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「魔性のジゴロ」は田村正和の他に表現できないのではないか!――春日太一の木曜邦画劇場

文春オンライン / 2021年7月13日 17時0分

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1970年(83分)/KADOKAWA/3080円(税込)

 田村正和が亡くなった。

 田村といえば、「古畑任三郎」や「パパはニュースキャスター」といったテレビの現代劇で見せた、独特の間を入れつつテンション高くまくし立てるようなセリフ回しによる、コミカルな芝居のイメージが強い方も多いだろう。

 ただ、時代劇となるとこれが異なる。実は晩年まで数多くの時代劇に出続けてきた田村だが、そこでは現代劇とは正反対。「眠狂四郎」や「乾いて候」といった作品をテレビや舞台で演じてきたが、その際はじっと黙り、どこか憂いを帯びたニヒルな役柄を得意としていたのだ。立ち姿や殺陣の残心の悲壮感漂う美しさも相まって、クールだけども切なさを漂わせる美剣士役がよく似合っていた。

 今回取り上げる『おんな極悪帖』は、時代劇映画で田村の魅力を堪能できる作品だ。

 物語はほぼ全編、とある藩の下屋敷を舞台に展開される。主人公のお銀(安田道代)は美貌と肉体を武器に藩主の側室にまで上り詰め、その寵愛を受けて男子も出産した。我が子を世継ぎとしたいお銀は、懐妊した正室の謀殺を企む。

 とにかく、出てくる人間が全て腹に一物を抱えた悪人というのに驚かされる。日々の娯楽のように家臣を嬉々として斬り殺す藩主(岸田森)、お銀の陰謀の口封じのために関係者を殺める腰元(小山明子)、お銀を使って藩政を牛耳ろうとする家老(佐藤慶)、お銀の肉体に溺れて悪事に手を貸す医師(小松方正)。名優たちの演じる魑魅魍魎が屋敷の中でひたすら悪だくみをし、騙し合い、そして殺し合う。そんな地獄絵巻の世界を、市川雷蔵の「眠狂四郎」シリーズで淫靡と背徳の世界を濃厚に描いてきた脚本=星川清司と監督=池広一夫が今回も容赦ないまでに毒々しく紡いでいる。

 本作で田村が演じるのは、下屋敷に勤める下級藩士・伊織。彼は腰元と恋仲にあった。多くを語らず、どこかミステリアスな美青年役は田村にピッタリ。感情を露わにせずに黙ってうつむき、いつも哀しげな眼差しをしているニヒルな芝居を観ていると、腰元がメロメロになるのも仕方ないなと納得させられる。

 伊織は一途に腰元を愛する、本作で唯一の純粋な登場人物――と思わせておいて、実は彼も裏に黒い本性を隠していたことを徐々に見せていく様も見事。冷たい悪の匂いを放ちつつ、腰元だけでなく百戦錬磨のはずのお銀をも籠絡していく「魔性のジゴロ」ぶりは、田村正和をおいて他には表現できないのではないかとすら思えてしまった。

 テレビドラマではなかなかお目にかかれない田村のクールな美しさ。ぜひ味わってみてほしい。

(春日 太一/週刊文春 2021年7月15日号)

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