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佐藤優、野口聡一、鈴木敏夫…各界のトップランナーが明かす立花隆“9つの素顔”

文春オンライン / 2021年7月29日 17時0分

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立花隆さん

「もし本当にお亡くなりになっているのであれば、校了まで時間はありませんが、うちとしては特集を組まないわけにはいきません」

 立花さんの訃報が出る6月23日の前夜、私の携帯電話は鳴りっぱなしだった。問い合わせの内容はすべて同じ。立花さんが亡くなったという噂があるが、本当か。

 私は立花さんの個人スタッフを長く務めたので、何か知っているだろうと思われたのだろう。実際、私はその日の夕方に関係者から聞かされていた。噂は本当だと知っていたわけだが、公表まで黙っておくことを言い含められていたので、知らぬ存ぜぬを貫いた。嘘をついたことをこの場を借りてお詫びしたい。

 さて、このとき私に電話をかけてきた月刊「文藝春秋」編集者の一人が言ったのが冒頭の言葉である。たしかに時間はない。他の企画との調整も必要になる。それでもやらなければならないという覚悟をその言葉に感じた。

 それと同時に、そうか、こうすればいいのかと妙に納得もさせられた。記事を書き、特集を組むことが立花さんを追悼する最も良い方法なのだ、と。私は立花さんの逝去を知ったばかりで、頭がぼんやりしていたが、活を入れられた気がした。

 翌朝、NHKや新聞各紙で伝えられ、文藝春秋編集部にも号令が下された。かくして私も部分的に手伝って出来上がったのが「文藝春秋」8月号の「追悼 立花隆『知の巨人』の素顔」である。ここでは9人の執筆陣による寄稿を読みながら私が思い出したこと、印象に残ったことを記したい。

組織と集団を解いていく視座

  特集1本目 で柳田邦男氏(ノンフィクション作家)は立花隆著『シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界』(文藝春秋)に触れ、立花さんが画家・香月泰男の内面に深く迫り、〈“人間・香月泰男”の彫像を彫り上げたのだ〉と記している。「彫像を彫り上げた」という表現に、私は膝を打った。立花さんはまさに彫刻家が鑿で石や木を彫って彫像を作るように原稿を作っていたからだ。

  特集2本目 の後藤正治氏(ノンフィクション作家)による〈(田中角栄研究の後)『農協』『日本共産党の研究』といった著が刊行されていくが、共通して見られるのは、個々の人物よりも、組織と集団を解いていく視座である〉という一文からは、以前、立花さんや、立花さんが講師を務めた立教大学のゼミ生たちと一緒に訪れたゲイバーでの経験を思い出した。このときバーのマスターを務めていた評論家で小説家の伏見憲明氏が「『日本共産党の研究』の愛読者なんです」と立花さんに声をかけ、「共産党の組織構造が、ゲイの世界にそっくりだから」と語っていたのだ。

 後藤氏は〈(立花さんの)解析力の切れ味は抜群〉とも書いている。なるほどだから立花さんの一連の著作はゲイの世界も含めて普遍的な組織論、集団論として読めるのかと合点がいった。

『宇宙からの帰還』を読んで宇宙飛行士に

  特集3本目 で佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)は、立花さんとの対談本『ぼくらの頭脳の鍛え方』(文春新書)がどのように出来上がったかを明かしている。私は実は本書の構成担当者として二人の対談に同席した。したがって佐藤さんが書かれていることは私の思い出でもある。

 二人はともにキリスト教徒の家庭に育ち、立花さんは20歳のころ、佐藤さんは15歳のころにヨーロッパを長期旅行している。立花さんは田中角栄研究で、佐藤さんは鈴木宗男事件で、政治の表舞台に立った経験もある。ずば抜けた読書量も持つ。これだけ共通点があれば、きっと意気投合するにちがいないと思ったら、佐藤氏も書かれているように、しばしば対立した。だからこそ刺激的な対談本になったとも言えるのだが、まとめるのに苦労したことを思い出す(参考:『本の話』 https://books.bunshun.jp/articles/-/2670 )。

 立花さんの『宇宙からの帰還』は未だに増刷が続く大ベストセラーで、この本を読んで宇宙に憧れる人も多いはずだが、実際に宇宙飛行士になってしまったのは、この方くらいだろう。 特集4本目 の野口聡一氏(JAXA宇宙飛行士)である。野口氏は高校時代にこの本を読み〈「宇宙飛行士」という職業について真摯に考える機会を与えていただいた〉のみならず、立花さんが書いた〈宇宙での「意識の変容体験」〉が野口氏の〈宇宙飛行後の大きな研究テーマになりました〉という。

