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「不登校も、将棋をやったことも、美大進学も漫画で全部つながった」 伊奈めぐみさんが夫・渡辺明名人の「マイナスになりたくない」と語る理由

文春オンライン / 2021年7月17日 11時0分

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「出会いは詰将棋チャット、初めて会ったのは将棋連盟の隣の鳩森神社で…」 『将棋の渡辺くん』で伊奈めぐみさんが描く、夫・渡辺明名人のキュートな“素顔” から続く

 トップ棋士の妻がその日常を描く異色の将棋漫画『 将棋の渡辺くん 』(講談社)
。作者である伊奈めぐみさんへのインタビューの後編となる本稿では、その内容について聞いていきたい。まずは、そのネタの集め方から。なんでも、連載開始当初から「日常」「将棋」「ぬいぐるみ」という3つのフォルダに、日頃からネタをストックしているのだという。(全2回の2回目。 前編 を読む)

【マンガを読む】『将棋の渡辺くん』 「トイレのアイビー、君がああいう形に切ったの?」 頭の中は将棋一色…渡辺明名人の“とぼけた”日常

◆◆◆

ぬいぐるみは「もうわからないくらい増えてますね」

伊奈 ブログを書いているときから、こういったフォルダにネタを入れていました。私の場合、今も昔も、その日にあったことをすぐに描いているわけじゃないんです。ある程度そのフォルダに入れておいて、時間がたってから描くスタイルですね。

――このフォルダの「日常」と「将棋」はわかりますが、「ぬいぐるみ」がメインフォルダになっているのは、やはり変わっていますよね。これはどうしてですか?

伊奈 それはもう、初代担当編集者の趣味ですね(笑)。

――そうですか(笑)。伊奈さんが、初めて見た渡辺名人の「ぬいぐるみエピソード」を教えてください。

伊奈 私が「小さい頃に犬を飼っていたんだ」と話すと、彼が「俺も実家に犬いるよ」って言うんですが、実際には犬のぬいぐるみだった――という話ですね( 単行本1巻 収録。《ぬいぐるみのこと犬って言うの普通だし!!》と叫ぶ渡辺名人の描写も楽しい)。

――今、ぬいぐるみはどれくらい、いるんですか?

伊奈 もうわからないくらい増えてますね。漫画に描いてから、どんどん送られてくるようになって。

――「すみっコぐらし」のぬいぐるみがファンの方から送られてきた話も描いておられましたね。

伊奈 「すみっコぐらし」は、あれから自分でも買ってるんですけど、好きだというと、どんどん送られてきます。

――それでもう数はわからなくなったと。

伊奈 そうですね。メインの子はそれほど変わらないですが「いるだけの子」は、どんどん増えますね。

――「日常」「将棋」「ぬいぐるみ」がネタの3本柱ですが、やはり連載を続けていくとネタは尽きてくるものですか。

伊奈 今までは、ネタ探しが楽で、描くのが大変だったんですが、最近はネタ探しに苦労しています。だから取材に行くこともあります。

『Number』の将棋特集に「描きたい!」と立候補したんですが

――バンジージャンプも体験されていましたね。そういえば、文春の『Number』編集部にも行かれたとか?

伊奈 そうです。文春さんにも行きました。『Number』が将棋特集をやるというので、私が「描きたい!」と立候補したんですが、断られたんですよ。

――わはは(笑)。

伊奈 それで頭にきたから、こっちから乗り込んで「なんで断ったんですか!」って聞きにいったという漫画を描きました。

――なんて言ってたんですか?

伊奈 「いや、ページが……」みたいな(笑)。まあ、ちゃんとネタになってよかったんですけどね。

――これから取材してみたいことはありますか。

伊奈 大山先生(大山康晴十五世名人)が活躍した頃の、少し昔の将棋界を描いてみたいなと思っています。となると、年配の方に取材に伺わなくてはと思うのですが、まだちょっと、今のコロナの状況では難しいですかね。

――そういった少し昔の将棋界の知識があるのは、昔、女流棋士を目指していたことが役立っていますね。

伊奈 そうですね。たとえば駒を持つシーンでも、他の漫画家さんは苦労されるそうなんです。でも自分はわかりますからね。駒をちょっとひねった角度で持ったりしても、違和感がないとか自分で判断できるので、そこは役立っていますね。

喜んでもらえたり、励みになったと言ってもらえたら

――ちなみに、ご自身で気に入っている話は、どれですか?

伊奈 昔の漫画は見たくないので最近のですね。なかでも私は日常の話が好きでしょうか。

――たとえば?

伊奈 トイレにアイビーの葉っぱを置いていたら「君がああいう形に切ったの?」って聞かれた話とか。庭から切って持ってきたことではなく、私が葉の輪郭を切っているのか尋ねているんだとわかって驚きましたね。

――「ニワトリは食用になったりしないよね?」と渡辺名人が聞く話も面白いですよね。

伊奈 そういう日常の話が好きです。

――読者の方は、将棋ファンが多いですか?

伊奈 ファンレターをもらったり、エゴサーチしてみる感じだと、将棋ファンの方と、そうではない方、両方いらっしゃいますね。あと、この漫画がきっかけで将棋を覚えてくださったという方もいて嬉しいです。

――この漫画を描いてよかったなと思うときはどんなときですか?

伊奈 やっぱり反応がもらえたら嬉しいですよね。喜んでもらえたり、励みになったと言ってもらえたら。たとえば、私が不登校ですと描くと「自分の子供も不登校です」といった方から手紙が来たりとか。そういうとき描いててよかったなと思います。

この漫画で全部つながったような気がしますね

――じつは私の息子も不登校で。

伊奈 いまおいくつですか?

――中3です。だから伊奈さんのことを気にしているようなこともいいますし、私もなんか励まされる気持ちになります。きっとこうして楽しい漫画を描いておられるだけでも、誰かを勇気づけたり、励ましたりしているのではないでしょうか。

伊奈 そうですね。そういう意味では、昔、不登校だったことも、将棋を少しやったことも、絵はうまくならなかったけど美大に通ったことも、この漫画で全部つながったような気がしますね。全部中途半端だったけれど、つながったのかな。

私が息子も不登校だと告げると、伊奈さんはインタビューが終わったあとでも、どういった子なのかといろいろ気にかけてくださった。そんな話を息子にしたら、彼もまた笑顔を見せていた。ひとつの作品は、思いがけないところで、人に笑顔を与えるものだ。

他の漫画を描いてみたいという気持ちはありますが

最後に『 将棋の渡辺くん 』の他に描いてみたいものや、これからの目標などについてうかがった。

伊奈 他の漫画を描いてみたいという気持ちはありますが、画力にしても、話を作る能力にしても、自分には難しいだろうなと思っています。挑戦はしてみるかもしれませんが、難しいかなと。

――絵を描くのは楽しいですか?

伊奈 うーん。楽しくはないかな。やっぱり苦手意識がありますからね。一般の人とくらべれば、絵はそれほど下手ではないでしょうけど、でも漫画家のなかでいえば、短所というか、かなり画力が下。そうすると正直辛いですよ。この話だから、この絵でもなんとか成り立つけれど、ほかの漫画だと辛い。だから先のことはわからないですね。

――ちなみに、もしストーリー漫画を描くとしたら、どんなジャンルですか? ミステリーとか恋愛とかいろいろありますが。

伊奈 あぁ……。恋愛は絶対いやですね。

――わははは(笑)。そうですか。

伊奈 もうちょっと現実的な話がいいですね。

7巻でネタ的に終わるかなって思っています

――これからの目標などありますか。

伊奈 この漫画に関しては、次の6巻が来春くらいに出るのかな。そこまでのネタのストックはあるんですが、その次の7巻でネタ的に終わるかなって思っています。ですから、それまではきちんと描きたいな。しっかり終わらせたいなと思っています。

――それはネタがあったらその先に進むということですか?

伊奈 いや8巻にはいかないと思うので、7巻までしっかり描くということです。

――(同席していた担当編集者に向かって)そんなこと書いていいんですか? 

担当編集者 毎回、言ってるんで(笑)。

――そうなんですか(笑)。

担当編集者 前は6巻で終わりだって(笑)。

伊奈 連載が始まるときは、編集者から1巻で終わりだって言われていました。

――そうでしたか(笑)。

伊奈 とにかく「描くときは薄めずに濃く描け」って言われているんで、いまあるものはちゃんと出そうと。ですから、とりあえず今は7巻までをきちんと描きたいですね。

私は、彼の邪魔をしたくないと思っていて

――漫画以外の目標はいかがですか? たとえばご夫婦のことについてなど、なにかありますか。

伊奈 私は、彼の邪魔をしたくないと思っていて。私は、彼にとってプラスになるようなことができるとは、思っていないんですよ。ただ、マイナスにはなりたくないと思っていて。今はそうあるかなと思うので、これからもやっていけたらいいなと思っています。

――プレゼントをもらいたいとかは?

伊奈 ないですね。漫画の中では欲しいという体にしていますけど、もともと私は欲しいものもないので。

 ちなみに渡辺名人は、この漫画を何度も事前にチェックしているという。ただ、内容に関して何かを言うことはなく、棋士の段位が間違っていないかなど、事実関係をチェックしてくれるそうだ。名人が校閲をしている将棋漫画。やはり異色の漫画である。

(撮影:鈴木七絵/文藝春秋)

【マンガ】『将棋の渡辺くん』 「名前:ぺんぎん、好物:きゅうり…?」 渡辺明名人が‟一番喜んだ”誕生日プレゼントとは へ続く

(岡部 敬史)

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