1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「いきなりおじさんにガン見されて『遊び行こか?』と…」大阪・梅田の地下街で体を売っていた女性(30)の告白――2021上半期BEST5

文春オンライン / 2021年9月4日 11時0分

写真

大阪・梅田の地下街にある「泉の広場」。ここに杏梨さんは立っていた ©八木澤高明

2021年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。社会部門の第2位は、こちら!(初公開日 2021年4月29日)。

*  *  *

 大阪・梅田の地下街の待ち合わせスポットとして知られる「泉の広場」。ここで売春をしていた当時17~64歳の女性61人が、売春防止法違反で大阪府警に現行犯逮捕されていた。府警は令和元年から2年にかけて約1年がかりで捜査していたという。

 大都会の真ん中で、何が起こっていたのか。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)の著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が現地を歩いた。(全3回の2回目/ #1 、 #3 を読む)

◆◆◆

常に「20人ぐらいはいたんじゃないでしょうか」

 住宅街の中を、微妙な距離感を保ちながら、歩いて2、3分の場所にあるベンチへと向かった。インタビュー時間は50分。

 杏梨(仮名)は今年、30歳になるという。ベンチに来るまでの会話で、待ち合わせをした町工場で働いていることがわかった。

「いつぐらいまで、泉の広場にいたんですか?」

「去年の夏ぐらいまでですね」

 そもそも彼女が広場に立つきっかけは何だったのか。

「私は新潟で暮らしていたんですけど、ちょくちょく大阪に遊びに来て、泉の広場を待ち合わせの場所にすることが多かったんです。初めて待ち合わせした時に、いきなりおじさんに、ガン見されて、『遊び行こか?』と誘われたんです。びっくりしましたね。それで、そういう場所なのかな、と思いました。大阪に住むようになって、出会い系の待ち合わせ場所にしたり、立つようになったんです」

「常に何人ぐらいの人が立っていたんですか?」

「20人ぐらいはいたんじゃないでしょうか」

「妖怪」と呼ばれるおばさん4人は、おじさん相手に…

「年齢層も幅広かったみたいですね?」

「そうなんですよ。本当にいろんな人がいましたよ。こんなこと言ったら失礼なんですけど、『妖怪』と呼ばれていたおばさんたちも4人ぐらいいました。彼女たちは缶カラを集めているようなおじさんたちをターゲットにしているんですよ。トイレに行って手でやってあげるそうです。料金は5000円で、おじさんたちが1日働いて稼げるぐらいの料金なんじゃないですかね。妖怪目当てのおじさんたちは多かったですよ」

 杏梨によれば、大阪で「泉の広場」といえば、立ちんぼがいることで有名な場所ということもあり、客はすぐに誰が立ちんぼであるか認識して女性に近づき、値段の確認をするだけで、ホテルへと向かったという。女性の方からは目を合わせるぐらいで、声をかけることは無かったという。

「若い子もいたんですよね?」

「もちろんいましたよ。女子高生の売春グループもいました。制服を着て泉の広場に立っていたから、どこの高校かもわかる人にはわかるんじゃないですか。彼女たちは、過激なプレイもオッケーで有名でした」

「覚醒剤のために売春させられていた未成年もいた」

 泉の広場で摘発が行われる中で、2020年11月には、女子高生に売春をさせていた容疑で無職森本正明容疑者ら男3人が逮捕されている。芋づる式に売春組織に辿り着いたのだった。売春をしていた女子高生の中には、本人の意思だけではなく、背後から操る男たちの存在があった。杏梨はそうした男たちの存在まで知っていたのだろうか。

「私が知っているのは、その森本という人に命令されていたかどうかは、わからないですが、覚醒剤をやるためのお金欲しさに、売春をしている未成年の子が2人いたことです。彼女たちもヤクザにはめられたんじゃないですかね。まずは覚醒剤をやって、抜けられなくなって売春をやらされたんだと思います」

 警察による摘発は、風紀を改善するだけでなく、売春を強要されていた女子高生を救ったことにもなる。私はこれまで、色街の摘発に関しては、ときに慎重な意見も述べてきたが、未成年者が組織的な売春に巻き込まれていたのを救った今回の摘発に関しては、警察の功績に拍手を送りたい。

 杏梨自身は、どのようなペースで泉の広場を利用していたのだろうか。

「大阪に来て、すぐに今の工場で働きはじめたんですけど、そこの同僚が泉の広場のことを詳しく教えてくれたんです。それで、仕事を終えて夕方から広場に行ったんです。週に3日ぐらい行っていましたね。そうすると、お客がつかないことは滅多になくて、ひとりか2人は見つかりました。1回2万円でホテルに行きました」

「今ではさすがに行ってないんですよね?」

「摘発が続いていますし、コロナも流行しているので、今は行ってないです」

一緒に立っていた知り合い子は「去年の8月に逮捕された」

「知り合いで逮捕された人はいますか?」

「いますよ。当時神戸でソープ嬢をしていた子なんですけど、去年の8月に逮捕されました。その子は両親と暮らしていて生活費かからないのに、ソープだけじゃなくて、売春をしていたのは、ホスト遊びや、洋服を買ったり、お酒を飲んだりしているうちに、カードローンでお金を借りて、借金が重なったからでした」

