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《ロシア、中国もワクチン開発の先行を自賛していたが…》ワクチン開発で浮き彫りになった“アメリカ人だけに許された特権”の正体

文春オンライン / 2021年9月4日 11時0分

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©iStock.com

「新型コロナウイルスは、投資の条件たる『信用創造』を突き崩す究極の『暴力』だった」そう語るのは、マネーの表と裏を知り尽くした評論家の猫組長である。ここでいう「暴力」とは人を傷付けることではなく、移動や飲食など「自由の権利」を制限することである。

 アメリカと中国による「暴力」の応酬のはざまで、日本の〈投資家たちの取るべき態度〉とは、一体どのようなものなのか。同氏による『 カルト化するマネーの新世界 』(講談社)より一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

ワクチン開発を成功させた投資環境

 コロナ禍を通じて再認識したことがある。それは、アメリカが潰れることなどありえないということだ。そう確信する理由は、アメリカによるワクチン開発にある。

 感染症の医療は予防→検査→治療の順番で病気に対応する。インフルエンザには予防ワクチン、短時間で結果の出る検査、そしてタミフルなどの治療薬があるので「共生」が可能となっている。対して新型コロナは「クラスターを作らない」「マスク着用」などの予防は公衆衛生的。検査こそPCRがあるが、現在のところ治療法は対症療法のみだ。

 そこで医学は2つのアプローチを試みた。主流派がワクチン、非主流派が治療薬の開発だ。そこに投資が行われるということで、投資家は高いレベルの開発についての情報入手が可能となっている。

 ワクチンではロシアと中国が「開発の先行」を自賛していた。が、中ロが「開発」という言葉を使った時、常に疑惑を持つのが投資の世界の常識だ。この時は、内部から治験データがリークされて、疑いは確信になった。

 それ以前の問題が、株式市場での透明性だ。たとえ一流企業でもスキャンダルが露見すれば時価総額が下がるばかりか、資金調達が困難になる。だが中ロ両国ともにトップの権力が絶大で、投資環境も透明性からはほど遠い。投資環境の透明性という意味で、本命の1つとされていたのが、イギリスの製薬会社「アストラゼネカ」だ。「もっとも進んでいる」とされていたが、2020年7月くらいから「難しい」という観測が同社内部から聞こえていて、

「株式市場から未曾有の資金調達ができている。しかしウイルスの型が増えてしまって、すべてを網羅するのは不可能かもしれない」

 という内部情報も漏れてきたのである。同年9月8日には副作用の疑いで治験が中断されたが、その後再開され、2020年12月末にイギリスで承認された。

 一方で、感度の高い投資家は非主流派である治療薬の開発を2020年3月くらいから開始していた「ファイザー」に注目していた。私が「ファイザー」を信用していた理由は、同社が「アメリカ」の企業であるという点だ。

 理論構築、ラボの建設、実験設備、実験、生産、そして人件費……科学技術の開発が成功するために必要なのは「莫大な資金」だ。ましてや「コロナ」のような「喫緊の開発」が必要とされる場合、迅速にマネタイズ(資金調達)を行わなければならない。世界で1番それを実行できる能力がある国がアメリカである。なぜか──。

 それはアメリカが世界で一番「戦争」を経験している国だからだ。

 戦争の敗北は、基軸通貨「ドル」の信頼を揺るがせる。ドルの信頼低下は国富の損失ということで、アメリカにとって「戦争」は常に「国家存亡の危機」なのだ。だが戦争は「不測の事態」が連続発生する「暴力の応酬」だ。それを打開する決定要素こそ「科学技術」ということになる。

アメリカ人だけに許された「特権」

 第2次世界大戦でアメリカは「ドイツが原爆開発を進めている」という情報を入手すれば、世界中から天才を集めて、徹夜で働かせ実験原子炉を作った。ベトナムの空でソ連の戦闘機「ミグ」に苦戦を強いられれば、「F-15」を開発。イラクが頑強な軍事施設を地下に造っているとわかれば、地中貫通爆弾を開発して攻撃を行う。

