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「うぉ~、うぉ~」「わたしはもう駄目…殺される」震災被災地で“除霊”を行う住職が目の当たりにした“異様な光景”

文春オンライン / 2021年8月24日 17時0分

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©️iStock.com

 宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が、今もひっそりと行われている……。その現場でジャーナリストの奥野修司氏が目にしたのは驚きの光景の連続だった。

 ここでは同氏が、“30人の死者に憑かれた女性”の除霊を行う通大寺・金田住職を追った著書『 死者の告白 30人に憑依された女性の記録 』(講談社)の一部を抜粋。「除霊」の実情を紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

「わたしはもう駄目……」

 人が死ぬとき、合理的に解釈できない不思議なことがしばしば起こる。

 がんなどで死に逝く場合もそうだが、2万2000人余という人が亡くなった東日本大震災のような過酷な状況下では尚更だろう。しかし、いきなり霊的ともいえる予想外のことが起こると、それを体験した人は誰にも相談できずにひどく苦しむ。

 金田住職のところへ、高村英さんが混乱状態で電話してきたのは2012年の蒸し暑い6月の夜だったが、彼女もやはり誰にも相談できずに苦しんでいた。

 この日、金田住職は、石巻市の仮設住宅で「カフェ・デ・モンク(編集部注:被災者の話を傾聴する移動喫茶)」を終えて帰ったばかりで、へとへとに疲れていた。

 受けた電話口から苦しそうな声が聞こえてくる。

「たくさんの人が入って来る。わたしはもう駄目……、殺される」

 女性はネットで調べたと言ったが、金田住職はこれまで表立って「除霊」の儀式をしたことはなく、「除霊」で検索してもヒットするはずがない。不思議だった。

 金田住職は疲れていたから、電話口で「明日でもいいですか?」と尋ねた。

 すると、「なんで今は駄目なんですか?」と怒鳴るような声が聞こえてきた。

「わたし、もう死にたいんです!」

「え!」

「うぉ~、うぉ~」という獣のようなすごい声

「たくさんの亡くなった人が体に入ってくる。コントロールが利かなくなった。わたしはもう駄目。自殺したい!」

 震災前まで、金田住職は自殺の電話相談を受けていたほどだから、「自殺」という言葉を聞き流すことはできなかったのだろう。すぐに反応した。

「わかった、今からでもいいから来なさい」

 2時間ほど経って、1台の車が滑り込むように通大寺にやってきた。乗っていたのは母親と妹と友人、それに数珠を持って全身を震わせている高村英さんだった。

 家族に引きずられるようにして玄関をくぐると、金田住職があらわれるのを待った。

「何かに憑かれているようで、『うぉ~、うぉ~』って、獣のような声ですごいんです。なんだ? と思いました。顔も紅潮しているし、異常な状況でした」と金田住職は言う。

 一緒に来た母親はオロオロするばかりだった。

家系には同じ感性を持つ人が

「いっぱい人がわたしの中に入って来て、もう死にそうです」

 高村さんは息も絶え絶えに言った。

 本堂の横にある応接間にとりあえず落ち着くと、金田住職は家族から、高村さんの生い立ちや家族構成、これまでのいきさつを詳しく聞いた。母親に家系図を書いてもらって一人ひとりについて尋ねていったところ、高村さんと同じ感性を持つ人がいたという。「このあたりで出羽三山といえば修験の山ですが、彼女のご先祖もそういうところで修行したのかもしれませんね」と金田住職は言った。

 震災当時、高村さんは仙台市街にいたから津波の被害は受けていない。被災地に行くと霊が憑いてきそうな気がしたから近づかなかったという。ところが、震災から1年ほどして目に見えない死者の霊に悩まされるようになった。

小さな女の子とヤクザのような男

 高村さんは、霊が体の中に入ろうとするのをなんとか防いでいたが、とうとう防ぎきれなくなり、どんどん入ってくるようになって看護師の仕事も続けられなくなった──。そんな話をしている間も、憑依した霊が入れ替わり立ち替わりあらわれる。いや、見た目には、あらわれるというより、高村さんの人格が次々と変わるのだ。

 最初、小さな女の子とヤクザのような男があらわれたと住職は言う。

「何か悪さをして、コンクリート詰めにされて暗い海の底に沈められたというヤクザでした。いきなり『おう、お前、誰や』なんて言うものですから、こっちもびっくりしました。『お前は誰なんだ』と言ったら、『お前こそ誰じゃ!』とヤクザの声ですからね。『あんたもいろいろ大変だな。でもね、あんたが入ってるためにこの子は苦しんでるんだ。ここから出てやれよ。死んだ人が行く場所はあるから、そこへ送ってやる。この子の中にいたら、あんたも苦しいだろ?』みたいな対応をすると、『お前にそんなことできるのか』と言うんです。『坊主を甘く見るなよ』と言って本堂に連れて行ったのですが、これが暴れるので大変でした」

