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「成功の基準は3割20勝」「不滅の記録をつくればいい」野村克也が晩年に残した大谷二刀流挑戦への“ぼやき”

文春オンライン / 2021年7月19日 6時0分

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©文藝春秋

「打てなかった僕が言うんだから間違いないですよ」川﨑宗則が語る大谷翔平が活躍し続ける“明確な理由” から続く

 45歳まで選手としてグラウンドに立ち、監督としても活躍を続けた野村克也氏。長年にわたって野球界に関わり、数々の一流選手を間近で目にしてきた男は大谷翔平のMLB挑戦をどのように見守っていたのか。

 ここでは、大谷翔平関係者のさまざまな証言を集めた『 証言 大谷翔平 』(宝島社新書)の一部を抜粋。宝島社編集部が聞き手となってまとめた、野村克也の生前の“ぼやき”を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

※本文中敬称略

◆◆◆

一本に絞るなら絶対に「投手」

 監督としてリーグ制覇5回、日本一3回。いち早くデータ重視のID野球を取り入れるとともに「野村再生工場」と称されるほど選手育成に長けた名将をして「これだけの結果を出しているからには、やはり二刀流で使いたくなる」と言わしめる大谷。それでも、仮にどちらか一方に絞るとしたら「断然ピッチャー」だと野村は断言する。

「やはり野球はピッチャーだからね。0点で抑えれば100パーセント負けはないし、10点取っても11点取られれば負ける。だから、やはり野球はピッチャーですよ。ピッチャーは自分がボールを持っているから好きなところへ好きな球を投げられる。それに対して打者は受け身だからね。攻めの投手と受け身の打者、そのどちらが向いているかは大谷自身の性格も関係してくるんだろうけども。

 ピッチャーに専念すれば、もっとすごいレベルまでいけるかもしれないし、バッターとして出場することが投手・大谷の邪魔になるのかもしれないけど、実際に二刀流の影響がどこまであるのかは大谷本人にしかわからない。我々の時代には、いくら投打ともに才能があっても打者にはあとから転向すればいいというのが常識だったけど、いまの時代はそれが通用しなくなったということなのかもしれないしね。

 ソフトバンクの柳田(悠岐)なんかにしたって、あんなアッパースイング……実際にスローで見るとインパクトの瞬間にはレベルスイングになっているようなんだけど、ダウンスイングで鳴らした王が、よくあれを許しているよなあ。大谷の二刀流と一緒で、我々の常識からは外れていても、結果が出ているから認めざるを得ないということなのかな。すごい時代になったもんだよ。

 あと、いまは160キロの球を投げたとか、そういうことが話題になっているようだけど、スピードを追求することについてはあまり感心しない。これも俺の持論だけど、ピッチャーはスピードよりもコントロールだよ。長い間キャッチャーをやってきてそう思う。150キロのど真ん中と、130キロの外角低めとではやっぱり150キロのど真ん中のほうが打たれるのが野球なんだから。コントロールをよくするためには投げ込みも必要だろうけど、それよりも投げ方ですよ。バランスのいいフォームで投げることが大事。じゃあ大谷はどうかと言えば、通用しているんだからいいんじゃないの?」

二刀流で通算の記録を残すことは難しい

 二刀流成功の基準値としてよく挙げられるのは、ベーブ・ルースが1918年に記録してから100年にわたって誰も達成していない二桁勝利二桁ホームラン(ルースの18年の記録は13勝11本塁打)である。

 しかし、打者としては戦後初の三冠王を獲得し、捕手としても数多の好投手の球を受けてきた野村にかかると、そのハードルはもう一段高くなる。

「大谷もプロ入りして6年になる(取材時)のだから、もうある程度数字を残さなきゃいけない。二刀流でこれまでに成功した人がいないのだから。ぜひその第一号になってほしいわな。成功の基準は3割20勝。そこまでいかないと成功とは言えないだろう。単に二刀流に挑戦するというだけなら、さほど難しいことではないけれど、それで結果を残すのが大変なんだよ。

 二桁勝利二桁ホームランというけれど、ベーブ・ルースは二刀流としてではなく、その後の大打者としての実績で野球史に名前を残したわけだから、比較の対象としてはどうなのかな(ちなみに大谷よりも先にアメリカにおいて和製ベーブ・ルースと称されたのは、中学時代の清宮幸太郎の打棒に対してであった)。

 二刀流でやっていく以上は通算での記録を残すことは難しいだろうね。6年目で通算ホームラン数が50本を超えたところでは、俺の記録(通算657本塁打)すら抜けないよ。名球会の2000安打、200勝なんて何年現役を続けなきゃいけないんだよ(日本5年間の大谷はトータル296安打42勝。同程度のペースでいくと仮定したときには2000安打、200勝に到達するまで投手で20年、打者では30年近くを要することになる)。人気商売である以上はマスコミの話題にもならなきゃいけないのだけれど、二刀流としての成功をうたうのであれば、やっぱり年間で3割20勝は期待したいわな」