 世界で戦争当事国として一番経験しているアメリカは、暴力とマネーが技術を生み出すという投資環境がもっとも整備された国ということだ。

 2020年5月には、アメリカの「スペースX」が世界初の民間有人宇宙飛行を成功させた。対して日本では堀江貴文氏が「インターステラテクノロジズ」を創設し、ロケット開発を行っている。「スペースX」は2020年5月に約540億円を資金調達。対してIR情報によれば2019年7月に「インター」社は12・2億円を調達した。

 戦時での下地があるからこそ技術ベンチャーにアメリカの投資家は投資を行う。対して日本の投資環境は、凍えるほどにお寒いということだ。

 投資の話になると「アメリカが」「アメリカは」と、とかくアメリカをモデルにして模倣を強要したがる人がいる。だが、この人たちは暴力と連動させることで作り上げたアメリカの投資環境を本当に理解しているのだろうか。

 資源を持たない日本にあって企業は「為替」の変動リスクに常に頭を悩ませ、個人消費者もガソリン、食料、日用品に至るまで常に為替リスクに晒されている。民主党政権においては円高放置が行われた。為替はアメリカとの外交問題なのだが、当時は場当たり的な外交を行ったことで円高が続き、多くの工場が海外に移転。生産空洞化した「悪夢」は現在まで続いていることが、「為替リスク」のわかりやすい例だ。

 この「為替リスク」から世界で唯一解放されているのがアメリカ国民だ。「為替」は基軸通貨「ドル」を基準に上下する。加えて「ドル」は戦略物資の取引を支配している。日本の投資家がニューヨーク株式市場に投資する場合、利益は「為替」を考えながら生み出さなければならないが、アメリカ国民にはその苦労がない。「為替レート」に頭を悩ませるのは、国外への観光旅行の時くらいだろう。

 ドルで資産形成する優位性もここにある。

 世界最強の暴力と通貨が当たり前に存在する安心感があるからこそ、米国民は借金を恐れない。自分の収入の何倍ものローンを組んで、家や車を購入する。こうして低所得者向けの住宅ローン「サブプライム」は破綻した。それでも懲りずに名前を変えた同様のローンを生み出して利用するのだ。まさに「いったれ経済」で、それは国民性としか言いようがない。「学習しない人たち」と言い換えることもできるが……。

国家暴力の価値

 新型コロナウイルスのワクチンは未曾有の速度で開発され、供給が開始された。

 コロナ禍以前の「ノーマル」な価値観であれば、優先されるべきは高い信頼性が担保されたワクチンだったはずだ。しかし市民が国家に納税し、国家は市民の生命、財産など人間が自然に持っている「権利」を保障するという「社会契約」をコロナ禍は破壊した。市民に対する生命へのリスクを度外視しても、国家に対する「不信」を「信頼」に変えることが喫緊の課題となっていたということになる。

 これまでであれば「横暴」とされてきたことが、許されるようになってしまったのだ。「コロナ」という暴力に対して、もはや「横暴」という「暴力」でしか対抗できない。

“国家暴力の時代”が始まったことは、イスラエルによって明らかになった。

 イスラエルでは当時、首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏がいち早く自らファイザーと蜜月の関係を構築。政府が被接種者の医療情報をファイザーに提供する代わりに、優先的なワクチン供給を勝ち取った。オックスフォード大学を拠点とする「Our World in Data」の調査によれば、2021年1月18日時点でイスラエルにおける接種率は28・02%と世界首位。2位、UAEの19・04%に大差のリードを付けていた。

 1948年に中東社会の真ん中に建国したイスラエルの歴史は、中東での戦争の歴史でもある。イスラエルは資本力、軍事力、政治力などを駆使して、アラブ諸国に囲まれて国を持続してきた。情報機関「モサド」の知名度が高いように、イスラエルのパワーを支える大きな要素の一つが「情報」の収集能力と分析能力だ。

ワクチンを軸にした国際戦略

 そのイスラエルが供給当初のワクチンのリスクを知らないとは思えない。イスラエルはリスクを負ってでも誰よりも早くワクチンを入手したということだ。そうまでした理由は国民の健康だけではなく、中東内の対立にある。

