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夏休みになると「援デリ」の面接ラッシュとなる 業者が語るもっとも重要な“採用基準”とは

文春オンライン / 2021年7月21日 17時0分

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©︎iStock.com

 またこの季節がやってきた。7月半ばから9月までは、未成年を扱う管理売春業「援デリ」において、最大の繁忙期となる。理由は想像に易い。この時期、学校が夏休みとなることを機会に家出生活と出稼ぎ的な売春を目指す少女が増加し、それに対する面接ラッシュ、さらに書き入れに応じた新規部隊の立ち上げが相次ぐ時期だからだ。

面接での採用基準や条件交渉は「素行」

 僕自身、かつて管理売春の現場ルポに注力した頃には、例年7月末が取材のピークだった。脳裏によみがえるのは、エアコンの冷気と煙草の煙に満ちた昭和ムードの喫茶店(面接会場)に漂う、火薬が焦げたようにピリピリした空気だ。

 業者にとって、昨日今日のタイミングで家出してきた少女を管理売春の場に雇用すべく面接するというのは、面接そのものがリスキーな行為。補導員や警察の生活安全課の目もあるし、親が捜索願を出しているリスクもある。だからだろうか、新人面接を重ねる業者に対し、その採用基準や交渉条件について尋ねた際に決まって返ってくるのは「素行だね」だった。容姿でもない、経験でもない、素行なのだ。

「バイボー(売春防止法)だけでもヤバいのに、未成年使うんだから、一番大事なのはその子を使ってる間にその子が補導されないこととか、親がガチで捜索願出してるようなケースじゃないこと、あとは部隊辞めた後に別件で補導されたときなんかに俺らのことをうたわない(密告しない)ってことでしょ」

性器に薬物を摺り込む少女も

 要するにポイントは、その少女を雇うことが業者の摘発につながらないこと。ということで、まず重視されるのが、今の令和の世ではありえないが「路上喫煙をしない」とか、テンションが高すぎて悪目立ちしないとか、薬物常用だったり酒を飲むと暴れることがない等々、自ら補導を回避する意識がしっかりしていることなのだった。

 なお、そうして最低限の条件をクリアした後は、買春客から受け取った金の何割を客付けしたキャスティングスタッフにバックするかを決定したうえで、「明日の集合時間に集合場所に来て」で即日採用が基本。さらに出勤初日は時間と本人の体力が許す限りの本数(客数)を付けるというのが、面接から採用直後の典型的なパターンだった。

「体力が許す限りの本数を付ける」というのは、かなり過酷な風景だ。全然、綺麗ごとではない。かつての取材時、客のもとに向かう際に性器にケタミン(麻酔効果のある違法薬物)を擦り込んでいるという少女の話に、絶句した。

初っ端に連続で客を取らせる事情とは

 家出をして管理売春業者につながるような少女らには、生育環境に暴力や耐え難い支配環境があることが多く、稼ぎだけでなく寝泊まりする場所やスマホのSIM貸しといった生活のインフラの手助けもする業者には「私的なセーフティネット」と言える側面もある。が、やはり綺麗ごとじゃない。

 援デリ業界に生きる少女らを描いた拙著『里奈の物語』を原作とする漫画『アンダーズ〈里奈の物語〉』でも、里奈が援デリにデビューした際に同じく新人として働いていた少女が、「こんな連続で客取ってこんなに辛いなんて聞いてない」とボヤくシーンがあるが、なぜキャストが消耗するようなことを敢えてするのか?

 それは嬢とスタッフや経営サイドの立場関係を一定まで対等に保とうとする一般の性風俗とは大きく違って感じたが、これを「ビジネスモデルが全然違うから」と説明した業者もいた。

「援デリは、特に未成年の援デリは、10勤務日以上続いたら古株だからね。つまり、週に5勤で2週間続いたら、もう古株。そのぐらい定着率が低いし、せっかく時間とって面接しても、1出勤とか2出勤で飛ぶ子が大半。だから、本人もキツいだろうけど、初っ端につけられるだけ本数つけて稼がせてやるっていうのは、女の子にとっても僕らにとってもメリットあることでしょ。

 あと業者にとって一番大事な嬢っていうのは、出勤率が多少低くても約束した出勤日にきちんと出てこれて、飛ばないレギュラーの子。夏休み限定で出稼ぎの子とか、悪いけど僕ら全然信用してないし、そういう子が稼いでくれた分をレギュラーの子に還元するのは、こっちの人情でもあるでしょ」

生き残ることができる一握りの「レギュラー」

 援デリ業者の取材を始めたころは、この「レギュラーの子」の意味するところがいまいち理解できなかった。が、要するにこれは、業者との間に雇用者と被雇用者、支配者と被支配者という関係性ではなく、利害関係を共にする共犯関係にある嬢のことだ。

「還元する」との言葉があったが、業者の中には夏季限定で働かせたキャストの売り上げをレギュラー嬢が抱えたホスクラの売掛解消に回したエピソードもあったし、そもそも売り上げのバック率を通常折半としている業者が「レギュラー嬢では3:7(嬢の取り分が7)」と不平等な設定にしているケースも多かった(かなり多かった)。

 そう、そこには業界に生き残ることができる一握りの少女ら(レギュラー)を生かすために、多くの少女らから最大限搾取し、ふるいにかける構造が確実にあった。

コロナ禍でセックスワーク業界は人余りの状態

 なお、コロナ禍の中にある昨年と今年においては、そうした状況が一気に悪化しているとの声も聞く。

「アンダー(未成年)は、やっぱり緊急事態宣言とかテレワークで親が家にいるのがヤバくて逃げてくる子が多くて、例年の夏休み前の面接ラッシュが、昨年の5月ぐらいからずっと続いてる状況ですよね。

 でも何年も前から未成年雇うほど根性ある業者の方が少ないんで、面接してもよっぽど手堅くやれる子じゃない限りリリースされて、ほんと雇用条件とかがヤバい業者しか行き先がない。SNS通じて女の子らだけでやってるグループがあるのがちょっと救いですけどね」

 と、援デリ関係者。そもそもこのコロナ禍の中、セックスワーク業界全体に人余りの状態が常態化しつつあるという。

「嬢余りでしょ。キャバの大衆店とか企業体力のないとこから風俗に人が流れて、もともとの嬢に客つかなくなってウリ(管理売春)の方に流れるでしょ。あとここんとこ、オリンピック絡みかと思うけどピンサロとか店舗でやってるところの摘発が何件か連続して(※報道では確認はできなかったが)、嬢がビビって援デリ業界に入って、ウリの業界も人余り。

 客の男もやっぱ自粛自粛で寂しいやつが多いのか、単に抜き目的じゃなくて、ラブホで酒飲んでトーク中心のイチャラブ希望みたいなのが多いんです。そんなんキャバ嬢が流入してきたら従来の嬢とかアンダーの子なんかは、勝負になんないでしょ。そもそも未成年狙いの客は、万が一コロナにかかった時にどこでかかったか調査されるとか、買ったアンダーの子がコロナになったら自分も濃厚接触者じゃないかとかでビビっちゃって全然動き悪いんで」

 これはもはや状況悪化というより、混乱状態。しかも未成年の少女らにとってはより過酷な状況となっていることが推察できる。

限られた買春客を奪われたくない

『アンダーズ〈里奈の物語〉』 第11話 では、未成年を使う管理売春組織のリーダーとなった主人公・里奈が、新人候補の少女らを面接する際に「高額バイト気分なら今すぐ眼中から消えてくれな!?」と言い放つシーンがある。

 

 営業エリア内で引ける限られた買春客を、生き延びるために売春を続ける仲間たちから奪わせたくない、実際にその言葉は主人公のモデルとなった少女の言葉でもあるが、いわば彼女の選択は「レギュラーの職域を侵す子はそもそも市場から排除する」だった。

 それは正義のように見えて業界的には微妙にズレていて、自己責任と自助努力が最優先されるその世界では批判の対象にもなる行動だ。だからこそ、その行動は周囲(特に作中の茉莉や冬美のようなレギュラー嬢)からすると、英雄じみて映ったのだと思う。

(鈴木大介)

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