」は遺族の方だけにやらせたくない、と思った

――大学時代に付き合っていた恋人で、長年の友人である「君」を自死でなくしたあさのさん。告別式に出席して、遺品整理にも参加されたと、本には書かれていました。

あさのますみ(以下、あさの)遺品整理は本当、友人一同で参加して良かったと思いました。自分にとっては、手を動かすことで気が紛れるというのがあったんですが、それ以上に、お母さまやお姉さまなど、遺族の方にそれをやらせたくない気持ちがありました。

 彼の場合、会社で借り上げたマンションに住んでいたので、通常よりも早く部屋を空ける必要がありました。亡くなってから時間が経っていないままでの遺品整理だったので、一つひとつから彼の生前の匂いが感じられるんですよ。それを整理するのは、彼そのもの、を捨てるに近いじゃないですか。

 お母様もお姉様も本当に、このまま消えてしまうんじゃないか……と思うくらい弱り切っていたので、そんな物たちに向き合うのは辛かったのではないかと。お二人の負担をこちらで引き受けられたらと思いながら、その場でお二人に聞きつつ、捨てるものをゴミ袋に入れていきました。

 そんなに大きくない本棚に、私が出した本が並んでいたのは驚きました。彼から「読んでる」と聞いたことはなかったので。

――遺族の方たちは、あさのさんと彼が、大学時代の恋人だったことを知っていたんでしょうか?

あさの いえ、ご存知なかったんですよ。私のほうは過去付き合っていた時からお母様の話を聞いていましたが、お母様のほうは告別式でご挨拶するまで、私のことを、最近まで交際していた彼女だと思っていたようです。

 彼は遺書の中で、鬱の理由として「プライベートでの別れと、仕事での役割が増えたこと」と書いていました。私を元彼女だと思っていたのに、一度も非難のような言葉を口にされなかったことに、お母様には彼のやさしさに似たところを感じました。

メモやテキスト…友人が残したものを全部見ることにした

――彼は遺書の他に、スマホにテキストや音声でメモを残していたと聞きました。

あさの はい。お姉様が告別式に彼のスマホを持ってきてくださったので、内容を全部、私のアイフォンに転送させていただきました。友人には「辛くてほとんど読めない」という人もいましたし、私も告別式当日に途中まで読んで、そこで止めてしまっていたんですね。でも遺品整理の際にお姉様から「全部読んだら考えが変わった」と言われて。それで私も、全部読んでみることにしたんです。

――生々しい彼の言葉と向き合うのは、しんどい作業ではなかったでしょうか。

あさの そうですね。自死した日に近づくにつれて、彼の心理状態が沈んでいく……とかではなくて、浮上しているタイミングがあるんですよ。最後のメモも、「これからどういう治療が必要なのか冷静に考えていこう」とか「薬を飲むべきか冷静に判断しよう」とか、比較的前向きなメモで終わっていて。メモを読み返すたびに、結末が変わるような気がしてしまって、つらかったです。

わからないものは、わからないままにしておこうと決めた

――メモと向き合う中で、心境が変化した?

あさの 最初は、彼がどうして死んだか無理にわかろうとしていたんです。周りの人も「きっとこうだったんだろうね」ということをそれぞれが語っていて。告別式ではお母様が「あの子がいい天気にしてくれたのかしらね」と話していたのも覚えています。

 それぞれが彼の死と向き合うために必要なことだったと思うのですが、私は、限られた情報の中で彼の感情や動機を決めつけてしまうことが、怖いなと考えるようになりました。

 わからないものを抱えているのは辛いんだけど、そこで「私」というフィルターを通して、彼を彼自身じゃなくして、塗りつぶしてしまうんじゃないかと不安で。理由をつけたい自分と、そうしたくない自分のせめぎあいの中で、私は、わからないことはわからないままにしておこうと決めました。

 実は、過去飼っていた猫が突然死した時に知人から、「亡くなった動物と話せる人を紹介するよ」と言われて、電話してしまったことがあるんです。

――どんなことを言われたんですか?

あさの「猫があなたにありがとうって言ってるよ」と言われたんですが、「ああ、これは嘘だな」と思いました。そう言われて、心が安らぐ人もいるかもしれません。でも私は、そういう情報を頭に入れてしまうと、死の形が変わってしまう、と実感しました。

 猫との大切な思い出が上書きされてしまうのは嫌だ、どんなに辛くてもそのまま受け入れようと思いました。その経験が、彼の死の受け入れ方にも影響しているかもしれません。

彼に言いたかった、たった一つのこと

――彼が死んで2年半経ち、今回の書籍『逝ってしまった君へ』が刊行されました。本を執筆する中で、心境の変化はありましたか。

あさの 変化というか、思考の輪郭がくっきりしていく感じになりましたね。漠然と「悲しい」とか「苦しい」とか思っていたことが、もっと具体的な言葉になっていった。彼に言いたかったことも、いっぱい思い浮かびました。こんなことも言いたかった、あんなことも言いたかったって。でも結局、本当に言いたいことは一つでした。

――それはなんでしょうか?

あさの「あなたの人生の全貌をあなた自身は知らないんだよ」ということです。

 彼はメモの中で「自分の人生に価値を見出せない」などと書いていました。でも、私がどれだけ彼に励まされていたかということを、彼は知らなかったわけですよね。そのことを知ってほしいという気持ちがあって、彼に向けた手紙として、この本を書きました。そうして、今消えてしまいたいと思っている人にも、そのことが伝わればいいなと思います。

彼を「忘れることが怖くない」理由

――今、彼のことを思い出すのはどんな時でしょうか。

あさの 大きなニュースがあった時に、彼ならなんていうのかなと考えます。彼、新型コロナ感染症が広まる前に亡くなってしまったので、今のこの社会に生きていたら、どんなふうに思うだろう、とは聞いてみたいです。

――友人の自死と向き合う中で、社会に対して感じた思いはありますか? 

あさの そうですね。私と同じように、大切な人を失ったり、辛い気持ちを抱えている人はたくさんいると思います。「どうして」と考えても答えが出ないことをずっと考えていたり。それとすぐに向き合って解決したり、解釈をして理由をつけたりしないでもいい空気があるといいなと思います。名前がつけられない、わからないものを抱えながらでも生きていこうよ、と言いたいです。

――本の中では、「彼を忘れること」への恐れも繰り返し語られていました。今はもう、忘れることは怖くないでしょうか?

あさの 理由を考えるのと同じで、彼のことを無理に忘れないでおこう、心に刻みつけようとすると、本来の彼じゃなくなっちゃうと思うようになりました。何かの絵の上にトレース紙を敷いてなぞっているような感じ。何か見えたと思っても、それはトレースした彼で、本来の彼ではない。自然なままにするのがいいんじゃないかなと。

 それに、自分を木に例えるなら、もう幹の部分に彼からもらった養分が染みてるもんなと気づいて。入れ替わらない部分で影響を受けているから、細かいことを忘れても大丈夫だって思ってます。

※厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」が掲載している、悩みを抱えた時の相談先は こちら から。

写真=佐藤亘/文藝春秋

(ひらりさ)

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