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「バンドマン時代の俺の“秘密”を書いてるの?」 YOASOBI・Ayaseに刺さった、カツセマサヒコ『夜行秘密』の“驚き”のストーリー

文春オンライン / 2021年7月30日 11時0分

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YOASOBIのAyase(左)とカツセマサヒコ(右)

 音楽の小説化、アニメの実写化、そして小説の映画化――ひとつの作品から別のフォーマットの作品が作られて大ヒットすることは多い。だが、原作ファンから賛否両論が巻き起こるのは世の常だ。原作者や原作ファンを失望させないために、そこには作り手の様々な葛藤や工夫がある。

「小説を音楽にするユニット」として一躍ヒットメーカーとなったYOASOBIのソングライターAyase。川谷絵音率いるロックバンドindigo la Endのアルバム『夜行秘密』を新たな解釈で小説にした『 夜行秘密 』(双葉社刊)が話題となっている小説家・ライターのカツセマサヒコ。両者は「小説を音楽にする/音楽を小説にする」という創作の中で何を意識しているのかを聞いた。(全2回の1回目。 後編 を読む)

◆◆◆

「小説を音楽にする」YOASOBI

――まずはYOASOBIが「小説を音楽にする」というコンセプトに至った経緯からお話しいただけますか?

Ayase 小説投稿サイト「monogatary.com」のスタッフの、サイト内で集まった小説の中から音楽やミュージックビデオを作ったら面白いんじゃないかという発想から始まりました。「じゃあ曲を作る人は誰にしようか」というところで僕に声をかけてもらったんです。でも、最初話を聞いたときは「小説を音楽にするとはなんぞや」と思いましたね(笑)。1発目の「夜に駆ける」が出来上がるまでにたくさん打ち合わせをしましたし、デモもたくさん作り、かなり試行錯誤しました。

カツセマサヒコ(以下、カツセ) 「夜に駆ける」は、原作「タナトスの誘惑」を読むと曲の印象がガラッと変わるので、そこがギミックとして面白いなと思いました。小説をストレートに音楽にしたらもっとダークな感じになると思うんですけど、攻めたポップソングに変換させたのが見事な発明だと思いました。

Ayase ありがとうございます。最初に「タナトスの誘惑」を読んだ段階でもう、ポップな曲にするイメージはありましたね。小説がちょっと怖い終わり方なので、暗い感じの曲にするより「一見ポップな恋愛ソングなんだけど、実は……」というグロテスクな雰囲気を内包させました。ポップな曲調の中に潜むグロテスクさやシリアスさがチラッと見える瞬間って、ゾッとする感じがあると思うんです。

「音楽を小説にする」カツセマサヒコ

カツセ 今回僕はYOASOBIの逆方向である「音楽を小説にする」ということを『夜行秘密』でやりました。どこまでindigo la Endのアルバムの世界観を維持しながら小説にしたらいいのか。すごくプレッシャーを感じていました。実は、作詞作曲の川谷絵音さんと打ち合わせしているときに、YOASOBIの話が出たんです。川谷さんが、「YOASOBIがやっていることは、全曲なんらかのオーダーがあるタイアップ曲を作っているようなもので、そのプレッシャーや要求に常に応えているのがすごい」という話をされていました。それって、常に原作へのリスペクトがないとできないことだと思うから、Ayaseさんはいつも原作とどういった距離感を取っているのかを聞いてみたかったんです。

Ayase YOASOBIというプロジェクトにおいて、原作者へリスペクトを示す唯一の方法は、原作者がその曲を聴いたときに最高だと思えるものを作ることだと思っています。どれだけ原作を「好き」とか「すごくよかった」と僕が褒めるよりも、「あなたの小説をこんな音楽にしました」って聴いてもらったときに「すごい!」と思ってもらえることが、「この小説を書いてよかった」「曲にしてもらってよかった」につながる。そこに対してもうひたすら真摯に向き合うしかないですね。正直、自分でゼロから作るよりもカロリー消費量は圧倒的に多いです。でも、その分達成感も大きくて楽しいです。小説を音楽にするのは、どれだけ小説と向き合う時間が長いかで曲のクオリティーが決まってくるので、とんでもない時間をかけて原作の一字一句に向き合っています。一作から曲が出来上がるまで、常にパソコンのデスクトップ上に小説を開いておいたり、紙としてあるならそれをずっと見ていたり、その文字、その文章をそばにおいて音楽を作っていくので、原作が生活の一部みたいになっています。

