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目・鼻・臓器は失われ、白骨がむき出しに…「死体の隠し方」をネットで何度も検索していた加害者夫妻の恐ろしすぎる“所業”

文春オンライン / 2021年8月28日 11時0分

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©iStock.com

 2013年、愛知県南知多町の山中で、名古屋市の漫画喫茶女性従業員・加藤麻子さんの遺体が発見された。死体を遺棄したのは漫画喫茶の経営者杉本夫妻。逮捕直後は「傷害致死」についての犯行も認めていたが、その後夫婦は一転「黙秘」。結果的に起訴された容疑は「死体遺棄」のみとなった。

 加害者には「黙り得」があるのか。もしあるとすれば、私たちは「黙り得」をどう考えるべきなのか……。ノンフィクションライターの藤井誠二氏は、真実を求める被害者遺族らの闘いを追い、『 加害者よ、死者のために真実を語れ 』(潮出版社)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋し、県警元幹部の考えを紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

事件の全体像は解明されぬまま闇に葬られた

 平成26年(2014年)3月12日、名古屋地裁は懲役2年2月の実刑判決を杉本夫妻に出した。

 死体遺棄罪の法定刑は3年以下の懲役だが、検察側の求刑は上限一杯の3年。夫婦それぞれの弁護人は執行猶予付き判決を求めていたから、被告側からすれば重たい判決だといえる。杉本夫妻は共に即日控訴したが、自ら取り下げ刑が確定した。杉本夫妻は刑の確定後、ただちに服役に入った。麻子を死に至らしめたという「傷害致死」罪には問われなかったため、刑事事件としては事件の全体像はまるで解明されぬまま闇に葬られてしまったことになる。

 判決文から抜粋してみよう。

〈 被告人両名は、共謀の上、平成24年4月14日頃から同月24日頃までの間に、愛知県知多郡南知多町大字内海字清水46番所在の畑において、加藤麻子の土中に埋め、もって死体を遺棄した〉

〈 被害者が死亡したことを認識すると、その死体を遺棄しようと企て、遺体を毛布にくるんで被害者が使用していた車両内に一時置いておき、他方で「死体の隠し方」、「絶対に見つからない死体の隠し方」などのキーワードでインターネット検索したり、三重県内の山を巡ったりして遺体の遺棄場所を探し、(中略)最終的に判示場所(筆者注・実況検分調書等の証拠)に埋めることを決意し、用意したスコップを用いて畑を堀り、遺体の服を脱がせ下着一枚の状態にした上で、遺体を埋めて遺棄した。犯行様態は計画的かつ用意周到である。被告人両名は、本件犯行後、上記車両(筆者注・麻子所有のワゴンR)のナンバープレートを取り外すなどした上、同車を海中に沈めようとしたが、かかる行為は犯行様態の周到さを示すものである。被害者の遺体は、約1年間土中に埋められたため、屍蝋化し、目や鼻、臓器等は失われ、白骨がむき出しとなり、生前の面影を残さない状態となっていたのであり、生前の被害者の人格や死者に対する社会の敬虔感情を害する程度は大きい。被害者の両親は、一人娘である被害者の生死が不明なまま約1年間思い悩み、遺体が発見された後も、遺体の状態に鑑みて被害者と対面することすらできなかったのであり、同人らが被った精神的苦痛もまた大きい。他方、被告人両名は、それぞれ捜査機関に対し本件犯行を自供し、同人らの供述により被害者の遺体が発見された。(後略)〉

 判決文では、杉本恭教が被害者の両親を被供託者として合計218万1370円を供託したことを「謝罪の意思を明らか」にしていると認定、前科がないことも「酌むべき事情」だとしている。供託とは支払い意思に対して、被害者側が受け取り拒否をしたときに、弁済供託(民法494条)の制度を使い、管轄の法務局に預けるものだ。

