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死後1か月の亡骸が残された部屋で発見した2匹の猫…“事件現場清掃人”が明かす「人を殺す部屋」の共通点とは

文春オンライン / 2021年9月15日 17時0分

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※写真はイメージです ©iStock.com

 料理人、内装業者、リフォーム会社等を経て、自殺、孤独死、殺人などの現場の特殊清掃、遺品整理、不動産処分を行う高江洲敦氏は、これまでに3000件以上の「事件現場」に立ち会ってきた。

 そうした経験を経て、高江洲氏が抱いた思いは、現場から感じる「故人の声なき声を伝える」という使命感だという。ここでは同氏が執筆した『 事件現場清掃人 死と生を看取る者 』(飛鳥新社)の一部を抜粋。リゾートマンションで孤独死に至った高齢者のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

あるリゾートマンションの悲劇

 高齢者の孤独死は長らく社会問題化しており、その数は年々増え続けています。その理由は、いわゆる独居老人が増えているためです。今や高齢者のうち、男性では8人に1人、女性では5人に1人が単身で暮らしているという統計もあります(*1)

*1 令和元年版高齢者白書(内閣府)

 独居老人となる理由は、家族をつくらずに生き、天涯孤独の身となって老後を迎えることもあれば、子どもが自立したあと、配偶者と死別して独り身になるということもあるでしょう。そして、今まさに起こっている、新たな高齢者の問題といえるのが、リゾートマンションでの高齢者の孤独死です。

 今でこそほとんど建てられることはありませんが、1980年代のバブル期、リゾートマンションは温泉地やスキー場、避暑地などに競うように建設され、次々と売れていました。都会の喧騒を離れ週末はリゾート地で過ごす、長期休暇は家族だけでゆったり滞在する、老後に風光明媚な土地で暮らすなど、バラ色の生活を夢見たたくさんの人が、数千万円もの物件を購入したのです。

現在は老後に移り住んだ高齢者が暮らす部屋ばかり

 しかし、バブル崩壊とともに開発は止まり、価格も大幅に下落していきました。高額な管理費や固定資産税がかかることもあって売りに出されることが多く、今ではもはや資産価値がなく価格のつけられない物件さえあるそうです。そして現在残っているのは、買い手がつかずになかば放置された部屋と、老後に移り住んだ高齢者が暮らす部屋ばかり。とくにスキー場に建てられたリゾートマンションは悲惨な状況で、まるで廃墟のようになっているところもあるそうです。

 私もいくつかのリゾートマンションで特殊清掃の仕事をしたことがあります。それはこんな様子でした。

 私が呼ばれたのは、ある温泉街のリゾートマンションでした。依頼主はそのマンションの管理組合です。建てられたのはバブル期ですから、築40年近いでしょう。ただ、設備は決して悪くはありません。東京都内の一般的な分譲マンションよりも広いですし、浴室には御影石が使われていて、もちろん温泉が引かれています。もっとも、温泉の硫黄のせいですっかり白くなってはいましたが。

 物件だけを見ると、少々高額の管理費と固定資産税を支払ってでも、豊かな自然に囲まれて、悠々自適な老後を過ごしたいと考える気持ちもよくわかりました。その温泉街にはデイサービスなどもありましたし、日常的な買い物は今ではインターネットで購入して届けてもらうことができますから、さほど不便でもないでしょう。

 しかし、そのマンションはやはり空室が多く、さらには依頼された現場のほかにもう1室、高齢者が孤独死したという部屋がありました。管理組合の人によれば、その物件のほうは、亡くなった方の遺族と話が折り合わない状態だったそうで、部屋からひどい臭いが漏れ出ているにもかかわらず、手がつけられずに困っているということでした。分譲マンションの場合、相続人からの許可がないことには片付けることができないのです。この部屋は見積もりのみを行いました。

かつては裕福な生活を送っていた人が…

 そして私が特殊清掃を行った部屋は、それはひどいありさまでした。室内には生活ゴミが散らばっていたほか、脱ぎ捨てた高齢者用のおむつが汚物とともに散乱していました。遺体跡の状況からは死後1か月は経っていたと思います。

 さらに驚いたのは2匹の猫がいたことです。買い置きしていたエサの袋を破って、飼い主の死後も生きながらえたのでしょう。部屋中の汚物は人間のものだけではなかったのでした。

 部屋には、見るからに立派な、重厚なつくりの大きな机が置かれていました。リゾートマンションで暮らすようになる前は、それなりの立場で会社勤めをしていたのでしょう。壁には株主優待で送られてくる航空会社のカレンダーがかかっており、収納スペースからは古いゴルフバッグやオーダーメイドのスーツが出てきて、かつては裕福な生活を送っていたであろうことがうかがえました。そんな人が、晩年は汚物にまみれ孤独に亡くなったのです。

 現場は遠方のリゾートでしたから、結局、その温泉地に2泊して作業を行いました。バブル景気のツケともいえるこういった事例は、今後も増えていくことでしょう。

中年男性の孤独死

 ところで孤独死は、高齢者だけの問題なのでしょうか。事実は違います。一説によれば孤独死をした人のうち、60歳未満が全体の約4割を占めているとされており※5、実際に特殊清掃の現場でも、とくに多いと感じるのは40~50代の中年男性の孤独死です。

 高齢者であれば、ふだんから周囲の人がそれとなく様子を気にかけてくれ、しばらく姿を見せなければ安否を心配されるものです。しかし、働き盛りの年代の男性がしばらく姿を見せなかったとしても、仕事や旅行で不在にしているのだろうと、周囲はさして気に留めることはありません。