 この時はヤクザと一緒に小さな女の子も「死者の世界」に導いたという。

不思議なジュンヤ少年との対話

 ところが、その数日後に高村さんが再びやって来たのだ。

 この日は苦しそうな表情ではなかった。ヤクザのように暴れたりしなかったせいかもしれない。最初にあらわれたのは、福島県から仙台に出てきて自殺した女性で、彼女の「悲しい身の上話」を聞いてあげると納得したらしく、高村さんの体から出て行った。やれやれと思ったら、「実はね」と高村さんが切り出したのだ。

「え?」

「わたしの中に高校生の男の子がいるんです。そんなに邪魔な子ではないんだけども、わたしの中が居心地いいみたい。悪さをするわけでもないから……」

 高村さんに憑依している霊の中に「ジュンヤ」という、ちょっと不思議な少年がいると、高村さんは金田住職に語った。

「そうか、わかった」

「(ジュンヤを)入れるので話を聞いてあげてください」

 高村さんがそう言うと、いきなり高校生の男の子の声に変わった。

「ぼくの両親は今でもぼくのことを思ってくれているし、供養もちゃんとしてくれてるよ。だけど、彼女の中にいるのは居心地がいいんだ」

 ジュンヤは、彼女の中へ物見遊山にでも来たかのように言った。

白い裃をつけた武士と甲冑をまとった紫色の武士

 多くの霊は自分が死んだこともわからずにさ迷っているが、ジュンヤ少年は違った。テニス部の朝練に行く途中で、交差点を渡る時に交通事故に遭って死んだことを理解していたし、自分が高村さんに憑依していることも知っていた。それでいて、決して他の霊とは絡まず、ふいにあらわれて消えるだけだった。

 ジュンヤ少年は「もう、そろそろ出てもいいかな」と飄々とした声で言った。

「でもね、和尚さん、この子(高村さん)の深いところにはね……、ヤバイよ」

「何が? どうしたの?」

「心の深いところに、白い裃をつけた武士と、もっと深いところには甲冑をまとった紫色の武士がいるんだ。ぼく、関わるのは嫌だからそっとしてるんだ」

 白い裃といえば切腹だろうか。

 紫色という表現に何か恨みを残した怨霊のようなものを、金田住職は感じた。だからといって、この2人の武士が何かをしたというわけではなく、ただいるというだけでは金田住職にもどうすることもできなかった。

「どういう人なのかな?」と訊くこともできたが、憑依しているというより、彼女の深層心理につながっているようにも思えて安易には踏み込めなかった。

「ぼくにはそこまで彼女に干渉することはできないんだ。それに怖いんだ。だからね、ぼくもそろそろこの子から出て行こうと思う」

 それほど強い憑依ではなかったが、自分から出ていくと言うのは初めてだった。

「塩おにぎりを2個ほしい」

 ジュンヤ少年が出ていく儀式を始める前に、彼は「塩おにぎりを2個ほしい」と言った。塩おにぎり? 金田住職は「なんで?」と尋ねた。

「朝練でお腹がすくから、お母さんが練習後に食べるようにって、いつも塩おにぎりを2個持たせてくれたんだ。それを食べないまま交通事故で逝ったのが悔しい……」

 金田住職は、夫人に急いでおにぎり2個を握って持ってくるように伝えた。

 憑依された状態の高村さんの前におにぎりを置くと、読経を始めた。ひと通り終わろうとする前に、ジュンヤ少年が前に供えられたおにぎりに口をつけた。

 金田住職は、彼(実際には高村さん)が実際におにぎりを食べたかどうかは覚えていないが、ただその時、高村さんの口を通してジュンヤ少年が「美味しい!」とひと言を発したという。そのあとで、憑依が解けたらしく、高村さんは普段の彼女に戻った。

 高村さんの記憶はウェットで金田住職のそれはドライな印象があるが、見ている立場が違うのだから差があるのは当然だろう。しかし、基本的な流れは変わっていない。

【続きを読む】自責、悔悟の念、鬼気迫る声…東北地方のとある寺で行われ続ける「除霊」の儀式に密着する

自責、悔悟の念、鬼気迫る声…東北地方のとある寺で行われ続ける「除霊」の儀式に密着する へ続く

(奥野 修司)

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