 当然のことながらイスラエルは「ユダヤ教」だが、建国によって自国とした聖地エルサレムは、イスラム教の聖地でもある。アラブ諸国とイスラエルの遺恨の根底には、「ユダヤ教とイスラム教」の宗教対立が存在する。

 特にイスラエルを憎悪しているのがイランだ。

 生物兵器を使用すれば、国際社会から非難され制裁を受けることになる。だがワクチンを独占的に供給すれば、対立国内の「コロナ」を生物兵器化することができる。ワクチンはイスラエルにコロナ前の社会生活だけではなく、防衛安全保障上の高い優位性を提供した。

 新型コロナウイルスが社会構造を破壊し、ワクチンの登場によって新たな社会構造が生み出されつつあるということだ。「コロナ」を暴力に転換させるワクチンは国家間のパワーバランスを変える能力を持っている。

 2021年2月7日、中国国防部は、人民解放軍が中国製ワクチンをパキスタン軍とカンボジア軍に無償提供したことを発表した。すでに「ワクチン」は外交・安全保障のツールになっているということだ。今後もワクチンを軸にした国際戦略が米中間で展開されるだろう。安全保障を脅かす武器となるワクチンを自国開発しなければならない理由の一つはここにある。アメリカと中国に挟まれた日本にとっては喫緊の課題でもある。

 この「暴力には暴力」の同一地平で起こったのが統治システムに対する評価の転換だと、私は考えている。それは、国家暴力を効率的に行使できる「独裁制」の再評価だ。中国、ベトナムといった共産党による一党独裁の国家が、新型コロナウイルス感染拡大をワクチンがない中でいち早く封じ込め経済回復を実現した。コロナ禍という圧倒的な暴力に対して有効なのは、国家暴力を効率的に行使できる「独裁制」であることが周知された。

マネーが集まる重要要素が「暴力」だ

 こう聞くと「ナチスドイツを肯定するのか!」と、激昂して人格否定を始める人が多くいる。こうした人たちは「独裁」という言葉に脊髄反射を起こしているに過ぎない。そもそも「ナチス」を「独裁制」の代表とすることが正しいのだろうか。

 もちろん、ユダヤ人の虐殺をはじめとして、ナチスの行ったことが鬼畜の所業であることはいうまでもない。だが、ナチスがドイツで台頭した背景となったのは第一次世界大戦の敗戦による賠償金と、植民地の没収だ。1929年、そこに世界恐慌が押し寄せた。国民総貧困という暴力的な状況に対して、ドイツ国民は「ナチス」という暴力をもって対抗したということになる。

 ソ連や中国が共産党による一党独裁の国家として建国されたのに対して、「ナチス」は民主主義的な選挙を通じて有権者によって選択された。つまり歴史的には「ナチス」のほうが異例の独裁制なのだ。こうした「異例」を防止するため、ドイツでは「阻止条項」が設けられた。政党得票率で5%未満しか獲得できず、かつ小選挙区制で3議席以上獲得できない政党が連邦議会の比例代表に議席を得ることを禁じているのである。

 アメリカ大統領、ジョー・バイデン氏が新型コロナウイルスの発生について改めて調査するよう情報当局に指示したのは、2021年5月26日のことだった。中国発生説を実証する意図は明白だ。また、同年6月13日に閉幕したG7の共同宣言では、

「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」

 としながら、

「自由や平等、人権の保護などの力を使って挑戦に打ち勝つ」

 とした。一国二制度による台湾接収は中国が「核心的利益」と呼ぶ国家戦略だ。この両岸問題について中国の国家主席、習近平氏は2019年、2020年と「武力行使」に言及している。「アフター・コロナ」に向けて、米中新冷戦構造の緊張激化は避けられない見通しだ。

国家が「自由」を制限することは、民主主義を崩壊させる? 日本人が誤解している「国家暴力」の本当の意味 へ続く

(猫組長(菅原 潮))

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