 二刀流で成功してもらいたいという気持ちは当然あるものの、その一方で大谷の活躍をいくらか寂しく思う気持ちもあるという。野村の現役時代には雲の上の存在だったメジャーリーグのレベルの低下だ。

レベルが低下したメジャーリーグ

「かつて俺の現役の頃の日米野球では、メジャーの単独チームにオールジャパンで挑んでも10試合中ひとつ勝てればいいほうだった。それぐらい日米の差があったんだ。いまはテレビの中継などでメジャーの情報が簡単に入る時代になったけれど、我々の時代にはメジャーの真剣勝負なんて見たことがない。日米野球で来たときに初めてメジャーリーグに触れられる。その頃にONがメジャーへ行ったらどれくらい打てるかなと想像したことがあったけれども、まあ2割7分~8分打てばいいほうじゃないかと、それぐらい力の差を感じていた。

 そう考えるとメジャーとの距離は本当に縮まったと思うよ。日本人の体力が向上したというのも若干はあるんだろう。大谷も身長190センチ以上というから、日本人の体形も大きくなったよね。だけど、そうしたことよりも気がかりなのはメジャーのほうだよ。ヤクルト監督時代、アメリカのユマでキャンプを張ったときにメジャーで監督もやったパット・コラレスに、『いまの日本人選手は平気でメジャーで活躍しているようだけど、実際のところはどうなんだ』と聞いたことがある。『まず一つはメジャーのレベルが下がった。そうして日本のレベルが少し上がった』というふうに言っていた。我々の頃は16チームだったのが、いまは30チームにまで増えたのだから、その分だけレベルを落としているということなんだけど、まあメジャーも安っぽくなったよな。

 いま日本人メジャーリーガーは9人になるのかな(2018年当時。イチロー、田澤純一を含む)。そんな簡単に通用するなんてことが俺なんかからすると考えられない。日本のプロがどうこうというよりも、メジャーのレベルが下がったというのが寂しいわな。青木(宣親)にしたってヤクルトへ帰ってきたのはいいけど今季3割も打てていないんじゃないか(18年5月当時)。元メジャーリーガーがそれではなあ……。いまのメジャーに全盛時のONが行ったなら日本と大きく変わらないだけの成績を残せたんじゃないか」

不滅の記録をつくればいい

「だから大谷についても二刀流ということへの驚きはあるけど、活躍すること自体は意外でもない。所属するエンゼルスのファンが『オータニー! オータニー!』と騒ぐ姿を見ると隔世の感を禁じ得ないけれど、もういまはそういう時代になったということなんだろうね。今後も日本人選手はどんどんメジャーへ行くことになるんだろうけど、本当にえらい時代になったもんだな」

 1996年のオールスター戦でイチローが投手として登板したときには「オールスターは夢の舞台であって、遊びの場じゃない」と怒りをあらわにした野村。やはりイチローが2015年にメジャーのマウンドに上がったときにも不快感を示したものだが、それと大谷の二刀流ではもちろん話が違う。真剣に取り組みながら実際に通用しているのだから、文句のつけようもないという。

「今後は大谷の影響で二刀流に挑戦したいという若者も出てくるだろうな。それはもうやればいい。チャレンジは若さの特権なんだから。

 大谷に彼女はいるのか? あまりそういう噂は聞かないけれど、まあモテるんだろうなあ。他人の結婚についてあれこれ言える立場ではないけれど、でも、結婚するならアメリカ人よりも日本人を薦めるよ。やっぱりあちらとでは風習が違うからね。まだ23歳か(取材時)。いまはメジャー最低保証の年俸しかもらっていないらしいけど、これからどんどん稼ぐね。稼いでくればいい。10年後に大谷はどうなっているんだろうね。その頃にはもう俺はいないから(笑)。あと5年も生きたらいいほうだよ。だから俺みたいなもう終わった人間の言うことなんてどうだっていい。常識外の二刀流? 結構なことじゃないか。不滅の記録をつくればいいんだよ」

《追記》野村さんにお話を伺ったのは2018年5月16日。この頃には車椅子を利用するなど体調はすぐれないようでしたが、それでも大谷の試合はテレビでチェックしていたとのこと。渡米前にテレビ番組で大谷と対面したことはあまり記憶に残っていなかったご様子でした。二刀流については「結果が出ているから」と認めつつも、しばしば言葉を詰まらせ言い淀むなど、やはりどこか納得のいかない気持ちがあったようにも感じられました。2021年の大谷の活躍は、野村さんの想定内だったのでしょうか。

【前編を読む】 「打てなかった僕が言うんだから間違いないですよ」川崎宗則が語る大谷翔平が活躍し続ける“明確な理由”

(野村 克也)

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