立花さんをゴリラにたとえるなら……

  特集5本目 は私が山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)にオンラインで話を聞いて構成したものである。私はせっかくゴリラ研究者に聞くならと質問の最後に「立花さんをゴリラにたとえるなら、どんなタイプのゴリラですか」と問うた。冗談みたいな質問なので答えてくれないならそれでもかまわなかったのだが、山極氏の答えは予想を裏切る、しかも絶妙の答えで、正直、私は山極氏の話を聞きながら涙をこらえるのに必死だった。是非お読みいただきたい。

 山極氏は研究者として、ゴリラにも人間と同じく同性愛や子殺しなどの現象があることを発見して、立花さんのインタビューを受けることになったわけだが、大学で立花さんのゼミに参加した者たちは、特段目立つ業績を持たなかったにもかかわらず、学生という特権的身分のおかげで立花さんに長期にわたってインタビューを受ける幸運に恵まれたのかもしれない。山極氏の次に配置された 特集6本目 を読んで、ふとそう思った。

 筆者は、私と同じ東大・立花ゼミ元学生の平尾小径氏。平尾氏は学生の話を聞く立花さんに注目する。たしかに立花さんは学生の話をよく聞き、質問を重ねていた。学生は立花さんにもっと話を聞いてもらいたいと活動範囲を広げる。その結果として〈学生たちは、それぞれのやり方で人生を狂わせた〉と言えそうだ。筆者も例外ではない。

ネコビルの“ネコ”はいかに描かれたか

 立花さんの事務所、通称ネコビルのネコの顔は、間違いなく私が最も多く目にしたネコの顔である。その顔がいかに描かれたのかが 特集7本目 の島倉二千六氏(画家)の寄稿を読んでよくわかった。事務所完成後、立花さんは島倉さんに「これは名所になるね」と言ったという。たしかに私が事務所通いをしていた頃、ネコビルの前で写真を撮る人の姿を何度か目にした。

  特集8本目 の筆者は、スタジオジブリプロデューサーの鈴木敏夫氏。立花さんとジブリといえば、ジブリ作品『耳をすませば』(1995年公開)の主人公・月島雫の父親役として出演したことだが、その発案は宮崎駿監督だったという。その理由はなるほどと思わせる。ちなみに私が立花さんのしゃべり方の特徴を意識したのは、『仁義なき戦いシリーズ』『バトル・ロワイアル』などで知られた深作欣二監督のロングインタビューの音声を聞いた時である。立花さんの話し方に妙に似ているなと気づき、深作監督の出身地を調べると立花さんと同じ水戸だった。なるほどこれが水戸弁かと思った。

  特集の最後 を飾るのは、立花さんの元担当編集者で、文藝春秋社元社長の平尾隆弘氏。この記事を読んでつくづく思い知らされたのは、私はまだまだ立花さんのことを知らないということだ。立花さんが研究者に邪険にされかけた場面など、私は見たことがなかった。平尾氏は、立花さんの赤字修正作業の念入りさについても言及している。特集1本目で柳田氏は立花さんが文章を〈彫り上げた〉と表現していたが、平尾氏の述懐から彫る作業の具体的な様子をうかがい知ることができる。

 最近、立花ゼミの同級生の一人が「ようやく立花さんが角栄研究や政治ものの著作で書いていることがわかるようになってきた」と言っていたが、その通りだと思った。私も彼も理系出身で、政治の世界に元々疎かったという面はある。だが、40歳を過ぎ、ある程度、戦後政治史の流れが頭に入ってきたせいなのか、あるいは立花さんが徹底的に糾弾し、その後、次第に下火になった自民党の派閥政治が再び甦る兆候を見せているからなのか、立花さんの過去の著作が滅法面白く感じられるのである。立花さんの著作を本格的に味わえるのはこれからかもしれない。本特集は、立花隆作品の格好のガイドになるだろう。

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「追悼特集・立花隆『知の巨人』の素顔」は、「文藝春秋」8月号および「 文藝春秋digital 」に掲載れています。

(緑 慎也/文藝春秋 2021年8月号)

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