 すでに触れたように死体を埋めたと自供した場所は実際の場所の真反対で、警察は発見に相当な労力を浪費した。被害者遺族の立場からすれば、遺体の発見を遅らせるためにわざと嘘を言ったのではないかと思うのは当然だとしても、裁判所はこれを杓子定規に「捜査協力」と認定したことに私は驚いた。

「死体遺棄罪」を構成するためには、一般的には「作為的な場所移動」が必要とされ、つまり、殺人を犯した者が遺体をそのまま殺害現場に放置したままでは適用されない。殺人や過失致死等の犯人が犯罪の露見をおそれて、積極的な隠蔽行為をおこなった場合が「遺棄」にあたる。殺害した当人が死体を遺棄したことが立証されれば併合罪となり、とうぜん量刑は重いものとなる。

「死体の隠し方」をネットで検索

 警察が押収した杉本夫妻と夫妻の長男の携帯電話を分析したところ、麻子の生存が第三者によって確認された最後の日(当時のアルバイト先の漫画喫茶「I」に最後に出勤した日)から、名古屋港で麻子のクルマが発見されるまでの約10日間のうちに、「死体の隠し方」というキーワードで何度も検索を繰り返していたことが判明している。「遺体の隠し方」以外の履歴には、地元のニュースサイトなども含まれており、遺体が発見されてニュースになっていないかどうかを調べていたのだと推測できる。

 私は杉本夫妻らが見ていたのと同じ「遺体の隠し方」について書き込みがされているインターネット掲示板を見てみたが、ばらばらに切断して海に捨てる、山の中に掘って埋める、など実際に起きた事件などからヒントを得たような書き込みが羅列されていた。杉本夫妻はこうした情報を参考にして麻子の遺体を遺棄・隠蔽する方法を模索していたとみて間違いないだろう。

 判決文は、インターネットで「死体が見つからないための隠し方」を検索するなどし、犯行を隠蔽するために土中に埋めたことも指摘している。遺体は通常半年から1年で白骨化するといわれ、死因の特定が困難になる。それを知って被害者を下着一枚にして土中に埋めたのならば、計画性の高い、用意周到で悪質な犯行だ。

 加藤麻子の遺体を遺棄したのは誰なのかわかっている。杉本恭教・智香子夫妻だ。

 しかし、麻子の命を奪ったのは「誰」なのか。どのようにして命を奪ったのか。そして、なぜ、加藤麻子はそのような目に遭ったのか──こんな答えのわかりきっている謎掛けのように思えることを捜査機関は物証と自白などの証拠で固めていかなくてはならなかった。「他殺死」だったということを、捜査上で得られた客観的な状況証拠の積み上げが結果的に不十分だと立証できず、「逃げ得」「黙り得」をゆるしてしまうことになる。

ある元県警幹部の意見

 私が取材過程で出会った愛知県警の元幹部が、事件の展開を整然と分析してくれたことがある。

 元幹部は「事件捜査には直接タッチしていないので報道等に基づく推測にすぎませんが」と前置きして、「用意周到で悪質な事件です。捜査本部は殺人で立てる(立件する)のだろうと思っていました」と当初の予想を語った。実際に警察は傷害致死で「立てて」逮捕をしたわけだが、検察官が起訴をしなかったことに「やはりだめだったかと落胆したというのが本当のところです」と言った。

「必死で現場(警察官)が捜査をして立てても(立件しても)公判を維持できないと見通しがわかると、検察官はあっさり不起訴にします。検察官は刑事公判で負けるかもしれないと思うと、“食わない”(起訴しない)です。検察官は公判維持できずに仮に無罪判決が出てしまったときのリスクを考えます。いいかげんな捜査で起訴したんだと、検察官に事件を送った警察官も検察官も社会から不信感を買ってしまう可能性があるし、他の事件にも影響をしてきます」

 この事件は県警刑事部のエース級の一課捜査員(捜査一課は各都道府県警察の刑事部に置かれ、殺人や強盗、放火などの凶悪事件を扱う)を帳場(所轄警察署内に設置された捜査本部)へ送ったケースだ、と元幹部は言った。