カツセ 僕の場合、「indigo la Endの音楽を小説にしませんか?」というオファーをいただいたとき、デビュー作『 明け方の若者たち 』(幻冬舎刊)の映画化が決まって、ちょうどその脚本の初稿が手元に届いた時期だったんですよ。その時点の脚本は原作にすごく忠実な物語だったんですが、「これは原作者としては嬉しいけど、2時間の映像作品として見たときに面白いんだろうか?」という感想を抱いたんです。でも、映画として何が正しいかは僕にはわからないので「お任せします」と返答しました。そこからいくつか変更があったんですけど、その経験が今作『夜行秘密』の創作過程に活きました。すでに完成しているアルバムの延長線として作ることよりも、小説としてオリジナリティーがあって、ちゃんと面白いものにすることを大前提に考えなきゃいけないなと思ったんです。そのときのヒントになったのが、Ayaseさんのツイートでした。実は……。

「一度咀嚼して自分のことばと色味で出そう」

Ayase ええ、本当ですか! なんと光栄な。

カツセ 紹介していいですか?(Ayaseの前で1年前のツイートを読み上げる)

〈小説を音楽にするというその一点だけを忠実に表現するなら、読みこんで、リンクさせて、って時間と努力と知識である程度なんとかなると思うんだけど、そこから感じた想いやメッセージを自分のフィルターを通して、自分の中の芸術や色味と照らし合わせて自分の言葉で吐き出す、これは俺にしかできない〉

Ayase ははははは(笑)。これ、ツイートした直後に、母親から「あんまり偉そうなこと言わない方がいいよ」って連絡をもらったツイートですね。

カツセ そうだったんですか(笑)。このツイートは僕にはすごく刺さったんですよ。

Ayase いやあ、偉そうなことを言ってしまい、本当に恥ずかしいです(笑)。

カツセ 全然そんなことないです。アルバムの14曲を1曲ずつ短編にしても面白くないから、14曲をひとつの大きな物語にしようと思ったときに「どうしたらいいんだろう」って悩んだんですが、Ayaseさんが書いていたように、「一度咀嚼して自分のことばと色味で出そう」と決めて書き始めたんです。

誰がやるのかによって形はいろいろ変わってくる

Ayase 本当に光栄です。ひとつの原作小説をアートとして表現するとき、誰がやるのかによって形はいろいろ変わってくると思っています。だから、僕が作った曲は、自分が作り出していない物語が核だとしても、完全に自分の色と形で形成しているので、「100%自分の作品」という気持ちで出しています。そういう思いを持つことが責任であり、原作へのリスペクトにもつながります。

カツセ 「夜に駆ける」と原作「タナトスの誘惑」を往復して楽しめるのは、小説というフォーマットから音楽というフォーマットへ変わる過程において、Ayaseさんが原作のコアを保ちつつ、別のものに飛躍させているからなんですよね。さきほどツイートを紹介しましたが、Ayaseさんがやられていることをヒントにして、僕にしか書けない『夜行秘密』を作ろうと思い、書き切ることができました。前置きが長くなりましたが、つまり、今日はお礼を言いたかったんです(笑)。

Ayase ありがとうございます。小説『夜行秘密』は本当に面白かったです。僕はバンドをずっとやっていたので、物語の中の岡本音色くん(バンドのボーカルを務める登場人物)と凜さんの同棲生活の感じが、すごくリアルでよかった。いい台詞やグッとくるシーンはいっぱいあるんですけど、中でも一番グサッときたのが、音色くんがお風呂場で凜さんに「タオル取って」ってお願いするシーンでした。

カツセ そこなんですか!(笑)