 そして、本人が人との交流を絶っているケースではなおさらその死が発見されづらくなるのです。

 中年男性の孤独死が多い原因としては、これまでいわれてきたように、都市部における地域での人的交流の欠如という面はもちろんあると思います。しかしそれ以上に感じるのが、「人の迷惑になってはいけない」という社会の風潮や、インターネット上の独善的なコミュニケーションの影響です。

「火葬の費用は出せない」

 親類との付き合いはとうに薄れ、恋愛関係や友人づきあいは「面倒なもの」とされることが多くなり、コミュニケーション欲は人と接触しないで済むSNSで満たすことができます。こうして社会から孤立していき、人との関わりが薄れ、結果として孤独死が増えているように感じるのです。

 実際に、もしも自分とほとんど交流のなかった遠い親戚が孤独死したという連絡が突然あったら、気持ちよく葬式を出し、遺骨を引き取ることができるでしょうか? 

 私の経験では、「火葬の費用は出せない、財産は放棄するからゴミとしてすべて処分してほしい」と言われるケースが大半です。

生活習慣の乱れが孤独死を招く

 冒頭で紹介した空き家の住人の事例もそうですが、中年男性が孤独死した部屋には、ビールの空き缶やコンビニ弁当のゴミが散乱していることが多く、きわめて不摂生な生活を送っていたことが見て取れます。また、この年代の男性は体調が悪くても病院での診察を面倒くさがり、あるいは金銭的に余裕がないため治療費を捻出できず、市販薬で一時しのぎをするということもあるようです。

 こうしたことも寿命を縮める一因となるのでしょう、孤独死における死因でもっとも多いのは、病死です(*2)。心筋梗塞や脳溢血などによる発作で突然死することもあれば、持病が悪化したことで日常生活を送ることが難しくなり餓死するケースもあります。

*2 第4回孤独死現状レポート(一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会、2019年)

 現場の遺体は検死のために警察が搬出しますが、残された状況から死因が推測できることもあります。たとえば糖尿病やアルコール依存症を患っていた人、内臓系のがんを患っていた人などの遺体から漂う腐臭は独特で、現場に漂う臭いからそれとなくわかるのです。

 また、流れ出た血液がなかなか凝固せずに、床一面に広がるのは糖尿病の場合です。遺体のそばに血で染まったティッシュが転がり、鮮血が飛び散っているのは、高血圧症で鼻の奥の動脈が切れたのでしょう(もっともこれは、私自身が高血圧症だからわかることではありますが)。

 このように、中高年の孤独死が多い理由のひとつには、生活習慣の乱れもあるのです。

人を“殺す”部屋の共通点

 そしてこれはあくまで私見ですが、孤独死が起こり、特殊清掃の現場となる部屋には、ある共通点が存在します。それは、湿気です。

 もちろん、日本は高温多湿な気候ですから、窓を閉め切って放置すれば湿気がこもり、カビも発生しやすくなります。しかし、いわゆる事故物件になるような部屋はその程度において尋常ではないのです。

 実は事件現場清掃人としての仕事を始めて間もないころ、人の死に関わることのつらさや、経済的な苦しさから、このままこの仕事を続けていけるのかと苦悩していた時期がありました。しかし、そんな状況でも宗教には頼りたくない、自分の力で解決したいという気持ちがあり、さまざまな本を読んだり人の話を聞いたりして勉強をする中、たまたま私の故郷の沖縄に伝わる「カミングヮ」という家相学について学ぶ機会がありました。

 カミングヮでは、水回りは湿気がこもらない北西に配するのがよいとされます。また、どういった場所を墓地とすべきかなども説かれていて、そのような土地にはたいてい日当たりなどの問題があります。湿度が高い、日当たりが悪いといったことは、家相的にも避けるべきとされているのです。

同じ集合住宅内の複数の部屋が“現場”となることも

 日当たりが悪く日中でも薄暗い部屋、あるいは常にカーテンを閉め切っている部屋で暮らしていれば気分は沈むでしょうし、湿度が高ければカビが生じ、生じたカビは感染症や中毒、アレルギーといった健康上の問題を引き起こします。極論かもしれませんが、私は「カビが人を殺す」とさえ感じています。

 特殊清掃の現場となる部屋は、例外なくジメジメとしていてカビ臭く、壁面にはカビによって生じた黒い斑点があるものなのです。

 ときには一度清掃して次の借り手が見つかった部屋で、数か月後に再び特殊清掃の依頼が来ることもありますし、同じ集合住宅内の複数の部屋が“現場”となることもあります。

 また、特殊な例ですが、とあるマンションではフロアの半分が事故物件ということもありました。そこは内廊下で湿気がこもりやすい構造になっており、部屋で人が亡くなればその臭いもこもります。住んでいる人々もなかなか独特で、特殊清掃の作業中、私が何の作業をしているか知ったうえで、あれこれと話しかけてきました。もはや終の住処として「いずれ自分もそうなる」と思って暮らしていたのでしょうか。

【続きを読む】 《事故物件の間取り図掲載》浴槽内には真っ赤な液体、壁面は天井まで血しぶきの跡…特殊清掃の現場を徹底ルポ!

《事故物件の間取り図掲載》浴槽内には真っ赤な液体、壁面は天井まで血しぶきの跡…特殊清掃の現場を徹底ルポ! へ続く

(高江洲 敦)

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