「しかし、調書をまけていない(とれていない)のが最大の問題だったと思っています。今回のケースは、おそらく弁護士のアドバイスで黙秘したと見てまちがいないと思いますが、それまでに取った上申書では証拠として弱い。捜査の方法として、上申書を最初に取るかどうかはケースバイケースで、今回は被害者の失踪事件から始まったから、容疑をかけていた漫画喫茶オーナー夫妻に(事件について)当てたら、しゃべったケースではなかったかと思う。そして、仮に日常的な加害者の暴力があったと上申書に書いてあっても、それと事件当日の暴行を結びつける証拠にはならない。そういった法律的な知識を被疑者はインターネットで調べるなどして知っていて、あるいは弁護士から教えられたので、だから日常的な暴力についても何もしゃべらなかったのではないでしょうか。

 遺体発見までに時間をとられ、白骨化した状態で発見された段階で死因不明と鑑定される可能性が高いと刑事事件の経験を積んだ弁護士ならわかります。すると暴行行為との因果関係が特定できないから、黙秘をさせたほうが得策だと(弁護士は)考えるでしょう。被疑者に未必の故意(積極的には意図しないが、自分の行為から犯罪事実が発生するかもしれないと思いながら、あえて実行する心理状態)であったかもしれないがそれは内面の問題なので証明が難しい。黙秘されたらなおさらです。たとえ未必の故意があったとしても、行為が特定できないのですから。あの上申書だけでそれを立証するのはキビしいと思う」

自白偏重型捜査が「黙り得」を生む

 一方で日本の警察のこれまでの自白偏重型の捜査体質にも話が及んだ。今回のような展開を見せるケースは、冤罪防止のためにつくられた捜査の記録・可視化等、警察の捜査が変わらざるを得ない時代とも関係があるという指摘だ。

「自白は今もこれからも、事件を立証するのに重要な証拠に違いありませんが、自白に頼りすぎた面があったから冤罪が生まれる要因ともなりました。今は取り調べが可視化されて録画されていますが、じっさいには取調官は可視化による捜査の制限についてはあまり感じていません。取り調べの可視化によって『大声を出してはいけない』、『机を叩いてはいけない』、『(被疑者の)体を触ってはいけない』など多くの制限があり、これを被疑者に逆手にとられて、取り調べ中に被疑者が取調官を大声で怒鳴りつけたり、机を叩いたりするなど逆転現象も起きています。

 可視化については取調官は、公判でも取り調べの適正性を明らかにできるものとして、どちらかというと賛成しています。また、これにプレッシャーを感じている取調官もいないように思います。むしろ(可視化で)撮影に慣れていない被疑者が緊張したりすることがあります。

 可視化された現在でも、『黙秘します』と言われても、取調官が簡単に『はい、そうですか』というふうにはなりません。取調官は工夫をしながら聞き出そうとします。もちろん机をバンバン叩くようなことはしません。そのような不当な方法でまかれた(取られた)証拠ということになってしまい、仮に調書がまけても(取れても)公判で、『強制的に書かされました』と言われたら、(証拠としての能力が)ひっくり返ってしまうことだってあります。上申書も同じで、無理矢理書かされましたと言われたら不利になるのは変わりありません。

 ただし、弁護士が被疑者から取り調べの状態を聞き取って、被疑者の言いなりに取調べ監督制度に違反するなど抗議文を送りつけてきたりします。中身は被疑者側の言いがかりのようなものがほとんどで、自分が知る限り違反した事例はありません。

 いずれにせよ、やはり強力な物証が大事です。警察や検察は、誰がどういう理由で犯罪をおこなったのか立証しなければなりませんが、黙秘されたから、傷害致死かもしれないのに誰がやったのかわからなくなり、傷害致死事件として立てるには、とてもハードルが高いものになってしまったわけです」

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《漫画喫茶経営者死体遺棄》「叔父と叔母が人を殺して埋めたと聞かされた」加害者親族が明かす苦しすぎる“胸の内” へ続く

(藤井 誠二)

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