Ayase 僕は、バンドマン時代をずっと支えてくれた恋人がいて、長く同棲もしていたので、あのシーンがリアルすぎて……。なんかめちゃめちゃ泣けてきちゃって、「この生活の感じ、わかるー!」ってなりました(笑)。

カツセ ははははは(笑)。

同じ曲名で物語とリンクした

Ayase しかも、もうひとつめちゃめちゃエモかったのが、物語の中で「City」という曲が出てくるじゃないですか。それも、音色くんが「City」のレコーディングをする前に凜さんを家から追い出してますよね。僕、その恋人と別れる別れないという話をしていた頃に、バンドで最後に録った曲が「City」という名前の曲だったんですよ。リリースしてない幻の曲ですね。

カツセ ええ、本当ですか!?

Ayase 実は、MVも撮って、CDも作ってたんですけど、バンドは活動休止になっちゃって。その「City」を録り終わった後に、僕は彼女と別れてバンドも終焉を迎え……。だから、「カツセさん、俺のことを書いてるの? なんだこのリンクは!」と思ったんですよ。

カツセ うわ、すごい、そんな偶然ありますか!

Ayase いや、本当にびっくりしましたね(笑)。個人的なリンクもありましたが、小説としてすごく面白かったです、本当に。『夜行秘密』はオムニバスっぽい形式だけど、連作小説になっていて、なによりどの話もめちゃくちゃ面白かったので、サクサクと一気に読めました。逆にこの小説から自分が曲を書くとしたらどうするかを考えたときにバーッと思い浮かんだのは、1曲では表現できないということでした。だから、カツセさんが14曲をひとつの物語として完成させたことは凄いと思います。

これまでの自分の作品からどれだけ抜け出せるか

カツセ 嬉しいですね、ありがとうございます。今作は「indigo la Endとのコラボレーション小説」として見る人と、「カツセマサヒコの2作目」として見る人がいると思ったので、その両方の期待に応えなきゃいけないというプレッシャーがあったんですけど、そういったプレッシャーとYOASOBIはずっと戦っていくんでしょうね。僕が1作目の『明け方の若者たち』を刊行した後、「こいつはずっと20代のエモい青春譚を書いていくんだろう」と予想する人もいただろうし、そういったニーズもあったとは思いますが、それを早く裏切って違う作風の物語を書くことを課題としていたんです。YOASOBIは、これまでの自分たちの曲からどれだけ抜け出せるかということを、どう考えているんですか? 「夜に駆ける」が代表作なのは確かですが、少なくとも僕は、今のYOASOBIに「『夜に駆ける』だけ」と言う人はいなくなっている印象があります。でも、そこに至るまではすごく大変だったんじゃないかと察します。

Ayase 「夜に駆ける」と同じ感じのものを求める声もあったりしますけど、「Ayaseが曲を作ってikuraが歌を歌えば、それでYOASOBI」という唯一無二のスタイルを確立しつつあるという手応えは感じているので、今はすごくチャレンジしやすくなっています。当初はたしかに、「こういうふうに攻めて大丈夫か」「この曲は求められているのだろうか」みたいな不安はありました。でも、僕らが優先してやることは、原作をどれだけ素晴らしい楽曲としてアウトプットするかなので。「ウケるかどうか」とか、「どう感じ取られるか」とか、届いたときのことばっかりを考えちゃうと、作品が死んでいくような気がするんですよね。

カツセ ああ! 刺さる~!

Ayase だから常にプライオリティーとしてあるのは、「いいものを作る」ということ。それが核にあるのが大事だなと思っています。

《取材・構成:矢島由佳子 撮影・鹿糠直紀(2iD)》

【続きを読む 川谷絵音率いるindigo la Endをベースにした小説『夜行秘密』 作者のカツセマサヒコとYOASOBI・Ayaseが感じたコロナ禍の“負の連鎖”とは】

川谷絵音率いるindigo la Endをベースにした小説『夜行秘密』 作者のカツセマサヒコとYOASOBI・Ayaseが感じたコロナ禍の“負の連鎖”とは へ続く

(カツセマサヒコ,YOASOBI Ayase)

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