「どうやってその子と仲良くなったんですか?」

「泉の広場で立っている時に出会い系もやっていたんですけど、その時に彼女から『仲良くしてください』とメッセージが来たんです。それから、仲良くなって一緒に泉の広場で立ったりしたんです」

 出会い系のアプリとは、男と女が出会うものだとばかり思っていたが、同業の女性どうしも仲良くなるものだと知った。ところで、どのように同業の女性は逮捕されたのだろうか。

「警察がアプリを利用していたんです。客を装って近づいてきた。だから私もあなたのことを疑っていたんですよ。話を聞きたいというのは、おかしいですもん。彼女の場合は、1ヶ月ぐらい客のふりをした警察と連絡を取っていました。そこで、売春の事実やお金のやり取りなど証拠を押さえられたんです。彼女には、自分からお金の話をしたらダメだよと言っていたんですけど、あんまり警戒しなかったんですよ。それで、いざ会って、ホテルに入ったところで、逮捕されてしまいました。『全部証拠はあるからな』って言われて、どうしようもないですよね」

「客のおっちゃんはガン見してくる。警察は目線をそらす」

 警察はアプリで近づいてくるだけでなく、泉の広場でも張り込みをしていたという。

「すぐに警察の人はわかりますね。客のおっちゃんはガン見してくれるんですけど、警察の人は目が常に動いているんです。きょろきょろ辺りを見回したり、目線をそらして時計を見たり、それでもわからない可能性があるので、絶対にこちらから男の人を誘うことはありませんし、お金の話は口に出しませんでした」

 かなりの緊張感を持ちながら、働き続けていたことは伝わってきた。彼女の話を聞いていると、20メートルほど離れた家の陰から、ひとり初老の女性がこちらを凝視していた。

 傍から見れば、ノートを手にした中年の男が、若い女性とベンチに座り、質問を投げかけながら必死にメモを取っている。この住宅街では見慣れない光景であり、何事かと思ったのだろう。それこそ、私のことが何かの事件を追いかける刑事にでも見えているのかもしれない。視線を感じながら話を続けた。

「泉の広場」に立つまでに経験したこと

 杏梨がなぜ大阪に出てきたのか、気になった。

「離婚したんです。もともと私は、北海道の出身なんです。20歳の頃にお見合いで結婚して、新潟に嫁いだんですけど、結婚生活がうまくいかなかったんですね。夫のDVがひどかったんですよ。結婚した当初は優しかったんですけど、子どもができてから、子の面倒を見ることに日々忙しくて、夫にかまっていられなくなった頃から、DVがはじまったんです。

 彼からしてみたら、俺の相手もしろってことなんです。子育てをしていると、夜の相手をするのも面倒になってくるんですよ。もともと毎日のように求めてくる性欲の強い人だったんで、拒絶されたのが気に入らなかったみたいで、それからちょっとお酒を飲むと殴る、蹴るの暴力がはじまったんです。最悪だったのは、姑も冷たい人で、『あんたはヨソもんだから』と言って、私の食事だけ出してくれないこともありました。10年は我慢したんですけど限界でした」

 離婚前の数年は精神科に通うなど、追い詰められた末の決断だった。当初、夫は離婚に応じなかったが、どうしても離婚を望んだ杏梨が、親権を手放すことを条件に離婚に至ったという。

 地獄のような日々から逃れた先に辿り着いたのが、「泉の広場」であった。ところが、その場所は摘発により近づくこともままならなくなり、今では工場の給料とアプリで出会った男に体を売ることによって、生活を支えている。

「工場では飲食店で使う商品を扱っています。だから、コロナの影響による飲食店の時短営業が響いて、工場の就業時間も削られて、月に10万円ぐらいしか入ってこないんですよ。アプリのお客さんで月に6万ぐらいですから、貯金なんてできませんし、ぎりぎりなんですよ。早くコロナが終わって欲しいですね」

 彼女の人当たりの良さもあるのだろう。最近ではアプリで出会った男には、固定客となる者もいるという。中には、高校を卒業したばかりで、恋愛相談からはじまり、筆下ろしの相手もしたという。

 最後の話には思わず、大声で笑ってしまった。悲しみから笑いまで、濃密な彼女の人生遍歴の一端に耳を傾けているうちに、あっという間に昼休みの時間が過ぎてしまった。

 杏梨は、これから午後の仕事があるため、工場へと戻って行った。

 2人目に話を聞く女性は、新大阪駅からJRに乗り、京都方面に20分ほどいった駅で待ち合わせをすることになっていた。〈 #3 に続く〉

 「 文春オンラインTV 」では、筆者の八木澤高明氏が出演し、記事に書き切れなかった実態について解説している。

(八木澤 高明/Webオリジナル(特集班))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング