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「私にはギャグ漫画を描く才能はないと、だいぶ前に諦めています」 『女の園の星』の和山やまが“半径3メートル以内の笑い”を描くわけ

文春オンライン / 2021年7月16日 17時0分

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©️iStock.com

 宝島社の『 このマンガがすごい!2021 』オンナ編で、第1位と第5位の2冊同時ランクインという快挙を果たした和山やまさん。第1位に輝いた、初連載となる『 女の園の星 』(祥伝社)は、女子校を舞台に、担任の男性教師・星先生と生徒たちの日常を描いた作品で、芸能人にも熱烈なファンが多くいるという。端正な絵柄と低いテンションで日常のミクロな事件を愛おしい笑いに変える世界観は、どのように生み出されているのか。作者の和山さんに、話を聞いた。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

『女の園の星』第1話を読む

米津玄師さん、綾野剛さんらがSNSで紹介

――『このマンガがすごい!2021』オンナ編で、『女の園の星』が1位となりました。おめでとうございます。中3男子とヤクザの奇妙な友情を描いた前作、『 カラオケ行こ! 』も5位にランクインされていますが、今作はどちらかというと男子高生の日常を描いたデビュー作『 夢中さ、きみに。 』に近い世界が描かれています。先日発売された『女の園の星』2巻は、発売後たちまち重版が決まり、米津玄師さんや綾野剛さんらがSNSで紹介されたことも話題となりました。初連載がここまで注目されるというのは、どのようなお気持ちですか。

和山 多くの方が見てくださっていることは、本当にとてもありがたいです。でも一方で、自己評価以上の高い評価を頂いてるなと思うこともあります。というのも私の漫画は自己満足的で万人ウケするものでもないと思っていたので、想像以上に好意的に読んでくださる方が多いことに驚いています。何がウケて、どこが評価されてるのか不透明ではありますが、世間の評価はあまり気にせず今後も自分の好きなものを描いていけたらいいなと思います。

――連載へのプレッシャーもありますか。

和山 そうですね。初めての連載なのでまだまだ不安は大きいです。でも、基本的に1回の話だけで終わってしまう読み切りと違い、「こんなふうにキャラクターを見せていこう」とシナリオを組み立てられる面白さは感じています。キャラクターを掘り下げていく楽しみや、キャラクターを好きになってもらうチャンスも、連載の方が大きいと思います。

照れ隠しでギャグ寄りになっていくうちに、今の作風に

――画力の高さはもちろんですが、高い中毒性を持つ独特のユーモアとセンスが、どこにもない和山さんの魅力だと思います。どのように今のような作風を生み出されたのでしょうか。

和山 漫画家を目指そうと思っていた時は、恋愛漫画を描いていたんです。でも自分でも合わないなというのは感じていて。照れ隠しでギャグ寄りになっていくうちに、ギャグ漫画を描いてみたいなと思うようになりました。そこからだんだん今の作風に近づいていった感じです。

――恋愛漫画を描いておられた頃も、今のような画風だったのですか。

和山 いえ、昔はもっと少女漫画チックな絵を描いていました。でも、古屋兎丸先生の漫画を読んで衝撃を受けて、そのまま古屋先生の絵柄を真似して、土台から変えていきました。

 ギャグに関しては、野中英次先生の『魁!!クロマティ高校』にかなりの影響を受けています。

シリアスな絵柄で低いテンション

――ギャグ漫画というと突飛なキャラクターが出てきたり、唐突な行動をしたりするイメージもあります。端正な絵柄で、テンションの低いキャラクターが繰り広げる日常にフォーカスすることで笑いを生み出すやり方は、これまでのギャグ漫画ではなかった手法だと思います。どのようにご自身の世界を構築されたのですか。

和山 ギャグというよりはコメディを意識して描いているので、ギャグ漫画とは呼べないかもしれません。そもそも私にはギャグ漫画を描く才能はないと、だいぶ前に諦めています。よくわからないネームを描いて編集者さんの苦笑いを何度も見ていくうちに、もうダメだと思いました。海でゴキブリがサーフィンをして最後空中で爆発するネームで「怖いです」と言われたり。根本的にギャグの描き方が分かっていなかったんです。そんな時に『魁!!クロマティ高校』を読んで「シリアスな絵柄で低いテンションでも、ギャグ漫画は描ける」ということを教えていただいた気がして、「こういう漫画が描きたい」と目指すようになりました。それに加えて、友達との会話で面白かったことや、ズレを感じたことを覚えておいて、それらをこねくり回して必死に引きずり出している感じです。

「自分のスケールを広げなきゃ」ともがいた時期も

――言われてみれば、女子高生たちの日常を描いた『女の園の星』では、生徒たちが学級日誌で繰り広げる「絵しりとり」に担任の星先生が翻弄されたり、星先生の中学時代の卒業アルバムが都市伝説を生んだりするなど、華やかなイベントや事件ではない「普通の日常」がひたすら描かれています。

和山 「半径5メートル以内のことは描くな」というアドバイスを別の担当編集さんから受けたこともあり、「もうちょっと自分のスケールを広げなきゃ」ともがいていた時期もあったんですけど、全然描けなかったんです。そんな時、バカリズムさんの『架空OL日記』というドラマを見て、主人公の半径3メートル以内の日常を面白く切り取っているのがすごく刺さりました。

 実際に生活しているうえではそんなに意識しませんが、後から考えると何がそんなにおかしかったんだろうということで笑ってしまうことってありますよね。なんてことのない日常を面白おかしく描いていくことこそ私の描きたいものだと改めて気付かされて、普通の日常に焦点を当てるようになりました。

――デビュー作の『夢中さ、きみに。』では男子高校生を、『女の園の星』では女子校を舞台に描かれています。あえて共学にしないというのは、ご自身でテーマがあるのでしょうか。

和山 『夢中さ、きみに。』で男の子をたくさん描いたので、次は女の子を描きたかったというのもあります。あとは、共学だと、潜在的にお互いに異性を意識して、勝手にジャッジしあう残酷さというか怖さがあると思っています。実際に私も共学でそんな嫌な空気を感じたこともあり、そういう理不尽な部分や不公平感が生まれないよう同性だけの世界を描いてしまうのは無意識にあるかもしれません。もちろん、同性だけの世界にも嫉妬やイジメはありますが、それは私の漫画を好きで読んでくださる読者は求めてないでしょうし、私も描きたくないので、描かないようにしています。

イジメは描かない、ネガティブな言葉は使わない

――ご自身が思い描く理想の世界を中高生の日常を舞台に描いているとお聞きしました。どんな部分に一番思いを込められたのでしょうか。

和山 特に『女の園の星』では、イジメを描かないというのもそうですが、生徒たちのセリフで「キモイ」「ウザイ」というようなネガティブな言葉は使わないように意識しています。

 あと、悪意を持って誰かを傷つけようという人を描かない、というのも気をつけています。「100%善人」という人間は逆に不自然だと思うので、少しの毒は入れるようにしていますが、「こんな人が近くにいたらいいよね」という人ばかりの理想の世界をあえて描くようにしました。

――SNSでも「こういう学校だったら通いたい」という投稿が多いと聞きました。ご自身の高校時代の経験なども盛り込んでおられるのでしょうか。

和山 私自身は共学に通っていたので、具体的なエピソードを漫画に入れているというよりも、高校生当時の空気感を思い出しながら描いている感じです。次の日になったら忘れているような話しかしていなかったな、とか(笑)。『女の園の星』は、以前から教師ものを描いてみたいと伝えていた担当編集さんが女子校出身というのを聞いて「それいいね」という感じで決まったんです。同性だけの環境が楽しいと思う人もいれば、そうではない人もいると思いますが、自分で描きながら「女子だけの世界も楽しそうだな」と思うので、そんな世界を一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。

(取材・構成:相澤洋美)

【 続きを読む 「星先生は、生徒に対しての言葉遣いもていねいで、理想を詰め込んだ感じです」 和山やまが語る『女の園の星』の“関係と恋愛” 】

「星先生は、生徒に対しての言葉遣いもていねいで、理想を詰め込んだ感じです」 和山やまが語る『女の園の星』の“関係と恋愛” へ続く

(和山 やま)

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