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「うちの偉い人間が来るから、ファミリーラウンジ用のアップグレードカードをお願い」 元組織委職員が告発する東京五輪コロナ対策のずさんな“実態”

文春オンライン / 2021年9月10日 17時0分

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アスリートバブルの中に入れる「青色・2番」のアクレディカードを持つ橋本聖子氏。バブルの外(白色)のボランティアスタッフと、同じ写真に写っている。

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「うちの偉い人間をファミリーラウンジに」

 これだけではない。バブルの目的を根本から崩すとんでもないシステムが存在した。

「『アップグレードカード』です。それがあれば、別ゾーンのボランティアやスタッフ、メディア関係者でも、誰でもアスリートバブルに入れてしまう。カード以外にも、別ゾーンに入れるリストバンドもありました。

 アップグレードカードについては、以前からあるシステムでリオ五輪でも使われていました。ただ今回はコロナ禍で開催される五輪だから、これまでのような枚数では発行できませんと組織委内でも言われていたのに、結局守られず、何枚ものアップグレードカードが発行されました」

 どうしてこのような事態に至ったのか。

「組織委にはかなり早い段階から、スポンサー企業などからの出向組が入っています。あまり仕事もしないので、現場の若い世代から『ゆるキャラ』と揶揄されていたくらいです。彼らは出身母体への利益誘導員ということなのか、『うちの偉い人間が来るから、ファミリーラウンジに入るためのアップグレードカードをお願い』としょっちゅう依頼をするのです」

 各競技会場にはIOC(国際オリンピック委員会)役員がくつろぐための「OF(オリンピックファミリー)ラウンジ」や、IF(各国の競技団体を統括する国際競技連盟)のために用意された「IFラウンジ」がある。王族や貴族も多いIOC役員、あるいは委員や各国オリンピック委員会の会長たちといった、いわゆる「オリンピックファミリ-」(OF)は「五輪貴族」とも呼ばれる特権意識の強いグループだ。

どこでもパスの「アップグレードカード」

 バッハ会長をはじめとする五輪貴族のためのOFラウンジは、空港のファーストクラス・ラウンジのような高級感があるという。本来、ワインなどお酒も自由に飲める場所だが、コロナ禍で批判が高まり、今回、酒類の提供はなかった。しかし、OFラウンジに入るというだけで特権意識を満たされるのか、各企業からの出向組である「ゆるキャラおじさん」たちは、こうしたOFラウンジに社の幹部が入れるように奔走する。

「原則として、各企業からは、会長か社長しかOFラウンジに入れません。だから、それ以外の幹部が来るたびにアップグレードカードを手配しろと言ってくるわけです。組織委内では、彼らは上司や同僚ですからなかなか断れません」

 とにかくどんなに厳格にゾーン分けしていても、アップグレードカードさえあれば、アスリートバブルだろうが、OFラウンジだろうが、他のゾーンに往来自由ということだ。これではバブル自体が存在しないのと同じではないか。

五輪貴族にものいえぬ平民

 丸川大臣が自信満々に、五輪参加者の遵守すべきコロナ対策上のルールをまとめたと言っていたプレイブックの存在はなんだったのか。

「そもそも実現可能性のない机上の空論で、守られるはずのないプレイブックなのです。オリンピックファミリーが典型例ですが、スポンサーやOBS関係者を含め自由な往来者が多すぎて、現場ではいちいち止めることができません。

 その上、オリンピックファミリーのような特権意識の高い人たちに『プレイブックを守れ』というのは、平民が貴族にルールを守れと言うようなものです。組織委はIOCの下請けみたいなものですから、抗議の声が届くわけがありません。

 喫煙一つとってもそうです。プレイブックにはコロナ禍にあって喫煙を控えるよう書いてあり、競技会場は厳に喫煙を禁じています。IOCは『たばこのない五輪』を掲げ、東京五輪・パラリンピック組織委員会も競技会場の敷地内を全面禁煙とする方針をとっていました。来日したIOC幹部がたばこを吸ったので、担当者が会場内は禁煙ですと言ったら、一喝されて終わったと」

 これほどまでにバブルが崩壊した状況でありながら、五輪開催中、関係者から出た感染者数は500人弱。心配されていた選手村でのクラスターは起きなかった。

「ただ、運が良かっただけです」

 プレイブックが守られず、バブルが崩れ去った背景として、五輪を取材してきた記者はこう分析する。

「当初、4月には決めると言っていた無観客かどうかの判断をズルズル引き延ばしたことで、実際の運営体制を直前まできっちり固められなかったことが理由の一つだと思います。プレーブックはIOCとIPC、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会などがかなり綿密に規定を議論してきたのですが、その内容を確実に実行する体制づくりのほうが全く追いついていなかった。

記者IDと連動しない「健康管理アプリ」

 メディアの場合、組織委から提供された『健康管理アプリ』があって、会場に入る72時間前までのPCR検査陰性判定のほか、毎日の体調をそのアプリに入力して条件のクリアが求められます。会場に入るにはアドバンスド・ブッキングシステムというシステムで申請するのですが、それらは全て記者に与えられたID番号で管理されています。

 当初は、入場ゲートでカードを機械にかざすと、アプリとの連動で健康条件不適合者が弾かれるのだと思っていました。ところが、他の取材申し込みアプリなどを含めて、健康管理アプリがまったく連動していないことがかなり早い段階で判明してしまった。

 PCR検査結果も健康管理アプリも取材に影響しないと分かると、どちらも履行しないという記者が少なからずいました。PCRが唾液での検査ということもあって、『神聖なスポーツ取材に唾は吐きかけない』などとメディアの記者たちは冗談まじりに言う始末です。この結果、メディアによってはPCR検査も受けないまま外で飲食し、そのままミックスゾーンで選手に接したり、大会関係者と懇談したりする状況が起きていました」

現場の叫びにかいまみえる「日本社会の映し鏡」

 オリンピックファミリーに押し切られ、ステークホルダーからの要望に追われ、トップが繰り返す「安心・安全」という言葉に冷めた視線を送りながら、必死に競技の進行を支えなければならなかった現場の叫びが聞こえてくる。そしてその声を聞けば聞くほど、東京2020はガバナンス・コードとはほど遠い、不透明なブラックボックスで物事が決められ数々の問題が生じるという、まるで今の日本社会の映し鏡のようにみえる。

 アスリートが力を発揮し、全力で素晴らしいプレーをする姿に私も感動し心から拍手を送った。しかし、一方で国民の不安に向き合わず、現場さえ「虚構」と表する政府・東京都・組織委による運営を「運が良かったからOK」と済ますことはできない。東京2020を検証することは、日本の構造問題そのものに向き合うことのように感じている。

(長野 智子)

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